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旱魃世界 の商品レビュー

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2024/02/14

旱魃世界 人類の愚かな振舞いにより、海からの水の恵みが途絶えた世界。 湖は干からび川は流れを止め、生き物は死に向かい、陸地は砂漠化していく。 人は海水を蒸留して得るわずかな水と引き換えに、愚かにも、更に塩で海を浸食していく。 連想されるのはマッカーシー「ザ・ロード」でありマル...

旱魃世界 人類の愚かな振舞いにより、海からの水の恵みが途絶えた世界。 湖は干からび川は流れを止め、生き物は死に向かい、陸地は砂漠化していく。 人は海水を蒸留して得るわずかな水と引き換えに、愚かにも、更に塩で海を浸食していく。 連想されるのはマッカーシー「ザ・ロード」でありマルセル・セロー「極北」であり、映画「マッドマックス」や「風の谷のナウシカ」だろうけど、水を求めて南へ向かう姿は、なぜかスタインベック「怒りの葡萄」をイメージしてしまう。 主人公が「意識の中に携えてきた内なる景観(イナーランドスケープ)の周辺領域を越える旅」とは、なんだったのか……最後まで読んでも捉えることは難しい。 初めの頃に書かれていたハウスボートの中に飾った「雑誌から切り抜いたイヴ・タンキーの『緩慢な日々』の写真」が、最終章のタイトルとされていること……うーん、わかりません。

Posted byブクログ

2021/09/28

あっという間に暑い夏はすぎて秋。酷暑をふりかえりつつ、タイトルからして暑そうなバラードの作品を読む。燃える世界の改訂版の位置付けとのことですが、読みやすさも違う し、意味合いも違う文脈が多くなったような気がします。特にラストシーンなどかなり違うのではないでしょうか。これ翻訳の違い...

あっという間に暑い夏はすぎて秋。酷暑をふりかえりつつ、タイトルからして暑そうなバラードの作品を読む。燃える世界の改訂版の位置付けとのことですが、読みやすさも違う し、意味合いも違う文脈が多くなったような気がします。特にラストシーンなどかなり違うのではないでしょうか。これ翻訳の違いなのでしょうか?原文が変わったのでしょうか? 読んだからといってこれからの人生が何か変わるかといえば何も変わらないですが、なんといってもバラードの魅力はそのシュール・リアリズムの絵画のようなビジュアルにも訴える強烈なイメージでしょう。この印象は一生残ります。「沈んだ世界」も再読してみよう。

Posted byブクログ

2021/08/06

原題「The Drought」のとおり、干上がった終末世界が描かれる。「結晶世界」の前に書かれたもの。「結晶世界」だといずれすべて結晶となってしまうのか、という静かな結晶化の世界という気がしたが、ここでは旱魃に抗うが、でも受け入れてもいる、しかしのたうち回っている騒々しさを感じる...

原題「The Drought」のとおり、干上がった終末世界が描かれる。「結晶世界」の前に書かれたもの。「結晶世界」だといずれすべて結晶となってしまうのか、という静かな結晶化の世界という気がしたが、ここでは旱魃に抗うが、でも受け入れてもいる、しかしのたうち回っている騒々しさを感じる世界。 バラードはシュルレアリズム絵画が好きだということだが、文中にも主人公ランサムの部屋にはタンギーの絵があり、その絵が今いる旱魃世界だとしばしば連想する、と出てくる。自分もタンギーの絵が好きなのだが、旱魃の世界はちょっと連想しなかった。ただ、灰色のバックにすべっとした石が描いてある絵は、時間が止まったような感じがして、それが干からびて砂漠化した世界を想像するかも。確かにこの旱魃世界では砂に埋もれて行くのだ。 絶景写真集で出てきたアフリカの鉱物採集町の砂に埋もれた廃墟を思い出した。しかもこの旱魃世界になった原因は過去50年にわたって生成された莫大な量の工業廃棄物のせいで海面に膜ができて水蒸気ができなくなった、ということになっているのだ。 またバラードは第二次世界大戦中の上海租界に育ち日本軍の捕虜施設にも入ったという。その戦争中の混沌とした上海での生活もこの旱魃世界に反映されているのかな、などとも感じた。自伝もでているようなので読んでみたくなった。 雨が降らずに旱魃にさらされた土地に住む医者ランサムの逃避?生活。海にそそぐ川、湖沿いの街に住むランサムを中心に、建築家の友人や動物園を営む女性、川で生活する若者といった者たちが旱魃世界で営む生活。海を求めて住んでいた川を下るが・・ しかし旱魃の海岸にに10年も住んでいたのだ。もっと遠くへ行くには力尽きたのか、とかそういうことはあまり考えず、この暑さの中で旱魃世界を読むという、この空気感を味わえばいいのかな。 原題:The Drought 旱魃 1965年に改題改変されイギリスで出版。  ※The Burning World (燃える世界)が1964年にアメリカで初出版。 1965年発表 2021.3.19初版  2021.4.16購入 21.8.6読了

Posted byブクログ

2021/08/25
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

突如現れた謎の有機物によって世界中の海洋の表面が覆われ、海水の蒸発が阻害されて水の循環が機能しなくなった世界。湖も河川も次々に干上がり、水を求める人々が海岸地帯へと避難していく中、医師ランサムは湖に係留したハウスボートの中で、色々と理屈をつけながらぐずぐずと内陸部に留まり続けていた。彼を見捨てて愛人と海へ向かう妻を見送り、不思議な安寧を感じながら町に留まる彼の周囲に見え隠れする、同様に海への避難を良しとしない独自の価値観に囚われた人々・・・絶望的な状況の中、次第に暴力に満ちていく町で、ランサムが選択した行動とは? バラードの「破滅三部作」のひとつ、「燃える世界」の改稿版。鴨は「燃える世界」未読ですが、かなり印象が異なるそうです。 鴨は「破滅三部作」の他2篇「沈んだ世界」「結晶世界」を読了しており、この2作との印象の違いに、何よりも驚きました。極めてリアル。海水面の上昇によって人類の生活圏が急速に狭まりつつも、熱帯性の動植物の暴力的な生命力に満ち溢れた「沈んだ世界」、万物が結晶化して活動を停止させ、静かに緩慢に滅びていくという”作り話”そのものの「結晶世界」と比して、旱魃で地上の水分が干上がり、水を求めて海辺に殺到する人々の姿(でも海水をそのまま飲むことはできないので、必然的に暴力的な争奪戦が発生して・・・)という、バラード作品にはまずあり得ないと言っても良いぐらい現実的で絶望的でヒリヒリした舞台設定は、眼からウロコでした。バラード、普通にリアルな作品も書けるのね・・・。 ただ、リアルな舞台設定とは言ってもそれはあくまでもバラード作品における比較論の話であって、バラードが描きたかったのはやはりいつも通り、滅亡そのものではなく、滅亡の風景の中を彷徨する人間精神の変容だったのだろうと鴨は思います。その観点でも、主人公ランサムの行動の意味がある程度合理的に理解できるこの作品は、他の作品とは一線を画すると感じました。 最後の最後のあの1行は、どういう意味なんでしょうね。普通に読めば、死の淵に瀕したランサムが最後に見た幻覚、と捉えるのが順当かもしれません。が、幻視者バラードが読者に見せつけた”救いの光景”なのかもしれません。どちらとも決めつけずに、良いお酒を飲んだ時のような心地よい酩酊感を持って読了したい作品ですね。

Posted byブクログ