沙林 偽りの王国 の商品レビュー
オウム真理教の起こした数々の事件を、集められる記事を基に順序立ててまとめている。 日本の警察の連携のなさ、杜撰さ、宗教法人に対する政治家の忖度。 マスメディアの記事の杜撰さなどが浮き彫りにされた一冊。 途中医学論文誌かと思うところもあり、苦心したが、最後の方はよくまとめられ...
オウム真理教の起こした数々の事件を、集められる記事を基に順序立ててまとめている。 日本の警察の連携のなさ、杜撰さ、宗教法人に対する政治家の忖度。 マスメディアの記事の杜撰さなどが浮き彫りにされた一冊。 途中医学論文誌かと思うところもあり、苦心したが、最後の方はよくまとめられていた。 むしろ最初から最後の2章を読むだけでも十分だったかも。
Posted by
1990年代の半ば、1つの宗教団体が日本を震撼させた。 オウム真理教。 ヨガ教室からはじまったその新興宗教は、オカルトブームにも乗る形で信者を増やしていった。過激な修行や教祖・麻原彰晃への絶対的な帰依が特徴。組織が大きくなるにつれ、強引な布施や出家の強要から、信徒やその家族とのト...
1990年代の半ば、1つの宗教団体が日本を震撼させた。 オウム真理教。 ヨガ教室からはじまったその新興宗教は、オカルトブームにも乗る形で信者を増やしていった。過激な修行や教祖・麻原彰晃への絶対的な帰依が特徴。組織が大きくなるにつれ、強引な布施や出家の強要から、信徒やその家族とのトラブルが増えていく。拠点の近所とのもめ事も絶えなかった。 オウムには高学歴のものも多く入信した。信者から巻き上げた巨額の布施を元に、彼らは危険な化学兵器や生物兵器の開発に勤しんだ。 そして、松本サリン事件、地下鉄サリン事件をはじめとする、前代未聞の大事件を起こしていく。 本書のタイトルの「沙林」とは、台湾語でのサリンの表記である。 参考文献を含めて570ページの大部。 冒頭に、「当時の歴史的事実をもとに、小説として構成したノンフィクション」とあるが、被害者・加害者とも実名で記載され、裁判記録などに基づく部分も多く、感覚としてはノンフィクションに近い。 主人公は神経内科医で中毒学の専門家であり、この人物の視点から事件を追っていく。つまり、この部分がフィクションである。ただし、名前を変えてはいるが、主人公のモデルとなっている医師は実在の人物で、精神科医でもある著者とは同窓である。 医学的知識に基づきつつ、オウムの犯した数々の犯罪を詳細に記載していく。 本書では、「オウムが何をしたか」というよりも、被害者が「オウムに何をされたか」を中心に追っている。 被害者の詳細な症状、化学的な分析結果、医学的な意見書なども差しはさまれる。 主人公の医師が学生に行う講義などの形で、731部隊の実験や、ホロコーストで使用された毒ガス、戦争で使用された、あるいは使用を回避された化学兵器・生物兵器にも触れられる。 化学兵器の利用は、歴史上、続いては来たのだが、民間人を無作為にテロ行為の標的とするという点で、オウムの事件は特異だった。 改めて、彼らがいかに多くの犯罪に手を染めてきたのかに驚かされるのだが、結局のところ、信者が何に魅かれ、ここまでの逸脱をなしたのか、謎は依然として残る。 教祖は単に、詐欺師だったのだろうか。なぜ高学歴の者も含む多くの者が教祖に乗せられる形で突っ走ってしまったのか。 中には悔悛したものもいる。だが、彼らは「それ」を信じたときに、何を思っていたのだろう。「そちら側」と「こちら側」は一見遠いようだが、その「断絶」を超える何かのきっかけがあれば、あるいは誰しも超えうるものなのか? 当時、途中まで、私たちはオウムを本気では警戒していなかったはずだ。マスコミにもてはやされているのを苦々しく思っている向きもあっただろう。けれど、どこか「ショー」を見ているように、それは消費されていたのではなかったか。 いつ、どこで、それは凶悪なものになったのか。 すでに首謀者の多くは処刑され、残る謎はあまりにも多い。 それゆえ、この事件は忘れられるべきではないのだ。
Posted by
かつて見聞きしたオウム真理教事件.久々に本で読み,当時の衝撃が思い出される本だった. ただ,小説としては読みにくく冗長な記述が多く,ルポとしては余計な話がふんだんにありすぎて微妙と感じた.特に戦争の話,731部隊の話などは脈絡なく突然はじまり結構な紙面をさいて書いてあり,オウム真...
かつて見聞きしたオウム真理教事件.久々に本で読み,当時の衝撃が思い出される本だった. ただ,小説としては読みにくく冗長な記述が多く,ルポとしては余計な話がふんだんにありすぎて微妙と感じた.特に戦争の話,731部隊の話などは脈絡なく突然はじまり結構な紙面をさいて書いてあり,オウム真理教の話からずれることこの上なしと感じてしまった. 余計な話がなかったらもっとよかったのに,と思わないでもない本.
Posted by
薬物中毒に詳しい九大医学部教授が一連のオウム真理教の様々な毒ガスでの攻撃を、医学的な分野から検証していく態をとった、フィクション。とは言え、日時や場所などは実際のもの。 500ページを超す大作だが、かなり専門的な記述が多くて、学生向けの論文のようで読み難い箇所もあった。 教祖麻原...
薬物中毒に詳しい九大医学部教授が一連のオウム真理教の様々な毒ガスでの攻撃を、医学的な分野から検証していく態をとった、フィクション。とは言え、日時や場所などは実際のもの。 500ページを超す大作だが、かなり専門的な記述が多くて、学生向けの論文のようで読み難い箇所もあった。 教祖麻原の狂気や、彼を支え従った教団幹部らのおぞましさがとても怖いし、今なお教訓を生かしきれてない社会の闇も怖かった。
Posted by
こうして1冊の書物としてオウム真理教の事件を辿ってみると、とんでもないことが起きていたのだと痛感させられる。正直のところ自分自身は事件当時、学校の友達と「なんかとんでもないことになってる」と言い合っていただけだったように思う。長野や東京と離れたところに住んでいたこともあって、それ...
こうして1冊の書物としてオウム真理教の事件を辿ってみると、とんでもないことが起きていたのだと痛感させられる。正直のところ自分自身は事件当時、学校の友達と「なんかとんでもないことになってる」と言い合っていただけだったように思う。長野や東京と離れたところに住んでいたこともあって、それこそテレビの映像の中の出来事はまるで現実ではないかのようにきっと思っていたのだろうと振り返る。サリン被害の後遺症に苦しんだ方や、事件に巻き込まれ終わりを迎えることのない方々に対して、なんとも今の今まで記憶の薄れた出来事になってしまっていた自分が申し訳ない気持ちになる。この単行本も購入後に未読のまま本棚に1年以上経ってしまっていたが、文庫化されたのを機に読んだ。文庫には国松元警察庁長官が解説を書かれているようなのでこの一連の事件の重大さが伺い知れる。 九州大学の名誉教授である井上尚英氏をモデルにした主人公沢井直尚を通して、サリン事件だけでなくオウム真理教の実態や事件後の裁判まで俯瞰的に描かれている。そのためその時々の状況がよく分かり、辛くもあり驚きもある。巻末に掲載されている参考資料は膨大な量であり、だからこその臨場感がある。事件の詳細、医療従事者の対応、曝露者の症状、化学兵器の製造や歴史、教団内の序列や犯罪、警察やマスコミの対応、裁判のやり取り、など医師による専門的な知識で描かれる部分も多く難しいがどれほどの異常性かがよく分かる。高学歴ばかりの幹部たちがなぜ教祖に従い、このような事件を起こしてしまったのか驚くばかりである。テロ以外の何ものでもないようなことでも、宗教心と教祖という存在による洗脳が残虐行為すら救いと思い込ませてしまうことに驚くほかない。著者による後記も読み、この実情を忘れないようにしようと思う。読み終えて、当時の警察組織の連携が無いことや、裁判での松本被告の態度に著者の静かな怒りを感じた。
Posted by
神経内科医で衛生学の沢井教授の視点で、オウム真理教が関わったとされる事件について、医学分野から詳細な切り口で描いていく作品。 地下鉄サリン事件が発生したのは1995年3月、阪神淡路大震災の2カ月後だった…。見慣れた地下鉄の風景が、まるで別の場所でしかもドラマを見ているかのよ...
神経内科医で衛生学の沢井教授の視点で、オウム真理教が関わったとされる事件について、医学分野から詳細な切り口で描いていく作品。 地下鉄サリン事件が発生したのは1995年3月、阪神淡路大震災の2カ月後だった…。見慣れた地下鉄の風景が、まるで別の場所でしかもドラマを見ているかのような映像がテレビで流れてきて驚愕しました…。その後強制捜査として上九一色村にある教団施設の捜索…この作品の表紙と同じ防護服を来てマスク、ガスマスク、手にはカナリア、そんなニュース映像を固唾を飲んで見守っていました…。中国ではサリンを「沙林」と表すのだそうです。 フィクションであるとのことわりはあるけれど、ノンフィクションを読んでいるような…それでいて、医学的な観点からの考察がスゴイです!読みにくい箇所もありましたが(まぁ…深く考えずに飛ばして(^-^;)、それでも読了までには何日もかかりました。サリンだけには留まらず、オウム真理教が手掛けていた生物・化学兵器(もうそう言っていいと思います)、過去の戦争に用いられた生物・化学兵器のことにも触れられています。核兵器も恐ろしいけれど、生物・化学兵器は「貧者の核」とも言われているそうです。サリンの後遺症で苦しむ人たちは今もいる…年月が経とうとも大事な人を亡くされた方の悲しみも癒えない中、同じ悲劇が繰り返されない平和な世界であるよう願う気持ちを新たにしました。
Posted by
1995年1月に阪神大震災があり動揺が収まらぬ3月20日東京で地下鉄サリン事件が起こった。2日後上九一色村のオーム真理教のサティアンに強制操作が入った。当時何の脈絡も解せず犯人を特定した素早さに驚いた。各地で起きた一連の事件に気づいていなかった。呑気なものである。本書ではノンフィ...
1995年1月に阪神大震災があり動揺が収まらぬ3月20日東京で地下鉄サリン事件が起こった。2日後上九一色村のオーム真理教のサティアンに強制操作が入った。当時何の脈絡も解せず犯人を特定した素早さに驚いた。各地で起きた一連の事件に気づいていなかった。呑気なものである。本書ではノンフィクションと言ってよいほど克明に記録を調べ、特に科学面での説明に詳しい。そこが読み進める上の障害となったが、全容が理解できて良かった。著者の初期のサスペンス小説をよく読んだが、ずいぶん作風も変わり、和歌山カレー事件を扱った『悲素』といいノンフィクション系の作品も出だした。幅広いジャンルの作品をじっくり読むのが楽しみになっている。2022.7.15
Posted by
あのオウム真理教の悍ましいサリン事件を克明に追った内容となっている。 帚木氏が精神科医と云うことからも科学的内容には説得力があり、小説と云うよりもノンフィクションと呼んだ方が適切だと私は思った。 主人公以外の登場人物・組織は総て実名で綴られ、内容の緻密且つ正確さには驚かされる。 ...
あのオウム真理教の悍ましいサリン事件を克明に追った内容となっている。 帚木氏が精神科医と云うことからも科学的内容には説得力があり、小説と云うよりもノンフィクションと呼んだ方が適切だと私は思った。 主人公以外の登場人物・組織は総て実名で綴られ、内容の緻密且つ正確さには驚かされる。 あまりに科学的データが詳し過ぎて、読む者には少々の忍耐力と疲労を要求される。 私にとっては、ページがどんどん進むといった内容では無かったが、興味深い内容が満載だった。
Posted by
2022.5 あのオウム真理教事件はこんなに恐ろしい出来事だったんだ…背筋が凍る思いで読みました。ただ後半は医学解説書のような内容が連続し、飛ばし読み。
Posted by
フィクションという体で書かれてはいますが、 ほぼノンフィクションです。 どうしてあのような凶事にいたったのか。 医師の立場から真実に近づこうと試みています。 中盤は医師から見た専門的な記述が多いので、 難解で理解に時間を要しますが、 斜め読みしてもストーリー的に...
フィクションという体で書かれてはいますが、 ほぼノンフィクションです。 どうしてあのような凶事にいたったのか。 医師の立場から真実に近づこうと試みています。 中盤は医師から見た専門的な記述が多いので、 難解で理解に時間を要しますが、 斜め読みしてもストーリー的には問題ないと思います。 562ページ。 読み応えもありますが、1994年の松本サリン事件から始まり、 未曾有宇のテロ「地下鉄サリン事件」をおこした、 オウム真理教の狂気を医師の立場から出来うる限りの解明を試みた一書です。 事件の解明のためにも、死刑執行は早すぎた。 心情としては殺しても飽き足らない思いはありますが、 麻原のような狂人を生み出した背景は何なのか? それを許してしまった日本の政治、治安はどうなっているのか? どうして、傍目に見ても狂気としか思えない思想に、 あんなにも高学歴の人々が麻原の思想に取り付かれてしまったのか? 第2次世界大戦のヒトラー、ムッソリーニ、スターリンしかり、 どうして人間は狂気の集団と化してしまうのか。 あの悪夢を忘れないためにも一読の価値ありです。
Posted by