神のいない世界の歩き方 の商品レビュー
リチャード・ドーキンス(1941年~)は、英国の進化生物学者・動物行動学者。一般向けの著作を多数発表しており、存命の進化生物学者として、最も知名度の高い一人。 1991年発表の『The Selfish Gene(利己的な遺伝子)』で、「生物は遺伝子によって利用される"乗...
リチャード・ドーキンス(1941年~)は、英国の進化生物学者・動物行動学者。一般向けの著作を多数発表しており、存命の進化生物学者として、最も知名度の高い一人。 1991年発表の『The Selfish Gene(利己的な遺伝子)』で、「生物は遺伝子によって利用される"乗り物"に過ぎない」という比喩的表現を使って、「自然選択の実質的な単位が遺伝子である」とする遺伝子中心視点を提唱したダーウィニストであり、科学的合理主義の推進者である。また、科学的合理主義の推進者であることと表裏一体ともいえる、徹底した無神論者・反宗教主義者であり、科学的精神の普遍性と反宗教を説く啓蒙書として2006年に出版された『神は妄想である』は、30を超える言語に翻訳され、最も有名な一冊となっている。 本書は、『Outgrowing God:A Beginner‘s Guide』、即ち、「神を卒業するためのビギナーズガイド」の全訳として2020年に出版された『さらば、神よ』を、改題の上、文庫化したもので、上記の『神は妄想である』のコンセプトを、世界の将来を担う若者向けに書いたものとも言える。 ドーキンスが、無神論者・反宗教主義者の立場からの発信を強め、宗教との対決姿勢を明白にするようになったのは、2001年3月11日の米国同時多発テロがきっかけだというが、それは、人の心を救うはずの宗教が、怒りと憎しみを煽り、多くの人の命を奪うテロや戦争を引き起こすことに気付き、「宗教は有害である」という結論に達したからである。それまでも、科学的合理主義と反宗教は同一線上にあったが、3.11により立ち位置が変わったのだ。 本書では、第1部「さらば、神よ」で、神を信じるべき理由の正当性を徹底的に覆し、第2部「進化とその先」で、生きものの複雑さや美しさをつくり出した自然の仕組みを明かしているが、第2部の進化論に関する研究・解説については、『進化とは何か』(ファラデーが1825年に英国王立研究所で始め、その後も毎年行われている“クリスマス・レクチャー”において、ドーキンスが1991年から5回に亘って行った内容を編集したもので、2016年、日本語版文庫化)に、平易かつ興味深く書かれている。 私も基本的に、この世界(宇宙を含む)のあらゆる事象は科学的に説明し得ると考える(現在は超常現象と言われる現象が仮に実在したとしても、いずれそれは科学的に解明される)科学的合理主義者であり、本書の内容に得心するが、何より重要なのは、科学的合理主義が導く無神論(特に、扇動的な一神教に対する)が、世界の平和に大きく貢献するということであり(世界の争いの全てが宗教に起因するわけではなく、様々な面での格差の是正も大事なことであるが)、その意味において、ドーキンスのスタンス・主張に強く共感を覚えるのである。
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