七つの裏切り の商品レビュー
最初は削ぎ落とされた文体になかなか馴染めなかった。誰が悪役で誰が主役かも一読しただけではわからなかった。わからないなりにも、今まで読んだ作品には無いドライな雰囲気にはまってしまった。私的には「鳩の血」が好き。読み終えた後もモノクロの映像シーンが脳内で再生されている。
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ここでのハードボイルドは、無駄をそぎ落とした簡潔表現をスタッカートで叩きつける、ハメット流の文体のことらしい。舞台は禁酒法時代のアメリカで、正体はよく分からないが、堅気ではなさそうな主人公がギャングや犯罪者たちのもめ事に巻き込まれるというのが基本のプロット。お話のスタイルからして...
ここでのハードボイルドは、無駄をそぎ落とした簡潔表現をスタッカートで叩きつける、ハメット流の文体のことらしい。舞台は禁酒法時代のアメリカで、正体はよく分からないが、堅気ではなさそうな主人公がギャングや犯罪者たちのもめ事に巻き込まれるというのが基本のプロット。お話のスタイルからして、「非情な」結末を期待しがちだが、案外とハッピーエンドが多く、無駄な人死にもあまり出ない。肩透かしなどと言うのは筋違いで、こちらの思い込みの方がずれてるのだろう。なかなか愉しい。
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『ブラック・マスク』という雑誌が、今の時代に、日本にあったら楽しいだろうなあ、とは、ハードボイルド・ファンにとって人生を通して心に浮かんできてやまない一つの叶わぬ夢である。かのハメットが、このパルプ・マガジンを足掛かりにサム・スペイドというキャラクターを作り出したのは有名な話。...
『ブラック・マスク』という雑誌が、今の時代に、日本にあったら楽しいだろうなあ、とは、ハードボイルド・ファンにとって人生を通して心に浮かんできてやまない一つの叶わぬ夢である。かのハメットが、このパルプ・マガジンを足掛かりにサム・スペイドというキャラクターを作り出したのは有名な話。ハードボイルドの探偵役は、かくて汚れた街をゆく騎士と呼ばれるようになった。 歓ぶべきことに、その『ブラックマスク』を抜け出して現代に蘇らせる邦訳が、ここに登場。本書のポール・ケインは、その文体でも内容でも、史上最もハードボイルドな作家として名を馳せている方であるらしい。巻末の木村仁良さん(翻訳の木村二郎さんと同じ人、ミステリー評論家としてはこの名である)によると、名だたるハードボイルド作家たちが最もハードボイルドな作家としてケインを指し示すと言う。 なるほど、本書はそのケインの作品『裏切りの街』に続く希少な邦訳二作目の書となるらしい。『七つの裏切り』というタイトルも『裏切りの街』の邦題からの連想となる邦題なのか、翻訳者の思い入れが感じられる。 さて、本作、短編集ではあるものの、中身がぎっしり過ぎる印象に、まずはのっけから圧倒された。短いページの中に、癖も名前もある登場人物が数多く登場する上、ストーリーも二転三転する。なので、最初のわずか20ページ強の作品を読むのに、三度の読み直しをしてようやくこちら側の混乱が収まった次第。この本を読むのに一体どれだけ時間がかかるのかと思うと恐怖であったが、その後、慣れというのだろうか、ページ数も増えてゆくのにすべてが読みやすさへと変化してゆき、いつかしらフレンドリーな文体と感じられるようになってきた。後半の作品群は、むしろスピーディなくらいで、自分にも変わらぬ作風にも驚かされつつ、あっという間に一冊を楽しんでしまった。 それにしてもどの作品も、主人公のキャラが濃い。ハードボイルドに登場すべくして登場する者ばかり。殺し屋、ギャング、警察、新聞記者、金持ち、美女、悪女、詐欺師、弁護士、エトセトラ、エトセトラ。そのうえ、事件がスピーディで荒々しく、残酷で、なおかつ活劇が多い。どのセリフも胡散臭く、危険の匂いに満ち満ちている。 という具合だ。心休まる場所も時間も、どのページにも無いに等しい。なるほど、ケインが一番ハードボイルドな作家だ、とは、こういうことだったか、と納得。さらにプロットのひねりが効いている。まず予想通りに進むことはほとんどない。ツイストに継ぐツイスト。短編に使ってしまうにはもったいないほどのひねりの効いたプロット。さらに一度だけの登場ではもったいないくらいの癖が強く切れの良い主人公、魅力的な美女、底なしの悪党。 1920~30年代初頭の禁酒法時代の大都会が舞台。作品中で使われた武器の種類、放たれた銃弾の数、犯罪の種類と数、どれもそこらの長編小説を短編一作で軽く抜くくらいにトップクラスではないだろうか。こてこてのハードボイルド? そうも言えるが、むしろ現代風に、バイオレンス・アクションと言い換えてもいいかもしれない。 映画の脚本もやっていた作家とのことだが、登場人物たちのセリフがいかにもそれらしい。プロットの錯綜や読者を幻惑させるテクニックなども映画の世界で学んだことなのかもしれない。一世紀近い昔。暗黒街に燃え上がるクライムの数々。あらゆる意味で貴重だ。ハードボイルド・ファンを自称する者としては、まさに読まずに死ねないであろう一冊なのである。
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