荒地の家族 の商品レビュー
東日本大震災後を生きる者たちの姿形
東日本大震災に見舞われてから10年余を経過し、物理的には一定の復旧・復興を遂げた被災地を舞台に、生き残った主人公のその後の生き様を軸として、家族や主人公を取り巻く人々それぞれの人間模様を、フィクションとは思えない透徹した筆致でリアルに描き出す。甚大な「災厄」を体験し、身近な者たち...
東日本大震災に見舞われてから10年余を経過し、物理的には一定の復旧・復興を遂げた被災地を舞台に、生き残った主人公のその後の生き様を軸として、家族や主人公を取り巻く人々それぞれの人間模様を、フィクションとは思えない透徹した筆致でリアルに描き出す。甚大な「災厄」を体験し、身近な者たちの死に直面しながら、その後のただでさえ厳しい現実社会を生きる運命を背負った者たち。彼らにつきまとい離れない底知れぬ不安や恐怖、払拭しきれない後悔や苦悩、こみ上げる自責的・自罰的な感情や葛藤などが、心身の不調や崩壊という具象的な姿形となって読者の眼前に厳然と提示されつつ、物語は重苦しく展開していく。最後の章では、幻影か現実世界かはっきりしないが、自然の持つ脅威や弛みない生命力が改めて描かれるとともに、主人公がそんな自然や家族らと共に生き抜いていくという決意と覚悟が読み取れ、一瞬救われたような気持ちになるが、ラストシーンは、主人公があがきながら生きてきたこれまでの道のりの厳しさと人間の日常の営みを象徴していて、切なさが胸に迫る。2022年下半期第168回芥川賞受賞作品である。
fugyogyo
震災の被害は日本に居ればいつその厄災 に巻き込まれるかは誰もわからない。 この本に出てくる亘理にはよく行く店が あり鳥の海の無くなっ行き付けの店の 暖簾が店は影も形もないのに吹きさらに 耐え残っていたのを覚えている。 その鳥の海の背後には山と化した無惨な ゴミの山が高く積み上がっ...
震災の被害は日本に居ればいつその厄災 に巻き込まれるかは誰もわからない。 この本に出てくる亘理にはよく行く店が あり鳥の海の無くなっ行き付けの店の 暖簾が店は影も形もないのに吹きさらに 耐え残っていたのを覚えている。 その鳥の海の背後には山と化した無惨な ゴミの山が高く積み上がっていて その場に立ち尽くして動けなかった。 植木の穴は土で埋められるが、失った 心の穴は埋められず周りの景色も人も 全て無に期してしまった。 それでも海は変わらず凪いている、 そこに住んで生きて行く日々は心を無 にして前に進むしかないのだ。 町は少しづつ変わって行くが、失った日々は 戻って来ないが最後の啓太の久しぶりの 笑い声が少しの希望と未来を感じさせら れ安堵した。
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表現の仕方が面白い。私は海辺に現れる年老いた男性(たきびをたいている方)は時空と生死を分ける存在なのではないかと感じた。たきびの煙はその有耶無耶な視界が悪いような、そんな居心地の悪さ、その中にあるどこか落ち着くところを表現していると思った。
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苦手な芥川賞だけれど、挫けずに読むことができた。 全体を通して漂う、震災の重い空気。直向きに愚直に生きているのに、うまくいかない重さ。どんなに求めてもお互いを分かり合えず破綻してしまった夫婦の重さ。震災で家族を失って狂ってしまった人生の苦しみに堕ちた友。 最後は、ほんの少しの光が...
苦手な芥川賞だけれど、挫けずに読むことができた。 全体を通して漂う、震災の重い空気。直向きに愚直に生きているのに、うまくいかない重さ。どんなに求めてもお互いを分かり合えず破綻してしまった夫婦の重さ。震災で家族を失って狂ってしまった人生の苦しみに堕ちた友。 最後は、ほんの少しの光が…?
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大きな事件があったりする訳ではないけれど、災厄があっても生きている人は進んでいくしかないことを作者は伝えたいのだと思った。
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芥川賞らしい、感情の揺れ幅を丁寧に描いた作品。 最初にパラパラとページをめくった時は割と余白も多く、また本自体も割と薄い方だったのであまり期待はしていなかったが(失礼すぎてすみません)、そんな私の軽率な予測とは裏腹に何とも奥深い作品だった。 未曾有の震災で失ったものはあまりにも多...
芥川賞らしい、感情の揺れ幅を丁寧に描いた作品。 最初にパラパラとページをめくった時は割と余白も多く、また本自体も割と薄い方だったのであまり期待はしていなかったが(失礼すぎてすみません)、そんな私の軽率な予測とは裏腹に何とも奥深い作品だった。 未曾有の震災で失ったものはあまりにも多く、それでも生きていくしかない。また震災とは関係がなかったとしても、その前後に起こった悲しい出来事はどうしても震災と関連付けて思い起こされる。個人の心情とはおかまいなしに街も人も生きていく。そうするしかない。その流れについていけなくても、過去に囚われる日々だったとしても、ほんの小さな喜びや、喜びとは認識できないものを糧に1日を過ごしていく。その描写が何ともリアルで素晴らしかった。主人公が、鳥の海で焚き火をする老人とぽつりぽつりと話すシーンが大変印象的だった。言葉少ないながらも言外にある何かを共有するところが東北人らしく、また震災を生き延びた者同士の死者への悼みのようにも感じられ、かなり冒頭の方に出てくるシーンではあるがこの作品を代表する部分になっていることは間違いない。
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主人公には近い人の死が多く起こり、その度に辛い思いをしたと思う。その時の感情を静かに表現することで、強さを感じるとともに、生きることに対しての諦めや妥協のようなものも感じた。生きている上で死は避けられないことである。悲しみと向き合いながら、自分はどう生きていくのかを静かに教えてくれた。 最後の物静かな子どもが笑ったシーンには、主人公にとっての唯一の希望なのだろうと温かみを感じた。子どもの空気を読まない無邪気さは枯れた心にも元気を与えてくれる光なんだと思う。
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一時期せんだい文学塾に通っていたことがあって、もしかしたら作者の佐藤さんもそこにいたかもしれない。課題の小説を読んでいたかもしれないなどと思いながら読み進む。するととても暗い。ご自身は書店員とのことで文系の容姿をしていらしたのを写真で見た。小説の主人公は庭師のガテン系男だ。震災の後に奥さんを亡くし、再婚した奥さんは流産でその後逃げられる。独立した直後に車や道具を震災で失う。中学生の息子は反抗期なのかな、塩対応だ。気の毒すぎてつらい。もし自分がその立場だったらと思うと本当につらい。文章がとてもかっこいい。
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芥川賞受賞作品なので、きっと重い内容なのだろうとは思いながら手に取りました。東日本大震災の見えていなかった被災した方と家族、背景が事細かに書かれていて、坂井祐治の抱えている心の闇や、人生への諦めと、それでも生きていかなきゃならない辛さをひしひしと感じました。この天変地異によって、誰もが心まで参ってしまって、仕事まで奪われて、絶望しかない。読了したあと、暗い気持ちになりました。他人事とは思えませんでした。
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