野原 の商品レビュー
お盆休みに麦茶を片手に扇風機を浴びている。 まだ元気だった頃の祖母が母と会話をしている。 向かいの家の息子さんも亡くなったげな。そうね。しばらく見らんかったとおもっとったら… ぼんやり聞くともなく、知らない誰や彼やの噂話にぼうっと耳を傾けていると、いつの時代の話なのか、まだ生きて...
お盆休みに麦茶を片手に扇風機を浴びている。 まだ元気だった頃の祖母が母と会話をしている。 向かいの家の息子さんも亡くなったげな。そうね。しばらく見らんかったとおもっとったら… ぼんやり聞くともなく、知らない誰や彼やの噂話にぼうっと耳を傾けていると、いつの時代の話なのか、まだ生きている親戚のことなのか分からなくなってくる… なんだか、そんなイメージで読み進める。 “生者が死について考える。死者が生について語る。いったいどういうことだ? 一方にはもう一方のことなんか、全然わかっちゃいないのに。 推測はある。記憶もある。どちらも間違いかも知れない。” まさに死者には生きた記憶はある。だが、死んだからといって、急に全知全能になるわけも聖人君子になるわけもない。 墓場まで持って行くと決めていた話を、ここぞとばかりに語るもの。一生のうちで忘れがたい思い出や出会いを語るもの。 死者にとっても、生きていた時の思い込みや疑問は解けないままに、誤解や美化や自己弁護も混じりつつ己の生を語る。 それがおもしろい。 小さな町のこと、顔見知りや共通の出来事も多くでてくる。おかげで町の様子や歴史が浮かんでくるが、そこに隠された意図や主眼がが置かれているわけではない。 何度も名前が取り上げられる、いわくありげなひとりが語るのは、なんてことのない平凡な日の午後だったりする。 でもそれは、本人にとっては、人生で一番幸せな日だ。 人のことなんてわからない。ねぇ、そんなもんだろう? 死者たちで不思議なのは、誰も無念や怨みを語らないこと。 それは残りの人生が続いてゆく、生者にこそ特有な感情なのかも知れない。 夏の午後にぽっかりと存在感のある雲が湧き、そして流れて消えてゆくのを、ただ眺めている。 そんな読書だった。
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死者の視線や思考、人生を振り返る時の切り取り方…個々人それぞれの物語がまざまざと鮮やかにみえてくる。その時の空気感や色彩豊かな風景も、描写が繊細。始めのハナの語りは特に、セピアの情景に一気に引き込まれた。ぽつぽつと語られるのを聴き、まどろみながら読了。
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個人のとるに足らない出来事でも、うねりとなって歴史ができる、社会を作り上げてる一員。 最後も設定を思い出しておお!と余韻に浸った。
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「キオスク」の人だった。その本が初読みだったが、「こういうセンスと雰囲気を待ってたのよ!」と感じた記憶が。本作は霊魂?がかつて自分の生きていた人生の思い出をしみじみとつぶやく感じ。そんなんオモロくなる訳無いヤーン!しかしこの人もジムトンプソン流派の人でスタイリッシュでありつつ、読...
「キオスク」の人だった。その本が初読みだったが、「こういうセンスと雰囲気を待ってたのよ!」と感じた記憶が。本作は霊魂?がかつて自分の生きていた人生の思い出をしみじみとつぶやく感じ。そんなんオモロくなる訳無いヤーン!しかしこの人もジムトンプソン流派の人でスタイリッシュでありつつ、読者は読みたい感じを把握してくれてるので、心穏やかに読める。永らく俳優をやっていたらしく、感情の機微の表現が細やかで、脳筋の人達とは仲良く出来なそう。繊細=ワガママ不機嫌天邪鬼。REMの曲の雰囲気。
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オーストリアのとある町にある「野原」という墓地 そこに埋葬された29人の死者たちのつぶやき 無名でありふれており、取るに足らないような死者たちの人生 事実、読み終わったあと、死者たちの名前は覚えていない。 しかしその語りが重なり合い響き合って、後半大きな流れになってゆくところは...
オーストリアのとある町にある「野原」という墓地 そこに埋葬された29人の死者たちのつぶやき 無名でありふれており、取るに足らないような死者たちの人生 事実、読み終わったあと、死者たちの名前は覚えていない。 しかしその語りが重なり合い響き合って、後半大きな流れになってゆくところは見事というしかない。 淡々とした描写が織りなす静かな物語。
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発想は興味深くて良書な雰囲気を醸し出していたのですが、読んでいる途中、普段ないことなんですが、何度も寝かけてしまいました…。 途中で読み方を間違えたと感じました。普通の小説のようにではなく、散文詩を読むようにゆっくりと、そして、ストーリーを追ってはダメだと気づきました。読み方を間...
発想は興味深くて良書な雰囲気を醸し出していたのですが、読んでいる途中、普段ないことなんですが、何度も寝かけてしまいました…。 途中で読み方を間違えたと感じました。普通の小説のようにではなく、散文詩を読むようにゆっくりと、そして、ストーリーを追ってはダメだと気づきました。読み方を間違えると、恐ろしくつまらない。時間を置いてゼロから読み直せばいいのだろうけど、そこまでしたい一冊ではなかった。もったいないことをしました。これから読む方は是非気をつけて欲しい。 クレストブックの本は興味を惹かれてたまに手に取ると、ほぼ毎回、何だか合わずに苦痛なまま何とか読み終わるということになってしまう… 今回のように、読み方を間違っているのかもしれない。 時々、登場人物を振り返りたくなるので、目次はつけて欲しかったなと思いました。
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オーストリアの小さな町の「野原」と呼ばれる墓地。 白樺の木の下にあるベンチで、ひとりの老人が静かに死者たちの声に耳を傾ける。 ここに描かれていているのは、29人の死者たちの声。 なんとも変わった物語。 それぞれが自分の人生の断片を語っていく。 長い物語として語る者もいれば、ほ...
オーストリアの小さな町の「野原」と呼ばれる墓地。 白樺の木の下にあるベンチで、ひとりの老人が静かに死者たちの声に耳を傾ける。 ここに描かれていているのは、29人の死者たちの声。 なんとも変わった物語。 それぞれが自分の人生の断片を語っていく。 長い物語として語る者もいれば、ほんの一言の者もいる。 そしてそれは、特別に面白みのある話でもなく、素晴らしい人生と言うわけでもない。 なのになぜか読むのをやめられない。 それぞれの話は全く違う人生なのだが、みんなの話に共通する店が登場したり、時々人生が交差したり。 読んでいると、町の輪郭が見えてくるのが面白い。 生きるということは、みんなそれぞれ自分が主役なんだなあ、と改めて気付く。 他人にとって、それはつまらない人生に見えるかもしれないけれど、つまらない人生など存在しないのだ。
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マルタとローベルト・アヴニュー そよ風吹く静かな野原で立ち上がる哀しい夫婦の独白 まだ更に27人の人生。
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オーストリアのパウルシュタットの野原という墓所で死者の声に耳を傾ける男。表紙の絵さながらの牧歌的な雰囲気が醸し出す世界に29人の死者の呟き。それぞれの人生が響きあってパウルシュタットで繰り広げられたささやかで重みのある音楽を奏でている。みんなすべてが愛おしい。
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いい本に出合えた。元俳優という異色の経歴、が数々の賞候補にノミネートされた熟達な文を綴る才能が光る。 感動という内容ではないが、ひたひたと寄せる波打ち際を見つめる想いが続いた。 決して一気読みするのではなく、数頁ずつ合間合間に読み、文を咀嚼する読み方がいいと感じた。 生きていれ...
いい本に出合えた。元俳優という異色の経歴、が数々の賞候補にノミネートされた熟達な文を綴る才能が光る。 感動という内容ではないが、ひたひたと寄せる波打ち際を見つめる想いが続いた。 決して一気読みするのではなく、数頁ずつ合間合間に読み、文を咀嚼する読み方がいいと感じた。 生きていればこそ続く、悲喜こもごも、恨み、嫉妬、狂気、争い、悲哀、落胆等々ひっくるめ、死は全てのモノを払拭し払い去る。 29人の死者と生者がかたりあうという不可思議な世界だが超常とは思えない当たり前の感覚すら受けるシーン。 どれも捨てがたいが・・105歳で死去したアニーの賞で語られる言葉が身に染みた~ 「彼に君の美しさは僕だけのモノといわれたが⇒そんなのいや、出て行ってと⇒悲嘆し銃で自らの頭を打った彼は視神経だけの損傷で助かる⇒盲目になった彼は病院の看護師は夢中に⇒4人の子を授かり、その一人に手を引かれ街を散歩⇒いつも顔は空を見上げ、微笑んでいた⇒アニー曰く、彼こそ幸せ。最初私は人間だった、今世界だ✨
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