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遠慮深いうたた寝 の商品レビュー

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50件のお客様レビュー

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2022/08/25

『そのうちすぐにくたびれてくる。部屋をうろうろ歩き回ったりベッドに寝転がったり、枝毛を抜いたりして無為なひとときを過ごす。あるいは誰か作家のブログを読み、「ホテルにカンヅメになって連載の三十枚分、一晩で仕上げました」などという記述に感心してうなり声を漏らす』―『業務日誌』 ブク...

『そのうちすぐにくたびれてくる。部屋をうろうろ歩き回ったりベッドに寝転がったり、枝毛を抜いたりして無為なひとときを過ごす。あるいは誰か作家のブログを読み、「ホテルにカンヅメになって連載の三十枚分、一晩で仕上げました」などという記述に感心してうなり声を漏らす』―『業務日誌』 ブクログのプロフィールにある「好きな作家など」に挙げてはいないけれど、小川洋子は新作が出ると取り敢えずは手に取ってみる作家の一人。好き、というのとは違うのだけれど、どうもこの同年代の作家の描き出す世界観には中毒性があるようで、気になる作家なのだ。 小川洋子の小説の根底には、何処かジオラマを愛でる心に通ずるものがあるような気が漠然としていたけれど、このエッセイ集を読んで尚のことその感を強くする。この作家の描く世界は、日常の延長上にありそうでその実どこにも存在しない世界、とやや乱暴に要約することが出来るように思えるが、ただし存在しないと読者が思い込んでいるとその世界への入り口が落とし穴となって開き、うっかり足を踏み出したものを誰にも気付かれない内に連れ去ってしまう。けれどもその連れ去りは未確認飛行物体による連れ去りのように何処でもない世界への連れ去りではなく、さっきまで外側から眺めていた模型世界の内側のようなところへの連れ去り。そこへ入り込んだ時に感じる隔絶感、それを味わってごらんなさいと、この同年代の作家は薄い笑みを浮かべてこちらを試しているように感じる時がある。 チャールズ・シミックに、小川洋子の小説の世界観に馴れた読者であれば既視感を抱くのではないかと思う「コーネルの箱」という変わった本があるけれど、それはシミックがジョセフ・コーネルの残した小さな造作の世界に魅せられて文章を添えたという本。シミック同様、コーネルが作り出したような世界を巧まずしてものしてしまう人々にこの作家が魅せられていることがエッセイの端々から伝わってくる。その思いが昇華すると、例えば「琥珀のまたたき」や、「密やかな結晶」、「猫を抱いて象と泳ぐ」、「人質の朗読会」などの「閉じ込められた」世界観を持つ作品となるのだろう。そんなことを改めて作家本人から教えられたような気になる。 作家として幾つもの賞を受賞し、多くの読者に受け入れられているのだから、それが既に非凡な才があるという証拠であるとは思うけれど、作家本人は繰り返し自身の凡庸さを嘆く。例えばそれはモーツァルトの音楽の天才性を理解できる耳を持ちながら自らはそんな楽曲を書き上げることは出来ない音楽家の嘆きにも似たような心持ちか。独創性という簡単な言葉で言ってしまいたくはないけれど、十全なアナリーゼの結果解ったことを基に別の楽曲の構築しても、それが如何に緻密に天才性を分析的になぞったものであっても、拵えたもの、という印象がつきまとうだろう。小川洋子の描き出す異質な世界もまたどこかそんな拵えものの持つこじんまり感がある、というと少し乱暴に過ぎるかも知れないけれど、作家がエッセイの中で繰り返し語るのはそんな自分の作品に対する感慨であるように思える。 特にそのことが垣間見えるような気がするのは「Ⅲ 物語の向こう側」と題された章。ここに集められた短い文章では、各々の小説の下絵のようなものが語られ、作家が何に啓発されどんな世界を構築していったかの一端が明かされているのだが、そこには思いの外意外なものはない。もちろん作家が受け止めた衝撃や心象の根源にまで分け入って見い出したものを別の世界に移し替えて構築する作家の力にいつも魅せられ読んでいるのだけれど、こんな風に舞台裏を明かされてみると、この作家が如何に素直な人であるのかが解り、そのことがむしろ作風の異質感からは乖離して意外ですらある。そう言えば、小川洋子には工場見学の様子を綴ったエッセイ集(そこに工場があるかぎり)があったけれど、本人の率直な感動が前面に出ていてまるで夏休みの絵日記のようだなという印象を受けたことを思い出した。きっとこの作家は、例えば山下清のように、そんな自分の中に沸々と湧き上がる心象を何度も何度も吟味して新しい絵を描くという作家で、その再現の中に魅力を詰め込む作品を生み出すことの出来る作家なんだろう。そんなことを思った一冊。

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2022/07/31

エッセイ本。 短編集だと思い込んでいたので読み始めて「おっと、エッセイだったか」となりました。 小川さん独特の視点を通して見る街の景観を想像したり、日々の過ごし方に思いをはせてみました。 海外に行かれたときのエピソードはどれも心温まる。そして少しだけ寂しさもある。 異国に触れると...

エッセイ本。 短編集だと思い込んでいたので読み始めて「おっと、エッセイだったか」となりました。 小川さん独特の視点を通して見る街の景観を想像したり、日々の過ごし方に思いをはせてみました。 海外に行かれたときのエピソードはどれも心温まる。そして少しだけ寂しさもある。 異国に触れるというのは暖かさがあり、ひんやりとした冷たさやカサカサとした乾燥した空気もあり。 見えない壁を感じるところにあるのかな。

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2022/07/25

久しぶりに美しい文章にふれた感じがしました。 エッセイという短い文章のなかに、伝えたいこと、感じたことの全部が優しく心地よく響いてきて、あっという間に読んでしまった。 なかでも「涙もろい」がお気に入り。何度も読み返してしまいました。

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2022/06/13

小川洋子さんのものの見方とか出来事の捉え方、表現の仕方が本当に好きで、こんなふうに自分の周りの世界を感じ取れるようになりたいと読むたびに思う。 本作は日常生活のなんてことない瞬間とか、推しを推す楽しさとか、好きな本や作家さんのこととか、より身近な内容が多くて面白かった。 応援熱...

小川洋子さんのものの見方とか出来事の捉え方、表現の仕方が本当に好きで、こんなふうに自分の周りの世界を感じ取れるようになりたいと読むたびに思う。 本作は日常生活のなんてことない瞬間とか、推しを推す楽しさとか、好きな本や作家さんのこととか、より身近な内容が多くて面白かった。 応援熱年齢比例説、わかりみが深すぎて思わず笑ってしまったな……!

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2022/06/11

ああもう、厠本だったからして、さすがに付箋を持ち込むわけにはいかず、美しくてすーっと心に落ちていった文章があるページをつい3日くらい前まで覚えていたのに、忘れてしまっていた。悔しい。あとで探す。 いま、平行して読んでいる本もエッセイなのだが、私は若かりし頃、エッセイなるものが苦...

ああもう、厠本だったからして、さすがに付箋を持ち込むわけにはいかず、美しくてすーっと心に落ちていった文章があるページをつい3日くらい前まで覚えていたのに、忘れてしまっていた。悔しい。あとで探す。 いま、平行して読んでいる本もエッセイなのだが、私は若かりし頃、エッセイなるものが苦手であった。「エッセイ」というなんだかお高くとまっているような雰囲気を醸し出しているカタカナ語が嫌いだったし、「私が私が」と我が全面に表れているような気がして、どうも読む気がしなかった(佐藤正午さんを除いて)。年を重ねて、ずいぶんとエッセイが好きになった。特に好きな作家さんの頭の中を直に覗き見る感じは、その作家さんの小説にも結びついていき、グッと距離が近くなる。作家さんとも、小説とも。 「どのエッセイも結局は 文学のない世界では生きられないことを 告白している」(帯文より) 小川さんの書く文章はやはり格別、と思う。日々の暮らしはこんなにも幅をもたせることができるのか、と思う。優しいとか強いとか一見前向きなことばかりでなく、心配も傷心も悲しみも(今気づいたが漢字に全部「心」がついちょる!)受け入れて、静かに浄化してゆく。ていねいに生きよう、と思わせてくれる。 ところで、野球が大好きな小川さんは、大の阪神ファン。阪神にまつわるエッセイも珠玉。おかげで、阪神にも目が向くようになった。 装丁も素敵。飾りたい。

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2022/06/09

小川洋子さんのことは恥ずかしながら全く知らなかったのですが、書店で陶磁器のような装丁の美しさに惹かれて衝動買いしたまま永らく開いていませんでした。 その後、ブクログで積読していた洋書の何冊かが小川洋子さん著のものであることにようやく気づき、驚き、ご縁を強く感じたので読むことにし...

小川洋子さんのことは恥ずかしながら全く知らなかったのですが、書店で陶磁器のような装丁の美しさに惹かれて衝動買いしたまま永らく開いていませんでした。 その後、ブクログで積読していた洋書の何冊かが小川洋子さん著のものであることにようやく気づき、驚き、ご縁を強く感じたので読むことにしました。まずは手持ちの本であるこの本から。 綺麗で丁寧な文体で豊かな時間を過ごせました。他、別の経緯で積読リストに入っていた本も読むことにします。

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2022/06/07

たった数ページのエッセイ 文章なのに時々わっと衝撃をうけるような一文があったり、綺麗な言葉に心癒されたり ほろりと涙が溢れてしまったり、色々な感情を突き動かしてくれるような本だった。 でも小川さんからすると、文章を光らせたのは作家ではなく私自身。なんかどこまでも綺麗な心の人だなと...

たった数ページのエッセイ 文章なのに時々わっと衝撃をうけるような一文があったり、綺麗な言葉に心癒されたり ほろりと涙が溢れてしまったり、色々な感情を突き動かしてくれるような本だった。 でも小川さんからすると、文章を光らせたのは作家ではなく私自身。なんかどこまでも綺麗な心の人だなと思う。 小川さんの見てる世界を少し知れるような そんな本。私も楽しく生きてるつもりだけど、小川さんの見ている世界ってもっと楽しそう。 もっと色々みて 感じて 生きていきたい

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2022/06/06

機内でのCAの心配りをスケッチした「幸福のおすそわけ」、吠え続ける犬を怖がる母親を「でも女の子だよ」と宥める少年「小さなナイト」、閉業する本屋への思いを綴った「本屋さんの最終日」など、日常で出会う優しさに触れたエッセイ。後半にあるユダヤ人収容所の中で人間らしさを失わない人々を綴っ...

機内でのCAの心配りをスケッチした「幸福のおすそわけ」、吠え続ける犬を怖がる母親を「でも女の子だよ」と宥める少年「小さなナイト」、閉業する本屋への思いを綴った「本屋さんの最終日」など、日常で出会う優しさに触れたエッセイ。後半にあるユダヤ人収容所の中で人間らしさを失わない人々を綴った二冊の本を紹介した「答えのない問い」は、文学者としての責任と覚悟を示した秀逸なエッセイで、読み返さずにはいられませんでした。

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2022/06/04

日々の出来事、思い出、創作、手芸、ミュージカル・・・温かな眼で日常を掬い取り、物語の向こう側を描く。2012年から現在まで続く「神戸新聞」好評連載エッセイ「遠慮深いうたた寝」を中心に、約10年間に発表されたエッセイの中から厳選し、「手芸と始球式」「物語の向こう側」「読書と本と」の...

日々の出来事、思い出、創作、手芸、ミュージカル・・・温かな眼で日常を掬い取り、物語の向こう側を描く。2012年から現在まで続く「神戸新聞」好評連載エッセイ「遠慮深いうたた寝」を中心に、約10年間に発表されたエッセイの中から厳選し、「手芸と始球式」「物語の向こう側」「読書と本と」の4章で構成する珠玉のエッセイ集。 実は小川洋子さん、初めて。こんなに有名な方なのに読んだことがなかった。陶器のような表紙が素敵すぎて一目惚れ。こういうデザイン、すごくおしゃれ。内容は、さすが作家さんって普段からこんな面白い視点で物事を見ているのかーと思う場面がちらほら。タイトルも内容も、短いのにすっと心に入ってくる不思議な引力のある文章でした。今後は小説も読んでみたい。

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2022/05/30

手に持った時にひんやりと感じる本です。 美しい装丁が、小川さんのエッセイを護っているようです。                           「よくがんばったね」…            過去と現在を肯定する優しさにあふれている 世の中の、すべてのことはいつか終わる。...

手に持った時にひんやりと感じる本です。 美しい装丁が、小川さんのエッセイを護っているようです。                           「よくがんばったね」…            過去と現在を肯定する優しさにあふれている 世の中の、すべてのことはいつか終わる。… 本人の努力とはまた別のところで、何ものかの差配により、終わりの時が告げられる。 再読には意味があるのだと思う。百年でも二百年でも小説は、書かれた時のままの形でそこにあり続ける。にもかかわらず、読み手の成長や社会の変化によって、見せる姿が違ってくる。その時必要とされているものを、 差し出してくれる。 小川さんの日常を紡いだ言葉が、今の私を 励ましてくれます。 自分が欲しい言葉を見つけては、ゴクゴクといただきました。

Posted byブクログ