また会う日まで の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
朝日新聞掲載時に読んでいたが、途切れ途切れだったので、まとまったら読みたいなと思っていた。大作だったが、平易な文章でもあり、なんとか読み切った。 主人公の秋吉利雄は筆者の大伯父のようだが、海軍少将(海路部)で天文学者でキリスト教徒。太平洋戦争時、アメリカやキリスト教と深く結びついていながら、軍に籍を置き、大きな破綻なく過ごせたのは驚きだ。 戦前から開戦、戦時中の生活、人々の反応や意識などが詳細に書かれていて、人の命も含めて、危うい時代であることがわかる。そこで、何を考え、何を選び、生きていたのか。 と同時に、一人の人の人生が描かれ、その背景の時代が描かれているものの、全体の物語としては大きな起伏があるではなく、文章が淡々と進むこともあり、人によっては単調だと感じるかもしれない。 読了後よりも、後に振り返って、しみじみと噛み締めるように思い返しそうな気もする。 友人の加来止男(かくとめお)が空母「飛龍」の艦長としてミッドウェーで戦死したのは軍人の性と言えば言えるが、もう一人の友人M(最後まで名前が明かされない)が戦後に殺されるには、複雑な時代の背景があったことかと察せられるが、あまりにも惜しいことだったと思う。Mの書いた歴史書が書かれていれば、きっと後世の学びになったはずだし、だからこそ、それが阻止されたのかもしれないが…。 何を見て、何を考え、何を書き残したいと願っていたのか、読みたかった。
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海軍軍人、天文学者、キリスト教徒でった筆者の大伯父(祖母の兄)の一生涯、戦争に翻弄されつつ信念を貫き通した人生を描く感動作。 全く前知識泣く読み実在の人物を描いた小説であったことを途中で知る。海軍兵学校では、ミッドウェーで空母飛龍艦長として戦死した加来止男と同期だった秋吉利雄。...
海軍軍人、天文学者、キリスト教徒でった筆者の大伯父(祖母の兄)の一生涯、戦争に翻弄されつつ信念を貫き通した人生を描く感動作。 全く前知識泣く読み実在の人物を描いた小説であったことを途中で知る。海軍兵学校では、ミッドウェーで空母飛龍艦長として戦死した加来止男と同期だった秋吉利雄。妻や子、当時の死亡率の高さには驚かされる。キリスト教徒として肉親の受け入れる、時に迷いつつも。 朝日新聞に連載されたという大作。Mという友人の語る戦局があまりにも後世からの視点になっているところが気にはなるものの(少年Hのように)、それを差し引いても感動する作品でした。
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数ヶ月前に著者の講演をきいて,この本の準備中であることを知った.(朝日新聞に連載されていることはしらなかった).自ら「史伝」を書いていると言ったので興味をもち読もうと思った次第. 手元に届いた本は700ページ超.なかなかの厚さ.ただし,文章は改行が必要以上に多くて,厚さほどの圧迫...
数ヶ月前に著者の講演をきいて,この本の準備中であることを知った.(朝日新聞に連載されていることはしらなかった).自ら「史伝」を書いていると言ったので興味をもち読もうと思った次第. 手元に届いた本は700ページ超.なかなかの厚さ.ただし,文章は改行が必要以上に多くて,厚さほどの圧迫感はない. 主人公は著者の縁者であり,海軍の水路部で海軍少将にまでなった秋吉利雄.その生涯を描く.のちに2番目の妻が指摘するように,彼には3つの顔があって,それは軍人,天文学者,クリスチャンである.クリスチャンの家庭に育ち大正三年に海軍兵学校を卒業し,のちに東大に学び,皆既日食の観測隊を率いる.そういう生涯が淡々と事実に即して綴られる.このあたりが著者が「史伝」と読んだ所以であろう. 「史伝」と「歴史小説」の違いはよくわからないが,森鴎外の「渋江抽斎」は明らかに普通の小説ではない.著者が森鴎外を意識して「史伝」と呼んだのは確かだけれど,この本はもっと普通である.退屈に思う人もいるだろうが,こうやって,一つ一つの事跡を丁寧に辿り,細かな情報も遺漏なく書いていくこと,あるいはそれを読んでいくことは,作者にとっても読者にとっても時間に余裕があれば楽しい作業である.
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池澤夏樹さんの大伯父・秋吉利雄さんの生涯を描いた作品。秋吉さんは海軍軍人、天文学者、キリスト教徒として明治~終戦まで生き、決して戦争に賛成ではないが、海洋地図製作などを通じて一翼は担う状況だった。あの太平洋戦争は誰が見ても間違いで、多くの人が敗戦がほぼ決まった状況の中でも無駄に命...
池澤夏樹さんの大伯父・秋吉利雄さんの生涯を描いた作品。秋吉さんは海軍軍人、天文学者、キリスト教徒として明治~終戦まで生き、決して戦争に賛成ではないが、海洋地図製作などを通じて一翼は担う状況だった。あの太平洋戦争は誰が見ても間違いで、多くの人が敗戦がほぼ決まった状況の中でも無駄に命を落とした。海軍少将まで出世し海外のこともよく知っており冷静な判断ができる秋吉さんのような人たちが、どのような行動に出れば戦争を回避または早く終わらせることができたのだろうかと思う。特別な地位もなく海外も知らない当時の多くの国民にはできることは限られていただろう。主流のように見えてもおかしいなと感じることがあれば声を上げることができて、軌道修正される世の中になっていくといいなと思った。
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すごい小説! 初めて読んだのは、「マシアス・ギリの失脚」。 文庫化され、すぐに読み、感動。 以来、芥川賞受賞の「スティル・ライフ」に遡り、大好きな作家さんだった。 最近は、ちょっと・・・遠ざかっていたけれど。 ああ、でも、久しぶりに、好きだった池澤ワールドに浸れた。 作者の...
すごい小説! 初めて読んだのは、「マシアス・ギリの失脚」。 文庫化され、すぐに読み、感動。 以来、芥川賞受賞の「スティル・ライフ」に遡り、大好きな作家さんだった。 最近は、ちょっと・・・遠ざかっていたけれど。 ああ、でも、久しぶりに、好きだった池澤ワールドに浸れた。 作者の大伯父にあたる、実在の海軍少将・秋吉利雄の生涯をたどる。 それはつまり、日本の近代史を語ることにもなり 読み応えがあった。 著者が「とんでもなく手間がかかった」と言っているが、 読む方も、「とんでもなく手間がかかった」。 海軍、天文学、そしてキリスト教が三つ巴の如く 襲ってくるのだから、こちらも心して読まねばならぬではないか! さて、池澤氏が「とんでもなく手間がかかった」というのは 最後の章でわかる。 内容を一族に確認しつつ執筆したらしい。 これだけの資料に埋もれながら、そこまで! そりゃ、手間がかかる。 当初、池澤氏と秋吉の関係を深く知らずに、読み始めたのだが・・・ 義弟の「福永末次郎」と、その長男武彦が揃って、秋吉家に来たとき・・・ 「福永・・・武彦・・・福永武彦!」ああ。やっと気づいた。 池澤氏の父上ではないか。ということは、秋吉は大伯父か。 その後、武彦の長男・夏樹が誕生の場面では涙が止まらなかった。 どんな想いで、池澤氏は、己の誕生を描いたのだろう。 たしか、成長するまで、福永が父上だとご存じなかったのでは無かったか? その記憶が正しいとすれば、なおさら・・・だ。 週刊誌的な興味はさておき・・・ 秋吉の生き方は、胸に迫る。 キリスト教信者でありながら、海軍軍人。 自分なりに説明をつけ、職務にいそしんだのに・・・敗戦。 公職追放。 途中、タイトルの『また会う日まで』の意味もわかる。 勘の良い人なら、表紙絵からもわかるのかもしれない。 (わたしは鈍かった) 江田島の兵学校、海軍軍人、水交社、艦隊、山本五十六に、鈴木貫太郎・・・ 気になるワードが次々に出てくる。 本は付箋でいっぱいになっているのに、心は物語の世界から離れない。 「調べました」感がなく、あくまでも物語の中で読ませる。 さすがだ。 確か、池澤氏だったと思うが、「いつまでも読み続けられるから長編が好きだ」と おっしゃっていた。 (なるほど石牟礼道子を高く評価するのはそれもあるのか、と納得したのは ずっと後のこと。) 久しぶりに池澤・長編を堪能した。 ああ。でも哀しいかな。 図書館の本ゆえ、返却期限が迫り・・・ 後半は、少々飛ばし読み気味。 絶対に、これは自分の本で、ゆっくり読みたい。
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新聞連載にて読んだ。 自分が全く関心のない分野だったのに、秋吉に寄り添った読書をしたのがとても意外だった。キリスト者でもあり軍人でもある秋吉。矛盾を抱えたまま生きる姿を描くのは難しいと思うのだが、作者の力量か。 人間としての深みを描くのに成功している。 また親友のMが魅力的。彼の...
新聞連載にて読んだ。 自分が全く関心のない分野だったのに、秋吉に寄り添った読書をしたのがとても意外だった。キリスト者でもあり軍人でもある秋吉。矛盾を抱えたまま生きる姿を描くのは難しいと思うのだが、作者の力量か。 人間としての深みを描くのに成功している。 また親友のMが魅力的。彼のような人物はいたに違いないと思うし、そういう人物が潰されていくのもまたこの時代だと思う。 読書の幅を広げてくれた良書である。
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