老人支配国家日本の危機 の商品レビュー
著名な人口学者であるエマニュエル・トッドによる著作。 「日本のシルバー・デモクラシーへの言及と提言」 「英米の急速なアンチ・グローバリゼーション的動向」 「ドイツ帝国と化したEU」 「日本の家族形態の系譜」 大きくこの4つのテーマが本書では解説される。 終始軽快な語り口で、内...
著名な人口学者であるエマニュエル・トッドによる著作。 「日本のシルバー・デモクラシーへの言及と提言」 「英米の急速なアンチ・グローバリゼーション的動向」 「ドイツ帝国と化したEU」 「日本の家族形態の系譜」 大きくこの4つのテーマが本書では解説される。 終始軽快な語り口で、内容がよく理解できた。 知らない知識も多くあり、特に第二部の論は新鮮で面白かった。 これは、現在の世界で最も支配的なイデオロギーである「資本主義」「民主主義」はともに英米(アングロサクソン)から出現しており、これらのイデオロギーがもし終焉を迎えるとしたら、それはやはりアングロサクソンからもたらされるだろう、という主張である。 一方、国家間の相違をすべて「家族形態の違い」だけで説明しようとするのは、些か暴論かと思った。 著者曰く、日本人がスクラップ&ビルドを苦手としているのは、日本の伝統的な家族形態が「直系家族」(男子長子が跡取りとなり、結婚した後も父の家に住んで、すべてを相続する。親子関係は権威主義的で、兄弟は不平等)であるからだとする。 対して、英米は「絶対核家族」(子供は早くから親元を離れ、結婚すると独立した世帯を持つ。遺産相続は親の意思による遺言で決定されるため、比較的親子関係は自由)なので、イノベーションの発想に優れるとする。 しかし、ここまで厳密な直系家族は現在の日本では残っておらず、英米のスタイルに近付いている。にも関わらず、この違いだけで国家間のパフォーマンスの差異を説明しようとするのは無理があるだろう。 日本がこの30年間停滞に甘んじているのは、「財政出動が不足しているためにデフレマインドから抜け出せていないこと」と「労働生産性が上がらないこと」の二つが要因である。 本書の論とは外れるので、仔細についてはここでは書かないが、前者は完全なる政治上のミスであり、後者は日本人の怠慢がもたらした結果に過ぎない。 無能で無知であるにも関わらず、勉強しようとも努力しようともしない、有能な者の足を引っ張ることしかできない人間が日本には多過ぎる。 この脱却を試みるにも既得権益と保守権力、老人が阻害するため、改革も遅れるという構造が日本には定着してしまっている。 総括。 本書は原因の考察と解決策の提示に関しては疑問がもたれるものの、「人口動態」を切り口とした各国の分析に優れる。一般論とは異なるが、面白い観点である。 今後の日本の在り方を考える上で参考にしたい一冊。
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いくつかのメッセージをまとめた本だから首尾一貫している訳ではなく、本の題名に合ってないようなものも含まれている。しかしながら特に前半は示唆に富むメッセージが多く、少子化への対応については本当に急がないとこの国はどんどん衰退していくのだろう。 移民の受入れ、同化、教育などは国が先導...
いくつかのメッセージをまとめた本だから首尾一貫している訳ではなく、本の題名に合ってないようなものも含まれている。しかしながら特に前半は示唆に富むメッセージが多く、少子化への対応については本当に急がないとこの国はどんどん衰退していくのだろう。 移民の受入れ、同化、教育などは国が先導してやらなくちゃいけないこと。カネを配るよりも先に、である。目指すべきは自国通貨が高くなるような施策であり、それだけお金を払ってでも行きたい、そこで働きたい、と思わせる国づくりだろう。簡単ではないだろうが、目指すべきだ。
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タイトル詐欺。編集社の会議で最悪のタイトル案と最悪のサブタイトル案が進んでいく様を見たかった。 人口学者の著者が、長男一人が財産を相続する直系社会である日本やドイツ、兄弟で平等に相続するアングロサクソン国の違いを結構しつこく語る。タイトルに反して日本にかなり好意的でリベラルを自...
タイトル詐欺。編集社の会議で最悪のタイトル案と最悪のサブタイトル案が進んでいく様を見たかった。 人口学者の著者が、長男一人が財産を相続する直系社会である日本やドイツ、兄弟で平等に相続するアングロサクソン国の違いを結構しつこく語る。タイトルに反して日本にかなり好意的でリベラルを自称する著者が日本に核武装を勧めるところは面白い。日本国内の左翼の主張では絶対にありえない。 今後、ネオリベラリズムの限界が見えてきて、世界がどう落ち着くのか、もしかしたらフランス革命から始まる民主主義の終わりに立ち会ってるのかもとか考えてしまう。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
エマニエル・トッドのエッセイ集。2013年から2021年までの欧米、日本に関する家族・文化、政治、経済論。したがって各編が東日本大震災後、新型コロナウィルス禍発生直後までの事象をもとに語られている。数年後に読むことになったが、当時の予測が実際どうなったかがわかるという視点から面白い。ただし、ロシアを好意的に論じている部分があるが、ロシアによるウクライナ侵略戦争で世界が翻弄されている今、政治経済の予測をすることは大変難しいことを痛感する。本のタイトルから、著者が日本の高齢化を中心に述べているかのように推測したのだが、それはごく一部に過ぎない。
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訳者が良いのか、とても読み易くスラスラ読めた。 全く外れてはないが題名と内容の乖離が気になって想像してたのと違うと感じたし、2014年の文章があったりと、編集にも無理があったかなと思う。 でもトッド氏の解説は目から鱗で、彼ならウクライナ問題をどう解釈するのか是非知りたい。
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文春新書は本の題名と中身の落差が激しいと思うのは私だけでしょうか。この本は日本のメディアに載ったトッド氏のインタビューや対談などが集められており、老人支配国家や日本の危機というキーワードも外れてはいないものの、それだけではないという読後感です。時事ネタというか、その時々のトピック...
文春新書は本の題名と中身の落差が激しいと思うのは私だけでしょうか。この本は日本のメディアに載ったトッド氏のインタビューや対談などが集められており、老人支配国家や日本の危機というキーワードも外れてはいないものの、それだけではないという読後感です。時事ネタというか、その時々のトピックスが中心となりますが、トッド氏の発言は示唆に富んでおり、当代一級の知識人が見ている世界感をキャッチーに垣間見ることができます。文集的なものだけにちょっと重複感がありますけどね。あと、時系列が滅茶苦茶なのは不満でした。今後、文春新書のトッドシリーズは題名に惑わされずに買いたいと思いました。
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日本の少子化、非婚化は歴史的な直系家族の習慣による背景がある、と言う。所謂女性の地位が低く、男性、更に親、老人に対する「家族」敬いが高いことに理由がある、という。日本の少子化対策は目下政治家の最大の課題だが、既に30年前から言われていながら大胆な変革、政策が実行されないのは、その...
日本の少子化、非婚化は歴史的な直系家族の習慣による背景がある、と言う。所謂女性の地位が低く、男性、更に親、老人に対する「家族」敬いが高いことに理由がある、という。日本の少子化対策は目下政治家の最大の課題だが、既に30年前から言われていながら大胆な変革、政策が実行されないのは、その直系家族(政治家の2世3世)では無理だ、という事を言っているのではないだろうか。(政治家は現状維持が容易く批判も少なく、先延ばし策が最良だ、という考え方)
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世界の捉え方が変わる本 フランスの歴史学者、エマニュエル・トッドへの文藝春秋のインタビュー、対談集。 トランプの当選予想やその保護主義的な政策の評価、逆にネオリベラリズムへの批判は日本の主流の論調と異なるものの、根拠となる歴史観を踏まえると一定の説得力がある。日本向けの話として...
世界の捉え方が変わる本 フランスの歴史学者、エマニュエル・トッドへの文藝春秋のインタビュー、対談集。 トランプの当選予想やその保護主義的な政策の評価、逆にネオリベラリズムへの批判は日本の主流の論調と異なるものの、根拠となる歴史観を踏まえると一定の説得力がある。日本向けの話としては、少子高齢化への対策が最優先だと何度も触れられ、日本でも30年前から問題を認識しているのは先見性があったのに、何も手を打たず口だけと手厳しい。 右派左派、格差、福祉の話は価値観の問題でもあり、一致した正解などないのだが、トッドは経験主義的な立場で価値観、倫理に踏み込まないことで論理が明解になっている。それでも本能的な好き嫌いは分かれそう。
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タイトルに反し、米国、欧州、それれぞれの対としての中国やロシアのことが語られており、それらの知見を得るのに適切な本だった。
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タイトルに惹かれて読んだが、老人が支配している国家の問題について語られるわけではなかった。むしろ、他国の話が大半である。 少子化は国家の衰退に繋がる。出生数の減少が当たり前になっている今日だが、日本は少子化問題に本気で取り組まないといけない、危機的状況が来ているのだと感じた。
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