進化の技法 の商品レビュー
批判者から「進化は漸進的にではなく一気に進む」と言われたダーウィンは、「漸進的な変化には機能の変化が伴う」と反論した。後世の研究は、正に「機能の変化」こそ、生命史上の大進化が起きたメカニズムを説明するキーワードだと明らかにした。古生物学者が発生生物学、遺伝学、ゲノム研究の成果から...
批判者から「進化は漸進的にではなく一気に進む」と言われたダーウィンは、「漸進的な変化には機能の変化が伴う」と反論した。後世の研究は、正に「機能の変化」こそ、生命史上の大進化が起きたメカニズムを説明するキーワードだと明らかにした。古生物学者が発生生物学、遺伝学、ゲノム研究の成果から進化の謎に迫っていくサイエンス・ノンフィクション。 太古の水棲生物が陸に上がるときに肺を持つことができたのはなぜなのか。飛ばない恐竜の表皮に今の鳥類と同じような羽毛が生えていたのはなぜか。なぜさまざまな動物の種で胚が似ているのか。こうした謎を解き明かす過程で、ダーウィンが残した「機能の変化」という言葉がいかに的確に進化を表現していたかがわかってくる。生物はほとんど同じ材料を共有しながら、それを転用したり複製したり、外部から侵入してきたウイルスを利用したりして個々の姿を変えてきたのだ。 特に、「ジャンク」と呼ばれ、無駄なストックだと思われていた重複遺伝子が今の動物に必須な五感や呼吸の機能を生んだとわかるくだりはワクワクした。重複遺伝子という言葉自体が初耳だったけど、機能が先にあったのではなく無駄に作られたコピーが次の展開に繋がっていくというあたり、おもしろ例え話に使えそう。古代生物の脳にタンパク質が発現したり、卵生から胎生に変わるきっかけがウイルスだった! というのは『天冥の標』のノルルスカインだなぁ。 現在、すべての動物が同じ遺伝子群を使って体を作りだしているということがわかっており、それによって多発的な進化が説明できる。そのことは、つまり初めから生命史をリプレイしたとしても動物たちは同じ発生の過程を辿って今と同じ姿になるだろうことを示すという。これが現代における〈存在の大いなる連鎖〉なのだ。 本書は研究者たちの列伝でもあって、キャッチーな写真とキャプションで楽しませてくれたり、性差別と闘いながら独自に研究を続けた女性たちにスポットを当てている。今研究史を書くなら当たり前に考えなければいけないことだとは思うけど、女性科学者に対する偏見に気を配った書き方がされているのでストレスを感じず読めた。 注釈と別に「さらに勉強したい人のために」が用意されてて超親切! 著者は元々化石を掘る古生物学の人なので、初期両生類の化石発見をめぐる一文はローレン・アイズリーを思わせるセンス・オブ・ワンダーに満ちていた。この人好きだなぁ。他の著作も読んでみよう。
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☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆ https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC10594748
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
30年ほどまえ、修士論文のために遺伝的アルゴリズムを研究していた。出来上がった論文はゴミだったが、いくつか知見を得ることはできた。最大の知見は、画像認識あるいは人工知能研究のためには当時の時点ではコンピュータのパワーが圧倒的に不足しているということ。 当時、遺伝的アルゴリズムの研究者にどれほどの人材が参加していたかは不明だ。もともとが遺伝子のふるまいをごくごく単純にモデル化したにすぎないもので、実用に耐えうるのかという疑問が指導教員をして当方にテーマを授けさせたと感じている。単純なモデルに不安を感じたのは指導教員だけではなかったのだろう。門外漢が付け焼刃的な学習から得た遺伝子のそれっぽいふるまいを付け足した、やくたいもない論文だらけだった。この分野に未来はあるのだろうかと思ったものだ。 遺伝子の振る舞いは、これまで思っていたものよりも静的ではない。免疫が外部からの侵入者と常に戦っているように、ウィルスという外敵だけでなく、自らのコピーミスとも戦っている。稀な出来事ではないらしい。 そんなことを本書を学んだ今ならば、少しは面白い遺伝的振る舞いを仕込めたかもしれないなどと懐古する。 「何事も、当然のことながら、私たちが始まったと思った時に始まっているわけではない」 この言葉の意味するところは、進化という言葉に想起される個人的なイメージを払拭した。進化のために遺伝子セットが生み出されるのではなく、すでに存在する遺伝子が必要に応じてオンオフされるということだ。本書ではサンショウウオの例と、浮袋を持つ魚の例があげられている。 サンショウウオの食餌は、水棲時においては吸い込む方式で、陸棲時はカエルのように舌を伸ばして捕食する。舌を伸縮する方法は筋力によるものではなく、いわば指先につまんだなめらかなものを弾き飛ばすようなもので、エラだったものが変化したものだという。環境要因で遺伝子がオンオフされて、同一個体でそう成るという。 地球上の生物の進化は海から始まり、陸に上がったといわれている。陸に上がったから肺が発生したのではなく、まず浮袋に類するものがあり、それが変化したのだという。 そしてまた、遺伝子に対する漠然とした疑問が本書で解消された。すべての細胞に含まれるという遺伝子は、適材適所の発現をなにによって制御しているのかというものである。 遺伝子の中には発生をコントロールする遺伝子がある。中学の理科だったろうか、胚葉の部位が身体の部位に対応していることを学んだのは。遺伝子の並びもそれに準じている、ということらしい。
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ダーウィンの5文字の言葉:「何事も当然のことながら、私たちが始まったと思った時に、始まっっているわけではない」 発生学の胎動 ゲノムに宿るマエストロ 美しき怪物 進化というモノマネ師 私たちの内なる戦場 重りの仕込まれたサイコロ 生命のM&A
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創造論者の教授の下では進化の話ができないとか…20世紀の米国で、ですよ!骨の髄までニッポン人のワタクシにはピンと来ない話なんだけど、よくこの手の話、聞くしなあ。科学と信仰って、折り合いつけるの大変なヒト達がいらっしゃるんですよね、うんうん。 ところで、脳オルガノイドって、倫理的に...
創造論者の教授の下では進化の話ができないとか…20世紀の米国で、ですよ!骨の髄までニッポン人のワタクシにはピンと来ない話なんだけど、よくこの手の話、聞くしなあ。科学と信仰って、折り合いつけるの大変なヒト達がいらっしゃるんですよね、うんうん。 ところで、脳オルガノイドって、倫理的には大丈夫なのかな? 三胚葉の分化とか、高校生物の復習を思わずしちゃったよ(笑)
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レビューはブログにて https://ameblo.jp/w92-3/entry-12741616444.html
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