本と鍵の季節 の商品レビュー
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さすが米澤穂信、の一言。最初はいかにも青春ミステリー小説然として爽やかな顔をしているが、話を追うごとにメイン二人の思想に齟齬が現れはじめ段々と不穏な雰囲気になっていく、この謎解きと青春群像劇のバランスが妙。米澤穂信の作品は「満願」しか読んだことがないけど短編集として秀逸だなあと思った記憶があって、連作短編小説である本作は同じように秀抜だがまた違った面白味がある。当たり外れがない作家さんだなあ。 読み始めの一文が好き。「図書室は寂しくなった。」たったこれだけで、まるで自分の体が粒子になって本の中にするすると吸い込まれるようにグッと物語へと惹き込まれる。魅力的な一文。次の瞬間にはもう高校の図書室にいる。重くなく軽すぎず、高校生らしさを端々に感じる軽妙な文体でこの立体感は脱帽。 目の前に立ち現れる物語はときに可笑しくときに重苦しく、若さゆえの煌めきはあれど苦さも存分に孕んでいるのに、それでも全体からじんわりと染みだす青春の瑞々しさがある。 加えてミステリー小説としての上等さ。読み進めるうえで置いてきた数多の小さな違和感が伏線として華麗に回収される気持ちよさは圧巻。プロットだのなんだの難しいことは分からないが、とにかく終着点が気になってページを捲る手が止まらない、そんな面白さがある。 上質な謎解きミステリーを青春のほろ苦さで包んだ本作は、知的好奇心を大いに刺激しつつ、自分が通り過ぎてしまった時代への郷愁をも抱かせる。そして人より少し多く本を読むだけで十分に賢しいこの二人が、今まで通りの友人関係を紡いでいけるよう思いを馳せずにはいられない、、、読者に登場人物への愛着をもたせるのも上手な作品です。 ■913、、、典型的な暗号解読もの。しかも金庫!孫が本の分類記号を学ぶまで永遠に同じ分類の本借り続けてたんかなとか色々考えちゃうけど総じて面白い。何度もお茶の味の描写が出てきて、いやいや後で飲んで「これだったのか!」てなるにはお茶の味はなかなか分かりにくいぞと思っていたら『爽健美茶』。めちゃめちゃ腑に落ちた。 ■ロックオンロッカー、、、純粋な謎解きとして一番面白かった。登場人物の些細な一言から始まった些細な違和感を一つずつ論理的に潰していくさまが痛快。高校生らしい中身のない軽口も微笑ましい。 ■金曜に彼は何をしたのか、、、典型的なアリバイ探し。謎解きとして十分に面白いが、堀川と松倉の間に生まれた小さくも決定的な齟齬の方が印象として強い。 ■ない本、、、一番好き。一冊の本を探すレファレンス的な面で見ても面白いし、謎解きとしても面白いし、前話で生まれた齟齬を軸に堀川と松倉の人間性を掘り下げてあるという点でも興味深い。そして事の顛末がなんとも重く苦い。時に人を傷付けようとも、私は真実をそれとして目の前に突き出してしまう堀川の無神経と、それを後悔する思慮深さと優しさが好きだ。 ■昔話を聞かせておくれよ、、、典型的な宝探し。それぞれの過去から今に至る人間性をさらに深堀りし、松倉がずっと続けている宝探しに堀川が参加することで、今までは高校生としてあくまで「学校・学生」という枠組みの中で綴られていた物語が、初めて庇護されることのない外の世界へ飛び出した開放感と静かな興奮がある。 ■友よ知るなかれ、、、前話で終われば「あ〜面白かった!」だけで閉じたこの物語が、なんともビターで殊更印象深い一冊になるのは、前話からの伏線の華麗な回収を含めたこの最終話があるから。性質も環境もそれぞれ違うからこそ嵌まるこの二人が、どうかこれからも気のおけない友人であり続けますように。 分類記号に始まり、汚損本、除籍本、督促状に本の修理、市民譲渡、極めつけは「図書館の自由に関する宣言」。図書館で働いたことのある身としては覚えのあることばかりで嬉しかった。あまりにも内情に精通しているので筆者も実は図書館で働いていたと言われても驚かない。 「どんな立派なお題目でも、いつか守れなくなるんだ。だったら、守れるうちは守りたいじゃないですか。」松倉の台詞はずっと胸にとどめておきたいね。どんな綺麗事でも、守る努力を怠らないこと。
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たんぽぽの茎で舌の付け根をゴリゴリしてからやすりで歯茎削ってるみたいな読み味 オムニバス?形式でおもしろい
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高校の図書室ってどんなんだったか思い出そうにも無理でした。金庫の話と美容院の話が好きでした。 駆け足で読んでしまったこともあり、あっさりした読後感でした。
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発売当初に購入したものを再読。 日常ものでありながら、少し影のある事件、切り口の異なるお話が連作で入っていて、とても好みでした。 古典部シリーズより、こちらの方が好きかも。 いい人、綺麗事ばかりを並べるのではなく、人間の面白さが伝わってくる作品だな〜と感じました。
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米澤穂信の青春ミステリーには中毒性がある。 日常の謎系はオチが弱い印象があるけど、この作品はオチが重たかった。 高校生に何をさせてんねん。 予想外で楽しかったけど! ☆3.6
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堀川次郎(ほりかわじろう) 松倉詩門(まつくらしもん) 図書委員だけの付き合いしかない二人が身の回りに起きる些細な事件を解決していく青春ミステリー 初出は、2012年から「小説すばる」に断続的に掲載された作品に書き下ろしの「友よ知るなかれ」を追加し2018年に単行本として刊行さ...
堀川次郎(ほりかわじろう) 松倉詩門(まつくらしもん) 図書委員だけの付き合いしかない二人が身の回りに起きる些細な事件を解決していく青春ミステリー 初出は、2012年から「小説すばる」に断続的に掲載された作品に書き下ろしの「友よ知るなかれ」を追加し2018年に単行本として刊行された連作短編集 今回は、更に朝宮運河さんの解説入りの文庫本を読ませて頂きました。 昨年の暮れから、米澤穂信先生の『古典部』シリーズの愛蔵版を入手しており、少しずつ読み進めておるのですが、解説でも朝宮さんが触れておられた、堀川、松倉という二人の主人公たちを見つめる著書の目がこれまで以上に優しいのを感じずにはいられませんでした。 謎解きミステリーとしての完成度は、抜群でしたし、堀川、松倉の友情の物語としても素晴らしいと思います。 是非ともお手に取って見てください。 ミステリー好きの皆さんにお勧め致します。
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タイプは違えど、なぜかウマと空気が合う図書委員の男子高校生2人がくだらなくて実があったりなかったりする会話をテンポよく繰り広げながら日常の謎を解決していくっていう絶対わたしが好きなテイスト。前半は誰かの依頼を解決していたけど、後半になると松倉の過去に迫る話になって、半年前に知り合...
タイプは違えど、なぜかウマと空気が合う図書委員の男子高校生2人がくだらなくて実があったりなかったりする会話をテンポよく繰り広げながら日常の謎を解決していくっていう絶対わたしが好きなテイスト。前半は誰かの依頼を解決していたけど、後半になると松倉の過去に迫る話になって、半年前に知り合ったばかりの2人の間に確かな絆ができていたと感じた。解決に向かうにつれて、このままの2人でいたいという叶いそうで叶わなそうな願いがちょっと切なかった。やっぱり学校という空間で起こるドラマが好き。一番好きなのはロックオンロッカー。会話のテンポが最高。続編が出ているらしいので絶対に読みたい。
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2人の頭の切れるアンニュイな男子高校生(図書委員)が織りなすビターで辛辣でときどき可愛い青春ミステリ小説。 同著の『氷菓』と比べてシビアな結末は多いですが、主人公たちに垣間見れる折木ズムな感じが味わい深く、続編『栞と嘘の季節』もとても楽しみです。
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氷菓シリーズに近い作品の雰囲気を感じたので、氷菓シリーズ、特に折木の感じが好きな人にはオススメ。 短編集だが、各物語は、淡々と進みながら、発想と理屈(屁理屈かも)をもとに解決、けれどちょっとビターな後味がある点は綺麗に統一されている。 内容わかってるけど、何故かクセになって2回目...
氷菓シリーズに近い作品の雰囲気を感じたので、氷菓シリーズ、特に折木の感じが好きな人にはオススメ。 短編集だが、各物語は、淡々と進みながら、発想と理屈(屁理屈かも)をもとに解決、けれどちょっとビターな後味がある点は綺麗に統一されている。 内容わかってるけど、何故かクセになって2回目読みたくなる不思議な作品。
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どの謎も、単なる暇つぶしのように軽く始まるけれども、その先には、高校生には荷が重すぎるような現実が待っている。 松倉は、自分のことを性悪説だというけれど、それはきっとそうなのだろうけれど、それでも、いや、だからこそ、正しくあろうとしている。まるで、自分の決意を示すかのように。 それでも大人になれば、正しさを選択できない時が来るかもしれない。それは、松倉だけではなく、堀川も、他の誰かも。 大人でもあり子供でもあるような、高校生という時が持っている、ゆらぎ。 それが時に、哀しくなる。
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