メルケル 世界一の宰相 の商品レビュー
この本を読む前提として以下の2点をまず整理する ・学生時代にサッチャー回顧録を読んでおり同じ「鉄の女」比較を意識した ・メルケル時代のドイツに住んで難民危機の社会の雰囲気も体感していた メルケルの基礎知識はあるつもりだったが幼少期の話しはへぇという話も多く興味深い。彼女にとって...
この本を読む前提として以下の2点をまず整理する ・学生時代にサッチャー回顧録を読んでおり同じ「鉄の女」比較を意識した ・メルケル時代のドイツに住んで難民危機の社会の雰囲気も体感していた メルケルの基礎知識はあるつもりだったが幼少期の話しはへぇという話も多く興味深い。彼女にとって自由という理念がもっとも崇高なものであり、ソ連および社会主義体制への根本的な不信感と裏返しのアメリカへの大きな期待がある。ある意味でドイツの戦後を背負った人物である。さらにいえば、欧州域内で大人しく振る舞うこと、なおかつ欧州の地盤沈下を食い止めるリーダー役を宿命付けられたドイツの悩み・葛藤と向き合った政治家といえる。 サッチャーは新自由主義を旗印に強いリーダーシップのもとに政策を実現していったが、メルケルは違う。スピーチは穏やかで調整型。つまらなさもあるし、彼女の時代の好調な経済はシュレーダー前政権時代の改革の成果との評価もあるくらいだ。著者もメルケルを必要以上に美化していないので読んでいて違和感はない。 だが時にメルケルは脱原発や難民受け入れのような施策を打ち出し与党内でも波紋を呼ぶ。当時メルケルには軸がないのだ、という声もあったが、本を読めば先述の自由に対する思いなど彼女なりの強い信念があったことはうかがえる。 メルケルが重きを置く「自由」の敵ともいえるプーチン、トランプとのやりとりは映画のシーンに使えそう。何度読んでも飽きない。引退を諦めて4期目に突入して訪れたのが新型コロナウイルス危機。移動の自由の貴重さを東ドイツで痛いほど知っている彼女だからこその説得はこの本のハイライト。その分、彼女が最後にやりたかった米中に遅れたデジタル改革と気候変動は手付かずに終わった。そこは残念な面でもある。 残った問題は右翼・極右の伸長、そして後継者難か。前者はメルケルでなくても欧州の他国で起きていたので彼女がいたから穏やかで済んだのかもしれない。後者は彼女の政治の世界の恩人・コールとの距離感の取り方と、それを知っているが故に寝首を掻きかねない自分の後継者を育てなかったマイナス面があるのかもしれない。 ちなみにメルケルが退任したのが2021年12月。プーチン率いるロシアがウクライナに侵攻したのが22年2月。メルケルが表舞台から去るのを待っていたかのようだ。先日の欧州議会選でも極右・右派が伸長した。ドイツ、および欧州の前途は多難だな、と感じた。 なお、メルケル本人の回顧録が最近出ておりタイトルは「Freiheit (自由)」。日本ではKADOKAWAから出るとのこと。こちらも必読。
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トランプにもプーチンにもエルドアンにも、その他の曲者にも立ち向かったメルケルさん、お疲れさまでした。フラフラかもしれませんね。歩ける? メルケル…?
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特に派手なパフォーマンスをするわけではなく、確実に、ゆっくりでも成果を上げていく人。功績や人気ではなく、結果を重視する人。 淡々としているため、人間らしさがなさそうに見えるが、実は非常に人間らしさがある。きっと信念を貫く気持ちがあるからそう見えているのか。 コロナというパンデ...
特に派手なパフォーマンスをするわけではなく、確実に、ゆっくりでも成果を上げていく人。功績や人気ではなく、結果を重視する人。 淡々としているため、人間らしさがなさそうに見えるが、実は非常に人間らしさがある。きっと信念を貫く気持ちがあるからそう見えているのか。 コロナというパンデミックが起きた時に、メルケルの性格が人々に安心感を与え、またその時の、人間味があるメッセージにより人の心を動かすことができた。 個人的に魅力のある、非常に面白い人だと思った。
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読む奇きっかけ、ロシアによるウクライナ侵略 世界が直面している問題に関心を向けられる内容 ヨーロッパの一国であるが、近年の独裁、侵略、分断の歴史がメルケルのスター性を自身に求めない人柄を作った 特に気づいた点 •外国目線で世界の歴史を振り返ると、日本など殆ど存在しない。 •...
読む奇きっかけ、ロシアによるウクライナ侵略 世界が直面している問題に関心を向けられる内容 ヨーロッパの一国であるが、近年の独裁、侵略、分断の歴史がメルケルのスター性を自身に求めない人柄を作った 特に気づいた点 •外国目線で世界の歴史を振り返ると、日本など殆ど存在しない。 •プーチンの厄介さをヒットラー独裁の歴史と東ドイツで育ったメルケルはとても理解していた。 •目を引くような事はしないが科学者らしく、着実で正確な措置ができ支持されていた。 •先端分野でトップに立つ中国の脅威 印象的な章 シリア難民の受け入れ 国民の不安、反対の声が相次いでも受け入れる意志を貫いた、生い立ちとも深い関わり感じる章です。 意外に面白い点 サッカー好きとしては熱狂的サッカーファンのメルケルチャーミングさ溢れ話も◎
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政治家として16年ドイツの首相を務めたメルケル。それを支えた自分の資質を一つだけ挙げるとすれば何かと著者がインタビューした際に得られた答えは「忍耐力」。その言葉には、途切れぬ集中力やダメージを受けてからの回復力(レジリエンス)も含まれると著者。読み終えて、この意味がよく分かる。 ...
政治家として16年ドイツの首相を務めたメルケル。それを支えた自分の資質を一つだけ挙げるとすれば何かと著者がインタビューした際に得られた答えは「忍耐力」。その言葉には、途切れぬ集中力やダメージを受けてからの回復力(レジリエンス)も含まれると著者。読み終えて、この意味がよく分かる。 為政者を取り上げた著作には、軸とする好奇の視点に加え、好意あるいは悪意が、どちらかに偏って主張される。本著は明らかに前者だ。メルケルを批判しようにも、隙が無かったとも言えるかも知れない。東ドイツ出身の科学者で女性政治家というマイノリティ。少なからず、そうしたバックボーンは彼女の人格に影響しているだろう。知的で理性的、忍耐強く、プーチンに仕返し、堂々と主張すべきを述べ、一方で涙ぐみながら移民の少女の話を聞くほどに、常識的で優しい感性、道徳に満ちている。 とりわけ、各国のトップとの交友秘話が本著の面白さだ。ブッシュ、オバマ、トランプ、プーチン、サルコジ、マクロン。ギリシアのアレクシス・ツィプラス。例えば、2007年、メルケルが犬を怖がると知ったロシアのプーチンは、自らのソチの豪邸に招き、愛犬のラブラドールレトリバーをけしかけた。対してメルケルは、プーチンのトラウマであるKGB時代潜伏地のドレスデンで意趣返し。メルケルとブッシュ大統領は良好な関係。当初は気候変動に関して懐疑的だったアメリカ大統領を味方につけることができた。ブッシュは気候変動が現実に起きていることを初めて公に認め、2050年までに排出量を半減させることを検討するとG8サミットで。また神経をとがらせていたプーチンを気にして、メルケルはウクライナとジョージア共和国をNATOに加えると言うブッシュの計画に反対し、メルケルの意見が通った。今の世界情勢を見るにメルケルの存在感は大きい。ただ、本著はメルケルを正義、プーチンやトランプを悪者として単純化している印象だ。 読めば読むほど、国のトップの役割の大きさを改めて感じる。日本は大丈夫だろうか。本著の副作用として、その不安が増長してしまった。
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たまたま図書館から年末年始をはさんで借りることができたのでなんとか読み切れた。たいへん大部な本であるが、これくらいないと超人メルケルの業績を振り返ることは難しい。 頭脳明晰身体頑健な人間が強い信念と信仰心を持って仕事をするというのはこういうことかと思わせられる内容だった。それはこ...
たまたま図書館から年末年始をはさんで借りることができたのでなんとか読み切れた。たいへん大部な本であるが、これくらいないと超人メルケルの業績を振り返ることは難しい。 頭脳明晰身体頑健な人間が強い信念と信仰心を持って仕事をするというのはこういうことかと思わせられる内容だった。それはこの著者にも共通することなのであろう(信仰心についてはわからないが)。 それにしても、やはりプーチンはメルケル不在の時を待っていたのだと思わずにはいられない。言葉が通じる相手を失ったプーチンは孤独な裸の王様である。同情には値しないが、お互いに不幸なことだと改めて思う。
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こういう本をメルケルが現役のときに読んでいたら、興味を持って世界の動向を観ることができたと思う。プライベートを明かさない主義のメルケル、その分、より一層、政治家としてのキャラクターの強さが際立っている。 この本は生い立ちから、16年務めた首相を退任するまでが描かれている。政治家...
こういう本をメルケルが現役のときに読んでいたら、興味を持って世界の動向を観ることができたと思う。プライベートを明かさない主義のメルケル、その分、より一層、政治家としてのキャラクターの強さが際立っている。 この本は生い立ちから、16年務めた首相を退任するまでが描かれている。政治家、首相として何が稀有なのか、何がベースなのか、どうやって特別な存在になったのか。 プーチン、オバマ、トランプとのやり取りは、とても興味深かった。 第二次世界大戦後の1954年に西独で生まれたメルケル。牧師の父は布教のために東独へ渡り、1961年にはベルリンの壁が築かれた。秘密警察国家・東独で育ったメルケルは、キュリー夫人に憧れて科学者の道へ。現実から逃げるために、科学に没頭した。敬虔なクリスチャンで、こうやって生涯の強さの源が培われた。頭脳明晰で、東独では堪能なロシア語も身につけた。 ベルリンの壁崩壊に衝撃を受けたメルケル。ナチス時代と共産主義の圧政の反動から、多くの東ドイツ人は政治活動を始める。メルケルもその一人で、西ドイツの巨大政党「キリスト教民主同盟(CDU)」に加わる。そして、東ドイツの女性として機を得たメルケルは、チャンスを逃さずに政治家としての地位を上げていく。そして51歳で初の女性首相に。 難民受け入れ問題で大きく支持率を落とし、引退を決めていたことから死に体という見方もされたメルケルだったが、コロナ禍への対応で指導力を発揮して再び輝いた。支持率は80%まで上がった。あのスピーチは、言葉巧みでない政治家・メルケルとしては珍しいものだったらしい。当時、メルケルと比べて日本の総理大臣や政治家のスピーチに失望したことを思い出す。
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THE CHANCELLOR: The Remarkable Odyssey of Angela Merkel https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163914732
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民主主義を守るためのエッセンスが詰まっています。メルケルの様な政治家が今後も誕生して世界をリードしていって欲しいと心から願う気持ちになりました。産まれた時から自由が当たり前だった戦後生まれの日本人には是非読んでもらいたいです。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
著者カティ・マートン、訳者倉田幸信&森嶋マリが素晴らしいのだと思います。「メルケル 世界一の宰相」、2021.11発行、全467頁、読みやすく、わかりやすく、読了しました。1954.7.17、ハンブルクで生まれたアンゲラ・メルケルは、牧師の父が共産圏での布教を目指し、東ドイツに。流血なしで解放したベルリンの壁崩壊に衝撃を受け、35歳で科学者から政治家へ転身。51歳で初の女性首相に。2005~2021年、首相として過ごした16年間を中心とした評伝です。アメリカの覇権が終了し、ロシアと中国の覇権主義が台頭、ロシア、朝鮮、中国という核保有国、独裁政権に囲まれ、それぞれと領土問題を抱える日本、ロシアのウクライナ侵攻が続く今日、いろいろなことを考えさせられた書でした。
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