ミモザの告白 の商品レビュー
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本作は、決して退屈ではない。むしろ、その誠実さと鋭さゆえに、目を逸らすことができない物語である。しかし同時に、読み進めることがこれほどまでに心を消耗させる作品もまた、そう多くはない。 物語は声高に主張しない。大きな事件が連続するわけでもない。それでも、登場人物たちの選択や沈黙、言葉にできない逡巡が、読者の胸に重くのしかかる。善悪では割り切れない感情の揺らぎ、誰もがそれぞれの正しさを抱えながら、同時に誰かを傷つけてしまう現実。その描写はあまりに静かで、あまりに容赦がない。 とりわけ印象的なのは、「理解したい」と願う心と、「本当の意味では理解しきれない」隔たりが丁寧に描かれている点だ。優しさが万能ではないこと。誠実さだけでは救えない瞬間があること。そうした真実が、淡々とした筆致で積み重ねられていく。登場人物を責めることも擁護することもできず、ただその葛藤を引き受けるしかない。 興味深い。テーマは現代的で、心理描写も精緻だ。物語としての完成度も高い。だが、その完成度の高さこそが、読む者の心を深く削る。読後には、爽快感よりも静かな疲労と、やり場のない余韻が残る。 だからこそ、続編に手を伸ばすことを躊躇してしまう。再びあの痛みと向き合う覚悟が、自分にあるのかと自問してしまう。しかしそれは、この作品が真摯である証でもある。軽く消費される物語ではなく、読者の内面に踏み込んでくる物語だからこそ、安易に次へ進めない。 『ミモザの告白』は、楽しさよりも真実を選んだ作品である。読むことは決して楽ではない。それでも、その痛みの中にしか触れられない感情が確かにある。だからこそ、この物語は強く、重く、そして忘れがたい。
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主人公の理想主義的なところが、しっかり現実の壁とぶつかっていくように描かれている点がすごく良かったですね。そりゃあうまくいかないだろうみたいなことを、ちゃんとうまくいかないように描いていて、ライバルの世良君がそこをうまくついてくるのも、物語としてよくできているなあと思いました。最終的な落としどころは、この主人公ならありえるところかなとは思いました。問題の先送りみたいなところはあるので、まだまだ葛藤は続きそうですが、物語としてよい着地点で納得できるところによく落とし込んでいると思います。
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重い…めちゃくちゃ考えさせられる。でも夢中になって読んでしまった。 読む前の印象は、表紙の可愛い女の子との恋愛話かな?え?男の子?BLはちょっと…だった。でも読んだらもう言い表せないくらい深い。面白い。自分の決めつけで読まない選択をしなくて良かった。
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高校二年生の夏休み前に、あるクラスの子たちが経験する、性別や、人を好きになるとはどういうことかをめぐる、ひりひりする、けれどもどこかに希望もみえる日常。汐が家庭内で、そして学校で、自分が女の子であることを明らかにしていく過程がとてもリアル。周囲の怒りや戸惑いや嫌悪。クラスの同調圧...
高校二年生の夏休み前に、あるクラスの子たちが経験する、性別や、人を好きになるとはどういうことかをめぐる、ひりひりする、けれどもどこかに希望もみえる日常。汐が家庭内で、そして学校で、自分が女の子であることを明らかにしていく過程がとてもリアル。周囲の怒りや戸惑いや嫌悪。クラスの同調圧力。教員たちの受け入れ方も、ディティールは違っても、身に覚えのあるもので、読んでいて何度も胸が苦しくなった。咲馬と夏希という友達の存在があることで、読み終えることができた。咲馬はふつうにいい男で、そりゃ好きになるよなあと思った。
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久しぶりにラノベを読んだ。1日で読み終えたけど、内容は決してライトではなかった。 もしもこの作品がアニメ化されても、たぶん私は見ない。表情、声色、雰囲気、おそらく映像で見ると、めちゃくちゃしんどくなってしまうと思う。それだけ、感情が動かされる内容だったし、重みがあった。 こうい...
久しぶりにラノベを読んだ。1日で読み終えたけど、内容は決してライトではなかった。 もしもこの作品がアニメ化されても、たぶん私は見ない。表情、声色、雰囲気、おそらく映像で見ると、めちゃくちゃしんどくなってしまうと思う。それだけ、感情が動かされる内容だったし、重みがあった。 こういう個々の意見と正解がない状態の話を読むと、つくづく私は西園とか世良みたいなタイプが好きなんだよなあと改めて気付かされた。(西園がやったことは完全にアウトだけど。) 自分が思ったことを素直にやったり、ある意味で筋が通ってるタイプ、好きなんだわ。 多分、私は続きを読むことができない。汐が自分らしくいられる様になると良いなと思う。
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【お前がどんな風に変わろうとも俺は最後まで眼を逸らさない】 椿岡高校で平凡に過ごす咲馬。ようやく好きな相手·夏希が出来た矢先、幼馴染である汐が女子制服を着用する事で、教室に大きな波紋が拡がる物語。 昨今少しずつLGBTの理解が深まって来てるとはいえど、その選択に反発する者も多い...
【お前がどんな風に変わろうとも俺は最後まで眼を逸らさない】 椿岡高校で平凡に過ごす咲馬。ようやく好きな相手·夏希が出来た矢先、幼馴染である汐が女子制服を着用する事で、教室に大きな波紋が拡がる物語。 昨今少しずつLGBTの理解が深まって来てるとはいえど、その選択に反発する者も多い。 男らしく女らしく、そうやって植え付けられた価値観は消えない。 男であった時のあらゆる利点を女になる代償として支払った汐。 人気者が一転、孤独者。 汐と夏希への想いに揺れる咲馬。 偏見の嵐に苛まれる汐の正直に生きたいと想いを真っすぐに守るのだ。
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性同一性障害の話。またもや、ずいぶんと重いテーマを取り上げたな、というのが率直な感想。 答えが無い問題であるからこそ、また高校という年代であるからこその、それぞれの立場からの相互理解の難しさや葛藤が描かれた作品。重いテーマの割に、読みにくいなどの事もなく、かなり良かったと思う。 ...
性同一性障害の話。またもや、ずいぶんと重いテーマを取り上げたな、というのが率直な感想。 答えが無い問題であるからこそ、また高校という年代であるからこその、それぞれの立場からの相互理解の難しさや葛藤が描かれた作品。重いテーマの割に、読みにくいなどの事もなく、かなり良かったと思う。 この難しい問題に対する主人公の微妙立ち位置がこれまた絶妙。
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ミモザで思いつくのは国際女性デーと花言葉「秘密の恋」。前二作でも思いましたが標題がとても素敵。さて、これは傑作。性同一性障害の概念が広く認知されている現在でも個人の認識はそう簡単には変えられない。大人でも重大な問題なのに、まして多感な高校生ならば作中で描かれたような反応をあからさまに示すことだろう。そして咲馬とアリサのどちらの言い分もよく分かるだけに、どう対応するのが正しいのかと、やるせなさが募るばかり。随分と衝撃的な場面で終わるので、きっと続編があるのでしょう。彼らの関係の行く末が大いに気になります。
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2021年7月刊。この筆者の本を読むのは、デビュー作『夏へのトンネル、さよならの出口』以来、2冊目。 『夏への~』は、完成度の高い「青春+時間」SFだったし、私は未読だが、2作目の『きのうの春で、君を待つ』もSFと聞いていたので、筆者はこのまま「SF街道」を進むのだろうと何となく思っていた。 ところが3作目の本作は、SF要素一切なしで、本書の語り手となる高校生・咲馬(さくま)の幼馴染みの少年・汐(うしお)が、自分の肉体と精神の「性別」の不一致に悩み、ある日、そのことをカミングアウトしたことから起こる、様々な出来事を描いた「リアル寄りの話」だったので驚かされた。 「心と体の性の不一致」を描いたライトノベルといえば森橋ビンゴの『この恋と、その未来。』という名作が思い浮かぶ。同作は主人公(♂)が、男性の心を持ちながら女性の肉体を持つ人物に強く惹かれ、葛藤するラブストーリーだった。 対して本書の主人公・咲馬は、当初、汐のカミングアウトに戸惑うばかりで、汐との距離感を測りかねるという描写が続く。まだ高校二年生の咲馬の戸惑いは理解はできるし、彼なりに誠実さを貫こうとする姿勢も分かるのだが、決断力と行動力はあった『この恋~』の主人公と比べると、その煮え切れなさに少々、イライラしたのも事実。 閑話休題。カミングアウトした汐に対し、クラス一丸となっての無視、様々ないじめ、嫌がらせの描写が続くので、なかなかに、堪えた。 私も遙か昔の中学時代、容姿が少し女性的というだけで、森某という同級生に「おかま男」と罵倒され、微にいり細にいり、執拗な嫌がらせを受け続けたので、汐の苦境が我が事のように感じられ、辛かった。それだけに咲馬と、汐に好意を寄せる、同級の女子・星原が、汐をクラス内の孤立から救おうと行動し、それが実っていく展開にはホッとさせられた。 とはいえ人間関係のイザコザの全てが解決したわけではないし、汐の家庭内での位置も微妙である。その辺りも解決するのか、もしくは、あえて解決させないか? 筆者のさじ加減に期待である。 最終的には、汐が思うままに、自分の人生を生きられる結末になって欲しいと願うが。本書は強力な引きの場面で、終わっているので、次巻冒頭で、どんな修羅場が繰り広げられるのか、不安であり、楽しみでもある。(終) 【蛇足】ミモザの花言葉には「友情」「真実の愛」「秘密の恋」などの意味があるという。読了した後だと、本書がタイトルに、ミモザを冠しているのは、絶妙なチョイスだなと思わされた。
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気付いたら、叶わない恋に悩むひとりの女の子として汐のことを見ていた。 汐は周りから何を言われても自分らしく生きようと前を向いていて、だからこそ彼女の「今」にどこか向き合えてない咲馬の視点にイラッとしたり、そんな等身大の無理解さに生々しいリアリティを感じたり……。 たぶんこのあら...
気付いたら、叶わない恋に悩むひとりの女の子として汐のことを見ていた。 汐は周りから何を言われても自分らしく生きようと前を向いていて、だからこそ彼女の「今」にどこか向き合えてない咲馬の視点にイラッとしたり、そんな等身大の無理解さに生々しいリアリティを感じたり……。 たぶんこのあらすじを見て手に取る読者よりずっと咲馬は無神経で、「一人称キャラクターの視点に入り込んで読む」タイプの人は最初ちょっと戸惑うかも。 「ごく普通の、マイノリティとは無縁だった高校生」であるところの主人公の視点の変化や成長もテーマのひとつかなと思ったので、そこはこの先の楽しみポイントです。
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