イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記 の商品レビュー
ヨーロッパを中心に各地を旅してきた著者が、自閉症とADHDの体感と経験を文学と現実のはざまに揺蕩いながら語った紀行エッセイ。 『創作者の体感世界』を読み、横道さんのことをもっと知りたいと思って手に取った。本書ではよりつっこんだパーソナルな経験談が語られている。『創作者の〜』で...
ヨーロッパを中心に各地を旅してきた著者が、自閉症とADHDの体感と経験を文学と現実のはざまに揺蕩いながら語った紀行エッセイ。 『創作者の体感世界』を読み、横道さんのことをもっと知りたいと思って手に取った。本書ではよりつっこんだパーソナルな経験談が語られている。『創作者の〜』で埴谷雄高も好きそうだなと思っていたら本書に『死霊』の話がでてきて地味に嬉しい。 第Ⅰ部から第Ⅲ部へと進むうちにメイントピックが現地での体験からブッキッシュな連想と個人的なエピソードへ移り変わっていくのだが、なかでも第Ⅱ部の「廃墟の文体」は読んでいて共感というか、胸がジンと熱くなった。"文章が上手くなる"のと比例して自分のことばが腐っていくような感覚。横道さんの場合はそこに外国語学習に伴う自己規制も加わり、自分で自分をがんじがらめにしてしまう。苦しみを経て獲得した自分のスタイルに「廃墟の文体」と名付けたのが美しい。 横道さんの旅は常に本への旅でもある。でも、エジプトでトーベ・ヤンソンを連想したり沖縄でコレットを連想したりと一筋縄ではいかない。私にはここに〈読者〉というものの生き方が表現されている気がする。読んだことばを心にしまって、作者や本来の文脈から切り離されたところでそれを取りだして自分の体験に貼り付けてしまう。そんな自分だけのスクラップブックを作りだしていくのが読者の人生だと思う。この本もまさにそんなスクラップブックだ。
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発達障害当事者の横道誠さんによる海外周遊記。思索と文学作品の引用が散りばめられていて、毎晩毎晩、眠る前に一都市ずつ読みました。
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スペクトラムの自分の症状を冷静に捉えて書いてくれているので、分かりやすい。中の人はそうなんだ…と思いながら読んだ。 所々に文学作品が挟まれているのも良かった。 チェーホフの「ワーニャ伯父さん」 ね、ワーニャおじさん、生きていきましょうよ。長い、果てしない、その日、その日を、いつ...
スペクトラムの自分の症状を冷静に捉えて書いてくれているので、分かりやすい。中の人はそうなんだ…と思いながら読んだ。 所々に文学作品が挟まれているのも良かった。 チェーホフの「ワーニャ伯父さん」 ね、ワーニャおじさん、生きていきましょうよ。長い、果てしない、その日、その日を、いつ開けるともしれない。夜また夜を、ずっと生き通していきましょうね。運命が私たちに下す試みを、辛抱強くじっと捉えていきましょうね。今のうちも、やがて歳をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。やがて、その時が来たら、素直に死んでいきましょうね。あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなに辛い一生を送ってきたか、それを残さず申し上げましょうね。すると神様も気の毒にと思ってくださる。その時こそおじさんおじさん、あなたにも私にも明るい素晴らしいなとも言えない生活が開けて、まぁ嬉しいと思わず声をあげるのよ。
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発達障害のある文学者の「当事者紀行」本。世界周航記と副題にあるが、ゆらゆらとした感覚の美しい描写に惹かれる。 蛮勇は勇気ではないという記述にハッとさせられる。自分の時折極端な決断はここからくるのかと思う。 カルト宗教信者の母から虐待を受けた過酷な生い立ちも客体視できる非常に高度な...
発達障害のある文学者の「当事者紀行」本。世界周航記と副題にあるが、ゆらゆらとした感覚の美しい描写に惹かれる。 蛮勇は勇気ではないという記述にハッとさせられる。自分の時折極端な決断はここからくるのかと思う。 カルト宗教信者の母から虐待を受けた過酷な生い立ちも客体視できる非常に高度な知性 P003 「障害」というものに関して、現在でもいわゆる「医学モデル」と呼ばれる素朴な受け止め方が影響力を失っていない。(医学モデルとは、障害の原因を身体的気質にみる考え方)【中略】でも現在は「社会モデル」による障害理解が支持を広げている。これは、障害の原因を社会の側に見る考え方で、当事者が行きづらい環境しか提供できない社会の側に障害の発生源があると考える。 P021 (クリムトの絵を見るたびに強烈な反撥がこみあげてくるというのは)もしや「嫉妬」ではないかと考えるようになった。「みんな水の中」という世界観の先取権争いに負けてしまったという悔しさが僕にはあるのではないか。 P079 (バイエルンは)日本にたとえれば、京都に隣接した大阪によく似ていると思います。右派ポピュリズム政党の日本維新の回が大阪から誕生した事実は、ナチスがバイエルンから生まれたことと並行している現象に思えます。バイエルンとはそんな感じです。「コテコテ」の文化です。ヤンキーっぽいのです。そして住民はそのアイデンティティに誇りを抱いているのです。 P112 映画「カサブランカ」は王道的恋愛映画の古典という外見的な印象とは異なって、カルト映画だったのだ。場当たり的に撮影されたことによって、不穏な印象が生まれ、僕はその不安定さに共鳴していたのだ。 P119 本音による対話(ダイアローグ)とはなんと魅力的なものかと驚いた。建前を並べる日常的な会話(カンヴァセーション)とは本質的に異なっている。 P149 僕は雨をこよなく愛する。自閉スペクトラム症があると感覚が過敏になりやすいため、気圧の影響を受けやすい人が多く、雨の日は定型発達者よりも心理的負担を感じる人が多いようだけれど、僕の場合は事情が異なる。少ない雨ならむしろ濡れて歩き回りたい。そうしながら僕は自分が植物になると感じる。 P170 魂が似ていない者同士だけでなく、あまりに魂が似ている者同士も、ともに同じ道を歩み続けることは難しい。 P186 いつも「みんな水の中」と感じている僕に、ゴッホの絵は最大級の精神の「快晴」を与えてくれる。ゴッホの絵のサイケデリックな色彩感覚と、竜巻のような荒々しい筆さばきが、僕の体験世界に呼応するからだろう。 P254 (台北の夜市)僕は夜の電灯に群がるガやハチやコガネムシのように、そういった煌々と照らし出された夜の一区画に吸い寄せられては、熱にやられて、ぽとりと地面に落ちて死んでしまう。夢中になって燃えつきる。そんな自分を何度も想像した。そうして身体の感覚があいまいになってゆく。ゼリー状あるいはスライム状になってしまう身体感覚へと丸められて、夜の闇に溶け込んでゆく。 P268 僕もひとりの穏当な、健全な知性に奉仕する発達障害者でありたい。 P269 自閉スペクトラム症があると、環境の変化を拒む傾向が付随する。【中略】ところが僕は注意欠如・田道昭を併発している。その場合、冒険家風の衝動性が生まれやすい。【中略】だから臆病なのに、蛮勇でもある。蛮勇は勇気ではない。勇気には臆病と蛮勇という両極があって、蛮勇も本質では臆病と同じだ。
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自閉スペクトラム症と診断されているドイツ文学者の著者が訪れた国々での日々。すでに読み書きには不自由しないほど習得していたドイツ語を、ちゃんと話せるようになりたいと留学して、喋れないのに文法的には完璧であることに教師も学友にも驚かれたりする。様々な言語を完璧にしたいと思うところなど...
自閉スペクトラム症と診断されているドイツ文学者の著者が訪れた国々での日々。すでに読み書きには不自由しないほど習得していたドイツ語を、ちゃんと話せるようになりたいと留学して、喋れないのに文法的には完璧であることに教師も学友にも驚かれたりする。様々な言語を完璧にしたいと思うところなど発達障害特有と本人は感じているようだが、やっぱり個性なのでは? その感性や引用の文献の多様さも興味深い。
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フォローしている方のおすすめで。著者本人は発達障害を全面に出しているが、誰しも初めての海外の街ではグダグダになる事が多い、というのは同じと思う。こだわり強すぎの大学教授のクセ凄い旅行記といった感じでさらっと読める。が、発達障害と言う大きなくくりではなく、さまざまな症状を持ちながら...
フォローしている方のおすすめで。著者本人は発達障害を全面に出しているが、誰しも初めての海外の街ではグダグダになる事が多い、というのは同じと思う。こだわり強すぎの大学教授のクセ凄い旅行記といった感じでさらっと読める。が、発達障害と言う大きなくくりではなく、さまざまな症状を持ちながら自己肯定的な文章に温かさも感じた。
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自閉症当事者の文学研究者 京大院→京都府立大准教授 40歳の年に発達障害の診断 エピソードは昔の偏屈学者ぽくもあり、発達特性といえばそんな気もする “僕は高価なものに興味が湧かない。資本主義に操られている気がして気持ち悪いのだ。 106 “僕の旅行はつねに、研究の観点か...
自閉症当事者の文学研究者 京大院→京都府立大准教授 40歳の年に発達障害の診断 エピソードは昔の偏屈学者ぽくもあり、発達特性といえばそんな気もする “僕は高価なものに興味が湧かない。資本主義に操られている気がして気持ち悪いのだ。 106 “僕の旅行はつねに、研究の観点からやっている。なるべくお金は使わない。ブランド品に興味がない。人付き合いがヘタだから、おみやげをどっさり買うこともない。自分を楽しませるガラクタを少し入手できれば十分だ。 107
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発達障害者、世界周航記、という2つの単語が連なる事に新鮮さと意外を感じて読んだ。 発達障害を持つ著者を通して描写される様々な国。 そこから想起される美術、文学など。 とても豊か。 発達障害を持つ人も海外旅行を楽しむ こんな事に意外を感じた自分の偏狭を恥じる。 まだまだ知らないこと...
発達障害者、世界周航記、という2つの単語が連なる事に新鮮さと意外を感じて読んだ。 発達障害を持つ著者を通して描写される様々な国。 そこから想起される美術、文学など。 とても豊か。 発達障害を持つ人も海外旅行を楽しむ こんな事に意外を感じた自分の偏狭を恥じる。 まだまだ知らないことばかりだ。
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著者は40代になってASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)と診断された、ドイツ文学者。大学院生の時に各国の留学生に囲まれた経験から海外への不安が消え、20代後半に世界各国を巡るようになったとのこと。 青へ強い執着を示すとか、気に入ったら同じものを食べ続けると...
著者は40代になってASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)と診断された、ドイツ文学者。大学院生の時に各国の留学生に囲まれた経験から海外への不安が消え、20代後半に世界各国を巡るようになったとのこと。 青へ強い執着を示すとか、気に入ったら同じものを食べ続けるとかにしてもそうだし、僕自身も海外は何の興味がなかったのに仕事きっかけで東南アジア各国に行くようになるなど、なんか身につまされるようなところがあった。『ルバイヤート』以上に親近感を抱ける詩集を知らない、というところも同じだ。 ただ、それだけでなく、文章自体がとても美しく、引用も知的で、何度も読みたい本だと思った。
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青に溺れる感覚。わからないでもない。ゆらゆらと揺蕩う感覚。作者が各国で感じる思いのそこここに、そう観てるのか。と、関心したり、納得したり。 それぞれの都市の思い出に、寄り添う本の引用。 こんな読書感想文書けたら、あんなに嫌だった夏休みの宿題の読書感想文も、楽しく書けたのかも。なん...
青に溺れる感覚。わからないでもない。ゆらゆらと揺蕩う感覚。作者が各国で感じる思いのそこここに、そう観てるのか。と、関心したり、納得したり。 それぞれの都市の思い出に、寄り添う本の引用。 こんな読書感想文書けたら、あんなに嫌だった夏休みの宿題の読書感想文も、楽しく書けたのかも。なんてことを思いながら読んだ一冊。
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