なぎの葉考・しあわせ の商品レビュー
紀伊白浜へ再訪の旅をする著者は、現在から40年以上前の2.26事件のあった昭和11年、新宮、浮島遊廓で一人の娼婦とひと時を共にする。その女の体に自分の肉体にぴったり合う感触を覚えた作者は、一時間伸ばし、さらにもう一度伸ばそうとするが、女から、自分に溺れた男が何人も身を持ち崩した...
紀伊白浜へ再訪の旅をする著者は、現在から40年以上前の2.26事件のあった昭和11年、新宮、浮島遊廓で一人の娼婦とひと時を共にする。その女の体に自分の肉体にぴったり合う感触を覚えた作者は、一時間伸ばし、さらにもう一度伸ばそうとするが、女から、自分に溺れた男が何人も身を持ち崩した、「もう来たらあかんよ。ほんまに、来イへんな」と涙ながらに約束をさせられる。遠い昔を思いながらの追憶の旅を綴る『なぎの葉考』。 待合の女将や芸者の悲哀人生の一断面を描く『新芽ひかげ』や『老妓供養』、早いうちから離婚した両親と共に暮らしたことのほとんどなかった作者が、母について語った『石蹴り』、父について語った『耳の中の風の声』、70を超えた老夫婦がお互い病魔を抱え病院付き合いをする日常を描いた『しあわせ』など、戦前の作から最晩年1990年の作品、7編が収められている。 最後までしっくりいかなかった父が、2番目の妻と末子を道連れに無理心中した顛末を描いた『耳の中の…』を除けば、各作品ドラマティックな展開はほとんどないものの、読後しみじみとした気持ちが喚起される。
Posted by
- 1