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タワー の商品レビュー

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8件のお客様レビュー

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2024/11/12
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目次 ・東方の三博士―犬入りバージョン ・自然礼賛 ・タクラマカン配達事故 ・エレベーター機動演習 ・広場の阿弥陀仏 ・シャーリアにかなうもの ・付録  作家Kの「熊神の午後」より  カフェ・ビーンス・トーキング―『520階研究』序文より  内面表出演技にたけた俳優Pのいかれたインタビュー  『タワー』概念用語辞典 たぶん初めて読んだと思うのですが、想像以上に面白かったです韓国SF。 974階建ての巨大なタワー国家「ビーンスターク」を舞台に繰り広げられる、緩くつながった連作短篇。 21階までは外国人も自由に出入りできる非武装地帯、22階から25階までが軍隊が占拠している「警備室」という名の国境検問所。 上階に行くほど金持ちが住むというのは想定内だが、上階は寒いらしい。 対外的には「コスモマフィア」という武装勢力と戦争中。 周辺国からは憧れられているけれど、外国人労働者は使い捨てにされている。 タワーとはいえ水平面の面積もそれなりにあるので、「垂直運送」=機械化されている、「水平運送」=人力が主、がイデオロギーの対立にもなっている。 等々、かなり丁寧に作りこまれた世界。 『東方の三博士―犬入りバージョン』がまず面白い。 タワー内の権力の流れを研究するために、高級ウィスキーにタグをつけて位置情報を追い、贈り物として流されていくルートを分析するというものなのだけど、その助手としてタワー外から雇われた三博士、クリスマスに生まれた上司の赤子を祝福するためにそれぞれの贈り物を持って出かけるのだが…。 タワーの構造というのが、テトリスのように無計画にパーツを継ぎ足してできたものなので、同じフロアに会っても同じエリアとは限らない、壁を隔てて隣同士の家に行くのにすら、エレベーターを何度も乗り換えないと辿りつけないこともあるというもので、慣れない外国人の三博士は目的地に行くまでも大変苦労するのである。 笑いながら読んでいたけれど、よく考えてみれば結構ディストピアな展開。 一番人気のある作品が『タクラマカン配達事故』らしい。 私も一番好き。 縦にも横にも高さにも広大なタワー国家は、エレベーターわきにある青いポストに郵便を入れておくと、善意の人たちの個人個人の善意で無料で数日後には郵便が届くシステムがある。 エレベーターの乗り換え時に、通りかかりにある宛先の郵便を、ついでに運ぶのだ。 タクラマカン砂漠で撃墜された外国人傭兵のパイロットを、タワー国家が見捨てた彼を、世界中の善意の人がネットで情報を共有しながら、探す。 最初の数人は頼まれたかもしれないけれど、ネットでその動きを知った人たちが、世界中で頼まれもせずに、砂漠の中の映像からパイロットを見つけ出す。 ただそれだけの話なんだけど、インターネットの本来のありようってものを考えさせられる。 粗探しして人を貶めるために作られたわけではないはず。 付録のカフェの話も、安いけどまずいコーヒーを飲みながらおしゃべりをする、地域の人たちのオアシスだったカフェが、おしゃれで美味しいテイクアウトのコーヒー店に駆逐され、地域のコミュニティも消滅してしまったという、フィクションで片付けられないようなショートストーリー。 現実の世界は、ディストピアに向かっているのだろうか。 それともこの作品から微かに漂う希望の光を信じていいのだろうか。

Posted byブクログ

2024/10/22
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関連のある短編集?なんだけど、爆破するつもりだったのに住んでるうちに愛着が湧いて爆破できなかった人達の話が好き。

Posted byブクログ

2024/01/10

これは面白かった。 どの短編も粒ぞろいな印象深くユーモア溢れる作品が揃っていた。 しかも、短編で描かれている世界が共通して”ビーンスターク”という674階建ての巨大なタワーというのも面白い。そこに50万人もの人々が生活しているという舞台がまずとんでもない。 このとんでもない世界の...

これは面白かった。 どの短編も粒ぞろいな印象深くユーモア溢れる作品が揃っていた。 しかも、短編で描かれている世界が共通して”ビーンスターク”という674階建ての巨大なタワーというのも面白い。そこに50万人もの人々が生活しているという舞台がまずとんでもない。 このとんでもない世界の中で、何だそれって思うヘンテコな世界もあれば、心温まる良い話もあってかなり面白い。 この世界観をもっと見たい! って思えるような上質な短編集だった。 いや、本当ずっとやってほしいまである笑

Posted byブクログ

2023/11/07

674階建ての超巨大タワー国家・ビーンスターク。この仮想国家を舞台に6つの物語が展開する、韓国SF小説。 SF小説らしく、設定の緻密さが面白い。ビーンスタークは人口50万人の都市国家で、市長や議会、軍隊(警備室)といった行政組織も備えている。21階までは他国の人も出入りできるが...

674階建ての超巨大タワー国家・ビーンスターク。この仮想国家を舞台に6つの物語が展開する、韓国SF小説。 SF小説らしく、設定の緻密さが面白い。ビーンスタークは人口50万人の都市国家で、市長や議会、軍隊(警備室)といった行政組織も備えている。21階までは他国の人も出入りできるが、22階から25階までが国境警備エリアで、それより上階が市民の居住エリアとなる。上層に行けば行くほど富裕層が住んでいるというのも、日本にも現実に存在するタワマンを想起させ妙にリアル。そして移動はエレベーターで、これが物語の中で大きな要素となってくる。 他に類を見ない独特な社会であるビーンスタークだが、そこに住んでいる人々は驚くほど我々と同じように人間臭く生きている。それゆえ、物語そのものも我々の社会で起こってもおかしくない話としてすんなり頭に入ってくる。そしていちいち深く考えさせる。 6つの物語がそれぞれ関連し合っているのも面白い。特に487階に住む「映画俳優P」という名の犬が、物語のあちこちに顔を出してくるのは笑ってしまう。

Posted byブクログ

2023/07/17

そもそも短編集というものがあまり好きではないからかもしれませんが、読んでいて心が動くことはありませんでした。 現実世界の比喩として語られる社会派なストーリーがどこか説教くさく感じられて、素直に物語に入り込めなかった、というのが正直なところです。 とことん社会派を突き詰めた長編...

そもそも短編集というものがあまり好きではないからかもしれませんが、読んでいて心が動くことはありませんでした。 現実世界の比喩として語られる社会派なストーリーがどこか説教くさく感じられて、素直に物語に入り込めなかった、というのが正直なところです。 とことん社会派を突き詰めた長編小説だったら、もっと物語に入り込めたのかもしれません。短編集だからこその断片的な物語構造が、物足りなく感じさせる要因だったかも。 いずれにせよ、内面を揺さぶるような深い感情移入やハッとするような発見はなかった、というのがイチ個人としての感想です。

Posted byブクログ

2023/07/13

変な物語だけでは終わらない6話の連作短編集+付録。正直、読んでいる間は理解というか消化し切れていない話もあったが、読み終えてちょっと経ってからのほうが想像が膨らむ。 舞台は674階建ての巨大タワーであり、人口50万人の独立国家ビーンスターク。対外的に主権は承認されており、21階...

変な物語だけでは終わらない6話の連作短編集+付録。正直、読んでいる間は理解というか消化し切れていない話もあったが、読み終えてちょっと経ってからのほうが想像が膨らむ。 舞台は674階建ての巨大タワーであり、人口50万人の独立国家ビーンスターク。対外的に主権は承認されており、21階までは外国人も自由に出入りできる庭園や商業施設がある非武装地帯、22階から25階までは軍隊が駐屯する警備室と6つの国境検問所、そこから上は上層にいくほど富裕層が入居する居住区になっている。移動は有料エレベーターで、20~30階ほどの路線以外に100階以上の長距離路線があり、1階から最上階までの直通はなく複数のターミナル経由で乗り継ぎをしなければならない。クリスマスシーズンはエレベーター待ちの行列ができ、年末は料金が割増になる。いわゆるマンションみたいに1階ごとに積み重なっているのでなく、テトリスブロックのように空間が674階分積み重なっているため、場所により階数が違い1フロアが4階分の高さもあるところなど様々。まさに国が地表に対して水平に拡がっているように、ビーンスタークは垂直に拡がっている。調べてみると、人口50万人は宇都宮市や松山市と同等くらい。高さは様々とあるが、仮に天井高3メートルとしても2000メートルを超える(上記のように高さは違うからもっと高いのだろう)。大雪山のような山が該当するようだ。驚愕。現実同様、海外に行かない人はずっと国内にいるわけだから、ビーンスターク内で一生を過ごす人も多いだろう。元々は2009年に刊行されたものの復刊らしく、タワマンに住んで後悔してるのとは別の世界だが、エレベーター待ちや階層格差などはどっちも同じか?現実とリンクした非現実的なタワー世界が興味深い。 以下は一部紹介。 「東方の三博士─犬入りバージョン」 ビーンスターク内の権力構造を高級洋酒の流通経路から解き明かすことを試みる。貨幣価値を持つ洋酒は、贈答として一定レベル以上の価値を持つ。そして、その権力の中心にいたのは1匹の犬であり、悲痛な事件が起きる。1話目から可笑しいのだが恐ろしいのだか分からない話から始まるが、韓国文学の傾向や社会を反映しているらしい。個人的に韓国の社会に対する知識が乏しいので、充分に理解し切れていないのが残念。 「タクラマカン配達事故」 ビーンスタークでは郵便が無料で配達される。それはエレベーターの利用者が自分の行く階宛ての郵便物があれば、善意で運ぶ青いポストがあるから。ビョンスは出張中に自分のカバンにしまい込み忘れていた手紙の束を発見する。その中にはミンソという男性がウンスという女性に宛てたラブレターがあった。過去に恋人同士であったが、現在ウンスは別の人と婚約中である。そんな折、ミンソが爆撃任務の帰還中に対空ミサイルで迎撃され、タクラマカン砂漠で行方不明になったことを知る。気になって仕方がないウンスは人工衛星の写真を手配して自分で探そうとする。ウンスが知人に協力を仰いだ手紙と共に国外でもネット上で話題となり、数十万人規模のアクセスとなり大捜索が行われる。ネットがこういう善意で満ちていると素敵だと思わされる物語。 「自然礼賛」では韓国の2008年~2009年の世相を反映された内容になっており、「エレベーター機動演出」では建物の垂直に対する垂直運送組合と、水平に対する水平運送労組の分断が、現実の右派と左派を反映している模様。この辺りも実社会の知識が乏しく、韓国に詳しい方は楽しめるのかもしれない。最後の「シャリーアにかなうもの」はビーンスタークの終末を感じさせながら、中で暮らす居住者の変化にホッコリした。 ちなみに付録も充実していて、犬の俳優Pのインタビューが面白くて秀逸だった。

Posted byブクログ

2023/04/25

674階建の独立国家タワー「ビーンスターク」が舞台の連作小説。 戦争やテロや外国人雇用問題など、「ビーンスターク」を取り巻く環境は厳しいものだが、中で暮らす人々はどこか温かい雰囲気で(ゾウとか出てくるし)、希望を感じる物語だった。 韓国情勢に詳しければ、もっと楽しめたと思う。

Posted byブクログ

2022/10/27

674階建ての巨大タワー「ビーンスターク」をめぐる連作小説。ジャンル分けが難しい作品で、基本的に「悪ふざけ」で出来てるのだが、なぜか心温まるので異質さが際立つ。でも、こういう本を求めてる人だっているはずだ。私のように。

Posted byブクログ