今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる の商品レビュー
大変に興味深く、素早く読了に至った。何か、本に関しては「大変に興味深く…」と綴る場合が多いような気がしている。が、「大変に興味深く…」であるからこそ、感想等を綴っておき、同時にそれを公開して多くの方に御薦めしてみたいとも思うというものだ。 宮本常一(1907-1981)という人物...
大変に興味深く、素早く読了に至った。何か、本に関しては「大変に興味深く…」と綴る場合が多いような気がしている。が、「大変に興味深く…」であるからこそ、感想等を綴っておき、同時にそれを公開して多くの方に御薦めしてみたいとも思うというものだ。 宮本常一(1907-1981)という人物は、民俗学研究を核に、様々な活動に携わった人物で、その書き綴ったモノも多く伝わっているという。申し訳ないが、この人物のことは知らなかった。本書を手にしたのは、この宮本常一の名が題名に在ったからではない。「歴史は庶民がつくる」という表現に惹かれて興味を覚えたからに他ならない。 「歴史」と言えば、誰かが書き綴った記録に依拠しながら過去の事象を考証する、解き明かすという話しになる。が、そういうモノは政治体制を設けた、支えた、換えたというような「体制側」の話しが大きな部分を占める。 こういうような「歴史」だが、それが語られている空間の中に流れた時間を生きていた筈の人達を考えてみると、政治体制を設けた、支えた、換えたというような人達は寧ろ極々限られた数であった筈で、空間と時間の中に在った、敢えて一括りの呼称を与えるなら「庶民」とでも呼ぶべき夥しい数の人達が在った筈だ。 その「庶民」とでも呼ぶべき夥しい数の人達が「如何に歩んだのか?」に着目し、考証し、解き明かそうというような事柄を端的に言うなら「歴史は庶民がつくる」ということになるのであろう。 この「庶民がつくる」という「歴史」を考証する手段として、宮本常一は「民俗学」という方法を用いた。 「民俗学」とでも聞けば「口承文芸」というようなことを思い出す。何処かの地域で、代々口伝で伝わっている物語のようなモノを聞書きするようなことをし、それを読み解いて「人々の心情」、「心情の移ろい」というようなことを考証する訳である。 宮本常一は「口承文芸」というようなこと以上に「モノ」と「使い方」と「暮らしの変化」というようなことに着眼し、それに関係する聞書きのような調査を重ねて考証した。 例えば、或る地域で良質で使い易い釣糸を製造する、または仕入れる術を得て、それが普及すると共に一本釣り漁法が発達するとする。そうなれば、やがて釣糸を方々に売るようになり、売りに行く場合には行った土地で釣糸を使う一本釣り漁法を指南する。そうなればより広い範囲で良質の鮮魚を得るようになる。やがて輸送手段が発展し、辺りの大きな街に鮮魚が出回る量が増えることになる。 こういう例のような、「或る道具」が契機で、活動の様子が少し変わり、それが拡がり、別な要素と組み合わさって人々の暮らしに変化がもたらされるということは多々在る。それが「庶民がつくる」という「歴史」という観方に他ならないと思う。 本書では、宮本常一の様々な仕事を取上げていて、何れも興味深い。が、釣糸の経過のことを挙げて説くような「庶民がつくる」という「歴史」という観方が殊更に面白いと思った。考えてみると、災害等は見受けられたものの、長く続く戦乱というような混乱を免れた江戸時代辺りには、本書で引かれた釣糸の挿話のような変化が、色々な分野で在って、少しずつ変容が重なり、明治期へと流れているように思う。農業や漁業、流通や取引に纏わる金融等、絡まり合って次第に変わる、換えるという中、無数の「庶民」が寧ろ「歴史」を「つくる」ということになったように思う。 本書は本当に示唆に富む一冊だと思う。「歴史は庶民がつくる」という観方を、歴史に触れる場合に持っていると、画期的な程に理解が深まるかもしれない。 本書には宮本常一が書き綴った様々なモノの中、代表的とされるモノ、見出し易い書籍となっているモノを巻末で幾分紹介している。その部分も好い。機会を見出して、宮本常一の書き綴ったモノも読んでみたいと思った。 今般、この一冊に出遭えたことは、大変に善かったと思っている。
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美大生にもなじみやすかった宮本民具学を思い出して読む。ページが少ないのでやむをえず、だと思うが用紙が厚くて開きにくく読みにくい。
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