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その昔、N市では の商品レビュー

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23件のお客様レビュー

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2024/06/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ミステリというよりは、文学的な作品を集めた短編集だということは何となく認識していたが、何の気なしに図書館の棚から借りて読み始めた。 まず最初の一編「白熊」を読んで思った。 まるでシーラッハのようだ。 と思ったらシーラッハの訳者酒寄さんの肝入りで編んだ傑作選とのこと。 一編目を読んだ後に解説とかあるかなぁと、裏からめくっていったら、ちょうど訳者あとがきがあり、そのことを知った。 なるほど興味深い。 これは先に読んだ方が作品をより深く味わえる方のあとがき。 極限とも思える程に研ぎ澄まされた文体が魅力のシーラッハに比し、あそこまでではないものの物語の唐突さと幻想性、不穏さを10ページ強にぎゅーっと詰め込んだのが特徴的な短編がずらり15編並ぶ。 既に邦訳されている8作品を含むが、酒寄さんいわく、「個々の作品を重ね合わせることでイメージを増幅させたり、それまでとは異なるイメージを醸成する」のが短編集を編む醍醐味とのこと。 著者カシュニッツの96作品のうち、この15作品、この順番で形作ろうとした世界観を堪能。 「幽霊」から「六月半ばの真昼どき」へとの繋がりは、まったく別の物語の中の共通するイメージの重なりが面白い。 後半に置かれた表題作「その昔、N市では」は比較的わかりやすいディストピアSFもの。 なんてことないといえば、なんてことのない筋書きだし、これだけを読むとふーんのような気がするのだが、全体の雰囲気中で読むこの物語の設定の妙と結末の皮肉が際立つ。 正直、何を読んだのかよくわからないような作品もあるのだが、その醸し出す雰囲気、言葉にしきれない情動をもたらされる感覚が癖になる。 第2弾、『ある晴れたXデイに』も読んでみようかな。

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2024/06/19

ひとつひとつが、なんかこう、独特の雰囲気を纏っていて、不思議な気持ちで読み進めた。 こういうのを文学というのだろうか。ひとつひとつに、物語の行き着く先(オチ、みたいなもの)があるわけではなく、だからこそ、少し名残惜しい、喪失感みたいなものを感じた。

Posted byブクログ

2024/05/13

序盤のいくつかの作品がシュールさしか感じられず読み切れるか不安になったけど中盤以降から面白い作品が出てきたので諦めずに読んだほうがいいかもしれない。同時期にシャーリイ・ジャクスンの短編集も読んでいたが個人的にはこちらのほうが好き。

Posted byブクログ

2024/04/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

戦後ドイツの作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの日本オリジナル短編集。 一編一編が高級チョコのように味わえる作品集。幻想的でありつつも、どこか人間の普遍的な不安感が漂う。その暗い感じがクセになる作家。 以下、作品毎の感想。 ◯白熊 ★おすすめ 帰ってきたのに何故か電気を付けたがらない夫と妻の会話。出会った動物園で、妻は本当は誰を待っていたのか。会話しているのは本当に夫なのか。不安がピークになるころ意外な展開に。 ◯ジェニファーの夢 夢を見たという娘のジェニファー。日を追うごとに夢が日常を侵食しているようで、得体の知れない娘への不気味さが描かれた作品。 ◯精霊トゥンシュ ★おすすめ 大学から派遣された番人と現地民たち。相容れないためか、現地民たちは番人に作ってはいけない人形を作らせる。やがて番人は無惨な死体となって発見される。ミステリタッチの作品。 ◯船の話 ★おすすめ 予定した船に乗れなかった妹からの頼りが来る。妹が乗った船はなんだったのか。じわじわと恐ろしい作品。 ◯ロック鳥 自分にしか見えない鳥。鳥とはなんだったのか。 ◯幽霊 ゴシックなゴーストストーリー。非常にテンプレートな話。 ◯ 六月半ばの真昼時 ★おすすめ カシュニッツ夫人が旅先から帰ると、アパート中に夫人が死んだと触れ回っていた女がいたことを知る。カシュニッツ夫人には娘がいたことを知るとすぐに立ち去ったようだが。。。 これもよくよく考えると非常に不穏な作品。 ◯ルピナス 姉を置いて列車から脱出した妹。姉の夫と暮らすが思い描いた風にはならず。。。可哀想な小話。 ◯長い影 バカンスに来た思春期の女の子のひねくれた気持ちを描いた作品。家族と一緒にいるのが嫌、自分だけの世界を思い描くが、ふとしたことから不安に囚われる。 ◯長距離電話 ★おすすめ 電話での会話だけで構成される作品。身分違いの恋人たちを別れさせようと家族たちが頑張るが。。。意外な結末。 ◯その昔、N市では 表題作。タイトルからは意外だったが、ゾンビのような、フランケンシュタインのような、死者をリサイクルして使用人とした近未来を舞台とした作品。結構絶望的な話。 ◯四月 ★おすすめ 決して美しいとは言えない女性の机の上に置かれた花束。同僚たちは、支配人からあなたへの贈り物だと言うが。。。 意外な着地点で、幻想味が強い作品。 ◯見知らぬ土地 知らないと言うことがいかに人を不安にさせるか、いかに少しの衝撃で壊れてしまうかを描いた作品。 ◯いいですよ、わたしの天使 ★おすすめ 部屋を借りた娘に、ゆっくりじわじわと家や人生を乗っ取られる話。それでも娘のことを許せるお婆さんが切ない。 ◯人間という謎 バスで隣り合った女性から、女性自身の妄想を聞かされる話。霧に囲まれるようなぼんやりとした読み心地の作品。

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2024/02/17

15編の短編集。 「長距離電話」は電話の会話だけが延々と続く。 家族の会話が予期せぬ方向へ進む。 表題作「その昔、N市では」が秀逸。 遺稿で70年代以前の作品だがAIが活躍する近未来のような感覚になる。 驚く。

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2024/02/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

これはいい。一話一話は簡潔だけれど、人物描写・ストーリー展開・オチが巧みで、いい感じに後味の悪くてサバサバしている。日常的幻想プチイヤミスって感じか。 ■白熊 夫が夜中に電気をつけないワケ ■ジェニファーの夢 娘が見る奇妙な夢と奇行 ■船の話 間違った船に乗ってしまった娘の末路 ■ロック鳥 自宅にデカい鳥がいたら ■その昔、N市では 灰色人間とディストピア

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2023/10/25

初めての海外文学。 馴染みのない文化の上に成り立つお話はとても新鮮。難しい話もあったけど殆どが読みやすくて面白かった。

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2023/06/27

あ、たぶんこれ私好きだなと思った一目惚れ装丁。 不可思議はそんなに遠いことではなく、実は身近にあるんじゃないかと思わせる短編集でゾクゾクした。

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2023/06/20

 15編収められた短編集。作品の配列にとてもこだわったと訳者あとがきにあります。怪異・ユーモア・性が入り混じった作風。ドイツという国が重ねてきた歴史の影の部分も時折見え隠れします。女性の心理描写がきめ細やかで、多くの作品では自惚れや恋心や恐れの果てに死や老いへと主人公は突き進んで...

 15編収められた短編集。作品の配列にとてもこだわったと訳者あとがきにあります。怪異・ユーモア・性が入り混じった作風。ドイツという国が重ねてきた歴史の影の部分も時折見え隠れします。女性の心理描写がきめ細やかで、多くの作品では自惚れや恋心や恐れの果てに死や老いへと主人公は突き進んでいくのですが、少年から性的な欲望を向けられ怯えていた少女が、やがてその欲望の美しさも感じ取るようになるまでの僅かな時間を描いた『長い影』が一番好みでした。最後に収められた『人間という謎』で、読者の我々も作者との旅からいったん解き放たれます。

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2023/05/31

読書芸人で見て興味を持ったので図書館で借りて読んだ。 不気味なお話や謎のまま終わるお話などの短編15編。 全部全く違う方向性のストーリーばかりで面白かった。 一番好きなのは『幽霊』、後は『長距離電話』や『四月』も好き。 最後の『人間という謎』も、古畑任三郎で何度も出てきた「...

読書芸人で見て興味を持ったので図書館で借りて読んだ。 不気味なお話や謎のまま終わるお話などの短編15編。 全部全く違う方向性のストーリーばかりで面白かった。 一番好きなのは『幽霊』、後は『長距離電話』や『四月』も好き。 最後の『人間という謎』も、古畑任三郎で何度も出てきた「赤い洗面器の女」みたいな尻切れとんぼな感じが1つだけじゃなくて何度も続いて、もやもやとわくわくがリピートされて面白かったし終わり方も素敵だった。 翻訳された酒寄進一さんのあとがきも良かった。 翻訳だけではなく、たくさんの短編の中から厳選した15編であること、編集者の方主導で決まった配列について、などなど。 他の作品も読んでみたくなりました。

Posted byブクログ