ここはとても速い川 の商品レビュー
作者は井戸川射子さん。1987年生まれ。詩集『する、されるユートピア』で中原中也賞、小説である本作で野間文芸新人賞、小説『この世の喜びよ』で芥川賞を受賞。 表題作『ここはとても速い川』は、児童養護施設で暮らす小学生・集(しゅう)が主人公。彼の周囲に存在する、施設や学校の友だち、...
作者は井戸川射子さん。1987年生まれ。詩集『する、されるユートピア』で中原中也賞、小説である本作で野間文芸新人賞、小説『この世の喜びよ』で芥川賞を受賞。 表題作『ここはとても速い川』は、児童養護施設で暮らす小学生・集(しゅう)が主人公。彼の周囲に存在する、施設や学校の友だち、先生、近所の大人らとの関わりや出来事が、彼の視点で描かれる。 本作ではとびきり大きな事件が展開することはない。でも、それがかえって登場人物たちの日常的な欲望、悲しみ、やるせなさを強く印象づけることになっている気がする。集が、施設の園長先生に思いの丈をぶつけ、でもうまく伝わらずに「集は優しいな」と頭を撫でられる場面が良かった。 また、本書に収録されている作品『膨脹』では、定住せずにいろんな場所を転々として暮らす「アドレスホッパー」の津高あいりの視点で、『ここはとても~』と同じく、やはり主人公の思考プロセスがダダ漏れするような感じで話が進んでいく。登場人物がみんな必死に生きている感じなのはどちらの作品にも共通しているが、『膨脹』はフェミニズム的視点がより強い印象で、大切な作品だと思った。 自分の頭の中をのぞいた時、私の思考はいつも複数のことを同時並行的に考えていると常々感じている。たった今、目の前で起っている事象について、仕事で次にやるべきことについて、社会問題や抽象的・哲学的問題について・・・など。それぞれ別チャンネルで、短い時間で次々に頭の中で切り替えながら、時には絡み合ってメタ的な新たな視点を思いついたりして。そういう思考の過程をぜんぶ言葉に起こしたような文章。私は本作を読んでいてそのように感じた。 とても特徴のある文体なので、スキマ時間で流し読みすることは難しかった。ある程度まとまった時間を取って、主人公の視点で、主人公の思考をそのまま受け取るつもりで読むことをおすすめする。
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読みにくい文章と言えばそうなる。描写や会話や独り言などが区別されずに書かれる。書かれる内容の展開も、気が散らかっているように、書かれている。意識が一処に留まらず浮ついているような印象も受ける。今の人たちが、どのように何を意識しているかを、意識が捉えたままに、羅列して、意識散漫にあ...
読みにくい文章と言えばそうなる。描写や会話や独り言などが区別されずに書かれる。書かれる内容の展開も、気が散らかっているように、書かれている。意識が一処に留まらず浮ついているような印象も受ける。今の人たちが、どのように何を意識しているかを、意識が捉えたままに、羅列して、意識散漫にありのままに描こうとしているのだなぁと思った。その人となりの意識に沿わせるようにして没入出来るかと言えば、自分は難しかった。
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2つの物語は繊細で、むなしさが残りました。 全てが報われるとは思っていませんし、自分の価値観を押し付けるのは違いますが、やっぱりどこかで報われていてほしいなと思いました。
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二作品収録の細くて薄いそれでいて濃いまるでカルピスの原液のような作品。 まずはじめに、ここはとても速い川ですが、これだけならよかった。少年期の目まぐるしいほど環境の移り変わりが速いなかで彼らはあまり変わることなく過ごしている感じが流されてくように感じて文学としての表現が素晴らしい...
二作品収録の細くて薄いそれでいて濃いまるでカルピスの原液のような作品。 まずはじめに、ここはとても速い川ですが、これだけならよかった。少年期の目まぐるしいほど環境の移り変わりが速いなかで彼らはあまり変わることなく過ごしている感じが流されてくように感じて文学としての表現が素晴らしいと思いました。その刹那さに心がグッときます。 ただ最後の膨張に関して言えばなんだかよくわからない、どう消化すればいいのか、あるいは噛み砕けばいいのか、終わり方もパッとしません。共感が持てないのも原因かもしれませんが、おそらく概念にない話なので僕は読んでも何も思いませんでした。ただよく書けている。と言った具合です。文学としては完成していると思います、ただ好きじゃない。それだけですので総合的に星3つです。
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No.5/2024 児童養護施設で暮らす集と仲良しのひじり 集がとらえる景色、感情、考えが語られていく 子ども時代への懐かしさを感じるとともに この子たちしかわからないやるせなさ、寂しさが あるのだなと切なくなりました 読み進める手は弾みませんが 読んでいてどこか心地よいと...
No.5/2024 児童養護施設で暮らす集と仲良しのひじり 集がとらえる景色、感情、考えが語られていく 子ども時代への懐かしさを感じるとともに この子たちしかわからないやるせなさ、寂しさが あるのだなと切なくなりました 読み進める手は弾みませんが 読んでいてどこか心地よいと感じる自分がいました
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もともと詩を書かれてた作者さんだからか、比喩表現が多く、癖のある独特な文体にはじめは苦労したがそのうち慣れる。 その比喩表現のところに話の核となる関係性の象徴など現れている感じなので結構かみくだいて読んだ。 淡々と思考が湧き出てはとめどなく流れるように綴られていく。初めは違和感あ...
もともと詩を書かれてた作者さんだからか、比喩表現が多く、癖のある独特な文体にはじめは苦労したがそのうち慣れる。 その比喩表現のところに話の核となる関係性の象徴など現れている感じなので結構かみくだいて読んだ。 淡々と思考が湧き出てはとめどなく流れるように綴られていく。初めは違和感あったけど、普段私たちもこうやって思考が流れ、湧き出てをくり返しているのだろう。 ストーリーも、文の感じもまさに表題のように流れの速い川のよう。また暫く時間を置いて、再読時は流されないようにじっくり読みたい。
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『とても速い川』と『膨張』の2つの話。 決して読みやすい文章ではない。がとても惹かれる。 主人公は養護施設の少年。感動的なことは何も起こらない展開に心が揺れた。
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詩人の書く小説らしく、表現が詩的で描写力が素晴らしい。 井戸川射子さんの小説は、「詩人出身の感じ」が読みにくいという意見を見たことがあるけど、個人的にはこういう、趣向を凝らした美しい描写は好きなので楽しく読めた。 表題作ももう一作も、人生の一場面を切り取ったような小説だった。良か...
詩人の書く小説らしく、表現が詩的で描写力が素晴らしい。 井戸川射子さんの小説は、「詩人出身の感じ」が読みにくいという意見を見たことがあるけど、個人的にはこういう、趣向を凝らした美しい描写は好きなので楽しく読めた。 表題作ももう一作も、人生の一場面を切り取ったような小説だった。良かったです。
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これはすごい。 井戸川射子、詩人の姿を見た。 表題作「ここはとても速い川」は、集の発する言葉から彼の生命力と危うさと素朴さに満ちた目つきを想像させられる。嘘なんて存在しない集の世界に入り込むと、気づいたら泣き出しそうになっている 「膨張」は、ラストにかけてが物凄く良い。 速度...
これはすごい。 井戸川射子、詩人の姿を見た。 表題作「ここはとても速い川」は、集の発する言葉から彼の生命力と危うさと素朴さに満ちた目つきを想像させられる。嘘なんて存在しない集の世界に入り込むと、気づいたら泣き出しそうになっている 「膨張」は、ラストにかけてが物凄く良い。 速度のある文章から吹き付けられる風。
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児童養護施設に暮らす小学5年生の集(しゅう)。園での年下の親友・ひじりとの楽しみは、近くの淀川にいる亀たちを見に行くことだった。 ▽感想 子どものような日記で、何となく句読点や文章が幼く感じる。子ども目線で物事がかかれており、慣れるまで読みにくさが多少あった。 話の道すじもま...
児童養護施設に暮らす小学5年生の集(しゅう)。園での年下の親友・ひじりとの楽しみは、近くの淀川にいる亀たちを見に行くことだった。 ▽感想 子どものような日記で、何となく句読点や文章が幼く感じる。子ども目線で物事がかかれており、慣れるまで読みにくさが多少あった。 話の道すじもまっすぐではなく、あっちにいったり、こっちにいったり。 モツモツと集とひじりで紫色の花の世話をしたり、養護施設の中の様子を話す様子も全部、愛しい子どもたちの目線だった。 子どもならではの狭くて、だけどいろんなところを見てる独特な視点をよくここまで書き込んだなと思った。
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