殺人者の手記(上) の商品レビュー
文字通り、犯人による手記を中心に、物語は進められる。予告殺人ともとれる「手紙」を元に、バルバロッティ警部補と仲間たちが難解な推理に挑む。北欧特有の残忍な事件だが、切れ者の上司や魅力ある女性たち、警部補の冴えない私生活も、空気を和ませる。読後、重くならない小説である。
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「エリック・ベリマンの命を奪うつもりだ。お前に止められるかな?」休暇直前のバルバロッティ捜査官のもとに、殺人予告ともとれる手紙が届いた。悪戯かとも思ったが、休暇先から署に連絡して調べてもらうが、同名の人物が複数いて手間取っているうちにエリック・ベリマンの遺体が発見される。予告は本...
「エリック・ベリマンの命を奪うつもりだ。お前に止められるかな?」休暇直前のバルバロッティ捜査官のもとに、殺人予告ともとれる手紙が届いた。悪戯かとも思ったが、休暇先から署に連絡して調べてもらうが、同名の人物が複数いて手間取っているうちにエリック・ベリマンの遺体が発見される。予告は本物だったのだ。休暇を切り上げたバルバロッティの元に新たな予告状が……。 スウェーデン本国では有名な作家らしいが、初めて読む。陰惨な描写はなく、どことなくユーモラスな味わい。下巻に続く。
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完全に騙された! 予告殺人の手紙が警官に届き 次々と被害が拡大。 やっと繋がった手がかりで解決かと思いきや。 北欧ミステリー独特の暗い感じの舞台に加え 捻りが加わり秀逸でした。
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的確かつ良い邦題、と思う。まさに本書は殺人者の手記によってスタートするからだ。(ちなみに原題は「まったく違った物語」) まず、この手記が実に手ごわい。謎めいた文章の向こう、やがて明らかになる過去の犯罪。この手記だけで終わるノワールであっても構わないように思う。ここまで文章に...
的確かつ良い邦題、と思う。まさに本書は殺人者の手記によってスタートするからだ。(ちなみに原題は「まったく違った物語」) まず、この手記が実に手ごわい。謎めいた文章の向こう、やがて明らかになる過去の犯罪。この手記だけで終わるノワールであっても構わないように思う。ここまで文章に拘った、ある種芸術的とまで呼べる手記であるのなら。 しかしこの不気味な手記に、登場する人物たちが5年後、殺人の標的にされ、その殺害予告が次々とある刑事の自宅に届くことで、物語は立体的な複合構造を呈し始める。現在と過去。現実と手記。刑事個人と犯罪者との関係。 現実の側を司る捜査官グンナル・バルバロッティ警部補が本書の主人公。実に詳細に、綿密に、作家は彼の人物像を書き込んでいる。レトリックに満ちた幻想にすら思える薄気味の悪い手記を挿入しつつ、現実世界の証人の如く、物語を活かし、よりリアルにするために。 このバルバロッティ像がよい。彼は再婚を視野に入れた恋愛と子離れの丁度渦中にありながら、殺人予告が飛び込み、マスコミの精神的暴力に晒され、警察組織からは自宅待機を迫られるなど、次々とネガティブな環境下に置かれるが、何よりも殺害予告がバルバロッティに届けられる理由が、そもそもの謎なのである。 ブルターニュのある季節を描いた手記で始まる本書は、バルバロッティの視線で眺望した絵画のように美しいゴッドランド島での恋人とのシーンへ舞台を移す。さらに殺害予告を知った彼は捜査の中心となるシムリンゲ(架空の町らしい)へ。舞台装置の移動だけでもめくるめく動揺を誘いそうだ。 手記はさらに読者をミスリードする。バルバロッティの家族の離合集散と、新しい恋人との家族再構成に関わる現在の日々と、私生活だけでも一つのホームドラマとしての読みごたえがあるくらいなのに、そこに薄気味の悪い連続予告殺人事件やマスコミからのバッシングなど、波乱万丈なバルバロッティの周辺事情。 地方署ゆえに都市部警察署からの応援人員まで呼ばれ、なおかつ事件はスウェーデンの現在と、南仏の過去にまたがる大仕掛けなものである。そんな舞台装置に立つのが現実に存在していそうな等身大警部補バルバロッティ。周囲の個性的面々を含め、ストーリーテリングの冴えが目立つ力作と言ってよいだろう。無論リーダビリティも抜群である。 作者ホーカン・ネッセルは本国でも国際的にも名実ともに相当な実力派作家らしいのに、日本では数作しか翻訳されていない。バルバロッティ・シリーズはもちろん、ファン・フェーテレン警部補シリーズ(『終止符(ピリオド)』一作のみ)もほとんど日本語では読めない。本作を機に、この筆力とアイディアに優れた才気溢れるベテラン作家に接する機会が、一気に広がってくれると有難い。
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面白くて夢中で読んだ。テンポがあるのも好きだし、主人公の警部補の人となりもリアルで好き。後半が楽しみ。
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最大の謎は、なぜ今までこの本が翻訳されなかったのかだ。 スウェーデンでの出版は、2007年。 ドイツ、イタリアで2008年、オランダが2012年、英語は遅れて2018年、 さらに遅れて、日本は2021年・・・・・・ こんなに面白い本なのに! グンナル・バルバロッティ、47才。 ...
最大の謎は、なぜ今までこの本が翻訳されなかったのかだ。 スウェーデンでの出版は、2007年。 ドイツ、イタリアで2008年、オランダが2012年、英語は遅れて2018年、 さらに遅れて、日本は2021年・・・・・・ こんなに面白い本なのに! グンナル・バルバロッティ、47才。 スウェーデン、シムリンゲ署の警部補である。 この年齢で警部補なのだから、順調に出世しているとはいえない。 5年半前に別れた妻との間に、3人の子供がいる。 唯一、父と住みたいと言ってくれた娘は、しかし、先月ひとり立ちしてしまった。 今、グンナルは、3Kの家に一人きりで暮らしている。 侘しい独り住まい――なのだが、今、グンナルの胸は浮き立っている。 14才の少年のように! だって、今から夏の休暇に出かけるのだ。 天国のような土地、ゴットランドへ。 愛する女性、マリアンネの待つ家へと――! 『殺人者の手記』という、不穏当なタイトルどおり、実は物騒な話である。 『わたしはほかの人間とはちがう。』(上10頁) 『このテーブルの全員を殺して立ち去ろうか』(上12頁) 「手記」は初手からこんな調子で、人は次々と死ぬ、死ぬ、死ぬ。 警察をあざ笑い、いいように振り回して、きりきりと踊らせる。 おかげでシムリンゲ署は疲弊しきってしまった。 署員だけでなく、ヨーテボリ署や国家犯罪捜査局から、手伝いにきた者らもくたびれきっている。 しかし、わけても、バルバロッティが追い込まれていた。 殺人者から、贔屓されたからである。 理由はわからない。 殺人者は必ずバルバロッティに手紙を送ってくるのだ。 計り知れない圧迫に、読むほうも押し潰される物語――には、実はならない。 これはまずバルバロッティの性格によるだろう。 彼は素敵に面白いのだ。とくにその饒舌さが。 バルバロッティは常に語る。まわりの色々をぼやく。 思考を進め、自分に語り、恋人に愛を告げ、神と対話する。 『半年前から聖書を読み始めたのだ。それは父なる神の思し召しであり、驚くほど頻繁に言葉や一節が頭に浮かぶようになった。親愛なる神よ、あなたは実際には存在しないのに――とよく考える。この聖なる書典は腹が立つほどいい本だというのを認めざるをえません。まあ少なくとも、部分的には。 それについては、わが主も必ず同意してくれる。』(上23頁) バルバロッティという名でわかるように、彼にはイタリアの血が入っている。 彼のありようは、まるでオペラかオペレッタのようだ。 『マリアンネだ! おれのことを考えてるだって? わお! 神様ありがとう!』(下72頁) そして、彼をとりまく女性たちもまた素敵なのだ。 同僚エヴァ・バックマンは有能な警部補で、常にユーモアを忘れない。軽口をたたいて作業を片付け、積極的に現場へと向かう。 サラは素直なよい娘だ。パパ・バルバロッティが甘くなるのも当然だ。 そして、マリアンネ。「あなたといて最高なのは、一緒に笑えることよ」とバルバロッティに笑顔を向ける、最高の恋人である。(下262頁) バルバロッティと彼女らの貢献によって、人がバタバタ殺されるこの話が、ぐったりくることもなく、時にほっとして、笑い声さえあげながら読み進むことができるのだ。 恐ろしさと、面白さと、どちらも楽しめる素晴しい本である。 なぜ日本までたどり着くのに、こんなに時間がかかったのかは謎だが、こうして読めるのが嬉しい! 幸せだ! この『殺人者の手記』は、バルバロッティシリーズの2巻目(日本出版は1冊目)である。 シリーズは2021年現在、6巻まである。 1巻が気にならないわけではないが、なにより続きが気になる。 どんどん翻訳して、次々に出版してほしい。
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