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骨を引き上げろ の商品レビュー

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7件のお客様レビュー

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2024/05/30

この作品の中の救いや希望はどこにあるのかと、読後まず、それが心に浮かんだ。探す。探した。 すぐには浮かばなかったけれど、確かにある。 ただ、それはある一面であって、これからも続く人生の中ではごくわずかな割合かもしれない。 ハリケーンカトリーナで、家族、コミュニティの仲間たちが誰...

この作品の中の救いや希望はどこにあるのかと、読後まず、それが心に浮かんだ。探す。探した。 すぐには浮かばなかったけれど、確かにある。 ただ、それはある一面であって、これからも続く人生の中ではごくわずかな割合かもしれない。 ハリケーンカトリーナで、家族、コミュニティの仲間たちが誰も死なずにすんだ。家を失った人に手を差し伸べる仲間たちがいる。 カトリーナで世界は劇的に変わった。でも、境遇は変わらないのか。貧困層は貧困層のまま。生きていく、生活のためには盗みもする。大学進学もお金の面で難しく、そもそも諦めもする。 限られた中での生活。 全体の数が少なくなれば、黒人貧困層への配分はさらに減るのだろう。それを思い、生きているけれど、その先の希望がわからない。 性を搾取。男の身勝手と優しさ。 度々出てくるギリシア神話のメディア。詳細を確認するのが遅くなったけれど、もっと早めに読んでいたら…。 ハリケーンカトリーナを内側から描き、その前後で変わったこと変わらないことを、包み隠さずに示してくれた。 この作品を受け止めきれることほどの器が、私には無い。

Posted byブクログ

2022/04/28

ニュースを見ていなくても、ハリケーン・カトリーナの名前は当時よく聞いた。けど、そのカトリーナが文学の題材になっていたことは、いくらなんでも初耳だった。 特筆すべきは著者もカトリーナの被災者だという事。「自宅に留まったり被災地に戻った人々を非難する傾向があった」とあとがきにあって...

ニュースを見ていなくても、ハリケーン・カトリーナの名前は当時よく聞いた。けど、そのカトリーナが文学の題材になっていたことは、いくらなんでも初耳だった。 特筆すべきは著者もカトリーナの被災者だという事。「自宅に留まったり被災地に戻った人々を非難する傾向があった」とあとがきにあって納得。作中、被災前夜に主人公一家の元にかかってきた政府からの自動音声電話(要約すると「自宅に留まって被害に遭っても責任は負わない」)に違和感を覚えていたから。その怒りが執筆のトリガーになるのも無理はない。 災害によって幸せな日常が奪われるパターンかと思いきや、ハリケーンが襲来する前から一家には不穏な空気があった。ギリギリ日常生活は送れているが末っ子のジュニアを除き、お互いがギスギスしている。今まで見たことのないくらいに殺伐としており、被災の前からヒヤヒヤしていた。(石川氏(翻訳者)は「揺るぎない家族愛はある」としたためているが、悲しいかな…自分にはそうは映ってこなかった汗) 簡単には解析しにくいが、根底には貧困と祖父母や母の早逝が横たわっていると踏んでいる。 「ハリケーンに名前がついたぞ。最悪のやつはきまって女、カトリーナだ」 主人公エシャはギリシア神話に出てくる虐殺の魔女メディアに自身を、闘犬(これがまた馴染みが無さすぎてより恐怖を引き立てた)として飼われているチャイナを、ゆくゆくはカトリーナを重ねていく。 女性の名前がハリケーンに命名される事に関してはずっと素朴な疑問だったが、著者なりの解釈が終盤にかけて集約されていたように思う。 カトリーナはまるで地上の全てを浄化せんと破壊の限りを尽くすが、一家はここでバラバラになることを拒む。皮肉にもカトリーナがバラバラだった一家を寄り添わせた。同時に心のよどみも洗い流した。 被災後の家で見た母親の幻影。あれは家族の温もりを思い出させようと「彼女」が運んできてくれたのか…?というのは深読みが過ぎるか。

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2022/03/12

災害の悲惨さをしつこく描くのではなく、それによって、今まですがって生きてきた物に没頭する振りで、絆を結ぶということに目を向けられなかった家族が一つになる様子が書かれている。なんでだか、メンバー構成関係なく、うまいこと機能していない家族や家庭が多くて、勿論他の家庭のことはわからない...

災害の悲惨さをしつこく描くのではなく、それによって、今まですがって生きてきた物に没頭する振りで、絆を結ぶということに目を向けられなかった家族が一つになる様子が書かれている。なんでだか、メンバー構成関係なく、うまいこと機能していない家族や家庭が多くて、勿論他の家庭のことはわからないから、不穏な中全員どうしていいかわからない。歯車動かそうとして傷つけてしまったりするよりは、外側を撫でるようなコミュニケーションしか取り方がわからない。全てを奪い去った嵐のあと、むき出しの自分達と向かい合うのが清々しかった。

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2021/12/22

貧しい生活の中でも家族愛があり。若くして望まぬ妊娠があり。母犬の強さがあり。大自然の猛威があり。 少女が凛としているので、読後は前向きになれます。

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2021/11/03

物心ついてから覚えている新聞の一面が2つある。 一つは、火の手が上がる街中で、そこを走る高速道路だろう高架線が横倒しに崩れ落ちている様子。 もう一つは、津波で一面瓦礫と化した中に座り込んだ女性が泣き叫んでいる姿。 阪神大震災と東日本大震災の写真だ。 この小説のカトリーナの惨劇の...

物心ついてから覚えている新聞の一面が2つある。 一つは、火の手が上がる街中で、そこを走る高速道路だろう高架線が横倒しに崩れ落ちている様子。 もう一つは、津波で一面瓦礫と化した中に座り込んだ女性が泣き叫んでいる姿。 阪神大震災と東日本大震災の写真だ。 この小説のカトリーナの惨劇のラストを読んでふと思い出した。 「それでもなおわたしたちを生かし、わたしたちは生まれたばかりのしわくちゃの赤ん坊のように(中略)裸でとほうに暮れている。」 「 生き永らえたわたしたちは這うことを学び、残されたものを拾いあさる。」 苦しい平凡な日々と、それを一変させるある一日。 そして生かされた人たちは、それでも前を向く。

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2021/10/29

凶暴なハリケーン・カトリーナを経験した黒人女性作家による米国図書賞作品。ミシシッピ川南部のボア・ソバージュ(架空)に生きる兄弟4人と犬との生活にカトリーナが襲う。ジリジリと南部の熱い空気の中に展開する物語は、生命にあふれる。登場人物はみんな、生きるために自己主張する。特に最後のハ...

凶暴なハリケーン・カトリーナを経験した黒人女性作家による米国図書賞作品。ミシシッピ川南部のボア・ソバージュ(架空)に生きる兄弟4人と犬との生活にカトリーナが襲う。ジリジリと南部の熱い空気の中に展開する物語は、生命にあふれる。登場人物はみんな、生きるために自己主張する。特に最後のハリケーンが襲ってきた場面は命をかけた場面にハラハラし、また妊娠したエシュに対する兄弟や友人ビッグ・ヘンリーの優しさが嬉しい。(バティスト家:父さん、バスケに生きるランドール17歳、闘犬命のスキータ16歳、私エシュ15歳、ジュニア7歳)

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2021/10/16

2005年8月、アメリカを襲ったカテゴリー5のハリケーン・カトリーナ。本書はミシシッピ州の架空の町(ボア・ソバージュ)に暮らす黒人一家の、嵐の前後12日間を描いた作品だ。一家は父親と4人の子供たちで、語り手は15歳の長女エシュだ。母親は末っ子の出産時に亡くなっている。様々な問題を...

2005年8月、アメリカを襲ったカテゴリー5のハリケーン・カトリーナ。本書はミシシッピ州の架空の町(ボア・ソバージュ)に暮らす黒人一家の、嵐の前後12日間を描いた作品だ。一家は父親と4人の子供たちで、語り手は15歳の長女エシュだ。母親は末っ子の出産時に亡くなっている。様々な問題を孕んだ重層的な物語で、その圧倒的なディテールとリアリティに驚倒した。そしてクライマックスのハリケーンの襲来には著者自らの体験が反映されているらしく、恐怖すら覚えた。

Posted byブクログ