音楽と生命 の商品レビュー
対談番組を元に構成している都合上、語りの量、深さともにちょっと物足りないところはあるのだけれど、晩年の坂本龍一の思考の大切な部分が言語化されてまとめられてるという点で価値のある書籍だと思う。 「秩序」というロゴスに美を見出す、という人間の習性から発展してきた西洋芸術をある種極め...
対談番組を元に構成している都合上、語りの量、深さともにちょっと物足りないところはあるのだけれど、晩年の坂本龍一の思考の大切な部分が言語化されてまとめられてるという点で価値のある書籍だと思う。 「秩序」というロゴスに美を見出す、という人間の習性から発展してきた西洋芸術をある種極めた坂本龍一が、ピュシスにも美を見出す東洋的価値観に感応し、『async』という作品を作り上げたことの裏側に少しだけ触れられる。
Posted by
坂本龍一さんと福岡伸一さんとの対談、手にとらない訳がない。尊敬するふたりの会話は素敵でした。 「ロゴスとピュシス」、ホモサピエンスの宿命と自然の偉大なさが納得できますね。 福井先生の動的平衡は、やっぱり惹かれます。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
先日NHKで放送された坂本龍一のドキュメンタリーが信じられないほど心に刺さってしまい今更ながら著書を追いかけようということで読んだ。対談相手の福岡伸一の受け身のうまさもあいまって極上の対談となっていて興味深かった。 2017年に放送された番組での対談内容に加えてコロナ禍真っ只中である2020年の対談が追加された構成となっている。対談の文字起こしなのでラジオを脳内再生しているように読めるのが特徴的で難しい話も入ってきやすい。まず驚いたのは坂本龍一が学者である福岡伸一とこれだけ会話をスイングできること。彼が単なる一音楽家にとどまらないことは晩年の社会にコミットする活動などから知ってはいたが、その背景に膨大な知識と思慮深さがあることが本著から伺い知れる。当然それを引き出しているのは福岡伸一だとも言えて2人の相性が本当に素晴らしく会話がずっとスイングしているので、いくらでも読みたかった。特に生物学と音楽の対比、アナロジーの展開が見事。ひたすら点と点が線で繋がっていくオモシロさが多分にあった。しかし続編はもう叶わぬ夢となってしまったことが悲しい。坂本龍一が死について直接言及しているラインはドキュメンタリーで壮絶な最後を見たばかりなので沁みた。生命は利他的であるべきであるが、利己的な生きることへの執着も捨てがたい。結局は諸行無常でしかないことを痛感させられた。 対談の一番大枠を捉えればロゴス(論理)とピュシス(自然)になるだろう。シンセサイザーを使って音楽をロゴスで捉えた音楽家とDNA解析という論理で名を挙げた学者。この2人が自然回帰の重要性を説いている点が興味深い。ロゴスの山の頂に登ったからこそ見える景色があるというのは本当のプロだけが言える言葉であり、その辺のロハス風情が説く印象論レベルのSDGs与太話とは納得度が雲泥の差であった。AIの台頭もあいまってさらに世界はロゴスにより加速度的に支配されつつあり、そこから逸脱したものを忌避する傾向さえある。そんな状況下ではロゴスからはみ出すことに魅力があり、さらにピュシスと真摯に向き合えればなおよしだと受け取った。 本著を読んで坂本龍一のカタログをよく聞くようになったのだけど、なかでも対談当時にリリースされた『async』の解像度がかなり上がった。このアルバムは坂本龍一の音に対するアプローチが表現されており音だけ聞くよりもその背景、思想を踏まえて聞くと全く違う風に聞こえる。音楽は奥深い。また坂本龍一がヒップホップに対してサンプリング許可を寛大に与えていたのはヒップホップの非論理性に惹かれていたからなのかと夢想した。次は最後の日々が綴られているという『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』を読む。
Posted by
お二人の先生がおっしゃる事、難しいけど分かる気がする。 音楽はその場の即興、そしてそのハーモニーがガッチリ最適に響く瞬間がある。自然の中にしかないリズムや音に私たちは癒される。なのにプロは再現性を求められ、音楽は作曲した瞬間から古くなる。科学者の発見は偶然から起こる事がある。けれ...
お二人の先生がおっしゃる事、難しいけど分かる気がする。 音楽はその場の即興、そしてそのハーモニーがガッチリ最適に響く瞬間がある。自然の中にしかないリズムや音に私たちは癒される。なのにプロは再現性を求められ、音楽は作曲した瞬間から古くなる。科学者の発見は偶然から起こる事がある。けれどその普遍性、再現性が立証できなければ科学的に根拠ありと認められない。脳科学も、言語化した瞬間からラベリングさせてしまう、脳機能を理解する私たちの脳は思考することができるのか? 音楽の・脳科学の・音響の・あの初めの感覚が私を1番ワクワクさせる。なのにラベリングされ分類し記憶整理させた瞬間からつまらない。感覚的な瞬間を大切にしたい気持ち共感できる。こんな私でも何となく分かる。ただその解像度や閾値は2人の先生にはきっと及ばないんだろうな。
Posted by
前回紹介した教授の『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』の中で何度も触れられており、読まなくてはと思い手に取った教授と動的平衡の第一人者・福岡伸一氏との対談集『音楽と生命』。それぞれ「音楽」と「生命」といった異なる自分の分野で共通項を探求して語り合う姿は爽快である。「有限であるか...
前回紹介した教授の『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』の中で何度も触れられており、読まなくてはと思い手に取った教授と動的平衡の第一人者・福岡伸一氏との対談集『音楽と生命』。それぞれ「音楽」と「生命」といった異なる自分の分野で共通項を探求して語り合う姿は爽快である。「有限であるからこそいのちは輝く」と生物学者が言えば、音楽家も演奏は「一回性」があるからこそアウラ[オーラ]があると語る。言葉やロゴスでは表しきれない自然[ピュシス]をいかに音で表現するか、これが想像力の源であろう。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
面白かった…!実は坂本龍一がこうして自分の問題意識や認識を語っているところを読むのは初めてで、「あ、こんなこと考えて音楽を作っていたんだ」というのが新鮮・かつ自分の考えているところと近いところもあって面白かった(のと、やはり逝くのが早すぎたよ…) PART I 「一回性」であることの大切さ ・科学は再現性というとことに価値を置くものだが、音楽はそれとは反対。「ベンヤミンは、機械的複製技術の誕生によって芸術作品のコピーを大量生産することが可能になった時代、芸術作品が「いま・ここ」に結びつきながら一回的に現象する際の特有の輝きをアウラという概念で表し、それが失われている問題について論じました…」(坂本) ノイズだらけの世界をどう捉えるか…この章から出てくる星座の比喩、しっくりきまくる …本当は、世界というものはノイズだけの空間で、言ってみれば夜空の星々のようなものですよね。でも人間の能は、そのノイズの中のめぼしい点、つまりシグナルを結んで、星座を検出するわけで、それが科学の営みだということです。本来ノイズである自然の中からある種のロゴスを切り取ってくるという意味では、非常に人工的な営みとも言えますね。(福岡) …星座という二次元で平面的なものとして宇宙を見てしまう見方は、まさに人間が世界をどう認識するかを象徴する比喩のような気がします。(坂本) 言葉というロゴスの力 …一方、これは人間の脳の特性としか言いようがないのかもしれませんが、我々には、ランダムには耐えられないというところがあります。何か意味がある情報を受け取ろうとする、見ようとする、あるいは聞き取ろうとする。そういうところが、人間にはやみがたくありますよね。…そうやってオーガナイズし、秩序だったものにしていくと、よりコントロールしやすいわけですよね。 …僕たちは無意識のうちに、ロゴスによって固定化された方法で世界を見たり体験したりしているんですよね。(坂本) …それが大きなジレンマですが、私たちはその矛盾を抱えながらも行き来せざるを得ません。言葉やロゴスの呪縛から、本来のピュシスとしての我々自身をいかに回復するかということですね。(福岡) 内なるピュシスに気づく …自分の身体は制御可能だと思っているんですよね。本当は、ピュシスである自分自身にロゴスが侵入しないよう、我々は気をつけないといけないんですけれどもね。ロゴスはピュシスをコントロールしようとするものなのですから(福岡) …この人工物に囲まれている私たちの中で絶えず音を発しているもの、つまり、我々の生命体があるわけです。心臓は一定のリズムで拍を打っているし、呼吸も一定のリズムで吐いたり吸ったりしているし、脳波も一定の波幅で振動しているし、セックスにも律動がある。そういうふうにして、生命が生きていく上では、絶え間なく音、音楽を発しているんですよね。(福岡) PART II なぜ人間は常にピュシスの中にロゴスを見てしまうのか(福岡) 死を受け入れる …有限であるからこそいのちは輝くのです。そしてその有限のいのちが閉じるとき、また別の生命へと動的平衡がリセットされ継承されます。このようにして生命系全体は連綿と続いてきたし、これからも続き得るのだと思います(福岡) そう、命令者はいないし、細胞のなかにも別に司令塔はないし、誰が偉いわけでもないんです。(福岡) ということは、すべては、常に流れていく一つの生命だということですね。改めて、そういう生命のあり方は本当に奇跡的なことだと思います。(坂本) まさにロゴス(言葉や論理)とピュシス(自然)の中で、ロゴス偏重気味な自分自身と、ピュシス(限りある生命、芸術の輝き)を愛する自分の葛藤の中で生きている身としては、二人が交す議論はどれもこれも"わかる"というか、そういうこと考えるよなあ…という感じで、しみじみ面白かったです。また最近ユクスキュル『生物から見た世界』の話を別の場所でも聞いたので、改めてそこに戻っていくなと。生命の自己言及についても触れられ、まさにまさに…。気づくとロゴスに傾く自分自身を、ピュシスとして回復していきたい。高校の時の生物学の授業で感じた内なるピュシス、久々に思い出した。
Posted by
AIは正解を判断するが、壊しながら進んでいるのが生命という、これから先、人間はどのように自動化と生きていくべきか、分かりやすく説明されています。 ユクスキュルの「これは一本のブナではない。僕のブナだ」と気づく話しは難しかったのですが、坂本龍一さんは自分自身も自然の一部として「生...
AIは正解を判断するが、壊しながら進んでいるのが生命という、これから先、人間はどのように自動化と生きていくべきか、分かりやすく説明されています。 ユクスキュルの「これは一本のブナではない。僕のブナだ」と気づく話しは難しかったのですが、坂本龍一さんは自分自身も自然の一部として「生まれたからには死ぬわけで」と語られてピュシスに近づくヒントがわかりました。 ジョージオーウェル 1984 やSF小説の三体なども話題になりとても読みやすかったです。 その他『創造的進化』アンリ・ベルクソンの「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある」や『生命とは何かー』シュレーディンガーの参考書の説明は、ずいぶん古い書物なのに今の時代を予測していたような内容で、段々とロゴスで構築された機械的な生命観より、動的平衡的な宇宙観、生命観のほうが納得できる気がしてきます。 ホモ・サピエンスの狩猟民族のころは利他的行動が多かったのに、定住型農地改革あたりから食料を保存することで利己的社会に変わってきたのではないかとお二人の意見が一緒でした。 生命として考えると、人間だけだいぶ間違って歴史が進んできてしまって、今後どう修復していくかが課題のようです。 坂本龍一の間際の想いが詰まった大事なお話しでした。 後半は福岡伸一さんの20代苦労なされたNY生活でネズミの実験話しや偽造問題では謎が多い ですね。 最後に何億年も経つ地球では、本来ピュシス(自然)の中に自分自身がいるのに、数万年前にできたばかりのロゴス(言語や論理)が侵入していく社会によって、いつのまにか人間と自然を分けて考えるようになってしまった。かと言ってロゴスを疎かにするわけにはいかず、どのようにバランスよく生きていけばいいのか、おのずとわかってきました。 少なくとも普段から、海や山、川など人間以外の生き物がいるところへ行って、ロゴスではないやり方で楽しみたいと思いました。
Posted by
坂本龍一氏と福岡伸一氏の対談が、こんなに深いところまで行っていたとは。 特にロゴスとピュシスの対立については、いろいろ考えさせられた。
Posted by
学生選書ツアー2023選書図書 【所在・貸出状況を見る】 https://sistlb.sist.ac.jp/opac/search?q=9784087890167
Posted by
音楽家で"教授"の愛称で親しまれている(いた?)坂本龍一氏と、生物学者で作家の福岡伸一氏との"自然"と"人間"について語られた対談集。2017年6月3日 NHK Eテレで放映された番組と未放送分を合わせ、加筆・修正して出...
音楽家で"教授"の愛称で親しまれている(いた?)坂本龍一氏と、生物学者で作家の福岡伸一氏との"自然"と"人間"について語られた対談集。2017年6月3日 NHK Eテレで放映された番組と未放送分を合わせ、加筆・修正して出版された本。 『自然』に対する『人間』の関わり方、自分自身の中にある『自然』についての考え方、というものが語られている。 この本から学べたことは、『自然(ピュシス)』は"一回性(一度きりで再現できないもの)"だが「利他的(他者と共生を図れる)」であり、『人間の考え方や論理(ロゴス)』は"再現性(何度繰り返しても同じ結果が得られる)"があるものの「利己的(余剰を他者に渡さない)」な部分が強い、ということ。 いちばん印象に残ったのは、坂本氏の『一番身近な自然は海や山ではなくて自分自身の身体(からだ)なんです。』という言葉だった。
Posted by