この国の危機管理失敗の本質 の商品レビュー
日本人の「楽観視している者が勇ましく、それが正しい」というような、つまり短期的に物事を見る人が多いことを論理的にダメであると説明していると私は受け止めた。いろいろと事例は積みあがっているのに、勇ましい(短期的な)ことばかりに目が行っている日本はどうなるのだろうか?
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現在、柳田邦夫氏のような存在感のあるノンフィクションライターはいるだろうか。日本人特有の危機管理の甘さを痛感するばかりである。昨今のコロナ対応での脆弱ぶりにも目を覆うばかりである。ドイツでの対応ぶりの比較されていたが唖然としてしまう。本書最後にある日本政治に対する分析はうなずくばかりである。政治不信と言われてすでに何十年。この先の日本は大丈夫であろうか?
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過去記事の寄せ集めながら、柳田氏の本質を突き核心に迫る書きっぷりは変わることなく切れ味抜群。その中でも2・3章が白眉。凶弾に倒れた安倍元首相の早逝は悼むが、1・5章を読んで、それでも国葬を執り行う蛮行に政治家の浅薄さが浮き彫りになる。
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柳田邦男はノンフィクション作家。「この国の危機管理 失敗の本質」という表題から分かる通り、危機的状況に陥った際の、日本の国としての対応の失敗の状況を描写し、その原因を探ったドキュメンタリーが本書だ。 多くの事例が取り上げられている、ミッドウェイ海戦、水俣病、福知山線脱線事故、鬼怒...
柳田邦男はノンフィクション作家。「この国の危機管理 失敗の本質」という表題から分かる通り、危機的状況に陥った際の、日本の国としての対応の失敗の状況を描写し、その原因を探ったドキュメンタリーが本書だ。 多くの事例が取り上げられている、ミッドウェイ海戦、水俣病、福知山線脱線事故、鬼怒川堤防決壊、熊本地震等。しかし、本書で中心的に取り上げられているのは、コロナ禍と東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故、特に後者の原発事故問題である。それを、「誰がこんな失敗をした」というような個人的な問題に帰すことなく、システムの問題として捉え分析を行い、本書で語っている。 原発事故で言えば、下記のような分析を行っている。 ①巨大津波の予測の無視と津波被害の減災対策の貧弱さ 岩手県から福島県、茨城県沖で大きな地震が起こり、今回のような津波が起こる可能性があることは、一部の学者等から実際に地震が起こる随分以前から指摘されていたが、それが前回起こったのが1000年以上前であり、古文書記録等もないことから「信頼性が低い、確率が低い」として退けられた。従って、福島・茨城では実際に起こったような津波は発生しないという前提での防災対策がとられたのだ。 ②原発の津波対策の無策と全電源喪失防止策の欠落 「福島原発には津波は来ない」ということは、福島原発の設計の前提となっていた。そのために、4機ある原発炉のいずれかで電源が喪失した場合には、隣の号機から電源をもらえば良い、という設計になっていたし、配電盤に浸水対策はなされていなかった。すなわち、実際に起きたような、4機の電源が同時にすべて喪失することは、設計の前提に全く入っていなかった。 ③放射性物質漏出防止策の欠如 福島に津波は来ることはないので、原発に津波による事故が起こることはない、原発は常に安全であるという前提であったがために、実際に原発から放射性物質が漏出され、付近の住民が避難することは、ほとんど想定されていなかった。従って、避難のマニュアル等がない、地震で道路が通行できないことが想定されていない、重病者の救助が想定されていない、等の問題が次々と発生してしまった。 こういった国家レベルでの危機管理の失敗、戦略・戦術のお粗末さは、太平洋戦争に遡ることができ、そこから何も変わっていないことを指摘している。 筆者は、福島原発事故の事故調査委員会に委員として参加している。筆者はその際に、政府による原発事故被害の全容調査を提言したが、現在でも無視されたままになっている。驚くべきことであるが、福島原発の被害の全容として国レベルでオフィシャルにまとめられた記録は存在しないのだ。そこから、筆者は下記のように述べている。 【引用】 こうした政府の事故や災害による被害の全容調査に対する不熱心さは、なぜこの国の危機管理対策がお粗末かという問題に直結する。戦争で言うなら、一つの作戦に失敗した時、戦略・戦術のどこに失敗の要因があったのか、なぜ重大な損害が生じたのかについて、冷徹に調査・分析をしないまま次の作戦に臨めば、再び惨憺たる目にあうのは必然だ。 【引用】 わが国の危機管理のやり方は非常にお粗末なままである。お粗末であるのは色々と理由があるだろうが、お粗末であったことの理由の分析と対策検討を行わないので、いつまでもお粗末なままである、というのが筆者の主張である。 柳田邦男の本を読むのは久しぶりであるが、非常に読み応えのあるものだった。
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