清浄島 の商品レビュー
エキノコックス症殲滅に向けた闘い
本書は、北海道礼文島の風土病と恐れられた「エキノコックス症」の解明のため、昭和29年道立衛生研究所から同島に派遣された動物研究者である主人公が、島民との軋轢や葛藤、懊悩を乗り越えながら島の支援者とともに奮闘する姿を描いた、史実を基にした長編フィクションである。重厚で地味なテーマな...
本書は、北海道礼文島の風土病と恐れられた「エキノコックス症」の解明のため、昭和29年道立衛生研究所から同島に派遣された動物研究者である主人公が、島民との軋轢や葛藤、懊悩を乗り越えながら島の支援者とともに奮闘する姿を描いた、史実を基にした長編フィクションである。重厚で地味なテーマながら、主人公をはじめとして魅力ある個性的な登場人物を配しながら物語を緩急自在に展開し、読み手をその世界に引き込んでいく著者の筆力は見事で読みごたえがある。そんな物語の中から、エキノコックス症殲滅に向けた闘いには、今や陰に隠れて忘れられてしまいがちな多くの先達の地道な努力と苦渋の決断や、幅広い住民の理解と献身的な協力の歴史があったこと、そして現在も感染症拡大の防止に向けた弛まぬ歴史が刻まれている厳粛な事実を教えられる。
fugyogyo
エキノコックス症と闘う研究者の話。 北海道の礼文島で流行するエキノコックス症の拡大を防止するため、苦渋の決断を迫られる。 史実を基にしたフィクションで、今のところ今年のベスト小説かも。
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重い話でなかなか読み進められず… 礼文島、道東に行ったときのことを思い出しながら少しずつ読み進め、 約1年かけて読み終わった…。 ちょうど先日NHKの北海道道で礼文島のトド撃ち猟師が、昔エキノコックスの際に繋いだ犬を撃ったら大層苦しませてしまい、それ以来、獲物が苦しまないように一発で仕留めているというドキュメンタリーが放送されて、島民の苦しみや歴史の生々しさを感じた。 木の実をつまんで食べることができないとか、本州では聴いたことなかったので…登山のときキイチゴとかそのまま食べていた。札幌に親が遊びに来て、そのへんにはえてたグミの実を取って食べていて、ダメ❗️といったらポカンとしていたので観光客は結構やってる人多いと思うんだよな。 札幌でもキツネウロウロしてる北大とか近くの公園で小さな子ども遊ばせていたりするし…。ほほえましくもヒヤヒヤする。札幌のキツネは大丈夫なのかな⁉️ エキノコックスが愛知で発見された報にはショックだった。 礼文島の過去を知る人はどう思っただろう。 タイトルに皮肉な意味なのかなと思っていたけれど、そのままの意味でよかった。 また行こう礼文島。
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大正末期、ネズミ被害に頭を悩ませる人間が 天敵であるキツネを礼文島の野に放った。 P258 〈良いことだと思ってやったことが 後の世で悪いことを引き起こしちまう〉 寄生虫による感染は、どのように起こったのか。 昭和29年、解明するため島へ派遣されたのは道立衛生研究所の土橋。 研究を進める間に下されたのは 終宿主となる可能性のある動物、キツネ、イヌ、ネコを全て処分すること。 島民、土橋にとって過酷という他ない決断だった。 エキノコックス撲滅のためとはいえ 飼っているイヌ、ネコを供出し処分させるなんて。 河﨑さんが描くのは今回も命について。 驚いたのが、P387 おわりに書かれていること。 キツネの感染率が増加を続け新規患者も報告されているという。 まだ終わっていないのだ。
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大正末期、増えすぎたネズミの対策で千島から天敵たるキツネを礼文島に放つ。 戦後、腹が膨れる奇病が礼文島にだけ発生。 エキノコックス症という寄生虫由来の病気。 道立衛生研究所の土橋は単身、調査に礼文島に行く。 実話がベースの小説。 寄生する宿主(動物)を絶てば根絶できるので...
大正末期、増えすぎたネズミの対策で千島から天敵たるキツネを礼文島に放つ。 戦後、腹が膨れる奇病が礼文島にだけ発生。 エキノコックス症という寄生虫由来の病気。 道立衛生研究所の土橋は単身、調査に礼文島に行く。 実話がベースの小説。 寄生する宿主(動物)を絶てば根絶できるので、礼文島内の終宿主をすべて解剖し感染状況を調査することになる。 終宿主とはキツネ、ネコ、イヌ。 当然、飼いネコ、飼いイヌも含まれる。 次郎の飼いイヌ「トモ」の部分は落涙必須。
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道立研究所に所属する研究者としての職責と向き合う土橋さんの姿に、今、モヤモヤしている私のパートのお仕事の悩みなど一掃されました。人間の命、愛玩動物の命、野生動物の命、寄生虫の命… 比べることなど意味はなく、ただ、自分のできる最大限を尽くすことしかないのですね。
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礼文島、増えたネズミ対策に導入されたキツネによるエキノコックス症を無くすために闘う人々の姿。犠牲を強いられる島の人々、犬や猫を殺される場面では言葉もない。ちっぽけな条虫との闘いは北海道から本州まで広がる被害の中でまだまだ続くようだ。
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寄生虫感染症なのに礼文島の風土病とも言われた「エキノコックス症」に対する公衆衛生学者と町議、役場職員の闘いを描いた作品です。 河崎秋子さん。私はこれまで「次から次に強い文章でたたみ込んで来ます。」「なにせ河崎さんの作品は構えてしまいます。重くて暗い。」などという感想を書いてきまし...
寄生虫感染症なのに礼文島の風土病とも言われた「エキノコックス症」に対する公衆衛生学者と町議、役場職員の闘いを描いた作品です。 河崎秋子さん。私はこれまで「次から次に強い文章でたたみ込んで来ます。」「なにせ河崎さんの作品は構えてしまいます。重くて暗い。」などという感想を書いてきましたが、今回はかなり印象が違います。柔らかくなった。良い意味で力が抜けてきた感じがします。 まだ正体も定かでないエキノコックス症に誠実に立ち向かった人々、主人公の若手研究員・土橋、役場職員の山田、村議の大久保、土橋の上司・小山内、そして学生の沢渡。それぞれ見事な造形です。みんな柔らかく影を引きずっていて、その分深みがあります。 島から寄生虫を駆逐するための苦渋の決断。島民からの反発。きれい事で済まない寄生虫との長い戦いと苦みを伴った成功。そういった心境が上手く描かれています。 ああ、良かったねで終わらないところが河崎さんらしさかもしれません。
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・エキノコックス症 潜伏期間が長く、寄生虫の卵が体内に入って10年以上経ってから発症し、ようやく自覚する場合が多い。ひとたび発症すればそこからの進行は速く、肝臓肥大、肝硬変、それに伴う皮膚の黄疸などが見られるようになる。妊婦のように腹が膨れる。 孵化した幼虫が寄生...
・エキノコックス症 潜伏期間が長く、寄生虫の卵が体内に入って10年以上経ってから発症し、ようやく自覚する場合が多い。ひとたび発症すればそこからの進行は速く、肝臓肥大、肝硬変、それに伴う皮膚の黄疸などが見られるようになる。妊婦のように腹が膨れる。 孵化した幼虫が寄生する場所は肝臓が多いが、筋肉や脳に寄生することもあり、特に脳の場合は激烈な痙攣発作が起きた例もある。 ・中間宿主 ネズミ ・終宿主 キツネ、イヌ、(ネコ) 終宿主の糞便に汚染された野草、水などにより人間が感染する。ヒト同士では感染しない。
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北海道に生まれ育った人間はエキノコックスの恐ろしさは子供の頃から何度も言い聞かされてきました。でも最初は礼文島だったなんて、ここ数年で知りました。そのことについて書かれた小説ということで興味を持って読みましたが、ノンフィクションのような作品で読み応えがありました。 礼文島は本当に...
北海道に生まれ育った人間はエキノコックスの恐ろしさは子供の頃から何度も言い聞かされてきました。でも最初は礼文島だったなんて、ここ数年で知りました。そのことについて書かれた小説ということで興味を持って読みましたが、ノンフィクションのような作品で読み応えがありました。 礼文島は本当に美しい島で、キツネもクマもヘビもいないから安心してハイキングができます。こんなに辛い歴史を乗り越えて今があることを、もっともっと皆に知ってほしいです。
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