やさしい猫 の商品レビュー
先日から著者の中島さんがニュース番組の片隅に写っていて、個人的には「作家が政治的になるのも・・・」と考えていたのですが、この作品がきっかけだったのですね。 行き違いからオーバステイに陥ったスリランカ人が入管に強制収容され、その国外退去を阻止しようと彼の日本人の妻のミユキさんと義理...
先日から著者の中島さんがニュース番組の片隅に写っていて、個人的には「作家が政治的になるのも・・・」と考えていたのですが、この作品がきっかけだったのですね。 行き違いからオーバステイに陥ったスリランカ人が入管に強制収容され、その国外退去を阻止しようと彼の日本人の妻のミユキさんと義理の娘・マヤが奮闘する話です。 今、話題の入管問題を背景にした小説ですが、中島さん自身がインタビューで言っているように暖かな家族小説であり、少女の成長小説であり、恋愛小説でもあり、そして法廷ドラマでもあります。物語の中で小学生から高校生まで成長するマヤを語り手に置いたためか、何時もの中島さんというよりどこか重松清さんを思わせる雰囲気ですが、素晴らしいヒューマンドラマであり、色々な事を考えさせる読み応えのある作品です。 中島さんですから綿密な取材を経た作品だと思います。 とは言え、一つの視点から描かれたフィクションであり、この一冊で入管問題が語られる訳でも無く。本当に語るなら、これとは逆の入管側からの視点や、不良な外国人が起こす問題なども含めて語るべきでしょう。ただこの作品と直接関係のない所で(この作品が新聞連載中に)入管施設で亡くなったウィシュマさんの事件を思い出させるような話も随所にあり、真っ黒ではないにしろかなりの灰色なのだろうと思います。 我が家は祖父の代に6人兄弟の内3人がアメリカに2人がブラジルに移民しました。先日来、彼らの足跡を追ってみて彼らが受けた差別や悲惨な体験を知ることになりました。アメリカに渡った兄と二人の妹は移民排斥運動で生活手段を厳しく制限されたうえ、第二次大戦中は財産を没収され強制収容所に送られました。 他にもブラジルに渡った祖父の弟からの手紙が残っているのですが、到着直後の希望にあふれた文面が、搾取や過酷な生活条件で次第に「強がり」に代わり、最後には「諦め」の様なものになって行く様子がうかがえます。 (幸いなことにその子孫たちは今でも元気に暮らしており、Facebookでのやりとりが続いています) そういう事を調べた後に読んだ本なので、日本に来た海外の人達が、私の大叔父・大叔母たちが受けた様な仕打ちを受けないで欲しい思うのです。
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ミユキは、偶然知り合ったスリランカ人クマさんと恋に落ちる。ミユキには娘がいて、陽気なクマさんにすぐに馴染む。しかし、クマさんは勤務先から解雇されてしまった。その事を言い出せないまま、時は流れ、クマさんのオーバーステイが問題になってしまった。 うーむ。素晴らしい小説だった。 非...
ミユキは、偶然知り合ったスリランカ人クマさんと恋に落ちる。ミユキには娘がいて、陽気なクマさんにすぐに馴染む。しかし、クマさんは勤務先から解雇されてしまった。その事を言い出せないまま、時は流れ、クマさんのオーバーステイが問題になってしまった。 うーむ。素晴らしい小説だった。 非人道的と言える入管システム。犯罪者ではないのに、ビザが切れた者を刑務所のような所に閉じ込める。病気になっても救急車も呼んでもらえない。 また外国人に対する差別意識。外国人と結婚すると言うと、騙されてるのじゃないかと言われる。しかし日本人の夫だって暴力を奮ったりするわけで、日本人なら安心というのはオカシイ。 というような事を色々考えさせられるだけでなく、エンターテインメントとして充分に面白い。ラスト、審判はどう下るのかドキドキした。そして魅力的な登場人物たちもとても良かった。
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「ちいさなお家」「ながいお別れ」などを書かれた作家。 中島京子さんの最新作。 幼くして父を亡くしたシングルマザーと暮らす少女の、一人語りで始まる。 夫と死別し、女で一つで保育士として生活を支えた母、ミユキさん。 少女マヤは小六でもご飯の支度もできる。 東日本大震災のボランティ...
「ちいさなお家」「ながいお別れ」などを書かれた作家。 中島京子さんの最新作。 幼くして父を亡くしたシングルマザーと暮らす少女の、一人語りで始まる。 夫と死別し、女で一つで保育士として生活を支えた母、ミユキさん。 少女マヤは小六でもご飯の支度もできる。 東日本大震災のボランティアで、スリランカカレーのオーナーがカレーを振る舞った際に知り合った年下のスリランカ青年、クマラと出会う。 東京の下町の商店街で偶然の再会。 そこから付き合いがはじまり、結婚の決意。 だがそこからが。。。 日本語留学が終え、就労ビザで修理工場に務めるも、クビになり、仕事を探すも就労ビザが取れるような会社が見つからずオーバーステイに。 ミユキとクマラはいき違いがありながらも、結婚を決意するが、入管に相談に行く直前職質で警官に逮捕される。そこから親子の大変な入管とシステムとの戦いが始まる。 これは、物語だがフィクションではない! いくつもの悲しい難民申請を却下された外国人や、その家族たちのおびたたしい実録から描かれた話。 こういった理不尽極まりない実例が、こうしている間も続いているのだ。 日本の入管という部署は、『難民保護と入国管理を一つのところで大きな裁量を持ってやる』ということは、『助けてあげたい!と追い出してやるぜ!が同じ管理官が裁量するということ。そして追い出す数が多い人が出世する事実!!!!!』 そんなまるで理に合わない実情の我が母国、日本! 難民申請成功率1%未満が日本で67%がカナダ。 どういう国なんだ!!誇れる国とは到底いえない。 そしてこのシステムは、国民ほとんど知らない。 重箱の隅を突っつくような意識で『追い出す!』 あちこちの道路やビルを作った人が、会社の都合でお払い箱になって、ビザが切れたら追い出す、、、って! 国を命からがら逃げてきた人が、身分を証明するものを持っていて、出国するとき見つかったら殺されるか収監される危機で、どうやって自分で証拠を持ち、それを証明できるだろうか?それを平然と『証明できないなら追い出す』それが我が国、日本。 是非是非読んで欲しい作品。 色々な問題が盛り込まれていながら、物語としても完成され実に感動的な1冊になっている。
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スリランカの女性が入管施設で亡くなったニュースを最近見た。 不法入国とか在留資格とか、日本人として住んでいる私はよく知らなかったけれど、こんな理不尽でひどい問題が現在の日本で起こっているなんて…。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
読み終えて、しばらくドキドキが収まらなかった。 濃い話だった。 入管のことは報道で触れたりして「ひどいな」と一瞬思うことはあっても、なにも知らずにいた。 牛久入管のすぐ近くに住んでいるのに。 私にもなにかできることがあるだろうか。 マヤが語り掛けている相手が誰なのか、最後にわかってニンマリしてしまったが、ひとりでも多くの人に読んでもらいたい本である。
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中島京子さんの新作は、入管に収容されたスリランカ人と家族の物語。 知識として知っていた入管の酷さを実感させられた。偶然にもウィシュマさんの犠牲が広く報道されたばかりだが、本当に何でこんなことになっているのか。 詳細な描写による数々の理不尽なシーンは現実感に溢れ、実際にこんな目に遭...
中島京子さんの新作は、入管に収容されたスリランカ人と家族の物語。 知識として知っていた入管の酷さを実感させられた。偶然にもウィシュマさんの犠牲が広く報道されたばかりだが、本当に何でこんなことになっているのか。 詳細な描写による数々の理不尽なシーンは現実感に溢れ、実際にこんな目に遭わされている人たちの存在が確かなものと感じさせられ、救われない気持ちになる。 ただ、この小説は絶妙のユーモアがちりばめられた文章なので読み進めるのは辛くはないし、ハッピーエンドになるに違いないという予断を頼りに、一気に読み進めることができた。 クライマックスの裁判の場面は大迫力。判決を聞くのってむちゃくちゃ怖いんだろうな。
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タイトルの「やさしい猫」にとても深い意味があった。その深い深い意味がわかるのは、ずっと後で… 最初は、ほんわかとした家族の物語かと思われたが… 確かに家族の話なのだが、そうなるまでにとても苦しくて、辛くて長い道のりがあった。 この物語の中で、知ることのできない外国人収容施設で...
タイトルの「やさしい猫」にとても深い意味があった。その深い深い意味がわかるのは、ずっと後で… 最初は、ほんわかとした家族の物語かと思われたが… 確かに家族の話なのだが、そうなるまでにとても苦しくて、辛くて長い道のりがあった。 この物語の中で、知ることのできない外国人収容施設での出来事や裁判の様子が描かれているがこれも胸にずしんとくるものがあった。
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中島京子さんが読売新聞の連載小説を⁈もともとそれだけで期待値高かったけれど、さすがのひと言。 これまでも、入管施設内で外国人入所者の扱いが非人道的だという事について時々ニュースで聞くことはあったけれど、それがどういうことなのか?本当のところは分かっていなかった。クマラさんが物語の...
中島京子さんが読売新聞の連載小説を⁈もともとそれだけで期待値高かったけれど、さすがのひと言。 これまでも、入管施設内で外国人入所者の扱いが非人道的だという事について時々ニュースで聞くことはあったけれど、それがどういうことなのか?本当のところは分かっていなかった。クマラさんが物語の中で経験した理不尽な扱われ方は、現実に名古屋の入管施設で亡くなったウイシュマ・サンダマリさんの存在と重なり合い、いたたまれない想いもあるけれど、それでもなんとかしようとする人々は居てくれること、その先には「光」もある。私たちにもできることがあると信じたくなる。スリランカ料理が猛烈に食べたくなる。そんな希望にあふれる読後感。
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ラジオを聴いて、絶対に読まなくてはと本屋さんにかけこみ、じっくり読んだ。ちょうど『ルポ 入管』を読んですぐに読んだこともあってか、フィクションなのに、フィクションではない、現実に起こっているのだろうという臨場感というか現実味をひしひしと感じるお話だった。 帯にあるように「家族3...
ラジオを聴いて、絶対に読まなくてはと本屋さんにかけこみ、じっくり読んだ。ちょうど『ルポ 入管』を読んですぐに読んだこともあってか、フィクションなのに、フィクションではない、現実に起こっているのだろうという臨場感というか現実味をひしひしと感じるお話だった。 帯にあるように「家族3人で暮らしたい ただそれだけの望みを叶えるのがこんなに難しいなんて」の言葉に尽きる。 綴り手のマヤと一緒に、どうして、日本を出国させること前提、何か悪いことずるいことをしようとしている(した)ということが大前提なのだろうか。入管の対応にいちいち悲しい気持ちになったり、憤ったり…その一方、私もそう言ってしまうことあるだろうなという内なる偏見に気づいたり…。 日本にはさまざまな国から、日本で生きていこうとやってくる人たちがたくさんいる。その人の力ではどうにもならないことで、日本に来たことを後悔させるような思いをさせたくないと強く思う。 そして。シリアスな内容ではあるけれど、読んでいると練乳入りのミルクティーが飲みたくなるし、クマさんのスリランカカレーはじめスリランカ料理が食べたくなる。スリランカに行きたくなる!もしかしたら食べ物を通して、その国のことがちょっぴりでも知ることができれば、知らない国から来た人に対して身構えてしまうこともなくしていけるのではないか、そんな気もしている。まずは、この入管の問題に興味がない友人とスリランカ料理を食べに行くことから始めてもいいのかもしれない。
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ニュースの「入管」に眉を寄せるようになったら、もう読んでほしい物語。巻末に参考文献も載せておられるので、読むちからのあるひとはどんどん踏み込んでほしいと思う。
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