創造論者vs.無神論者 宗教と科学の百年戦争 の商品レビュー
学生時代、本書に出てくる「創造論者側」の代表格であるID論や、それに対するパロディ宗教スパモン教といった話題がたびたびネット上で挙がっていたことを思い出した。当時はよく背景を知らず、「へー馬鹿なことやってんなー」程度にしか感じていなかったが、100年もの歴史をもつ根深い問題だっ...
学生時代、本書に出てくる「創造論者側」の代表格であるID論や、それに対するパロディ宗教スパモン教といった話題がたびたびネット上で挙がっていたことを思い出した。当時はよく背景を知らず、「へー馬鹿なことやってんなー」程度にしか感じていなかったが、100年もの歴史をもつ根深い問題だったとは。 とはいえ、タイトルでvsと煽るほど創造論者と無神論者は直接対決しているわけではない。 本書で紹介される「創造論者」は進化論と創造論が同列、あるいは創造論優位となるように教育現場に介入しようとする政治集団の性質が強い。彼らは科学者を議論の場に引きずり出し、「白熱した議論=自説にも一定の確からしさがある」と錯覚させることこそが最大の目的である。そしてこうした連中に対し最も有効なやり方は100年前から変わらない。無視することである。創造論者やID論者にまつわる章では彼らに対峙する相手は無神論者でも、科学者でもなく、弁護士であったというのは興味深い。 一方、2000年代から台頭してきた新「無神論者」も、「信仰の根絶」を掲げているという意味ではやはり政治集団の性質があるように感じる。そして彼らは「神」の存在悉くを否定するため、対峙する相手は創造論者よりも母数がはるかに多い普通の信者たちである。 どちらの立場の人間とも距離は置きたいかな...というのが正直なところ。本書が対立構造での紹介というのもあるだろうが、間違いなく言えるのはくそ議論おじさん集団とくそ議論おじさん集団の対立ということである。勝手に戦ってろ!としか言いようがない。しかし、彼らのくそ議論テクニックはほかの議題にも有効で、事実様々なメディアで被害が出ているように感じる。本書のテーマ自体は完全な対岸の火事として楽しめたものの、本質的には注意すべき事柄が多いと感じた。
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葬式仏教上等っていう話。 科学が発展途上の段階では人類にとって宗教は必要な機能であったけど、ある程度科学が発展すると宗教は衰退していく。 それぞれの国や地域で文化や習慣と深く結びついているのでなくなりはしないと思うけど、宗教との距離感は文化保存という意味では葬式仏教くらいがちょうど良いんじゃないかな、と。 信仰は神や宗教ではない別のモノに対象を移して消えずに残っていくと思うけど。 最初から最後までとても読み易く大変面白かった。 p. 151 ヒッチンズの戦力として知られる定型旬に、「根拠のない主張は根拠なく否定してよい」というものがある。「神が実在する」という途方もない主張をしたいなら、途方もない証拠を出せ。証拠がないなら無視して構わないというのである。またドーキンスに言わせれば、無神論という呼称すら不適切である。なぜなら、無ユニコーン論者、無妖精論者、無サンタクロース論者とは言わない。神についてだけ無神論者と言うのがそもそもおかしい。エビデンスのない神の実在という仮説は、ユニコーンや妖精やサンタクロースの実在説と同じく到底受け入れられず、そうした虚構への仰を強要する宗教は滅びるべきだというのである。 p. 249 また、宗教の生物学的役割の終焉を指摘する研究も興味深い。 カトリック教会に典型的なように、宗教は「離婚・中絶・同性愛・避妊や、その他の生殖・繁殖につながらない性行動」を抑止する教えを説いてきた。生殖繁殖という点では、宗教を信じるのは適応的だったのだ。しかし、一九八〇年代以降、先進社会では(もちろん科学の恩恵で)乳幼児死亡率が低下するなど、生存への不安は大幅に払拭され、生殖繁殖よりも、多様な生き方に関わる個人の選択が重視されるようになった。その結果、高所得の社会ほど宗教離れが進んできたのである。
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20世紀以降における科学と宗教の対立について、主にアメリカやイギリスでの論争を中心に、その社会的情勢を取り上げるノンフィクション。 登場人物がとにかく多いのと、著者の文体がやや個性的で幾分読みづらかったものの、具体的な逸話やそれぞれの論の概要、論者についての考察が面白く、興味深く...
20世紀以降における科学と宗教の対立について、主にアメリカやイギリスでの論争を中心に、その社会的情勢を取り上げるノンフィクション。 登場人物がとにかく多いのと、著者の文体がやや個性的で幾分読みづらかったものの、具体的な逸話やそれぞれの論の概要、論者についての考察が面白く、興味深く読み進めた。 個人的には宗教は既に役割を終えつつあると思うが、それでも宗教や信仰を徹底的に糾弾する新無神論にはなんとなく立ちづらく、科学と宗教の擦り合わせを志向したくなるが、宗教に起因する悲惨な事件や本書での創造論者の工作活動を見ると宗教廃絶をついつい考え、立ち位置を定めることの難しさを思う。 本書で取り上げられている事例は大半が英米のものなので、それ以外の国や地域での宗教と科学あるいは世俗主義の対立に関しても読んでみたくなった。
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対立構造で書かれているので仕方ないが、攻撃的排他的な論調が目立ち深みという観点では物足りなかった。 科学側が知的に勝って政治的に負けたというような下りもあったが、全編を通して見ると宗教側は侵略されるばかりで戦争という体ではなかったように思う。現実がそうだから仕方がないとも言えるだ...
対立構造で書かれているので仕方ないが、攻撃的排他的な論調が目立ち深みという観点では物足りなかった。 科学側が知的に勝って政治的に負けたというような下りもあったが、全編を通して見ると宗教側は侵略されるばかりで戦争という体ではなかったように思う。現実がそうだから仕方がないとも言えるだろうが、読み物としてはもうひと工夫欲しかったかなというのが正直なところ。 舞台の違いか、「宗教と日本人」のほうがスッと入ってきたかな。
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パロディ宗教による伝統宗教への反逆、進化論教育をめぐる猿裁判や公聴会、真無神論者の登場と戦線の拡大などを取り上げ、創造論者と無神論者の100年にわたる闘いの歴史を描く。 個人的には、キリスト教的な全知全能の神については無神論だが、アニミズム的な人智を超えた存在については証明はでき...
パロディ宗教による伝統宗教への反逆、進化論教育をめぐる猿裁判や公聴会、真無神論者の登場と戦線の拡大などを取り上げ、創造論者と無神論者の100年にわたる闘いの歴史を描く。 個人的には、キリスト教的な全知全能の神については無神論だが、アニミズム的な人智を超えた存在については証明はできないがあり得るのではないかと思っており(不可知論?)、神の存在に関係なく文化としての宗教については重要だという立場だが、本書で紹介されている創造論者と無神論者の「百年戦争」の顛末について面白く読ませてもらった。 自分としてはやはり無神論に軍配が上がるように思ったが、アメリカをはじめ先進国でも無神論者は少数派で「人間は1万年前に神によって創造された」といった信念を持つ人も無視できない一定数いるという実態に鑑みると、論理だけでは片づけられない宗教の根深さがあるのだなと感じる。 本書でも言及されているが、本物の宗教とパロディ宗教の違いというのも確かに説明困難といえ、個人的に神が実在するか否かに関係なく(伝統的な)宗教は尊重すべきとも思ってはいるのだが、宗教自体の虚無性にも思いを至らされた。宗教について考えを深めさせてくれる1冊であるといえる。
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聖書原理主義者の存在や、それにまつわる裁判の話も聞いたことがあったが 裁判の背景や科学者によって異なる宗教との向き合い方などが書かれていて、 とても面白かった。
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これはめちゃくちゃ面白くて読む手が止まらなかった! 主にアメリカでの、創造論者と無神論者との戦いの歴史について書かれた本。 創造論者が学校の授業にまで口を出して進化論を教えないようにするところがびっくりしてしまった…この時代に?人間は神が作ったと教えるのか?と。でもこれも日本人だ...
これはめちゃくちゃ面白くて読む手が止まらなかった! 主にアメリカでの、創造論者と無神論者との戦いの歴史について書かれた本。 創造論者が学校の授業にまで口を出して進化論を教えないようにするところがびっくりしてしまった…この時代に?人間は神が作ったと教えるのか?と。でもこれも日本人だからよりそう感じるのかも。そう思うと創造論者が力を持つと将来的に国が衰退していくのでは(というか昔のような感じになる)とか、でも今まで神や聖書を信じることで学んでた道徳心はどうなるんだろう?とか、良い塩梅がわからなかったが、終章にある「流用モデル」がなんだかんだ一番共存できるのかなと思った。
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人間は一万年前に神によって創造された。 と、アメリカ人の40%が信じている。 アメリカの科学者の33%は神を信じる。 という事実にびっくり仰天。 でも レベルの高い研究系の大学に勤める科学者に限ると、信仰者は23%。さらに、米国科学アカデミーの会員に限れば9割以上が無神論者か無宗...
人間は一万年前に神によって創造された。 と、アメリカ人の40%が信じている。 アメリカの科学者の33%は神を信じる。 という事実にびっくり仰天。 でも レベルの高い研究系の大学に勤める科学者に限ると、信仰者は23%。さらに、米国科学アカデミーの会員に限れば9割以上が無神論者か無宗教者。 と聞いて安心。 無宗教や無神論者というと日本でもヒトデナシのように見られそうけど、科学的には当然でごく自然な考えだと確認できて良かった。 パロディ宗教に笑った。
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・創造論者も無神論者も近年になって突然出現したわけではない。前近代社会では、ほとんどの人が創造論者であったし、無神論の思想史をたどった好著はいくつもある。それでは、本書は何をしようとしているのだろうか。 本書の目的は、創造論と無神論の思想や系譜を単に整理するのではなく、二〇〇〇...
・創造論者も無神論者も近年になって突然出現したわけではない。前近代社会では、ほとんどの人が創造論者であったし、無神論の思想史をたどった好著はいくつもある。それでは、本書は何をしようとしているのだろうか。 本書の目的は、創造論と無神論の思想や系譜を単に整理するのではなく、二〇〇〇年代以降に激化した両者の戦いに密着することだ。この戦いは、宗教的言説と反宗教的言説の理論的な空中戦ではない。近い将来の教育・医療・福祉・行政といった現実をめぐる戦いである。
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生命の起源や多様性の説明として、進化論と創造論の2つの論がいかに論戦を繰り広げてきたか、それぞれの論客にはどのような人物がいるのかを掘り下げた本です。マジメな本だけどどこかエンタメ感のある筆致でとても読みやすかったです。 この世の成り立ちを説明するのは科学か宗教か? 筆者は基...
生命の起源や多様性の説明として、進化論と創造論の2つの論がいかに論戦を繰り広げてきたか、それぞれの論客にはどのような人物がいるのかを掘り下げた本です。マジメな本だけどどこかエンタメ感のある筆致でとても読みやすかったです。 この世の成り立ちを説明するのは科学か宗教か? 筆者は基本的には科学的、合理的な立場に視点を置き、キリスト教原理主義者のような極端な論説の矛盾を指摘。そして9.11の同時多発テロ事件以後は、リチャード・ドーキンスに代表されるような「反神論者=積極的にあらゆる宗教に反対する者」の台頭により、無神論的な考え方が啓蒙されつつある状況を示しつつも、宗教と科学の折衷を目指す科学者らの影響力もページを割いて紹介。ドーキンスのようなスター科学者の思わぬ弱点についての筆者の考察もあり、とても勉強になりました。
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