恐怖 の商品レビュー
短編・中編がいくつか収録されている中で『パンの大神』と『恐怖』が特に良かった。あと『白魔』も中々。どの話でも何かしら不吉な出来事が起こり、その背景には超自然的な”何か”があって、しかし大抵の場合、それがどのようなものなのかをはっきりと描くことは無い。超自然的な出来事をミステリー仕...
短編・中編がいくつか収録されている中で『パンの大神』と『恐怖』が特に良かった。あと『白魔』も中々。どの話でも何かしら不吉な出来事が起こり、その背景には超自然的な”何か”があって、しかし大抵の場合、それがどのようなものなのかをはっきりと描くことは無い。超自然的な出来事をミステリー仕立てに追っていく様は、推理小説やSFの手つきに近いが、最後に至っても「不吉な予感」のみで、ある意味正しくホラーの文法に則っているような気もする。ここに脅威の正体を大々的に描くことをしたらラヴクラフトの作品になりそうだし、科学的な解釈を加えたらSFやミステリーになりそう。そういう風に見ると後の色々な作品に影響を与えたことが読み取れて面白い。 『恐怖』で扱っている怪異の対象は「自然」や「流行病」で、一応話の筋を追う人物はいるものの存在感は希薄。それは他の収録作にも共通している手つきで、人間よりも現象の不吉さ、汚らわしさ、神秘性を丹念に描こうとしているように感じられた。人間中心主義から離れ、触ることに忌避を覚えるほどの危うい何かに近づこうとする欲求。現代から見ると大した恐怖譚では無い場合が多いのだけど、そういった「冒瀆的なものに近づきたい」という作者の想いは作品の端々から伝わってきて、そこに一番共感した。 てか古典ホラーの解説読んでるとほんとよくラヴクラフトの名前出てくるなあ。ホラー界の特異点だ。
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現代に照らし合わせて読んでしまうと物足りなさが残るものの、この作品が書かれた年代を考えれば賛否両論巻き起こした問題作と言われるのは理解出来ます。ただ個人的には再読は無いです。
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ところが、ぼくは、人間の目がああいうまぼろしを見れば、害なきを得ないということを忘れていたのだ。またきみが言ったように、生命の家をあんなふうにあけ放すと、なにが飛びこんでくるか知れたものではない、ひょっとすると、人間の肉体は真言秘密の悪魔のかぶりものにならないともかぎらない、ということもぼくは忘れていたのだ。つまり、ぼくは自分にまだわかっていない力をもてあそんだのだ。 2022/4/3読了 S・キングが『心霊電流』で献辞を捧げた『パンの大神』を収載。見れば正気を保てなくなる、恐ろしい異世界がすぐ傍にある、という世界観は共通している。 ところで、「身体上の危険はぜったいにない」と断言したくせに、ドクター・レイモンドの実験は、悲惨な事態を招いてしまう。で、言って(書いて)いることがコレ。「どうだ、こう考えれば説明が付くだろう」とドヤっているようだが、後悔・反省しているとは全く思えない。
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パンの大神、白魔、恐怖がよかった。マッケンは文明や進歩に懐疑的。彼が信じるのは太古に存在した神々、精霊、悪鬼たち。翻訳は時代を感じて読みづらかった。
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後期作品「恐怖」(1917)以外は1890年代の初期作品を集めた、イギリスの古典的怪奇小説作家マッケンの中短編小説集。630ページとかなり分厚くて読み応えのあるボリュームだった。高校時代あたりにマッケンは1,2冊読んでいたようだが、その頃とはたぶん違う視点で読んだ。 いずれの...
後期作品「恐怖」(1917)以外は1890年代の初期作品を集めた、イギリスの古典的怪奇小説作家マッケンの中短編小説集。630ページとかなり分厚くて読み応えのあるボリュームだった。高校時代あたりにマッケンは1,2冊読んでいたようだが、その頃とはたぶん違う視点で読んだ。 いずれの作品にしても、マッケンの興味は「幽霊」でも「犯罪」でもなく、遙菜遠い森に潜む何かや、先史時代の名残を示す存在にあるようだ。日常世界に潜む何かを露出していこうというスタイルは、ラヴクラフトと共通である。というか、ラヴクラフトがマッケンの影響を受けているらしい。 しかし、マッケンの作品では「隠されていた存在」がクライマックスでついに姿を現す、といった明瞭な場面はない。ラヴクラフトなら異形の存在が遅くともクライマックスまでに出現し、その形状が詳しく描写されるところだが、マッケン作品ではいつもハッキリしたものが呈示されずに終わる。何が起きたのか、その具体的な記述がないままに終わってしまうのである。そこが、現在の視点からはホラー作品として刺激が足りず、不明瞭すぎる印象が強い。 描写はじっくりと書き込まれている感じだが、文体はどこか鈍重で、ともすれば10ページ以上も改行の無い叙述が続いたりして、辟易させられる。 異色なのは「生活の欠片」(1890)という作品で、凡庸な若夫婦の凡庸な生活が、前半延々と微に入り細に入り記述される。これでは普通小説だ。後半も、さほど異常な事件が起きるわけでもなく、ほとんど怪奇小説とは呼べないものとなっているのだが、主人公がしばしば思いを寄せる遥か遠くの森の光景が、その憧憬が強すぎるために生活を破砕しかねないという、そのじわじわと迫る心的イメージが、強いて言うと他の怪奇小説作品と同様の顕れ方をしている、とは言える。 ロンドンでの都市生活に隠された何かを常に待望し続けるというマッケンの小説世界は、それ自体は馴染みやすいものだ。ただ、それが巧く書けているかどうかは、ちょっと疑問である。
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2021年9月24日読了。19~20世紀に生きた作家アーサー・マッケンの代表作『パンの大神』を含む7篇の中短編をセレクトした短編集。何分古い小説ではあるが、訳のバランスがいいのか読んでいて黴臭い感じは受けず、古きよきイギリスの香り漂うクラシックとして読めた。人間の科学が踏み入れて...
2021年9月24日読了。19~20世紀に生きた作家アーサー・マッケンの代表作『パンの大神』を含む7篇の中短編をセレクトした短編集。何分古い小説ではあるが、訳のバランスがいいのか読んでいて黴臭い感じは受けず、古きよきイギリスの香り漂うクラシックとして読めた。人間の科学が踏み入れてはいけない領域を侵し、世界の裏側でうごめく太古の存在が現代社会を浸食する…という恐怖を直接に描かず伝聞でほのめかす『パンの大神』はなるほどテーマとスタイルが合致し、じわじわ慄然とさせられる名作と感じるが、他の中短編は正直21世紀に生きる現代人たる自分にはかったるく冗長で読み終わるのにつらいものがあった…。とはいえ賢者は歴史に学ぶという、たまに古典に触れることは大事というものだろう。
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「パンの大神」 …ロンドンで著名な紳士が次々と自殺していく。見え隠れするのは一人の女性 「内奥の光」 …ブラック医師は妻を殺したのか。博士の手記には…。 「輝く金字塔」 …友人の家の前に毎夜暗号が現れる。石で軍隊の様子、鉢、三角、半月、そしてアーモンドのような目。1か月前には...
「パンの大神」 …ロンドンで著名な紳士が次々と自殺していく。見え隠れするのは一人の女性 「内奥の光」 …ブラック医師は妻を殺したのか。博士の手記には…。 「輝く金字塔」 …友人の家の前に毎夜暗号が現れる。石で軍隊の様子、鉢、三角、半月、そしてアーモンドのような目。1か月前には、妖精隠しにあった少女がいた。 「赤い手」 …高名な医師が殺害された。そばには赤い手の落書きがあった。先史時代の人がロンドンの街を跋扈しているのだろうか。 「白魔」 …人間は善も悪も混ざり合った生きものだ。みんな似たり寄ったりなのさ。少女の白い悪夢。 「生活の欠片」 …お互いを大切に愛し合っている初々しい若い夫婦の日常が綴られているのを、読み進めていくと…。夫の残した詩が夫婦のことを書いたものだとよいな。 「恐怖」 …戦時下、情報統制のなか何も知らされないことから、ひたひたと恐怖が忍び寄る。 田舎町の軍事工場から数百の棺が並べられ、不可解な死が頻発する。敵国からの侵略なのか、それとも。 〇昨今の小説の文体に慣れ親しんでいると、なかなか噛みごたえのある文章。平井氏の1970年代に訳された作品。東洋と西洋の言葉が混じり合い独特の雰囲気。怪異が文脈からあふれ出る。
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一冊丸ごと平井呈一訳のマッケン傑作選。とにかく分厚い。巻末の「マッケン作品集成解説」を除いても600ページぐらいがひたすらマッケンの作品で読み応えバッチリ。 私の好みでは、冒頭の「パンの大神」とラストの「恐怖」のこの2作が特に面白かった。 全体を通して、古代の邪神(たぶんケルト系...
一冊丸ごと平井呈一訳のマッケン傑作選。とにかく分厚い。巻末の「マッケン作品集成解説」を除いても600ページぐらいがひたすらマッケンの作品で読み応えバッチリ。 私の好みでは、冒頭の「パンの大神」とラストの「恐怖」のこの2作が特に面白かった。 全体を通して、古代の邪神(たぶんケルト系)、民間伝承や前史時代の人類の生き残りなどを不穏に散りばめたようなテイストが楽しめて良かったです。 「作品集成解説」によると、まだまだこの本に選ばれてない作品の中にも気になるものがチラホラあって読んでみたいですね。
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