あくてえ の商品レビュー
まさしく怒涛である。 主人公ゆめはばばあにあくてえをつく。 ばばあは耳が遠い事をいいことに都合の悪いことは聞こえない振りをする。世話をしない息子のことばかりをよく言う。食事管理も介護もしてくれているきいちゃんには文句ばかり。もうあくてえをつくしかない。 ゆめの苛立ちやばばあの...
まさしく怒涛である。 主人公ゆめはばばあにあくてえをつく。 ばばあは耳が遠い事をいいことに都合の悪いことは聞こえない振りをする。世話をしない息子のことばかりをよく言う。食事管理も介護もしてくれているきいちゃんには文句ばかり。もうあくてえをつくしかない。 ゆめの苛立ちやばばあの理不尽さ、生活の苦しいなかでも夢を追う空虚。そしてなににぶつかっても空回りしてなにも進まない。ゆめの感覚が私に流れ込んでくるようでとても面白かった。正直おいしいごはんよりも好みだったかもしれない。 芥川賞に関しては過去受賞作のスクラップアンドビルドを彷彿のさせる部分がある点は引っ掛かりになつてしまったのではないかとちょっと思った。 ただ同性の老人の介護という点だけであり、ゆめのあくてえを通してのぶつかり方や作家志望の空虚さ、そして母に取っては義母でしかないのに世話をせざるを得ない状況など苦しさが苛立ちを加速させる。 まさしく当事者の肉声を感じられて密度の高い作品たと思った。
Posted by
理不尽で、苛立つことばかりで、怒りと自己嫌悪で頭がぐるぐるして、それでも投げ出せず続いていく介護/家族/生活。あくてえ(悪態)をつくことが、ただ一つ、自分を守るためにできることなんて。ばばあの描写から浮き上がる老いは、醜さも惨めさもそのまま剥き出しで滑稽味すらある。恋人の渉がどん...
理不尽で、苛立つことばかりで、怒りと自己嫌悪で頭がぐるぐるして、それでも投げ出せず続いていく介護/家族/生活。あくてえ(悪態)をつくことが、ただ一つ、自分を守るためにできることなんて。ばばあの描写から浮き上がる老いは、醜さも惨めさもそのまま剥き出しで滑稽味すらある。恋人の渉がどんな風貌なのかよくわからないが、ばばあの描写は細密で、ゆめが何に囚われているかを表しているようだ。老いると世界が遠くなるという表現は良かった。
Posted by
「あくてえ」とは甲州弁で悪態のこと。主人公のあたしは祖母に対してあくてえをつく。祖母は父親の母親。父親は浮気して子供をつくって離婚している。祖母の面倒を看るのがあたしとあたしの母親のちいちゃんである。離婚しているのでちいちゃんと祖母との血縁はないが、それでも献身的に介護をしている...
「あくてえ」とは甲州弁で悪態のこと。主人公のあたしは祖母に対してあくてえをつく。祖母は父親の母親。父親は浮気して子供をつくって離婚している。祖母の面倒を看るのがあたしとあたしの母親のちいちゃんである。離婚しているのでちいちゃんと祖母との血縁はないが、それでも献身的に介護をしている。そんな状況にあたしは悪態で祖母に対応する。祖母も悪態をつく。最初から最後まで悪態だ。そこまで言わなくてもなあと思うが、読むにつれて、これもコミュニケーションのひとつかなと思うようになってきた。飾らない本音の言葉があくてえなのではないかと。あくてえをつきながらも祖母の面倒をみていたわたしの行動が優しい。それにしてもクソのような父親は許せんな。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
誰が悪人というわけではないけれど、どいつもこいつもキモいんだよ!アー!!!!!!!!と頭をかきむしりたくなる。 激しくて、苦しくて、残念ながらリアルな、地獄絵図だった。 冒頭30ページ位で延々憎まれ口を読まされ、序盤からばばあに対する嫌悪感がしっかり形成される。そしてそれが最終的に人間という生物全体に対する嫌悪感に繋がってくる。かなり危険な感覚だと思う。 老害的老人に限らず、基本的に人は汚い。 できないことをできないまま放置し、環境のせいにして逃げる、甘える。聞きたいことしか聞かず、聞きたくないことは聞こえていないふりをする。優しい人から平気で搾取する。そしてそれを半永久的に続ける。心身の余裕がなくなった時、簡単に誰かを踏みにじることができる。 物理的にも、時間が経てば内側から汚れが出てくるし、外側にも付着する。不潔。死に近づくほど赤ちゃんに戻るように知能は退化し、見た目にも死が表れてくる。 どんなに消毒して白壁にして明るく振る舞っても隠しきれない暗さがある病院のように、死と汚れのにおいがする。みんな本当はわかっているけど口に出さないタブーに触れてしまったような感覚を覚えた。 きいちゃんは優しい母親のようでいて、その呼び名からもわかるように母親の役割を放棄しており、代わりに主人公にその役割を担わせている。ばばあのことは絶対無視しないのに主人公の質問は無視できるし、そのくせピンチの時にはすがるように視線を向けてくるし、終わりのない「もう少し」の地獄に道連れにしようとする。イエスとしか答えられないこともわかった上で誘っているの、ぞっとする。 最初から最後まできいちゃんはばばあを見、親父は不倫相手との子どもを見、ばばあは親父と不倫相手との子を見ている。誰も主人公を見ていない。大切にしない。愛さない。どうしようもない人とどうしようもない環境の中、もがき苦しみ、正しいことを叫び、めちゃくちゃに泣いても、誰も見ない。聴かない。 そんな中では強く在るしかなく、あくてえをつくしかやっていく術がなく、トゲトゲしていくのを止められない。なのに勝手に大丈夫と思われて、放置され、寄りかかられ続けるこの感じ…! そして主人公も、抱えきれない苦しみから逃れようと足掻くせいで、恋人を踏みにじる。伝え理解し合う努力を怠っていることに気づかず、相手に軽んじられていると感じてしまい、結果自分も相手も軽んじる。思いやろうともがいたりもしているけどやっぱり難しく、あと一歩他者を大事にするための力が足りない。この不完全さがいかにも人間らしい。 タイトルの「あくてえ」をはじめ、憎きばばあの言葉遣いが主人公のモノローグの中にも散見されるのが痛々しく、絆のようで呪いのようだった。すごい表現力だなと思った。遠くまで逃げてしまいたいくらい限界の環境なのに、その根っこが芯まで無意識レベルまで染み付いてしまってとれない感じ。発散の手段すら汚染されているという恐怖! これは決して「なんだかんだ言って家族愛♡」などというハッピーワードでは片付けられない。八方塞がりで、出て行く隙がないために、地獄が循環していくのがわかる。 なのに最後はこの状況が今後も続いていくよという締め方…現実が1番のホラーということか。鳥肌ものの恐怖だった。 そして問題なのは、どの気持ち悪さも他人事ではなくて、身近に存在しているということ。自分の中にもある。これは単純な介護の憂鬱とか機能不全家族の実態とかそういうレベルを超えて、もっと全員に当てはまる怪談だと思う。
Posted by
芥川賞候補作だったので、読んでみた。 19歳のゆめ。 小説家になれるといいなぁ。 本名は沙織だけど、黄色が好きだからきいちゃん。 友達親子。 きいちゃんは、偉い。 こんな憎まれ口ばかりのばばあ(ゆめが悪態をつきばばあと呼ぶ)よく面倒をみている。 悪態→あくてえ。 芥川賞らしいスト...
芥川賞候補作だったので、読んでみた。 19歳のゆめ。 小説家になれるといいなぁ。 本名は沙織だけど、黄色が好きだからきいちゃん。 友達親子。 きいちゃんは、偉い。 こんな憎まれ口ばかりのばばあ(ゆめが悪態をつきばばあと呼ぶ)よく面倒をみている。 悪態→あくてえ。 芥川賞らしいストーリーで、 だからどう?とかそういう感じではない。 どこにでもあるモヤモヤだと思う。 介護の話はつらい。 現実的。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
読みやすく入り込みやすい。 にっちもさっちもいかない「ばばあ」との怒涛の毎日。決着をつけずにぶつかり合ったままで終わるのが、いいのか、どうなのか。このまま地獄は続く、という終わり方しかないのだが。 文学作品として、安易な結論は必要ないが、安易でない終わり方を模索して欲しいと思うのは贅沢だろうか。 面白かっただけに、力技で突き抜けた結論で驚かせてもらいたかった。 「ばばあ」は憎ったらしく、惨めで、かわいそうで、魅力的なのだが、「きいちゃん」の人物がイマイチ見えてこない。これも欲を言えば、なのだが、「きいちゃん」の言葉を聞きたいと思った。 と、書いてみたが、いい小説でしたー。
Posted by
泣き笑いの小説だな。 現実は小説と違って、大団円も終わりも無い。それでも生きていけば毎日のように大変なことが起き、大騒ぎし、ほんの少しごくたまに良いことがあったりもする。それが人生。
Posted by
冷たい人と思われていもいい。こんな婆さんは嫌だ。主人公は19歳の女性、ゆめ。母と祖母(離婚した父親の母・90歳)の3人暮らし。ゆめも母も常に祖母の介護中心になってしまい、心身の負担と鬱屈が溜まっていく。そしてこの祖母は我儘、下品、頻繁にあくてえ(悪態)をつき、感謝のひとかけらもな...
冷たい人と思われていもいい。こんな婆さんは嫌だ。主人公は19歳の女性、ゆめ。母と祖母(離婚した父親の母・90歳)の3人暮らし。ゆめも母も常に祖母の介護中心になってしまい、心身の負担と鬱屈が溜まっていく。そしてこの祖母は我儘、下品、頻繁にあくてえ(悪態)をつき、感謝のひとかけらもない。そして実の母の世話を元妻に押し付け、離婚した夫も酷すぎる。文章自体は祖母を「ばばあ」と書くことで読みやすさを狙ってそれが成功しているとは思うが、ストーリーのどん詰まり感が凄い。歳をとることが本当に嫌になる小説。ゆめに幸あれ。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
図書館で借りました。ゆめ、きいちゃん、ばばあ。物語は3人家族の愛しく小さな家族の家の中の、ギュッと、ギュッとつまったとっても濃い物語。〈あくてえ〉ばかりをつきながらも、とってもとっても大切な家族のお話。【あたしにはわからない。わかるはずもない。あたしは表面的なことしかわからない。今しかわからない。わからないから、この現実に不満を並べ立てることしかできない。幼い頃、自分が小児喘息で苦しんでいたことも、あたしの看病のために共働きの両親に代わってばばあが故郷の山梨から出てきたことも、その地で生まれ、人生の半分以上をそこで過ごした人が、故郷を離れるということが、その覚悟が、つらさが、あたしには理解できない。】主人公のゆめちゃん、そしてゆめちゃんの母親のきいちゃん、そのきいちゃんの別れた旦那の母親=ばばあ。さんざん文句=あくてぇをつきながらもお互いが頼ったり、心の支えであったりしながら生きていく様がまざまざと描かれていて、家〈家族〉という日常をこれでもかとぶつけられながらも、まるごと包み込んでくれた物語だった。
Posted by
現在、そしてこれからも、日本は「超」高齢化社会になっていき、それを支える若年世代はますます減っていき、またさしたる景気高揚も望めない雰囲気もあり、誰もがそれを体現し、伝聞され、不安を感じているのではないかと思う…。 そうした風潮を踏まえてか?、映画や小説といった創作の世界で、高...
現在、そしてこれからも、日本は「超」高齢化社会になっていき、それを支える若年世代はますます減っていき、またさしたる景気高揚も望めない雰囲気もあり、誰もがそれを体現し、伝聞され、不安を感じているのではないかと思う…。 そうした風潮を踏まえてか?、映画や小説といった創作の世界で、高齢者とその周辺を題材とした作品がここ最近多いように感じられる。もちろん、「高齢だけどいきいき恋愛しています」、といった、「明るい高齢者」、を描いた、「疼くひと(松井久子著)」、のような作品もあり、実態のない創作上の夢物語に我々は胸ときめかせたりもするのだろうが、現実はこの作品に描かれたような、貧困の中で介護を決してまっとうな手順ではなくやらざるをえない、家庭が殆どであろう。 私見だが、面白い小説というのは、前半部分で主人公にあまり個性が感じられず、また淡々とした日常がつづられるだけで、なかなか読み進めていく事が出来ない場合が多い(あくまで私の場合)、この小説も私にとっては当初そのように感じられたが、図書館での貸し出し締め切りになんとか間に合って読了できたのは、後半からのさまざまな出来事を通じての主人公への同調心理、が働いたからでは無いかと思う。 詳細については述べないが、前述のような環境で、(離婚した元夫の)祖母、母、娘、の3人が主役の作品である。そして主人公は娘で、この祖母と娘が日常生活の中で「あくてえ(悪態)」をつきあう、ことが主な内容であると言えるかもしれない。ただ、その「あくてえ」は、決して理不尽なものではなく、後味悪いものでもなく、あえて「あくてえ」として自分の外に吐き出すことによって、家族間のバランスがとれているようにも私には感じられた。これが男性だとそのように、吐き出す、行為が苦手で、内に秘めた末に爆発してしまい…という悲劇的結末を想像してしまう…。この作品にはそういう悲劇、が感じられない。 読後、すっきりした感情と共に、世代や立場が違う相手と関係を保つには…、という事を学ばせてくれる良作品であるとも思う。作者さんはもしかすると金原ひとみさんの小説も読まれたのかな?、主人公が畳みかけるような「あくてえ」をつくシーンで、そのようなことを感じた。また、装丁も良い。この作品の(主人公の)個性をうまく表していると思う。一瞬、カルト漫画家、岡崎京子さんの画風を感じたが、巻末にはそのお名前は無かった。…とにかく読んで損はない。特にこれから親の介護をされる人、される側も、終えた方も、読むことによって得るものが多いと思う。お勧めします。
Posted by