JR高田馬場駅戸山口 新装版 の商品レビュー
都心をめぐるきらびやかな山手線の陰を描くシリーズ三作目。 人を追い込む孤独か。 著者のあとがき曰く、 「絶望とは、まだ体験していない未来に疲れることである」ってさ。 ニンニン言ってる場合じゃねえな。
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『JR上野駅公園口』全米図書賞受賞を機に、『グッドバイ・ママ』のタイトルを雑誌掲載時の『JR高田馬場駅戸山口』に戻して刊行。 今後発表予定作品を含め、「山手線シリーズ」は全8篇の連作小説として完成するとのこと。 高田馬場駅は、私が25年ほど住んでいた場所だ。戸山口も毎日のように使っていた。 物語では、点字図書館からマルエツ、スポーツセンターから箱根山周辺が舞台となるが、まるで自分が歩いているように景色が浮かぶ。 私はそこで子育てはしなかったが、主人公である母親の苦しみは、自分の記憶と重なるほどの確かさで蘇り、息が詰まるほどだった。 子どもの衣食住の世話、成長や病気の心配、子どもが口にするものへの不安、教育への不信感、「ママ友」問題、ご近所問題、夫婦間のすれ違い... 今ではそれらに加え、コロナによるコミュニケーションの遮断が起き、一層の不安と孤独の中、子育てを余儀なくされているのだろう。 そこに、「大丈夫だよ、心配ない」と肩をさすってくれる人はいるだろうか。 あるある、と一緒に笑い飛ばしてくれる友人はいるだろうか。 主人公の母親には誰もいなかった。 子どもを守る者は自分とネットの情報しかなかった。 死に救いを求めるほどの苦しみの中で、彼女は息子には未来を残すことを選んだ。その成長に寄り添うのは自分ではなくても、大切な存在を手放すことを選んだ。 高田馬場駅戸山口からホームへと上がった彼女が、もし最後に生きることを選び直したとしたら、きっとやり直せる。 ラストは祈るような気持ちで読んでいた。
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高校生だった時に父親を亡くすというトラウマのある主人公。原発事故後、愛する息子を守ろうとするあまり徐々におかしくなっていく、孤立を深めていく過程がこれでもかというほどしつこい自問自答によって描かれtりる。コロナ禍にいる我々にとっても、他人事ではないように感じられ、心が落ち着かない...
高校生だった時に父親を亡くすというトラウマのある主人公。原発事故後、愛する息子を守ろうとするあまり徐々におかしくなっていく、孤立を深めていく過程がこれでもかというほどしつこい自問自答によって描かれtりる。コロナ禍にいる我々にとっても、他人事ではないように感じられ、心が落ち着かない。
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都会に溢れる情報と主人公の頭の中でどこからか止めどなく溢れ出てくる情報が入り混じって、とにかく忙しなく畳み掛けてくる。 そんな膨大な情報が大きな壁となって、主人公は社会から隔絶されているように思えた。 きっと社会と繋がりたくていろいろな情報に手を伸ばして、けれどそれらが却って主人...
都会に溢れる情報と主人公の頭の中でどこからか止めどなく溢れ出てくる情報が入り混じって、とにかく忙しなく畳み掛けてくる。 そんな膨大な情報が大きな壁となって、主人公は社会から隔絶されているように思えた。 きっと社会と繋がりたくていろいろな情報に手を伸ばして、けれどそれらが却って主人公と社会を隔ててしまう、とても切ない物語だと思いました。
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『JR高田馬場駅戸山口』柳美里 山手線シリーズ。『グッドバイ・ママ』の新装・改題版。上野駅も品川駅も孤独で辛かったけれど、こちらは群を抜いて孤独だと思った。こんな手法で孤独を描くことができるんだと思った。おそろしい。 夫は単身赴任先で不倫、母親は離婚、父親は他界、義実家とも...
『JR高田馬場駅戸山口』柳美里 山手線シリーズ。『グッドバイ・ママ』の新装・改題版。上野駅も品川駅も孤独で辛かったけれど、こちらは群を抜いて孤独だと思った。こんな手法で孤独を描くことができるんだと思った。おそろしい。 夫は単身赴任先で不倫、母親は離婚、父親は他界、義実家とも不仲。幼稚園児の息子を抱え、友人もなく、放射線や農薬やとにかくあらゆる脅威から息子をただ守ろうと奮闘する主人公。 大半が彼女の一人語りで、その語りにはしばしば「忍者ハットリくん」が憑依する。何とかでござるよ、ニンニン、と自らを鼓舞する。その語り口がだんだん神経症めいた早口になって上がり調子になって、絶好調になればなるほどこちらは苦しくて恐ろしくて悲しくて気が狂いそうになる。 そして織り込まれる広告のコピー、新聞記事、すれ違うお母さんたちの賑やかな話し声。 ハットリくんが陽気にふるまえばふるまうほど、その断絶があからさまになってゆく。 「味方がいない」というありがちな情景を、ここまでエグく描けるものなのか。ニンニン、にあらゆる出来事がフィルタリングされて本人の悲壮感が伝わってこない分、あれこれと想像してしまう。 ラストは黄色い線を超えないでほしいと祈りながら書いたというようなことを筆者はあとがきで書いていたけれど、どうなるのが幸せなんだろうか。 品川駅を読んだ時も思ったけれど、1度生を手放そうと決めた人の描写が真に迫っていて、さすがという感じ。 おそれいったでござるよ。ニンニン。
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