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月人壮士 の商品レビュー

3.5

32件のお客様レビュー

  1. 5つ

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  2. 4つ

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  3. 3つ

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2023/01/31

題名を覚えずに「〇〇が出て来て、こうなってそうなるという、あの話し…」という程度に記憶に残りそうな気配が感じられる。故に敢えて題名を改めて記すが、『月人壮士』は「つきひとそうし」と読む。 本作題名の『月人壮士』なる表現自体は、「月を若い男に擬人化して言う」という古語らしい。が、「...

題名を覚えずに「〇〇が出て来て、こうなってそうなるという、あの話し…」という程度に記憶に残りそうな気配が感じられる。故に敢えて題名を改めて記すが、『月人壮士』は「つきひとそうし」と読む。 本作題名の『月人壮士』なる表現自体は、「月を若い男に擬人化して言う」という古語らしい。が、「擬人化された月」で本作は独特な概念を表現しようとしている。読み進めながらそれを解き明かすという感になるとも思う。 『龍華記』、『火定』、『若冲』、『落花』、他にも幾分読んでいるが、記憶に残る作品を送り出している澤田瞳子の作品である。大変に期待して本作に臨んだが、期待以上に興味深く、少し夢中になって素早く読了に至った。 本作では専ら「首(おびと)」という名で通っているが、その「首(おびと)」というのは聖武天皇(701-756)のことである。 「聖武天皇」と言えば「奈良の大仏の…」ということで少し広く知られていると思う。文武天皇(683-707)の皇子として生まれ、後継者となることが期待されていたが、父である文武天皇が24歳の若さで崩御してしまった時には7歳児であったことから「中継ぎ」の女帝が2人登場している。元明天皇(661-721)(本作では「阿閇(あへ)」。聖武天皇の祖母)と元正天皇(680-748)(本作では「氷高(ひだか)」。聖武天皇の伯母)とである。この2人の後、724年に至り、24歳で聖武天皇は即位した。749年に譲位して上皇となっている。後継者は娘の孝謙天皇(718-770)(本作では「阿倍内親王」から「阿倍」となっている)だ。 本作の序章で、上皇の首(おびと)は崩御してしまう。そして、遺された言葉、意図ということになる遺詔(いしょう)が問題になる。伝えられているのは、皇位に現在就いている阿倍の後継者たる皇太子に道祖王(ふなどおう)を立てるようにというモノである。 物語は崩御してしまった首(おびと)を巡って、9人の人物が語る10の篇で構成される。(1人は再登場が在る。) 基本的には、最初の篇に登場する橘諸兄が、中臣継麻呂と道鏡に「隠された遺詔が本当に無いのか探れ」と命ぜられ、方々の人達に話しを聴くという構成である。そしてこの聴取活動は少し長く時間も要していて、時間経過も重なる各篇を読む中で判る。 最初の篇に登場する橘諸兄は、上皇の崩御の少し後に病を得て薨去してしまう。中臣継麻呂はそうした状況で模様視を決め込んで聴取活動から少し離れるが、道鏡は執念深くそれを続けている。 或る人物に関して、更に当該人物の深い想いというようなことに関して、様々な関係性と距離感、各々の状況下で人物と接した人達の語る事柄を集めて詳しく掘り下げるというのが本作の手法だ。そうした手法で、聖武天皇の想いと聖武天皇の時代とを語ることを試みている。 首(おびと)(聖武天皇)は、父親と早くに死別し、病んでしまった母親とも離れて祖父(藤原不比等)の邸宅で育つというような生い立ちだ。幼少期から「天皇の後継」という運命を負っている。他方、天皇である男性と皇室縁者の女性との間に生まれた男性が天皇位を受継いで行くという、首(おびと)(聖武天皇)以前に永く続いた原則に沿って考えると、首(おびと)(聖武天皇)は「少し異質」である。と言うのも、父である文武天皇と、臣下で皇室縁者ではない藤原氏一族の女性、宮子との間に生まれている。この「母親が皇室縁者以外の一族の出である皇子が天皇に」というのは例が無かった。 首(おびと)(聖武天皇)の人生の様々な場面が、様々な関係性と距離感、各々の状況下で人物と接した人達によって語られる中、両親の縁薄い“不運”と言い得る生い立ちや、「自身の存在に感じ続けている“違和感”」というようなモノが際立ち、少し極端なまでに仏教に帰依するような姿の底流に在った何かが推察されて行く。 或いは「奈良時代」そのものが「文武天皇の皇子たる首(おびと)(聖武天皇)に天皇の位を後継させる」ということに焦点を当てて展開し、娘が後継者ということになり、その後は別な皇族縁者の系統から出た者が天皇となて、やがて遷都で段落してしまうという感じなのかもしれない。その「時代の鍵となっている人物」を深く掘り下げる本作は酷く興味深い。 極個人的には、本作に登場する奈良の各所を何度も訪ねてみた経過も在るので、本作の中で描写されている様子と、観た様子との双方が頭の中に浮かんで凄く愉しく読書の時間を過ごした。 なかなかに凝った造りの物語で面白いと思う。奈良時代の、聖武天皇の時代の様子がよく伝わる。そういう意味も込めて、広く御薦めしたい。

Posted byブクログ

2023/01/26

螺旋プロジェクトの古代を描く作品。 プロジェクトの設定でスパイスを効かせた歴史小説。 他作品が山と海の対立を分かりやすい形で示しているのに対して、本作は首個人の心のうちの葛藤として描かれている。 この手の作品は最終的に隠された真実が暴かれたときの衝撃で評価が決まると思うが、そのイ...

螺旋プロジェクトの古代を描く作品。 プロジェクトの設定でスパイスを効かせた歴史小説。 他作品が山と海の対立を分かりやすい形で示しているのに対して、本作は首個人の心のうちの葛藤として描かれている。 この手の作品は最終的に隠された真実が暴かれたときの衝撃で評価が決まると思うが、そのインパクトは少し弱かった。

Posted byブクログ

2023/02/07
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

螺旋プロジェクト第2弾。 この「月人荘士」も最初は苦戦しました。人名・地名と役職名が難しかった。ので、フリガナが書いてある所まで、何回も戻ってっていうのをやって。苦戦でした。 でも、この「月人荘士」の世界観になじめると案外読めるようになって。また、おもしろく感じれるようになりました。 主人公は首(おびと)天皇(聖武天皇)。ただ、物語はこの首が崩御されたところから始まります。この首のご遺詔を探し求め、その過程で主人公の首の人間像に迫る、っていう形で進んでいきます。インタビュー形式で物語が進んでいくんですが、新鮮な感じがしました。 螺旋プロジェクトのテーマには「超越的な存在」の出現がありますが、最初は山族たる皇族の血と海族たる藤原家の血を併せ持った首天皇がこの物語の「超越的な存在」かと思ったんですが、そうではなかった。 首は、全き天皇であろうとするのに、自分の中の藤原家の血を憎んでいる。ただ自分が天皇になれたのは藤原家の血があったからこそ、っていう葛藤とか、親族への愛憎などの矛盾を一人で抱え、苦悩していた。日本古来の日輪の裔である天皇でありながら、外国から渡来した仏教に傾倒していったのも矛盾に満ちていたんだと思う。 螺旋プロジェクトは海族と山族の対立が大きなテーマですが、この「月人荘士」は直接的な対立ではなく、首天皇の内なる海と山の対立が描かれていました。 このストーリーの「超越的な存在」は首天皇その人ではなく、佐伯今毛人(さえきのいまえみし)という、一介の地方官吏。ただこの佐伯今毛人は「ウナノハテノガタ」のウェレカセリと同じような身体的特徴を持っていました。 佐伯今毛人はすごいことをやってのけたのではないけど、東大寺周辺の自然のバランスを図らずともやっていたのがなるほど、と思いました。その近くに大日女(おおひるめ)という猟師の少女がいたのが印象的。大日女とは天照大神の別称なんだそう。「超越的な存在」と天照大神を並べて描くって巧いなぁと感心しました。ただ、ここに出てくる大日女と天照大神の関係はないはずなんですが、もしかしたら・・・?って思う何かを感じた気がしました。実際、この佐伯今毛人の章だけ、他の章と雰囲気が違っていたような。 この「月人荘士」も、最初は読み進めるのに苦労しましたが、「ウナノハテノガタ」同様、慣れれば割と読めるようになったし、世界観を楽しめるようになりました。 面白かったです。 螺旋プロジェクト、続けて読んでいきます。

Posted byブクログ

2023/01/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

螺旋プロジェクトだから、海族と山族の話ではあるんだけど…それを超えて「こういう思いを抱いた天皇もいたかもしれない」と、ある種の衝撃を受けた。歴史の教科書で学んだ藤原氏の天皇家へ娘を嫁がせるという事実が、こう…人間の話として迫ってきた。母が皇族ではないという事実に絶望する首の気持ち。自分はこれまでの天皇とは違う存在であるということを悲観しながら天皇であり続けるとは。 いやー、これなんか「面白い!」という感じでは無かったんだけど、じんわりと好き。

Posted byブクログ

2023/01/12

Amazonの紹介より 756年、東大寺大仏を建立した首(聖武)太上天皇が崩御。道祖王を皇太子にとの遺詔が残されるも、 その言に疑いを持つ者がいた。 中臣継麻呂と道鏡は、密かに亡き先帝の真意を探ることになるが、ゆかりの人々が語り出したのは、母君との尋常ならざる関係や隔たった夫婦の...

Amazonの紹介より 756年、東大寺大仏を建立した首(聖武)太上天皇が崩御。道祖王を皇太子にとの遺詔が残されるも、 その言に疑いを持つ者がいた。 中臣継麻呂と道鏡は、密かに亡き先帝の真意を探ることになるが、ゆかりの人々が語り出したのは、母君との尋常ならざる関係や隔たった夫婦のありよう、御仏への傾倒など、死してなお謎多きふるまいや孤独に沈む横顔ばかりで――。 国のおおもとを揺るがす天皇家と藤原家の相克を背景に、 聖武天皇の真実をあぶり出す! 「螺旋プロジェクト」の古代編。個人的に歴史小説が苦手なので、大丈夫かなと不安がありました。 歴史ならではの独特な言い回し、登場人物の多さになかなか物語の内容に一苦労しましたが、インタビュー形式で様々な人の証言から見えてくる天皇の心の葛藤・苦悩を垣間見ました。それだけでなく、他の人物の背景も切なかったです。 歴史小説✖️インタビュー形式という珍しい組み合わせでしたが、内容は暗めでも、独白シーンは感情豊かに表現されていたので、明るい雰囲気がありました。 ただし、登場人物が多く、何度も序盤に出てくる家系図を読み返していました。 様々な人が思う「天皇」像。最後になって、ようやく天皇のパートが登場するのですが、切ないの一言でした。天皇は天皇で、「宿命」を背負いながらも、奔走する姿は輝かしくもあり、心苦しくもありました。 それぞれが主張することは本当に本当なのか。徐々に見えてくる「天皇と藤原家との対立」。「螺旋プロジェクト」と絡めながら、他の作品とリンクする部分もあって、プロジェクトならではの面白みがありました。

Posted byブクログ

2023/01/09

聖武天皇はもともと理解しがたい人だと思っていましたが、やっぱり理解できない人でした。歴史ものとしては面白いけれど、螺旋プロジェクトで無理に海と山の対立を盛り込んだのが不自然な気もしました。普通に書かれた方が良かったかも。

Posted byブクログ

2023/01/09

プロジェクトの他の作品とはちょっと違った感じで、海族と山族も抽象的に例え話みたいな感じでしか出てこない。その分、対立する感じに無理矢理感がなくて良かったと思う。 奈良時代、聖武天皇と言われても、無学な自分にはちょっと難しく、新しい名前が出る度に調べて読んだ。 今更すごく勉強になっ...

プロジェクトの他の作品とはちょっと違った感じで、海族と山族も抽象的に例え話みたいな感じでしか出てこない。その分、対立する感じに無理矢理感がなくて良かったと思う。 奈良時代、聖武天皇と言われても、無学な自分にはちょっと難しく、新しい名前が出る度に調べて読んだ。 今更すごく勉強になった。

Posted byブクログ

2023/01/08

同プロジェクト他作品と違って「海族の人」と「山族の人」間の対立ではなく、その両方の血を引く聖武天皇の内面の葛藤を対立として描いているのが面白かった! 周囲の人々による首様(聖武天皇)語りを聞く形式で話が進んでいって、最後にやっと聖武天皇目線でその内心が少しだけ描かれるんだけど、...

同プロジェクト他作品と違って「海族の人」と「山族の人」間の対立ではなく、その両方の血を引く聖武天皇の内面の葛藤を対立として描いているのが面白かった! 周囲の人々による首様(聖武天皇)語りを聞く形式で話が進んでいって、最後にやっと聖武天皇目線でその内心が少しだけ描かれるんだけど、それがもうしんどくて…。 このプロジェクト、各作家さんが対立というものをどのように捉えてどのように描くのか、その違いがとっても面白いな〜。

Posted byブクログ

2022/12/31

螺旋プロジェクト 奈良時代編。 対立する天皇家と藤原家の両方を血を持つ聖武天皇が苦悩するお話。死後に周辺の人たちの回想によって、主人公を多面的な角度から描いていく手法を取っている(「阿寒に果つ」が同じ手法だったような)。 奈良・平安のドロドロとした争い。誣告、密告、呪い、毒殺、...

螺旋プロジェクト 奈良時代編。 対立する天皇家と藤原家の両方を血を持つ聖武天皇が苦悩するお話。死後に周辺の人たちの回想によって、主人公を多面的な角度から描いていく手法を取っている(「阿寒に果つ」が同じ手法だったような)。 奈良・平安のドロドロとした争い。誣告、密告、呪い、毒殺、放火…。高校生の時かな、古本屋で買った小松左京の「応天炎上」の3篇が面白く、以来なんども読んでる。その中で聖武帝が何度も遷都したのは地震のせいではないかという説があった。災害があると、権力基盤が揺らぐのはいつの時代も同じか。 古刹や大社に行った際には、昔の権力者たちが作った建築物や庭園(再建されたものが多いのだろうけど)に圧倒されつつ、この太い柱や大きな石はどうやって運ばれてきたのだろうとか、想像しながら見物することにしてる。いつも思うが権力の源って何なんだろう?

Posted byブクログ

2022/12/28

読了。海と山、自らに流れる血。 亡くなった人物に関する話を聞き集めて明らかになる人物像。 ストーリー、描かれ方、どれも素晴らしい作品だった。 螺旋プロジェクト、ひと通り読まなくてはならぬ! ※評価はすべて3にしています

Posted byブクログ