無垢なる花たちのためのユートピア の商品レビュー
ひとつひとつの物語が、まるで私だけのために書かれたかのように、私の記憶や、心の奥にしまわれていた想いを思い出させる。 このような感想を抱くのは私だけなのだろうか?ふとそんな疑問を抱き、この感想を書いている。 もしあなたも同じような感想を抱いたのならば、この本は本物の奇跡ででき...
ひとつひとつの物語が、まるで私だけのために書かれたかのように、私の記憶や、心の奥にしまわれていた想いを思い出させる。 このような感想を抱くのは私だけなのだろうか?ふとそんな疑問を抱き、この感想を書いている。 もしあなたも同じような感想を抱いたのならば、この本は本物の奇跡でできているのかもしれない。
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※このレビューにはネタバレを含みます
短編集6篇 どの作品も美しく繊細な言葉と表現、詩人の感性と骨太の論理性が共存し共鳴している。 表題作の無垢な少年たちを乗せた方舟の天上へ昇っていくイメージは荘厳だ。そしてその内実のおぞましさとのギャップが怖ろしい。また「卒業の終わり」のディストピア世界、アトウッドの世界に似て女性へのあり方を突き詰めている。ラストにほのかな希望が見えるのでほっとした。 そしてどちらも思春期の引っ込み思案で友情以上の深い愛の描写が良かった。
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はじめて読んだ、歌人による短篇小説集。どの作品もファンタジーな世界観と詩的な文章の読み心地が良かった。 「卒業の終わり」の雲雀草と雨椿の関係性が、親友から絶縁関係に移り変わるさまや、雲雀草と月魚の、ささやかながら通じ合っている関係性が良かった。
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本のタイトルになっている「無垢なる花たちのためのユートピア」を含めて6編の小説集。いずれの作品も詩的で、「花」「滅び」「曖昧な境界」といったキーワードを感じながら読み通した。 特に印象的だったのは、最初の「無垢なる~」と最後の「卒業の終わり」の2編。比較的長い作品ゆえに(他の4...
本のタイトルになっている「無垢なる花たちのためのユートピア」を含めて6編の小説集。いずれの作品も詩的で、「花」「滅び」「曖昧な境界」といったキーワードを感じながら読み通した。 特に印象的だったのは、最初の「無垢なる~」と最後の「卒業の終わり」の2編。比較的長い作品ゆえに(他の4編は短編)、分かりやすかったからかもしれない。どちらの作品も、自分が理不尽な環境に身を置いていることを知った主人公らが、ささやかな抵抗を試みる。かと言って勇敢で英雄的な反抗劇ではない。彼らの絞り出す苦悩の言葉には弱さ、諦観、悔しさなどが同居していて、また、それらが詩的に表現されていて私の心を震わせた。 ”俺たちがどんなふうに、自分の中で最も大事で何よりも価値があると言い聞かされてきたものを、言われた通りに育まされ、慈しまされ、守らされた挙句に、自分の足で踏み躙らされたか、そのたびごとにどんな苦痛を味わったか、その後でどれほど自分を汚れた、欠けた、価値のないものと感じたか、そんな話はしない。できるはずもない。誰に対しても。” (「無垢なる花たちのためのユートピア」p.79) ”生きていた、私たちは。 生きていたよ。 あなたたちなんていなくても。私たちだけで。” (「卒業の終わり」p.311) 蛇足だが、私は花に疎い。ゆえに、たくさん登場する花の名前を見てもどのような色の花なのか想像がつかず、そのため全体を通して作品の背景がモノクロ的世界観をイメージしてしまった。花に詳しい方なら、色とりどりの美しい場面が想像できたのかもしれない。残念だ。
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楽園に一番近いはずのこの船で、あなたが見ていたのは地獄だったの?(63ページ) . どこに行けば人形になれるだろう。どうすれば心を持たないままでいられるだろう。怨むことも憎むことも知らずにいられるだろう。どうすればきれいなままでいられるだろう。どうすれば人間にならずにいられるだろ...
楽園に一番近いはずのこの船で、あなたが見ていたのは地獄だったの?(63ページ) . どこに行けば人形になれるだろう。どうすれば心を持たないままでいられるだろう。怨むことも憎むことも知らずにいられるだろう。どうすればきれいなままでいられるだろう。どうすれば人間にならずにいられるだろう。(150ページ) . 何を書いたら、あなたに届くのか。 何を書いたら、私がここにいることをわかってもらえるのか。 何を書いたら、私があの場所で生きていたことの証になるのか。 このありふれた惨事の中、私が書けることは、他の誰にとっても周知のことに過ぎない。 それでも私は、長いこと振り返りもしなかった日々を思い出してみようと思うのです。 命が尽きる前に。(219ページ) . 私の、大嫌いな親友。 君はどうして死ななくてはならなかった? 私はどうして君の死を悲しまなくてはならない?(290ページ) . 生きていた、私たちは。 生きていたよ。 あなたたちなんていなくても、私たちだけで。(311ページ
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歌人でもある著者による初の幻想小説集。雰囲気的にも文体的にも山尾悠子をややライトにしたような感じ。作品によってはSFファンタジー感もある。著者は、トールキンなどを研究している大学院生とのことで、少し納得してしまった。山尾悠子よりはさらりと読める分、少し物足りなさがないでもない。...
歌人でもある著者による初の幻想小説集。雰囲気的にも文体的にも山尾悠子をややライトにしたような感じ。作品によってはSFファンタジー感もある。著者は、トールキンなどを研究している大学院生とのことで、少し納得してしまった。山尾悠子よりはさらりと読める分、少し物足りなさがないでもない。表題作も含め、全体的にディストピアのイメージが通底しているように思った。 表題作も悪くないが、『指輪物語』と『夢十夜』の第五夜に想を得て書かれた「いつか明ける夜を」が個人的にはお気に入り。構成が凝っていて大変良きです。これからの活躍に大いに期待したい。 【収録作】 無垢なる花たちのためのユートピア/白昼夢通信/人形街/最果ての実り/いつか明ける夜を/卒業の終わり
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長野まゆみ、皆川博子のような世界観、美しい文章で好みだった。 帯も皆川さんが書かれているようで、なるほど! と、腑に落ちた。 表題作『無垢なる〜』は、登場人物達が矢車菊、白菫、冬薔薇など美しい花の名前を持っていてそれだけで胸がいっぱいに。 冬薔薇好きだ…。 どの作品も真剣な表情で...
長野まゆみ、皆川博子のような世界観、美しい文章で好みだった。 帯も皆川さんが書かれているようで、なるほど! と、腑に落ちた。 表題作『無垢なる〜』は、登場人物達が矢車菊、白菫、冬薔薇など美しい花の名前を持っていてそれだけで胸がいっぱいに。 冬薔薇好きだ…。 どの作品も真剣な表情で集中して読んだ。
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