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いきている山 の商品レビュー

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7件のお客様レビュー

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2024/07/16

20世紀初頭、スコットランドのケアンゴーム山郡にくり返し登り、ヘザーの茂るプラトー(高原)を散策し、天候や四季ごとの色彩や樹々が放つ芳香に魅せられ、野生動物たちと山の同一性を見つめる。「フェイ」の感覚に取り憑かれ、〈山の内側〉へ迫ろうとした作家によるネイチャーライティング。 ...

20世紀初頭、スコットランドのケアンゴーム山郡にくり返し登り、ヘザーの茂るプラトー(高原)を散策し、天候や四季ごとの色彩や樹々が放つ芳香に魅せられ、野生動物たちと山の同一性を見つめる。「フェイ」の感覚に取り憑かれ、〈山の内側〉へ迫ろうとした作家によるネイチャーライティング。 山にも自然にも大した興味はないけれど、ネイチャーライティングを読むのが好きだ。それは自然を愛する人たちの感覚を通して抽出される言葉の世界が、私にとって一種の幻想世界に感じられるからだと思う。 霧と雲が見せる恐ろしい白の闇。セントジョンズワートの茎が水のなかで灯す光。葉が落ちると紫に輝きだすカバの木。「燃えかす色の雲」、「見るものすべてがウイスキーの黄金色に輝く日」……。「私たちが色を見ているのではなく、まるで色がその実体の内部に私たちを取り込んでいるかのよう」という秀逸な表現そのまま、読者は山の色彩に引き込まれていく。ジュニパーやカバの木が放つ香りを綴った文章は、上質な酒のように味覚と嗅覚を刺激する。「鳥、哺乳動物、爬虫類——そのすべての要素が鹿には入っている」という動的な形態の捉え方も、山で対峙した人の目だと思った。 本書が素晴らしいのは、透明度の高い湖を素裸で泳ぐときに感じる畏怖の感情や、ヘザーの季節に体が花粉まみれになっていく感覚などの体感がぞわぞわするほど伝わってくるのに、筆致がどこまでも理知的なことだ。山と生き物たちが見せるマジカルな瞬間に何度も立ち合い、山と同化するかのような「フェイ」の感覚について語りながらも、シェパードの語りはスピリチュアルに転んでいくことがない。それがまた彼女自身「プラトー」であるかのようなのだ。 シェパードがこの原稿を書いた1930年代、独身の女性が野外で寝たり、全裸で泳いだりした経験を書くのはどんな意味を持っていたのか。原稿が出版社から突っぱねられたのはそうした世間の目とも無関係ではなかっただろう。そんな偏見との闘いは存在しないかのように、シェパードは山との交感を不純物なしで描きだすことを選んだ。 肉体的な感覚を通じて山と触れ合う喜びが伝わってくる文章を、つい「官能的」と表現したくなってしまう。だが、その裏には"本来女性が公に語るべきではないことが語られている"というニュアンスが含まれているのではないか。しかし、男性が躊躇もなくシャツを脱いで水浴びをするように、シェパードにとっても身体感覚を通して語ることは当然のことだったのだと思う。前近代なら彼女のような人が魔女と呼ばれたのかもしれない。

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2024/04/21

スコットランド湖水地方の登山 淡々とした文章 風景の透明さ(自分の思い込み?)が筆致に表れていると感じられる

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2024/01/12

知らない固有名詞が多くて読みにくさは感じたけれど、過酷な環境で生きる木や草花、動物への敬意と親しみや、壮大な自然への愛と憧憬があふれた、詩的で哲学的で美しい文章だなと思った。

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2024/01/01

今年最後に素晴らしい本に出会ってしまった。 同じハイカーとして五感を研ぎ澄ました作者の感覚は地名がピンと来なくて「わかるわかる」程度だったが、ロバート•マクファーレンの序文をはじめ訳者のあとがきなど巻末まで色々な角度でこの小説を至玉のモノに仕上げる。

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2023/01/03

スコットランド、ケアンゴーム山群へのさながらラブレター。 ケアンゴームズ国立公園の画像調べちゃうよね。 いやあ美しい。

Posted byブクログ

2022/11/23
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※このレビューにはネタバレを含みます

素晴らしい。ナン・シェパードが日本語に翻訳されるのは初めてだそうである。このような本が訳出されるのは誠に喜ばしい。 彼女の山は、高さや早さや、「初」かどうかや未踏ルートなどを競うものではなく、「山に在る」こと。山に在ることで、自分自身の中に在ること。私はほぼ毎日のように近所の里山を約1時間歩くけれども(もちろん彼女と比ぶべくもないが、比べるということ自体が既に意味がない)、野に身を置くことは標高や距離ではないものがあるなと感じる。 よかった。

Posted byブクログ

2022/11/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ものすごく好きな本だ。年一レベルで良かった。序文(後ろの方に収録されている。これもまた素晴らしい文だった)によると、「フィールドノートと回想録、博物誌と哲学的瞑想が混じり合ったものとでもいうべきか」「山岳文学作品」らしいが、確かにどんな本、と言われても説明に困るかも。著者がスコットランドのケアンゴーム山群について語る本なんだけど、著者のナン・シェパードにとって山に入ることは同時に自分自身へ入っていくことを意味しており、内省的な話も不可分に語られる。彼女の山との交流は山頂を目指すのではなくただ一緒にいるために、目的なくぶらぶらするように歩くことで深化する「愛の交わし合い」で、あくまで双方向に深く関わっていくものなのだ。 第二次世界大戦中に書かれた本なのだが、そのみずみずしい感性と知性が今でも全く古びていないことに驚く。アウグスティヌスの「告白」の解説で読んだ、その時代その場を生き抜いたものこそが普遍性を持つ、というのは正しかったんだと思い知らされる気がした。序文でも「平凡」なものを「普遍的」なものへと輝かせることをシェパードは成し遂げたと書いてあって、やはりそうかと思う。 シェパードが「愛の交わし合い」として描く山の描写はどれも精緻で美しく、霧に浮かぶ壮大な山の風景、雲の上を歩く、限りなく透明な水、湖、繊細な模様を描く氷、過酷な環境を生き抜く草花、鳥たちやシカ、ユキウサギなど、読んでいてうっとりしてしまう。 特に色は美しい。さまざまな青、紫の山、緑の空、ピンクの花、黒い湖、赤い土など、どんな色だろうと想像してわくわくするし、「私たちが色を見ているのではなく、まるで色がその実体の内部に私たちを取り込んでいるかのよう」とシェパードが書く圧倒的な力を感じられる。さらに五感はフルに稼働して、はだしで歩く山や冷たい川の水、ウイスキーのような芳香を放つ枝の触感を思い描き、動物や植物の命のにおいをかぎ、雨や流れる水、鳥の飛び立つ音が聞こえるような気がして息をのむ、そういうすべてに満たされていく。嬉しい。 山では身体が思考する「感覚の生」を生きられるのかもしれないと著者は言う。 「これ以上なく研ぎ澄まされた知覚の域へと高められたそれぞれの感覚は、それ自体で完全な経験となる。これが、私たちの失ってしまった無垢。一つの感覚に没入し、ある一瞬を永遠に生きるという無垢。」 永遠に生きるということに、時間はいらないし、無限の知識も経験もいらない。一瞬が研ぎ澄まされればそれで成し遂げられるのだ。もちろんそれは完成するものではない(愛の交わし合いは深まりゆき、終わりがない)。 本当に美しい、何度も読みたくなる本だ。一回読み終わってもう一度読んだのだが、たぶん今後また何度も読んで、そのたびに何かをあたらしく感じるだろうと思う。楽しみ。

Posted byブクログ