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海辺の金魚 の商品レビュー

3.7

17件のお客様レビュー

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2024/04/09
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 児童養護施設で暮らす花は、夏を迎えて18歳になった。翌春には施設を出るきまりだが、将来のことや遠く離れた母親のことで葛藤を抱えている。 ――― (引用) ―――  家族とは、そんなに素晴らしいものだろうか。いつか読んだ本に、家族とは「自分から決して逃げない人」のことだと書いてあった。一度逃げられてしまった私たちは、この先その「家族」というものを、一体どう信じれば良いというのだろう。 ――― (引用おわり) ―――  そんなある日、ぬいぐるみを抱えた女の子・晴海が施設にやってくる。複雑な事情を抱えながらも日々を懸命に歩む晴海の姿に、花はかつての自分を重ね合わせていることを知る。 ――― (引用) ――― 「花、いい子でね」  いつになったら、私はあなたのいい子になれますか。いい子になれば、あなたはその手で私を撫で、優しく抱きとめてくれますか。 「いい子にしても、帰れないじゃん」  わかっている。晴海の言った通り、どんなにいい子になったって、帰れる場所もなければ迎えてくれる人もいない。あの人の言う「いい子」とは、解き方のない呪いなのだ。  そうとわかっていながらも、私はかつての世界の全てを手放すことができなかった。手放したくても、できなかった。あの人のいい子をやめてしまえば、私は誰の何になればよいのかわからない。あの人のいい子であること以外に、私は私自身を見出すことができなかった。その虚しさを自覚しながらも、もはやどうすることもできない。  私は心の奥底で、名もない金魚の奇跡を信じていた。信じなければ、今にも自分もろとも海の底へ引きずり込まれてしまいそうで怖かった。 「ママ、」  私は思わずあの人を呼んだ。 「ママ、」  届かぬ声が虚しく波音にかき消され、それでも私は呼び続けた。 「ママ!」 ずっと呼びたかったあの人の名を、ずっと呼んで欲しかった私の名を、今日、ここですべて流してしまおう。この世界の丸さに乗って、いつか優しさとなって返ってくる日を信じて待とう。私はその日まで、どんな荒波が押し寄せても、恐ろしい強風が吹いても、「おかえり」と言えるようにこの世界で生きていよう。  私たちに起きた事実は変えられないけれど、真実は自分次第だと、いつかタカ兄が言っていた。事実をどう受け取るか、それを抱えてどう生きるか、答えは出なくてもその道のりが自分なりの真実になると。 ――― (引用おわり) ―――

Posted byブクログ

2024/03/12

読んでいる間ずっと音のない空間にいるかのような感覚を受けた。 中卒で働く、と決めた(決めざるを得なかったであろう)あのクラスメイトはその後どんな日々を過ごして、何を思っていたんだろう と中学生の頃に気になったことがある。 それに近い人たちのおはなし。 中はもっと辛い経験をした人...

読んでいる間ずっと音のない空間にいるかのような感覚を受けた。 中卒で働く、と決めた(決めざるを得なかったであろう)あのクラスメイトはその後どんな日々を過ごして、何を思っていたんだろう と中学生の頃に気になったことがある。 それに近い人たちのおはなし。 中はもっと辛い経験をした人たちなんだけどね、なんとなくあの人と近いなと感じた。 私には親がいて、両親とも揃っていて、そのことを疑うこともなく当たり前と思って日々を重ねてきたわけだけれども、 親と暮らせなくなった人たちの心境が、なんとなく分かるのはなんでだろう。 リアルでそういう人に出会ったことが無いし、実際会ったらなんて声をかけていいか分からなくて戸惑うだろうけど、でもこうして文章にされるとなんか分かった気になっちゃうんだよなあ。なんでだろうな。 親がいても寂しさを感じることはあって、それのせいかもしれない。 本質のところでは全く同じ心境に至るなんてことは出来ないが、厳密に言えばそんなの誰だって当て嵌るだろう。 うまく言えないけど、読んでいる間の静謐な空気が、冬の雪の降る日のシンと冷えた音を飲み込んだ街中の空気にとてもよく似ていると感じた。 他の方の感想を読んで、言葉遣いが綺麗だと思った。この本に近い表現をされている人が多くて、それもこの本の魅力なのかな、なんて思うほどに。 そしてノベライズされたものなんですね。知らなかった。 だから表紙が写真なのかあ。 このお話が原作でもおかしくない、というか単体で見てたので軽く衝撃を受けた。

Posted byブクログ

2024/01/25

小川糸さんの並びにあって間違えて借りた本。笑 小川紗良さんって全然知らなかったけど、俳優や監督もやっているとか。 意図していなかったのだけど、親と暮らせない子どもの話をまた読んでしまった。 主人公の花が、淡々と状況を受け入れ、でも割と前向きに家の人たちと関わって暮らしているから...

小川糸さんの並びにあって間違えて借りた本。笑 小川紗良さんって全然知らなかったけど、俳優や監督もやっているとか。 意図していなかったのだけど、親と暮らせない子どもの話をまた読んでしまった。 主人公の花が、淡々と状況を受け入れ、でも割と前向きに家の人たちと関わって暮らしているから、そんなに悲壮感は感じない。胸が痛くなるようなエピソードは、いくつも散りばめられているのだけど。 迷いつつも前向きに生きていけそうな花の未来に、希望を感じる終わり方。

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2023/11/29

時には呪縛にもなり得る家族と言う言葉。それでもやっぱり子供達にとっては、その家族は何にも変えられない大切な場所で。とは言え、親からの愛情を十分に受けられずとも、可哀想ではなかった。施設の仲間との衝突や葛藤の中で、人として大切な物を大事に育んでいる。希望に満ちた物語。 日々を重ね...

時には呪縛にもなり得る家族と言う言葉。それでもやっぱり子供達にとっては、その家族は何にも変えられない大切な場所で。とは言え、親からの愛情を十分に受けられずとも、可哀想ではなかった。施設の仲間との衝突や葛藤の中で、人として大切な物を大事に育んでいる。希望に満ちた物語。 日々を重ねて、生きていこう。

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2023/03/30

特別養子縁組、また親と暮らせない子供たちの集まって住む家。 読み進めていくうちに主人公の花がまっすぐに育ってよかったと思えた。タカ兄が言っていた家族って日々を重ねていくしかないっていう言葉がまさに。です。 生みの親より育ての親とも思うし、家族を振り返ったときに日々の積み重ねから家...

特別養子縁組、また親と暮らせない子供たちの集まって住む家。 読み進めていくうちに主人公の花がまっすぐに育ってよかったと思えた。タカ兄が言っていた家族って日々を重ねていくしかないっていう言葉がまさに。です。 生みの親より育ての親とも思うし、家族を振り返ったときに日々の積み重ねから家族ってできていくのかなと本当に思う。 いい言葉です。読めてよかった。

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2022/12/23

美しい小説体験だった。 一つひとつ選ばれた言葉はやさしく、丁寧に紡がれて、脆くも繊細で温かかった。 児童養護施設での1年で主人公や他の子供たち、そして大人たちも揉まれ、絶望しながら、一歩一歩進んでいく。確かな答えが出せなくても、それでもいい。静かな希望を感じた作品だった。

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2022/10/02

児童養護施設に暮らす主人公が18歳になり、様々な事情で親と暮らせない子供たちとの関わりや成長を通して、目標を見つけ新たな生活に向かう。幸せになって欲しいなぁ、という余韻を残して終わる連作短編。1話目は児童虐待や無差別殺人など重い感じでしたが2話目以降は「みにくいアヒルの子」、「マ...

児童養護施設に暮らす主人公が18歳になり、様々な事情で親と暮らせない子供たちとの関わりや成長を通して、目標を見つけ新たな生活に向かう。幸せになって欲しいなぁ、という余韻を残して終わる連作短編。1話目は児童虐待や無差別殺人など重い感じでしたが2話目以降は「みにくいアヒルの子」、「マッチ売りの少女」、「親指姫」など簡単な童話がモチーフにされて、考えさせられながらも成長が感じられる話でした。

Posted byブクログ

2021/12/19

家族や居場所、児童養護施設に関心を持って読んでみた。 重くりそうなテーマを暗くならずに描いてあった。 大きな事件も大きな感情の変化もなくサラッと読めたけどあらすじからみるとちょっと期待はずれ感情あり。

Posted byブクログ

2021/12/11

図書館で借りたもの。 児童養護施設で暮らす花は、18歳の夏を迎えたが、将来への夢や希望を何ひとつ持てていない。ある日、事情を抱えた女の子・晴海が施設にやってくる。晴海の姿に、花はかつての自分を重ね合わせ…。 自身が監督した作品のノベライズ。 児童養護施設で暮らす花の心情が丁寧に...

図書館で借りたもの。 児童養護施設で暮らす花は、18歳の夏を迎えたが、将来への夢や希望を何ひとつ持てていない。ある日、事情を抱えた女の子・晴海が施設にやってくる。晴海の姿に、花はかつての自分を重ね合わせ…。 自身が監督した作品のノベライズ。 児童養護施設で暮らす花の心情が丁寧に描かれていた。花を通して語られる他の子供たちの様子も。 『どんなにちゃんとしようったって、初めからうまくいくわけはないんだよ。血がつながってても、つながってなくても』 っていう言葉が沁みた。子供を産む前に知りたかったな。

Posted byブクログ

2021/10/06

出だし2行目で「あ、好き」って思いました。 なんて跡を引く表現をする方なんだろう。 ずっと海辺で波の音を聴いているような心地。 引いては寄せる波が、胸に何度も打ち寄せてきて、砂浜を濡らすように心に沁み入る。 そこに時々残された貝殻を見つけては、宝物のように拾い集めたくなるような。...

出だし2行目で「あ、好き」って思いました。 なんて跡を引く表現をする方なんだろう。 ずっと海辺で波の音を聴いているような心地。 引いては寄せる波が、胸に何度も打ち寄せてきて、砂浜を濡らすように心に沁み入る。 そこに時々残された貝殻を見つけては、宝物のように拾い集めたくなるような。 素晴らしい表現力にため息が溢れるばかりです。 映画監督としても女優としてもご活躍されていて、小説デビュー作でコレは多才。 きっとこれからもっと、深みを感じられる作品を描いてくれるだろうと感じました。 映画も魅力的ですが、是非多くの方々に、この筆致を堪能して欲しいです。

Posted byブクログ