戦争はいかに終結したか の商品レビュー
戦争を始めるのは人類。終わらせるのも人類。どうしてもバイアスが人の判断を曇らせてしまうが、「現在の犠牲」と「将来の危険」の軸で評価するアプローチはとてもよかった。戦闘で優位に立った勢力は、敵対する勢力の「将来の危険」と自軍の「現在の危険」のどちらかを重視するかによって戦争の終わり...
戦争を始めるのは人類。終わらせるのも人類。どうしてもバイアスが人の判断を曇らせてしまうが、「現在の犠牲」と「将来の危険」の軸で評価するアプローチはとてもよかった。戦闘で優位に立った勢力は、敵対する勢力の「将来の危険」と自軍の「現在の危険」のどちらかを重視するかによって戦争の終わり方が決まる。「将来」の根本解決に舵を切れば「現在」の犠牲は増える。「現在」の犠牲を減らそうと妥協的な和平を選べば「将来」の危険の芽は摘めない。 具体例もあり理解を助けてくれる。ドイツを巡る2度の世界大戦の終結の部分はサイエンスでもあり、アートでもあると感じた。連合国はナチスドイツを地上戦で破壊し無条件降伏させたことで、戦後は安定した民主国家になれた。 テクノロジーの進化でドローンやAI兵器は普及し、戦術は変わる。この本でもあるようなテロリスト対アメリカのような戦いも起きており、国家の意味も相対化されてきている。しかし、戦争をめぐる不易流行はある。不易をとらえる枠組みを身につけることができる。 様々な思考実験をするためにもとてもよい内容だった。ビジネスの撤退戦の考え方にも通用するだろう。
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戦争の終結のさせ方について論じた本。 ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時にニュースにコメンテーターとして呼ばれていた著者の発言が興味深かったため読んだ。 著者はハナコの秋山に似てる。 戦争の終結とは『将来の危険の排除(自国の脅威を取り除く)』と『現在の犠牲の回避(戦うこ...
戦争の終結のさせ方について論じた本。 ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時にニュースにコメンテーターとして呼ばれていた著者の発言が興味深かったため読んだ。 著者はハナコの秋山に似てる。 戦争の終結とは『将来の危険の排除(自国の脅威を取り除く)』と『現在の犠牲の回避(戦うことで生じる、命やお金などの損失)』の均衡点を探る事である。 脅威を根絶やそうと戦い続けると自国が消耗するし、自国の消耗を嫌がり妥協的に停戦を行うと、脅威は以前存在し続ける。 過去の第一次世界大戦、第二次世界大戦、太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東の戦争(湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争)を題材にどこに均衡点を置いたのかを振り返る。 傾向としては、太平洋戦争までは脅威の排除を重んじ、それ以降は現在の犠牲の回避を重んじる流れ。 ここからは自分の考えで、上記の傾向は核兵器の開発によって戦争を続けても敵国が核を用いた場合、受け入れきれやい犠牲がでるため、脅威の排除に振り切れないからであり。メディアやネットの発達により現在の犠牲が市民の目によく触れるようになり犠牲を回避する世論が起こりやすくなってるからじゃないかとも思う。 ウクライナ侵攻はウクライナ側は犠牲を甘受してでもロシアへの抵抗(脅威の排除)を決めており、ロシアもウクライナのNATO加入を脅威と捉えて根絶しようとしている。お互いに犠牲の回避よりも脅威の排除を優先しているため戦いは長引く。ってことなのか、、、
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戦争の終わらせ方として、これまで自分の頭にあったのは①敗者・弱者が自ら白旗を挙げる②勝者・強者が軍事力を背景に相手に降伏を強要し、相手が受け入れる③第三国による仲介・調停 この3つぐらいで、条約や協定も勝者の論理に裏付けられているものという認識でした。この本を読んで、戦争の終結は...
戦争の終わらせ方として、これまで自分の頭にあったのは①敗者・弱者が自ら白旗を挙げる②勝者・強者が軍事力を背景に相手に降伏を強要し、相手が受け入れる③第三国による仲介・調停 この3つぐらいで、条約や協定も勝者の論理に裏付けられているものという認識でした。この本を読んで、戦争の終結は「紛争原因の根本的解決」を目指すのか「妥協的和平」を目指すのかによってそのプロセスにおける戦略も変化し、いかにタイミングが大事かということを思い知らされた。優勢勢力側の「将来の危機」と「現在の犠牲」を天秤にかけることはもとより、第三国の思惑や周辺国・関係国のパワーバランスを推測することも戦争終結への大切な視点である。近現代の過去100年の主な戦争を事例として、緻密な分析・検証に基づいた本書は現代の混沌とした世界情勢がどこへ向かうのか、そのヒントになるかもしれない。
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第一次大戦以降の国家間の戦争の終結を「現在の犠牲」と「将来の危険」のどちらを重視したのかによって解説した本で、当事者の思惑の違いで終戦の形が変わってくることが書かれている。でも兵器の発展(?)によってますますその判断が難しくなっているような気がする。
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太平洋戦争(大東亜戦争)については明確なゴールがなかったように思う。対米で言えば石油をはじめとした資源の確保だったのかもしれないが、それならあそこまで戦域を拡大する必要はない。日中戦争についてはもっとよくわからない。国家としての意思はなかったのでないだろうか。 スタートがグダグ...
太平洋戦争(大東亜戦争)については明確なゴールがなかったように思う。対米で言えば石油をはじめとした資源の確保だったのかもしれないが、それならあそこまで戦域を拡大する必要はない。日中戦争についてはもっとよくわからない。国家としての意思はなかったのでないだろうか。 スタートがグダグダだったため、ゴールも見えないまま戦争を走るしかなかったのではないかと思う。 では、ゴールの設定が明確であればいいのかというとそういう簡単な話でもない。明確であってもそこに至るまでのアプローチが難しい場合や、明確ではあるがゆえに他の選択肢を(過度に)除外してしまうこともある。 この本では、将来の危険と現在の犠牲を天秤にかけ、将来の危険(例えばヒトラー)が大きければ戦争は継続され、根本的な解決を目指すし、現在の犠牲が大きすぎれば妥協的な戦争終結を模索することとなる、という理論のもと具体的な事例をもとに戦争終結のプロセスを読み解いていく。 ただ、日中戦争では「現在の犠牲」が大きいばかりに撤兵がができないというジレンマがあった。いわゆる死者への負債というやつで、これは企画院の鈴木貞一も同じようなことを話していた。なので、上記理論も大きな枠組みとして把握する必要があるだろう。 本書で気になったのが、日本軍部の一撃和平論とソ連仲介への期待である。一撃和平とは、アメリカに一撃くらわせて和平交渉に持っていくというものだが、普通に考えて一撃くらわせたら相手は怒るだけだ。相手が戦争継続が不可能と判断するような一撃とは?そもそもそんな一撃を喰らわせることができたなら、それこそ戦争継続ではないだろうか。一撃くらわせて和平に持って行くなんてどうも希望的観測に過ぎる。 ましてや、ソ連の仲介なんてないだろう笑 ソ連が攻め込んでくることの方が確率的には高いというのはリアルタイムでも判断できそうな気がする。 本書は読む人を選ぶと思うが、タイトルが気になった人であれば楽しく読めると思います。
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20230203-0304 戦争はいかに収拾すべきなのかについて、二度の世界大戦と朝鮮戦争、湾岸戦争、湾岸戦争からアフガニスタン、イラク戦争に至るまで、どのように収束してきたのかを戦争当事者双方の考え方を分析している。これら一連の戦争にはすべてアメリカが関わっているのは興味深い。...
20230203-0304 戦争はいかに収拾すべきなのかについて、二度の世界大戦と朝鮮戦争、湾岸戦争、湾岸戦争からアフガニスタン、イラク戦争に至るまで、どのように収束してきたのかを戦争当事者双方の考え方を分析している。これら一連の戦争にはすべてアメリカが関わっているのは興味深い。筆者は最後に我が国の安全保障政策のあり方に言及している。実はこの本の前に筆者の最新作「戦後日本の安全保障」を読んだが、本作を読むことで、より理解が深まったと思う。現在ロシアによるウクライナ侵攻は続いており、この戦争後をどのようにすべきかについて知りたいと思ったのがこの本を読んだ動機だった。
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本書は戦争終結という日本ではほとんど研究されてこなかったテーマについて理論と歴史の両面から考えようとするユニークな研究書。切り口が興味深く、未知の研究分野だったこともあり、夢中で読みました。 著者の千々和泰明さんの専門は国際公共政策。本書で第43回石橋湛山賞受賞。 「戦争はいか...
本書は戦争終結という日本ではほとんど研究されてこなかったテーマについて理論と歴史の両面から考えようとするユニークな研究書。切り口が興味深く、未知の研究分野だったこともあり、夢中で読みました。 著者の千々和泰明さんの専門は国際公共政策。本書で第43回石橋湛山賞受賞。 「戦争はいかに終結するのか?」という問いに対して、本書は「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という提示。そして2度の世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争を題材に、戦争終結を主導する優勢勢力(例えば第2次世界大戦では連合国)が「将来の危険」と「現在の犠牲」のどちらをより重視するかをめぐるトレードオフの中で、ジレンマを解く均衡点について詳細な分析が記述されています。 「紛争原因の根本的解決」の極での終結を見たのは、第2次世界大戦(欧州)、アフガニスタン戦争、イラク戦争であり、「妥協的和平」の極での終結は、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争。前者はそれぞれナチス、アルカイダ、フセイン政権の壊滅が目標でした。一方、後者の朝鮮戦争とベトナム戦争は米ソ衝突という「現在の犠牲」を回避したため、また湾岸戦争は「将来の危機」を過小評価したため妥協的和平で終結し、結局、イラク戦争に繋がってしまいました。 本書を読んで思うのは、戦争を終結させることの難しさ。例えば、「根本的解決」と「妥協的和平」のあいだで終結した太平洋戦争の場合、アメリカにとっての日本軍国主義の「将来の危険」と、自分たちの「現在の犠牲」とが拮抗し「ジレンマ」が発生しポツダム宣言は曖昧な内容に。劣勢勢力である日本側は、その曖昧さから、さらなる妥協を引き出す余地があると言う誤った希望を見出し、その結果、2度の原爆、ソ連参戦からシベリア抑留という悲劇を招いてしまいました (太平洋戦争は日本側の軍国主義の壊滅という『根本的解決』の極に近い終結を見ましたが、天皇制は継続しているので極ではありません)。 著者は「戦争終結には、常にこれが正解というものはない」とする一方で、「『現在の犠牲』をためらうあまり『将来の危険』を過小評価して、安易な妥協を行い、その結果、短期間で平和が崩れたり、逆に『将来の危険』を過大評価して、不必要な『現在の犠牲』を生んだりするような戦争終結は失敗であると言える」と断言します。そして、中国の台頭、北朝鮮のミサイル実験が続く中で、有事に日米間で齟齬が生じないよう、平素から出口戦略に関するすり合わせや知的訓練の必要性を訴えます。 本書が出版されたのは2021年7月でウクライナ侵攻以前です。現段階ではどちら真の優勢勢力か判然としませんが、壊滅的な終結にならないよう祈るばかりです。
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中央公論「目利き49人が選ぶ2021年に私のオススメ選書」20224掲載 評者:鈴木一人(東大公共政策大学院教授,国際政治経済学,中東問題)
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結論から言うと「戦争遂行能力の高い側」が出口を考えないと戦争は終わらないということ。2022年8月現在のウクライナ侵攻では、やはり集結へのイニシアティブは、残念な事実として、ロシアにあるという現実。理念よりもリアリズムの大切さを学んだ。
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戦争はいかに終結するのかという問いに対し、紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマという視角が提示されている。すなわち、将来の危険と現在の犠牲とのトレードオフの中で、均衡的に戦争終結の形が決まるというものである。この観点から過去の6つの戦争を整理し、戦争終結の統一的な理解を試み...
戦争はいかに終結するのかという問いに対し、紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマという視角が提示されている。すなわち、将来の危険と現在の犠牲とのトレードオフの中で、均衡的に戦争終結の形が決まるというものである。この観点から過去の6つの戦争を整理し、戦争終結の統一的な理解を試みている。問い立て自体が面白いし、緻密な事例の整理と分析により、パワーのみが戦争終結の形を決めるわけではないことなど、得られている示唆も興味深い。
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