文豪と感染症 の商品レビュー
本書は2021年8月刊行と、コロナ真っ最中の時期のもの。その頃、100年前のスパニッシュ・インフルエンザに関する著作が結構書店に積まれていて、そのうち何冊か購入したが、本書もそんな一冊。やや時期遅れとはなってしまったが、今回通読した。 印象としては、結構いろいろな作家が作品の中...
本書は2021年8月刊行と、コロナ真っ最中の時期のもの。その頃、100年前のスパニッシュ・インフルエンザに関する著作が結構書店に積まれていて、そのうち何冊か購入したが、本書もそんな一冊。やや時期遅れとはなってしまったが、今回通読した。 印象としては、結構いろいろな作家が作品の中でスペイン風邪のことを取り上げていたのだなということ。確かに文壇的には、島村抱月が急死し松井須磨子が後追い自殺するという出来事があったし、日本国内でも患者数2300万人というのだから、本人が感染しなくとも、家族や知人、友人まで含めれば、当時として、ごく身近な疾病として恐ろしさを感じたであろうことが想像される。 取り上げられた作家はみな有名作家であるが、収録作で読んだことがあったのは、谷崎潤一郎『途上』のみ。プロバビリティーを利用した犯罪を取り上げたとして良く知られている作品だが、その中で流行性感冒のことも出てきていたことを、今回再読して思い出した。 志賀直哉『流行感冒』。愛娘が感染しないよう運動会に行くことをやめさせたり、家人や女中たちにも人の多いところ行くことを禁じたりとしていた主人公だったが、禁じたにもかかわらず一人の女中が芝居を見に行ってしまい、さらに嘘をついて行ったことを否定する始末。志賀作品に良く見られるとおり、本作でも主人公は”不愉快”という感情を何回も抱く。正にコロナ禍でも同じような自粛現象があちこちで見られたとおり。 菊池寛『神の如く弱し』。久米正雄が流行性感冒に罹って死にそうになる出来事を巡るモデル小説だが、いくら親しい友人同士とは言え、こういう形で人物造形されるというのは厳しいだろうな、と久米には同情を禁じ得ない。同じく『マスク』では、感染しないようマスク着用を始め万全の予防策を取ってきた主人公であったが、ある時期からマスクをしなくなった。そんなときマスクを着けている男を見て、複雑な感情を抱く。その辺りの心の揺れを見事に描いている。 宮本百合子『伸子』。ニューヨークで感冒に罹った父の看病をしていた伸子であったが、今度は自分が感染してしまう。病気に罹ったときの症状の描写や心理状況が見事に描かれている。作品全体を読んでみたくなった。 他の作品も、当時のスペイン風邪(流行性感冒)に関していろいろと考えさせられる点が多く、100年経っても新たな疾病に対してはそれほど変わるものではないことを痛感した次第。
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感染症をテーマにした短篇集は既に他の出版社からも何冊か出ており、志賀直哉「流行感冒」や谷崎潤一郎「途上」、菊池寛「マスク」辺りが必ず収録されてるイメージです。 本書にももちろん収録されてますが、一編ごとに初心者に分かりやすい解題解説的なものがついてるのが印象的。 また、小説や随筆...
感染症をテーマにした短篇集は既に他の出版社からも何冊か出ており、志賀直哉「流行感冒」や谷崎潤一郎「途上」、菊池寛「マスク」辺りが必ず収録されてるイメージです。 本書にももちろん収録されてますが、一編ごとに初心者に分かりやすい解題解説的なものがついてるのが印象的。 また、小説や随筆だけに制限せず、日記の抜粋や手紙などを扱った文豪もあり、芥川の「友人達に宛てた書簡」、茂吉の「和歌」、秋田雨雀の「日記からの抜粋」など、スペイン風邪の時期をリアルに生きていた彼らの生の声みたいなものが感じられるものもあり、面白かった。 特に雨雀の日記は、島村抱月の弟子だけあって、そのままそれが抱月と須磨子の最後や葬儀の辺りの経緯のドキュメンタリーのようで興味深かった。
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100年前に流行ったスペイン風邪、コロナのように世界的な感染だった。その頃の作家たちは、自らが罹患し日記に書いたり、小説の題材にしたりしていた。抜粋のものもあるが、興味深かった。
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10月27日新着図書:【100年前に日本を襲ったスペイン風邪に直面していた文豪たちが描いた感染症の記録を日記から小説まで収録しています。是非本書を読んで見ましょう。】 タイトル:文豪と感染症 : 100年前のスペイン風邪はどう書かれたのか 請求記号:914:Na URL:htt...
10月27日新着図書:【100年前に日本を襲ったスペイン風邪に直面していた文豪たちが描いた感染症の記録を日記から小説まで収録しています。是非本書を読んで見ましょう。】 タイトル:文豪と感染症 : 100年前のスペイン風邪はどう書かれたのか 請求記号:914:Na URL:https://mylibrary.toho-u.ac.jp/webopac/BB28193943
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百年程前にスペイン風邪と言われたインフルエンザのフィクションとノンフィクション。志賀直哉や谷崎潤一郎、菊池寛の小説が読めて面白かった。しかし、昔のことを見習ってコロナ禍が早く終息するかは今のところわからない。
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1918年から20年にかけて流行したスペイン風邪に関する当時の文士達のアンソロジー。 その中から幾つか。 与謝野晶子「感冒の床から」「死の恐怖」 スペイン風邪第一波と第二波の中で現在の神奈川新聞の前身への寄稿文。今のコロナ禍にそのまま当てはめられる様な、人間の進歩の無さと同...
1918年から20年にかけて流行したスペイン風邪に関する当時の文士達のアンソロジー。 その中から幾つか。 与謝野晶子「感冒の床から」「死の恐怖」 スペイン風邪第一波と第二波の中で現在の神奈川新聞の前身への寄稿文。今のコロナ禍にそのまま当てはめられる様な、人間の進歩の無さと同時に晶子の不変の達観力。この本の出色。 志賀直哉「流行感冒」 白樺に掲載された私小説。感染禍の中で揺れ動く志賀の心境に共感するも良し、反面教師とするも良し。 谷崎潤一郎「途上」 ある女性の死に関するミステリー。改めて谷崎は日本ミステリーの先駆者だったと感じる。 菊池寛「マスク」 今のマスクあるあるに通じる小品随筆。菊池寛に親近感を感じる。 宮本百合子「伸子」 私小説に書かれる登場人物のモデルはやってられんな、と思う。よく当時は曲がりなりにも許されていたものだ。 喜久屋書店阿倍野店にて購入。
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※このレビューにはネタバレを含みます
永江朗・編の文庫オリジナル。 1作家1作品では決してなく、作家ごとに編者の解説が手短に行われ、ゴシック体で判りやすい。 また取り上げられている文章の種類の多彩さ。手紙、日記、新聞への寄稿、歌集、小説、身辺雑記、 単純な感想だが、未知のものへの底知れぬ恐れ、狼狽、あたふた、分断、同調圧力、100年前も同じだったんだなー、と。 ◇永江朗 はじめに ……WWⅠは1914-1918、関東大震災は1923、そのインパクトに、スペイン風邪の流行(1918-)は隠れがち。 ■芥川龍之介『書簡』 ……「胸中の凩(こがらし)咳となりにけり」「凩や大葬ひの町を練る」。病んでも句をひねることで昇華する姿勢。 ■秋田雨雀『「秋田雨雀日記」より』 ……島村抱月の急死、松井須磨子の後追い自殺。 ■与謝野晶子『感冒の床から』 ■与謝野晶子『死の恐怖』 ……ともに新聞への寄稿。口調から、意志の強い顔が浮かぶ。 ■斎藤茂吉『「つゆじも」より』 ……歌集から抜粋。 ■永井荷風『「断腸亭日乗」より』 ……筆まめだ。 ■志賀直哉『十一月三日午後の事』 ……小説。弱った鴨と倒れた兵士が重ね合わされる。嫌な感じ。 ■志賀直哉『流行感冒』 ……私が感冒対策で禁じた芝居へ嘘をついて行った下女の石を馘にするかどうか。まだ理屈が通じない2~3歳の娘を抱えた夫婦の状況。 ■谷崎潤一郎『途上』 ……既読。江戸川乱歩が「プロバビリティーの犯罪」に先鞭をつけたという作品。先日読んだ藤子・F・不二雄「コロリころげた木の根っ子」も、また。 ■菊池寛『神の如く弱し』 ……私小説的。読むであろう友人にたいして徹頭徹尾エグくて、その筆致に笑ってしまった。たとえば、ドストエフスキーが度々言及しているユロージヴィイ(聖痴愚とか佯狂者とか)みたいなものだね、と自分が云われた時の辟易を想像したりもした。 ■菊池寛『マスク』 ……身辺雑記。マスクを巡ってはもううんざりしているので、わかる。自分が小物になった感覚。 ■宮本百合子『伸子』 ……小説。看病されて息も絶え絶えな中ロマンチックな接吻をされて。ってヲイヲイ! 「若草物語」を見ていても、猩紅熱治ってすぐ抱き合ったりしてヤバくね、という冷静なツッコミをしてしまったのを思い出す。 ■佐々木邦『嚔「女婿」より』 ……小説。結婚披露以降をコミカルに。 ■岸田國士『風邪一束』 ……回想。 ◇永江朗 おわりに ……ネーミングの問題。coldとfluの違い。 ◇岩田健太郎 解説「感染症屋」より、疫病学的見地から ……
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スペイン風邪が流行った当時の文豪な作品集。 医学書院が進歩しても、疫病が流行っている時の人間の気持ちは、そう変わるものではないのだな、と思う。
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100年前のスペイン風邪の時の様子を、文豪たちが作品を通して描いた部分がまとまっている。そもそもスペイン風邪の際は、どのような状況だったのかさほど分かっていなかったが、感染状況や世間の反応などを知って、コロナとしばしば対比される理由がよく分かった。当時は2000万人以上(人口比:...
100年前のスペイン風邪の時の様子を、文豪たちが作品を通して描いた部分がまとまっている。そもそもスペイン風邪の際は、どのような状況だったのかさほど分かっていなかったが、感染状況や世間の反応などを知って、コロナとしばしば対比される理由がよく分かった。当時は2000万人以上(人口比:約43%)が感染し、2年ほどで収束したという。結構感染者多い割には意外と早く収束したんだなあというのが率直な感想。果たしてコロナは2年で収束するかは疑問だが、、 これだけ大流行してしまったからか、当時の多くの文豪たちが、作品のシーンや題材にスペイン風邪をあげるなどしており、本書ではその数々の原作を抜粋し、現代的文脈を加えながら考察されている。この時代からワクチン(予防接種)とかマスクあったのか、という個人的に意外だった発見がありつつも、人々のパンデミックによる苦悩はかなり今と似通った状況だった。マスクに対する憎悪や、感染対策への批判、感染者数の上下に一喜一憂したりなど、パンデミックが要因で新たに発生した社会問題は100年後の今でも起きてしまうことを踏まえると、「歴史は繰り返す」ってこういうことかと思ってしまう。とはいえこういった批判は結果論的になってしまうから正しいのかどうかもよく分からないが。 純粋に作品自体も面白かったので結構おすすめ。志賀直哉、谷崎潤一郎あたりは普通に読んでみようと思った。
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