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危険な男 の商品レビュー

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2021/02/04

 今年の初めに読んだのが『天使の護衛』。ご存じエルヴィス・コールの相棒ジョー・パイクを主人公に据えたシリーズ第一作品である。その後三作ほど置いてのシリーズ新作が本書、十年以上ぶりの邦訳となるが、素直にこうした機会が得られたことは喜ぶべきだろう。  ともかく、へらず口を得意とする探...

 今年の初めに読んだのが『天使の護衛』。ご存じエルヴィス・コールの相棒ジョー・パイクを主人公に据えたシリーズ第一作品である。その後三作ほど置いてのシリーズ新作が本書、十年以上ぶりの邦訳となるが、素直にこうした機会が得られたことは喜ぶべきだろう。  ともかく、へらず口を得意とする探偵を書いている作家が、無口な相棒を主人公にここまで書ける、というところがパイク・シリーズの何と言っても味噌なのである。  ところで『天使の護衛』を出版したランダムハウス社は、最後まで侮れない海外作家出版の一角を成していたのだが突然倒産してしまった。それによる絶版の不幸にあった名作も少なくなかった。扱われていた作家たちも、その後の版権が途絶えたり移ったりしたおかげで日本国内で影響が相当にあったように思う。  ロバート・クレイスは、本国ではNWA・PWA受賞ばかりか生涯功労賞まで受けているという巨匠であるにも関わらず、シリーズ翻訳作品が日本では長らく途絶えてしまっていたから、少なくとも当該出版社の影響を受けたと言える作家だったように思う。  かく言うぼく自身、この作家を当時のリアルタイムで知ったのではなく、日本復帰作品とも言える『容疑者』で、警察犬マギーを主役に据えるという予想外な感動作と出会ったおかげで、この作家の底知れぬ実力、またその卓越した世界構築能力に驚愕しつつ、そこに生きるコールやパイクの世界にも引き込まれることになったという経緯。  今月末には、クレイスの新作『危険な男』の札幌読書会が予定されている。この作家にとてもフィットする翻訳者・高橋恭美子さん自らが参加されている翻訳ミステリーシンジケート札幌読書会は、その一点だけでも有難いことだし、ここ数年クレイス翻訳作品ブームは、間違いなく日本中で起こっていると思うので、今回もリモート読書会ということで札幌にとどまらず、多くのクレイス・ファン(パイク・ファン?)が集結してくれることを期待している。  ユーモラスで人当たりの良いコールに比べて、無口で強靭な戦闘マシーンみたいなパイク。こちらの作品は、血なまぐさかったりアクションシーンが派手だったりと、全体の緊迫感がひときわ高く、コール・シリーズを読むとき以上に緊張感が増してしまうのだが、どちらのシリーズであれ、二人のコンビネーションは崩れることなく、第三のキャラとも言える科学捜査官のジョン・チェンの独特な人間臭さも併せて、それぞれのシリーズ作品に独特なバリエーションをもたらしてくれる。  『天使の護衛』ではパイクと、彼が護衛するわがまま娘とのやりとりが見どころだったが、本書では、二人の二十代女性が彼とコールとを振り回すことになる。この辺りの日常・非日常が隣り合わせに同居したズレた感じも、この作家の特異とするところ。奇妙な人間関係と、乾いた非情極まりない現実、といったところの交互画面転換で、物語世界に奥行きと捻じれとが発する物語の厚みを、存分に感じさせてくれる。  凄腕の戦士ジョー・パイク。頭の切れるプロ探偵エルヴィス・コール。どちらの新作もいつだって待ち遠しいが、どちらの未翻訳過去作品も、この際どんどん日本語訳として陽の目を見て欲しいところだ。そのためには、この作家がもっともっと評価され着目されることを祈るばかりである。時間の問題、とは思うのだけれども。

Posted byブクログ