暁の宇品 の商品レビュー
なぜ広島に原爆が落とされなければならなかったのか? この疑問を突き詰めことから著者の取材は始まった。 かつて廣島は軍都だった。日清戦争を機に廣島に大本営が置かれた。それはよく知られた事実。 大本営から少し南、宇品の港から「陸軍」の兵士が大陸に送り込まれた。日清戦争から...
なぜ広島に原爆が落とされなければならなかったのか? この疑問を突き詰めことから著者の取材は始まった。 かつて廣島は軍都だった。日清戦争を機に廣島に大本営が置かれた。それはよく知られた事実。 大本営から少し南、宇品の港から「陸軍」の兵士が大陸に送り込まれた。日清戦争から日露戦争、シベリア出兵、満州事変、日中戦争から太平洋戦争と陸軍の兵士は宇品から戦地へ送り込まれた。担ったのは陸軍船舶司令部、暁部隊と呼ばれた。補給と兵站も一手に担った。そんな港は全国で廣島だけだった。 暁部隊の3人の司令官を通じて、太平洋戦争の無謀と国民の無残を描く。海は生命線だった。資源のない日本にとって、海と船は生命線だった。全て海を通じて、もたらされた。安全な海と十分な船がない限り、戦争を遂行することは不可能だということを宇品の司令官は知っていた。だから、「船舶の神」田尻昌次中佐は対米開戦に反対し、そして罷免された。その他二人の司令官たちの思考と行動、そして破滅。 もう一つの「失敗の本質」。それにしても「ナントカナル」の戦争計画の杜撰。それが数百万の国民の命を奪った戦争のすべて。「輸送」は科学。現実。「ナントカ」はならないのである。
Posted by
前半の主人公田尻氏の話だけでも良いじゃないかと思いながら読み進めて行ったが、後半のすごさ感動もさらにひとしおであった。 本を読む側としては数時間だが、作者の費やした時間、そして読者の心に残る時間のなんと膨大なことか
Posted by
当時を生きた一人一人にそれぞれの人生があったという当たり前のことを改めて感じながら、のめり込むようにあっという間に読んでしまった。 以前『失敗の本質』で、太平洋戦争での兵站線確保ができていなかった問題点についてなんとなく読んだことがあった。本書では、兵站線確保について、戦地へ輸...
当時を生きた一人一人にそれぞれの人生があったという当たり前のことを改めて感じながら、のめり込むようにあっという間に読んでしまった。 以前『失敗の本質』で、太平洋戦争での兵站線確保ができていなかった問題点についてなんとなく読んだことがあった。本書では、兵站線確保について、戦地へ輸送する食糧や兵器、それらを運ぶ船舶の確保などを任務としていた陸軍船舶指令部の立場から当時の様子を窺い知ることができた。 船舶輸送に携わった無名の軍人の生き様にも泣けてきた。 田尻昌次、佐伯文郎、篠原優、覚えておきたい。 広島の宇品にも行ってみたい。
Posted by
日露戦争から太平洋戦争終戦後までの船舶輸送、そして宇品の船舶司令部の歴史を調べ上げた渾身の一冊。やはり堀川恵子さんはその調査の緻密さ、文章力とも今の日本で最高のノンフィクションライターだ。日露戦争の成功体験から抜け出せぬまま、現実を直視することなく無謀な戦争に突き進んでいった過程...
日露戦争から太平洋戦争終戦後までの船舶輸送、そして宇品の船舶司令部の歴史を調べ上げた渾身の一冊。やはり堀川恵子さんはその調査の緻密さ、文章力とも今の日本で最高のノンフィクションライターだ。日露戦争の成功体験から抜け出せぬまま、現実を直視することなく無謀な戦争に突き進んでいった過程がよくわかる。船員の多くが兵士ではなく、丸腰の民間人だったとは。鳩より下に扱われた彼らのガダルカナルでの惨状などもっと知られていい。南方での死者のほとんどが餓死だったこと、杜撰な計画と甘い読みから船を作る資材もなくなり油布で石油を運ぼうとすらしていたこと、また、特攻は飛行機だけではなくベニヤ作りの船でも行われていたことなど、何もかも暗澹たる気持ちになる。 輸送や船員の地位の整備を訴えて罷免された田尻元司令官、無為に多くの兵を海で失わせてしまいながらも原爆投下直後から救援活動を的確に手配した佐伯司令官。彼らを通して輸送の歴史を俯瞰させてくれた堀川さんに感謝。自衛隊の災害活動の原点が関東大震災後の軍の活動にあったというのも目からウロコだった。佐伯司令官が原爆直後「流言飛語を防止し、民心を安定せしめる」よう説いたのも、関東大震災の時の経験によるものだったのだろう。 生涯の一冊とも言える素晴らしい作品。
Posted by
なぜ、広島に原爆が落とされたのか。 日本の戦争は宇品港の輸送に支えられていた。 原爆を新たな視点で捉えた力作。
Posted by
ヒロシマ関連の著作の多い筆者。爆心地からは距離があるが目標となったきっかけの一つだろう、宇品の陸軍の船舶司令部にスポットをあてたノンフィクション。 ヒロシマ原爆に関して多くの著作のある筆者。今回のテーマは爆心より南西4キロほどの宇品陸軍船舶司令部。 あまり注目されないが広島が...
ヒロシマ関連の著作の多い筆者。爆心地からは距離があるが目標となったきっかけの一つだろう、宇品の陸軍の船舶司令部にスポットをあてたノンフィクション。 ヒロシマ原爆に関して多くの著作のある筆者。今回のテーマは爆心より南西4キロほどの宇品陸軍船舶司令部。 あまり注目されないが広島が原爆の目標に選ばれるのに理由がある。その一つが陸軍の輸送の拠点だったということ。もちろん民間人が犠牲になったことを免責するつもりはない。 おそらく筆者は船舶司令部の被爆直後の応急活動をきっかけに取材を深めていったのだろう。そして出会った“船舶の神”と言われた田尻中将の手記。遺族の元にあった自叙伝から、筆者は軍都廣島の発展に至る陸軍の海上輸送にテーマを広げざるを得ない。 戦艦や空母、一線級の軍艦を攻撃することを至上とした海軍。陸軍は自前で輸送船も上陸用舟艇も整備しなくてはならない。陸海軍のセクショナリズムがただでさえ乏しい日本の資源を奪い合う。 輜重、補給の軽視、本書の主役田尻中将は建白と引き換えに昭和15年罷免される。 ヒロシマをテーマとした中でテーマが手に負えないほど広がった筆者の苦悩が本書から伝わってくる。それに負けず、真っ向から大きなテーマに立ち向かった筆者。原爆ではなく、もっと根本の日本軍の敗因とあまり知られぬ船員たちの戦争に迫った力作である。 綿密な構成のノンフィクションでなくともテーマと筆者の強い思いがあればこその素晴らしい作品でした。
Posted by
小さな島国が資源不足で補いきれない部分を精神論で埋めていこうとする姿勢。 実力を顧みず思い上がる。 それを正直に指摘しようとする者は組織から排除される。 こういう話しは昔話じゃない。 考えさせられます。
Posted by