地上で僕らはつかの間きらめく の商品レビュー
一方的に「感動だ、綺麗だ、涙がこぼれる」という類の感想は非常に好まない。 感性には温度が有り、嫌いは嫌いと言う毒々しい気持があるのは事実。 個人的にこの世界は好まない。 だが、文学というピュアな世界での評価はできる~美しい詩的世界・・・自伝を「祖母への手紙」の形にして綴ることで...
一方的に「感動だ、綺麗だ、涙がこぼれる」という類の感想は非常に好まない。 感性には温度が有り、嫌いは嫌いと言う毒々しい気持があるのは事実。 個人的にこの世界は好まない。 だが、文学というピュアな世界での評価はできる~美しい詩的世界・・・自伝を「祖母への手紙」の形にして綴ることで 己の足跡を鑿で打つように刻んで行っている。 LGBTQである自分がベトナムを離れて アメリカで育っても生き続けても 尚アイデンティは強くベトナムを感じている様子がビンビン伝わってくる。 祖母~ラン(百合)、母~ローズ(薔薇)、そして自分はリトルドッグ 読みつつ常に脳裏に大自然の情景が匂い、音とともに再現されて行く。 映画化の話があるのは当然かと。 かつて見てきたベトナム映画に流れる独特のニュアンスがこの小説(といってもとてつもなく詩的)を味わえるし。 ドッグが繰り返し受けて来た暴力を経て、農園で知り合う白人男性トレヴァー、そしてセックスに溺れる。 黄色と白との激しい行為が幸福へとは行かず、トレヴァーの生活歴から来た自滅で消滅。 祖母の生活歴も凄まじい。アメリカとベトナムに関係に重大な影を落とすベトナム戦争がこの作品の骨格モチーフの一つ~祖母、母、そして自分も受けて来た暴力の数々 長じて作家になるリトルドッグが 戦後後遺症とゲイという2本の柱を土台にして紡ぐ詩・・・立っている足元は、ベトナム~モンスーンの風に吹かれる農村地帯、しかし根付いているのはアメリカ大陸。 アンヴィヴァレンとチックでしなやかな微細さが作品全体を流れている。 アメリカ大陸の雄大な自然描写のこまが流れる(オオカバマダラ、バッファロー)相対する様に通奏低音的に漂うベトナム戦争後遺症に苦しむ祖母のうわごとと母の精神疾患がくっきりと浮き上がる。
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2022 01. 2022年最初に読んだ小説 本屋さんで見かけて少し開くとなぜか これは読まなくてはいけない!という気持ちになり もう手から離れなくてそのまま衝動買いした本 作者は88年生まれのほぼ同世代 たまに出てくるワード(50セントやラグラッツ)に それを感じながら同時...
2022 01. 2022年最初に読んだ小説 本屋さんで見かけて少し開くとなぜか これは読まなくてはいけない!という気持ちになり もう手から離れなくてそのまま衝動買いした本 作者は88年生まれのほぼ同世代 たまに出てくるワード(50セントやラグラッツ)に それを感じながら同時に語られる 戦争、移民、人種、性別、薬、死に どこか遠さを感じて不思議な気持ちになった ひりひりして何度も泣きながら少しずつ読んだ 落ちていくバッファロー 帰らないオオカバマダラ 脳味噌を食べられる猿 仔牛肉にされる仔牛の檻 楽しい言葉遊びと美しい言葉選びに作者を尊敬し それを訳された訳者さんも尊敬する 読んで良かった 大切にしたい本 メモしながら読んでなかったので 最後の方だけのメモ: P218 僕は知っている。虐殺(slaughter)という語の中に笑い(laughter)が閉じ込められているのはフェアじゃない。 P226 もしも気が付いたら暗くなっていく世界の中に閉じ込められていたというようなことが起きたら、体の内側は昔から暗かったことを思い出してほしい。心臓は法律と同様に、生きている人のためにしか止まることがない。 P249 僕が育ち、母さんが老いていくハートフォードでは、互いに「こんにちは」や「元気?」ではなく、顎を突き出すようにして「いいことあった?(what's good?)」と言って挨拶をする。
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文学ラジオ空飛び猫たち第65回紹介本。 ベトナム系移民の自伝的小説。母と祖母とベトナムからアメリカに渡ったリトルドッグがニューヨーク大学に入るまでを描く、痛みと生きづらさ、それゆえの人生の美しさを描いた力強い一冊です。 本書を構成するのは、詩人である著者が字を読めない母に宛てた手...
文学ラジオ空飛び猫たち第65回紹介本。 ベトナム系移民の自伝的小説。母と祖母とベトナムからアメリカに渡ったリトルドッグがニューヨーク大学に入るまでを描く、痛みと生きづらさ、それゆえの人生の美しさを描いた力強い一冊です。 本書を構成するのは、詩人である著者が字を読めない母に宛てた手紙です。心に残る言葉の数々に出会えたのも魅力でした。 ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/65-e1bhbqv
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ベトナム戦争後にアメリカに移った祖母、母、主人公の青年。 作家になった青年が語る自分の人生。 作者は若い詩人で(2021年現在で32歳)もあるんだが、文章も全体的に詩人が書いたといわれると非常に納得のいく、漂うような文体だった。 そして作者の美的感覚はとても微妙なバランスの上に保...
ベトナム戦争後にアメリカに移った祖母、母、主人公の青年。 作家になった青年が語る自分の人生。 作者は若い詩人で(2021年現在で32歳)もあるんだが、文章も全体的に詩人が書いたといわれると非常に納得のいく、漂うような文体だった。 そして作者の美的感覚はとても微妙なバランスの上に保っているのだと感じる。美しいものを心に留めるが、それはただ美しいだけでなくどこかしら危なっかしいものを美しいと感じているような。 主人公の青年の名前はリトル・ドッグ(子犬)。おばあちゃんの育った村では、体の弱い子供や末っ子を邪悪な霊から守るために酷い名前で呼ぶ風習がある。 おばあちゃんは、最初の夫から逃げ出してから自分をラン(百合)と名乗った。娘はローズ(薔薇)と名付けた。 ベトナム戦争後に祖母、母、リトルドッグは、アメリカに移民として渡った。 母は昼間はネイルサロンで働く。英語が読めない。リトルドッグはそんな母に手紙を書く。読まれない手紙。自分の人生を振り返る手紙。 <母さんは母親だ。でも、同時に怪物でもある。僕も同じだ。だから僕は、母さんから目を離すことはできない。だから僕は、最も孤独な神の創造物の中に母さんを入れた。P21> 母はベトナム戦争の後遺症を患い、動物や火を見るとむかしを思い出してパニックになる。リトルドッグも幼い頃から暴力を受けてきた。 リトルドッグは母に英語の文章を読んで聞かせる。疲れて帰ってきた母のマッサージをして寝かせる。 <「いいものはいつも、どこかよそにある」P65> 幼少期に米国に渡ったリトルドッグはベトナムよりもアメリカでの暮らしが長い。 だが言語のことも、気持ちの上でも、血縁のことでも、アメリカに馴染み切ることはできない。 <よその子は、僕よりたくさん生きている。(…)みんなはたくさん生きている、みんなのほうがたくさん生きている!P80抜粋> これは米国に移ったばかりでまだ幼いリトルドッグが、アメリカの子どもたちを知り口からでた言葉。まだあまり言葉を覚えていないころからこの感性を持っているのは本当に感受性が高いと思う。 思春期に知り合った農園の息子、トレヴァーとの交流が始まる。 自分がゲイだと知る。 スキンシップは本格的なセックスになる。 トレヴァーは、飲んだくれの父親から逃れ、トレーラーを乗り回し、ドラッグを摂取する。 リトルドッグにとって、ドラッグの過剰摂取や、無茶な運転による事故死は身近だった。だから友達の間では決して「さよなら」や「おやすみ」は言わない。 大学にゆくために街を出たリトルドッグに、やがてトレヴァーもその命運を辿ったとの知らせが入る。 リトルドッグが同性愛者であるということは、彼のアイデンティティともなっているのだが、周りからの偏見もすごくてちょっとびっくり。作者はまだ32歳(2021年現在)。それが10代の頃に「同性愛者なら女装するの?」とか「同性愛は何年で治るんだろう?」など、この感覚が50年前じゃなくて20年以前でこうだったのか。 リトルドッグの回想に差し込まれる数々のイメージ。詩のように漂うように流れる言葉。 解体されるシカ、冬の寒さに色づくオオカバマダラ、崖から落下するバッファローの集団、花の名前を持つ祖母と母、祖母の夫となった元アメリカ兵との触れ合い、末期癌に苦しむ祖母のうわごと、戦争体験の記憶から逃れられない母。 リトルドッグはやがて作家になる。 <「お前は自分で描いた絵の中に、自分を置いてみたことがある?(…)自分の姿を後ろから見て、どんどんその風景の中に入っていったことはある?ここにいる自分から離れたことは?」僕が文章を書くときに母さんが言っているのと同じことが起きているのだと、どうやったらうまく伝えられただろう?やっぱり僕達は似た者同士だって。僕らの手の影は、違うページの上で溶け合っているって。P11> ゲイは差別対象で、過剰摂取や無茶な運転で友人たちが死んで、祖母は癌で苦しみ、母は戦争後遺症で苦しんでいる。 自分たちは何もしなくてもベトナム人だ。だがアメリカに根付く彼らは、新たな文化を作る一員となっている。 <僕はむかしからずっと、僕達は戦争から生まれたのだと自分に言い聞かせてきた ーでも、母さん、それは間違いだ。僕たちは美から生まれた。僕たちは決して、暴力が生んだ果実じゃないー むしろ美の果実はその暴力にも耐えたんだ。P269>
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ベトナム戦争を背景に一家で渡米したベトナム人移民の少年が主人公の自伝的小説。鮮烈で強烈で、痛ましく美しい作品だった。作者は気鋭の詩人というだけあり、研ぎ澄まされた言葉たちのときに非定形的な表現によって描き出される豊かな情景が心に焼きつく。『行き止まりの世界に生まれて』のビン・リュ...
ベトナム戦争を背景に一家で渡米したベトナム人移民の少年が主人公の自伝的小説。鮮烈で強烈で、痛ましく美しい作品だった。作者は気鋭の詩人というだけあり、研ぎ澄まされた言葉たちのときに非定形的な表現によって描き出される豊かな情景が心に焼きつく。『行き止まりの世界に生まれて』のビン・リュー監督による映画化企画があるというのにも大いに納得だ。
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オーシャンヴオン「地上で僕らはつかの間きらめく」 https://shinchosha.co.jp/book/590173/ 主人公のおかれた状況はなかなか過酷なんだけど、文章が瑞々しくて甘くて、読んでると自分の体験ではないのにノスタルジーを感じる。情緒に同調するというか。美し...
オーシャンヴオン「地上で僕らはつかの間きらめく」 https://shinchosha.co.jp/book/590173/ 主人公のおかれた状況はなかなか過酷なんだけど、文章が瑞々しくて甘くて、読んでると自分の体験ではないのにノスタルジーを感じる。情緒に同調するというか。美しさに圧倒される。読後の余韻がすごかった(おわり
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ミュージカル“ミスサイゴン”で、キムが命をあげずに子供とともに生き延びアメリカに渡っていたら。 たくさんの比喩が全て理解できたわけではないけれど、どこにいても苦しさはあり、その中で、我々は一瞬でも輝きを見出だして行くのかもしれない。 ベトナムの湿度高い田園地帯とアメリカの乾い...
ミュージカル“ミスサイゴン”で、キムが命をあげずに子供とともに生き延びアメリカに渡っていたら。 たくさんの比喩が全て理解できたわけではないけれど、どこにいても苦しさはあり、その中で、我々は一瞬でも輝きを見出だして行くのかもしれない。 ベトナムの湿度高い田園地帯とアメリカの乾いた煙草畑と。
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