わたしの香港 消滅の瀬戸際で の商品レビュー
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【香港の記録】 1993年生まれ、香港在住ジャーナリストが、香港と自分の関係を綴る。 彼女は、生まれは本土で、小さいときに親戚のつながりもあり香港に越してきてから、インターナショナルスクールに入学。 自分は香港人と言ったのは、英語ボランティアでトルコに行ったとき。 大学は香港、でも交換留学で一時期スコットランドへ。 卒業後は香港に在住し、ジャーナリストとして活動されているらしい。 第一部では、自己の生まれと所在について、香港という特殊な土地との関係とともに、自分の家とは、家庭とは、そして故郷とは、という問いとともに生きる彼女の幼少期から小学校ぐらいのあいだのことを綴る。自分にとって香港とは何なのか、この問いは本書を通して綴られている。 両親は著者が幼い頃から別居中で、母は弟を連れてシンガポールへ。 祖母と父と暮らす彼女の家庭事情は、なかなか息苦しそう。 伝統としてある家族への義理みたいなことも書かれていて、日本もこの伝統、共有しているところがあると思った。 第二部では、精神的な病の体験、香港の精神疾患の現状や医療関係にも言及。 2014年の雨傘運動を。彼女は交換留学中に画面越しに見た。自分と同世代の学生が活動をリードする傍ら、当事者となれなかった未練みたいなのが、ずっと彼女を覆っている。 その一方で、親元を離れた学生生活は、彼女が香港について発見し、揺れながらもその土地に属するものとして関わっていこうと覚悟する過程でもあったのだと思う。 第三部では、ジャーナリストとしての彼女が、香港について書くことについて、書き手のあり方、書く際の言語についてなど、香港独自の事情を踏まえて論じる。地元に根差したジャーナリズムの在り方についても。 そして、自分を生かしてきた音楽やサブカルチャーもたくさん紹介する。 日々の生活をかけて活動する地元の人たちがいる一方で、インターナショナルスクールに通い、英語も使えて、別に市民活動に身を投じなくても生きていける身分。自己欺瞞と彼女は言う。彼女なりに何とか折り合いをつけようとしているのかもしれない。そもそも建設的なあいまいさで成り立っているような土地で、一人の人が背負うにはとても大きな問いだと思う。 まったく状況が違うけれど、日本にいても、特に日常に困らずに生活できる立場にある時、社会を変えるために活動するには何らかの正当化理由が必要なんじゃないか、ってなる。わざわざ社会のために、途方もない努力をしなくても、自分の生活を快適に過ごすことを優先する方が断りにかなっている、とか。必要に迫られてじゃない社会活動は、自己欺瞞とされても無理はない、とか。 そうかもしれないけれど。 以下、引用。 消えそうとしてると彼女が言う香港。 彼女が自分自身を自己欺瞞と言いながらも、記録し続ける、関わり続ける、その場に居続ける、その彼女の生きる香港について。本書を通して、少し知ることができた。
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香港について、僕が知っていたことはかなり限られていて、留学の話があって初めて興味を持った。一言で言えば、環境的にも社会的にもディストピアな都市であったのは間違いない。その中でも、もちろん喜びがあって、その様子を瑞々しく描いている。雨傘革命に関する映画も観てみたいと思う。
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本屋でたまたま手に取ったら、好きな翻訳家の一人である古屋さんが邦訳されたと知り、ジャケ買い。 『転がる台湾に苔は生えない』とほぼ同時期の香港を、中国本土にもルーツを持つ著者が、自分の半生とともにつづったノンフィクション。 知らないバンド名が羅列される箇所もあり、読み進めるのは少...
本屋でたまたま手に取ったら、好きな翻訳家の一人である古屋さんが邦訳されたと知り、ジャケ買い。 『転がる台湾に苔は生えない』とほぼ同時期の香港を、中国本土にもルーツを持つ著者が、自分の半生とともにつづったノンフィクション。 知らないバンド名が羅列される箇所もあり、読み進めるのは少ししんどいこともあったが、英語ができる香港人、という筆者の立場からは、「外国人が見ている」香港と、「地元の人が見ている」香港の対比が鮮やかで、そのはざまで苦闘する筆者の姿に、どこか共感を覚えた。
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量が多いので、パラパラと流し読みで読了。 つまらなくはないけど、 この分厚さを読み通すほど、 彼女の人生にも香港にも興味を 持てなかった。
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返還直前に生まれ、2010年代から香港で起こってきたデモを体験して取材もした筆者による、自伝も兼ねた返還以降の香港年代記。中国に生まれながらも香港市民としてのアイデンティティをもつ筆者だが、自らの半生と香港の社会及びカルチャー面の移り変わりを客観的に見て記している。映像やニュース...
返還直前に生まれ、2010年代から香港で起こってきたデモを体験して取材もした筆者による、自伝も兼ねた返還以降の香港年代記。中国に生まれながらも香港市民としてのアイデンティティをもつ筆者だが、自らの半生と香港の社会及びカルチャー面の移り変わりを客観的に見て記している。映像やニュースでは伝わりにくい複雑さを香港は持っているが、このような市井のジャーナリズムは実に貴重であるし、これまで自分が通ってきたそれぞれの年代の香港の姿も重ね合わせて理解して読める。
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「刺さる」1冊だと思った。ぼくはついつい香港を扱った作品の中に「メディアが流布した」「おなじみの」風景を見てしまう。洗練された先端をゆく都市にして、催涙ガスの匂いが漂う自由民主化の土地でもある、と。違う、とこの著者は冷や水を浴びせる。著者はカミングアウトするのに勇気を要しただろう...
「刺さる」1冊だと思った。ぼくはついつい香港を扱った作品の中に「メディアが流布した」「おなじみの」風景を見てしまう。洗練された先端をゆく都市にして、催涙ガスの匂いが漂う自由民主化の土地でもある、と。違う、とこの著者は冷や水を浴びせる。著者はカミングアウトするのに勇気を要しただろう自らの生きづらさにあふれた半生まで綴って、そうした既存の香港を描くジャーナリズムが見ようともしない「わたしの香港」を克明に描写する。それは世界的な風潮である英語帝国主義やオリエンタリズムをも指弾する域に達しこちらを冷徹にたたっ斬る
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香港のこと、過去20年くらいのことは、自分も何度も行き、かなり知ってたとはいえ、「なかの人」からの語りというのは、友達もいない身としては貴重。とはいえ、これはこの人の経験であって、人それぞれなのであろうということを改めて感じた。香港人と言ってもいろいろである、ということを。本人の話と、何人かの周りの人の話が書かれているが、それ以外さらに、いろいろな人やことがあるのだろうなと思えた。 周りの人の中にはなーんと黄
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