ウクライナ動乱 の商品レビュー
今のウクライナ侵攻。歴史的背景を学ばないと背景が見えてこない。 ウクライナは憲法再改正、2012年言語法復活、脱共産法廃止し、2013年以前のウクライナに戻し、プーチンに勇退してもらう。これが筆者の主張。
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トータルでいうと、全く好きにはなれない一冊なのだけど、 正直西側からすると「ほぼ狂気」にしか見えない露宇戦争だけど、あれはあれで支離滅裂にならないのは、あちらなり(特にあちらの「理詰めなインテリ」に共有できる)理屈がある。それを知るには非常にいい本だし、西側が軽視しがちなウクライナやその周辺が持っていた問題点を指摘している一冊でもある。 まず指摘されているのは、ソ連崩壊後旧ソ連地域の経済は一律に凹み、ロシアの復興とともになんとか回復していた、ということ。 数字的にはそういう風に受け止められる感じだし、それはウクライナに住んでいる人の多くにとっても体感的には正しかったと思う。 そりゃ西からの投資もあったにはあったようなのだけど、西欧から見れば「東の労働力の安い場所」という扱いでしかなく。ソ連時代には重要な工業地域とされ、実際に技術力もあったウクライナの工業人の自尊心を満たすものではなかったらしい。 ソ連時代からの賄賂体制の払拭が全然できていなかったのも確かで。 それを「プーチンや習近平のような専制的支配者がいないから汚職払拭できなかった」的な解釈は…西側的には理解しがたいのだけど、そういう話が出かねないくらいの賄賂体制であったのも確からしい。 ただ…この本の中で何度も出てくる「基幹民族」という言葉はかなり衝撃的だった。 ソ連時代のウクライナには、ウクライナ人が多数派であるにせよ、ロシア人含め他にも多くの民族がいて。その中で多数派のウクライナ人が「基幹民族」として他のマイノリティ民族を兄貴分として面倒みる、という考え方。 で、今のウクライナはその「基幹民族」として任されていた部分を引き継いでいるのであって、「ウクライナ民族」として民族国家として独立したいのであれば、今のウクライナを引き継ぐ正当性はない、というのがこの本の中で著者が一貫して主張するところなのです。 この考え方が西の人間からあまりに難解なのは…事実上「民族の優劣」をつけてしまっている、ということ。 ロシア民族>ウクライナ民族>ウクライナ地域の少数民族 という序列を実質的には認めてこそ成立する話で…。 そりゃ西側にも似たような考え方を持っている人は居るのでしょうが、それを政治に携わるような人が公にして論理化するか、というと今はあり得ない。 (それに近いことを植民地支配に使っていた大英帝国は、その後始末を仕切れず、それが世界中の紛争の種になってる、と言っちゃってもいいんだから…) これを堂々と言っちゃえるのがロシアなのか、と思うと…確かにロシアの政治家はなかなか西側の知識人には理解しにくいだろうなあ、と。 あと、「地域の雇用を作って住民の面倒をみている経営者」がそのまま政治家になる傾向が、特に工業城下町では強い、という話も興味深く。 もともと地域ことの独立志向が強いウクライナで、この「地域の利権と雇用を守る政治家」が強くても、なかなか国全体のことを考えにくくなる。 マイダン革命の暴力性が強かったこともあって、ウクライナ東部の民間の被害が仮にロシア寄りの勢力の仕業であったとしても、「あれはウクライナ側の攻撃によるもの」と言われると、「まぁ…そうなのかもな?」と思わせるくらいに混乱した状態だったのも確からしい。 繰り返すのですが…内容的に好きな本ではないのです。 が…部分的には「日本にも似たとこあるなぁ」と思える部分もあるし、少なくとも東側の世界で系統的な学習を受けた人ほど、この本に書いてるような考え方を自然に受け入れている、と思われて。 いろんな意味で…あの戦争が「納得いく終わり方」をすることはないんだろうなあ、と感じさせられた一冊でした。
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毎日新聞の書評欄「今週の本棚」で、加藤陽子が、読後ロシアの対ウクライナ戦争の印象がガラリと変わると評して絶賛した書である。 第六章のまとめで以下のように述べている。 『そもそも分離紛争は、「国の領土は大きければ大きいほど良い」、「領土を失うことは、人間が手足をもがれるのと同じ」な...
毎日新聞の書評欄「今週の本棚」で、加藤陽子が、読後ロシアの対ウクライナ戦争の印象がガラリと変わると評して絶賛した書である。 第六章のまとめで以下のように述べている。 『そもそも分離紛争は、「国の領土は大きければ大きいほど良い」、「領土を失うことは、人間が手足をもがれるのと同じ」などという国家表象を人々が捨て、国連信託統治のような非・主権国家的な解決法が大規模に採用されるようにならない限り、解決が難しい問題なのである。 最も現実的な紛争解決策は一時凌ぎの停戦協定を綻びを繕いながら、何十年でももたせて、人々の国家表象や国際法の通説的解釈が変わるのを待つことである。分離紛争を解決して恒久的な平和を目指そうなどとするとかえって戦争を誘発する。 』
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2022年のロシアのウクライナ侵攻以後のニュースでの多少の知識を持っただけの素人の私が、軽い勉強気分で購入した本書だが、ベースとなる知識がかなりないと読みこなすのはとても大変と思う。 ウクライナの独立からマイダン革命までは前著「ポスト社会主義の政治」(未読です)に譲り、マイダン...
2022年のロシアのウクライナ侵攻以後のニュースでの多少の知識を持っただけの素人の私が、軽い勉強気分で購入した本書だが、ベースとなる知識がかなりないと読みこなすのはとても大変と思う。 ウクライナの独立からマイダン革命までは前著「ポスト社会主義の政治」(未読です)に譲り、マイダン革命以後のウクライナについて書かれていることに注意必要です(気づいていなかった)。 マイダン革命を中心とするウクライナと、ウクライナからの自治権獲得あるいは分離独立闘争、ロシアへの編入を望むクリミアおよびドンバスについて、2023年5月17日(あとがきの日)までの、政治学見地の内容。 ロシア語ネイティブ住民の抵抗、マイダン革命にまつわる残虐行為(これまで知らなかった事実)など、かなり厳しいウクライナ批判が展開される。 著者はロシア内の南アブハジアやチェチェン紛争、カラバフ紛争との比較考察や(私は知識なく正しく理解していない)、クリミアやドンバスについて反マイダン派の取材など、充実した考察がされていると思うが、一般市民の対ロシア感情など、もともと政治に距離のあるような市民的見地からの考察は弱いかもしれない。 一方、プーチンの野望やロシアの行動に対する批判もかなり緩いかもしれない。 報道に現れない情報隠蔽や住民投票のありそうな不正などはもっと疑っていいのではないか。 結局、著者はクリミアやドンバスのメインウクライナへの平和的統合は非常に困難と考えていて、本書の豊富な内容を知ったうえで考えると、その通りだろうと思う。 ウクライナ支援したい側の私からすると、正直、複雑な気持ち。 読書については、まず人名がとても多くて混乱。しかも似た人名が多い。 巻末には詳細な人名のみの索引があるので、既読ページをたどることが可能ではある。 とはいえ、イベントや固有名詞や専門用語などのキーワードも次々出てくるので、いったん最初のページに戻って、スマホで検索できるようなメモを作りながら、読み進む。 メモは終には何100項目にも膨れ上がった。 地名も当然ながら多く登場するが、説明がない場合がほとんどなので、ウクライナ以外のロシアの地名に詳しくない読者も苦労するはず。 章が地域別のため、ある地域の出来事が別の地域の章では特に言及がないことがある。 出来事の相互関係をうまく照合しながら読む必要が生じて、これもしんどかった。 なので、上記のキーワードのリストとは別に、地域別に時系列のイベントリストをスマホで作成して読み進んだ。
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副題に「ソ連崩壊から露ウ戦争まで」とあります。いよいよ3年目に突入する今度の戦争の原点を2014年のクリミア併合に置く報道には接したことがありますが、そもそもをソ連が解体する際の手続きに求めるという指摘に驚きを覚えました。ソ連、連邦構成共和国、自治単位という三層構造のなかで行政区...
副題に「ソ連崩壊から露ウ戦争まで」とあります。いよいよ3年目に突入する今度の戦争の原点を2014年のクリミア併合に置く報道には接したことがありますが、そもそもをソ連が解体する際の手続きに求めるという指摘に驚きを覚えました。ソ連、連邦構成共和国、自治単位という三層構造のなかで行政区分である親国家優先主義が今回の戦争の原因としています。それがゴロバチョフとエリツィンの抗争から生まれていることも、なるほど…です。自治単位の中でも多数を占める民族とそうでない民族、あるいはもともといた民族の問題もわかっていませんでした。露ウ戦争は2022年2月24日から始まりますが、親国家であるウクライナの内戦はずっと続いていたのですね。さらに遡ると第二次世界大戦の独ソ戦にまで繋がりプーチンがウクライナをネオナチ呼ばわりするのは比喩ではなく本気でそう思っていることも理解できました。なるほど、そういうことだったのか!とか、えっ、やばいじゃん!の連続で、しかもそれを現地でキーマンや市井の人々との交流から描き出しているのも驚きです。こんなに主要登場人物と著者のツーショット写真が掲載されている新書見たことありません。ただ登場人物の名前がユシチェンコ、ヤヌコヴィッチ、ティモシェンコ…名前がややこしくて行ったり来たり、ちょっと苦労しました。でも登場人物たちの心の動きが詳細で大きな物語が小さな心情で動いていることもこの本を生き生きさせています。まるでウクライナ版「仁義なき戦い」みたい。そして、この戦争の結末もタイムスパンの長いものとしていることにもため息が出ます。追記:P94で図が掲載されている「錯綜した亀裂」「オーバーラップした亀裂」の対比は矛盾だらけの世界を乗り越えるためのフレームワークとして目鱗でした。選挙の争点として、わかりやすい、は、やばい?
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ソ連の自壊の結果、たなぼた式で生まれたウクライナは、先祖伝来ウクライナ語でない言語で話し、書き、考えてきた住民、ウクライナ民族史観で英雄とされる人物たちに迫害された住民も抱え込んでしまった。そうした場合には、中立五原則に基づいて、民族国家ではなく市民的な国家を作ることが妥当な戦略...
ソ連の自壊の結果、たなぼた式で生まれたウクライナは、先祖伝来ウクライナ語でない言語で話し、書き、考えてきた住民、ウクライナ民族史観で英雄とされる人物たちに迫害された住民も抱え込んでしまった。そうした場合には、中立五原則に基づいて、民族国家ではなく市民的な国家を作ることが妥当な戦略であっただろう。残念ながら、独立後30年間のウクライナは、この反対の方向に向かって進んできた。特に、いわゆる親欧米政権においては、『経済実績が悪いので、選挙が近づくと民族主義=国民分断に頼る。その結果、ますます経済が悪くなる。』という悪循環も見られるようになった。 上記は本書からの一部抜粋であるが、個人的には、クリミアと東部4州は現状のままロシアに併合された方が社会的には今後安定していくだろうと感じた。(住民投票の結果もそれを反映しているのだろう。)
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細かい事実や人物名を追うのが大変で読むには骨が折れるが、少なくとも西側目線、日本目線でロシア・ウクライナ戦争を捉えるのは大きな間違いであるということはよく分かった。ソ連という全く違う原理・歴史の国・地域を理解する上で実に有益な本だと思う。
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ウクライナは一枚岩ではない、というトランスナショナリズムの視点が日本メディアには欠如しているのだろうが、事実と価値は別問題なので、それを公に報道するのも支障があるのだろう。という意味ではメディアは事実ではなく価値を報道しているとも言えるのかもしれないが。
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この問題の本当の専門家が書いたという感じの本。 著者は、ロシアやウクライナの現代史の研究家で、ソ連崩後の歴史的な文脈の中で今回の戦争に至るまでのプロセスを丁寧に分析している。 ロシアが一方的に悪いわけではなく、ウクライナという国が元々持っていた矛盾(その矛盾は、ソ連の統治時代...
この問題の本当の専門家が書いたという感じの本。 著者は、ロシアやウクライナの現代史の研究家で、ソ連崩後の歴史的な文脈の中で今回の戦争に至るまでのプロセスを丁寧に分析している。 ロシアが一方的に悪いわけではなく、ウクライナという国が元々持っていた矛盾(その矛盾は、ソ連の統治時代の矛盾を引き継いだものだが)と関係があり、一筋縄ではいかない。 ウクライナという民族や言葉、文化が違い、地域ごとのアイデンティティもかなり違う国がどうやって国として統合するのかという問題に、ロシアが絡んできて、泥沼なんだろうと思う。 ここで、仮にウクライナが今度の戦争で2022年の開戦前の状態、あるいは2014年より前の状態に戻ったとしても、元々大きかった対立に加え、戦争で生じた新たな対立をどう統合していくのか、これは極めて大きな問題だと思った。 もしかすると、ウクライナ東部とクリミアを分離した方が、ウクライナにとってもハッピーな状態になるのではないのかと思った。もちろん、今の時点では、そうした案はウクライナの国内政治的には成り立たないんだろうが。 とても多くのことを考えさせてくれる本だった。 ただ、新書としては、分厚いし、ロシア・ウクライナ情勢に詳しくないわたしについていくのが難しいところも多かった。 ウクライナ戦争関係の本はすでに多くあって、この本は最初に読むには難しすぎる気もするが、数冊読むのであれば、その中にはぜひ入れておいた方がいいと思った。
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既に1年半も戦禍が続く「ウクライナ」が、昨今の大きな話題であると思うのだが、本書は「ウクライナ」の情勢経過に関する本としては「非常に佳いモノの一つ」として挙げて間違いないと思う。 2022年2月からのロシアによる本格的侵攻を受け、「ウクライナ」に関しての知識が色々と求められ続けて...
既に1年半も戦禍が続く「ウクライナ」が、昨今の大きな話題であると思うのだが、本書は「ウクライナ」の情勢経過に関する本としては「非常に佳いモノの一つ」として挙げて間違いないと思う。 2022年2月からのロシアによる本格的侵攻を受け、「ウクライナ」に関しての知識が色々と求められ続けていると思う。そして関係する事項への観方も様々であろう。故に過去に登場している本が注目される場合も在ったと思う。そして2022年春頃からだと思うが、様々な本が登場し続けていると見受けられる。本書も、「あとがき」によれば2022年春頃から約1年で準備されたという。 現今の「ウクライナ」に関しては、1991年に現行の国の体制がスタートした「ポストソ連」の色々なことが何やら「雑?」で、国内での様々な争いが時間を負って煩瑣になって、クリミアやドンバスという地域の問題が先鋭化して「侵攻(開戦)」に至ったという程度には観ていた。本書はそういうような経過に関して、詳しく、幅広く、著者が続けている研究の成果や少し前の研究調査のためのウクライナ訪問での御経験を色々と織り込んで綴られている。「あとがき」の部分迄含めて502ページと、こういう「新書」としては許容されそうな範囲で最も厚いような一冊となっていると思う。 ソ連時代の後の“国”が形成されて行く様子や以降の事、「ユーロマイダン革命」を巡る事、クリミアの事、ドンバスで戦いが始まった事、「ドネツク人民共和国」の推移や諸問題というような事、それらを踏まえて目下の戦争の経過、そして「ウクライナは如何する?如何なる?」という纏めになる。章毎に読み進めれば、厚い本であることは全く気にならず、内容に引き込まれてしまう。 結局は、2013年から2014年の「ユーロマイダン革命」という辺りから2022年頃迄の経過に、「ウクライナ」が登場して来た1990年代頃の事柄を加えたというような内容が本書には盛り込まれていると思う。加えて本書の内容は、「国が興る?」、「興った国が存続する?」というより大きな問題に思いを巡らせる入口ともなり得るかもしれない。 事態や事情が伝えられる中で登場する、少し聞き覚えも在る事項について、本書ではその経過や幾つかの観方を詳しく説明している。そういうのが凄く有益だと思う。 「ウクライナ」は、色々な背景の人達が「偶々在る」という範囲が、偶々現在の国境になったというような一面が在ると見受けられる。譬えて言うなら、黒に白を加えると出来る濃淡が様々な灰色の部分が寄せ集まったモザイクのような感じだ。そういう状態の中で「黒か?!白か?!」と詰め寄るようなことをしても、色々な意味合いでギクシャクしてしまう。2000年代位、更に2010年代位のウクライナでは、そういう「ギクシャク」が発生していたという一面は在るかもしれない。 2022年2月からのロシアによる本格的侵攻という中、その少し後の時期には、何か「先着争い?」のように方々で「ロシア非難!」だったと記憶する。勿論、「侵攻」そのものは「止めなさい!!」としか言えない事であるとは思う。が、事態に至ってしまった経過を直ぐに誰でも理解していたのでもないであろう。そして幅広い人達にとって、理解の一助になるような材料が潤沢に在ったという程でもないと思う。本書はその「理解してみたい経緯」に非常に詳しい。「ウクライナの中での問題」も実は色々と在った。そしてそれらの解決は如何なるのかということも在るであろう。今からでも遅くはない。本書に触れて学ぶべきだと思う。 「ウクライナ」の情勢経過に関する本としては「非常に佳いモノの一つ」である、なかなかの労作である本書が登場したことを感謝したい。そして広く御薦めしたい。
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