RCT大全 の商品レビュー
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RCTと言えば臨床医学の分野がすぐ思い浮かぶ。本書の中でも長く信じられてきた医学上の「常識」がRCTによって否定された例がたくさん挙げられている。 ・閉経後の女性に対するホルモン補充療法は心筋梗塞のリスクを低下させるとされており、21世紀の始まりころまでにアメリカ人女性9000万人がこの治療を受けた。しかし、RCTによってホルモン治療は脳卒中のリスクと血栓による静脈閉塞のリスクが高まるだけの負の効果しかないことが明らかになった。 ・2000年代初期まで、重度の頭部外傷にはステロイド注射が普通だったが、ステロイドとプラセボの無作為割付試験によって、ステロイド注射群の死亡率21%はプラセボ群の18%よりも明らかに高いことが判明した。 ・乳がん検診をうけた女性2000人のうち一人が乳がんによる死亡を回避するが、健康な女性10人が検診を受けなければ告知されなかったがんの宣告を受けて不必要な治療を受ける、されに200人以上が偽陽性の所見により心理的な苦痛を受ける。(CochraneDatabaseofSystematicReviews2013,Issue6,2013,articleno.CD001877) ・ビタミン剤をサプリとして摂っても寿命が延びるというエビデンスはない(JAMA p842-57,2007)し、オメガ3脂肪酸の心臓病予防効果も否定されている(JAMA p1024-33, 2012) RCTは社会学などの領域でも用いられるようになっている。実際、貧困層に対する放課後プログラムの提供やマイクロクレジットなど、絶賛されてはいるがRCTで評価するとその効果がほとんどないようなものが多いことなどがあきらかになっているし、行政からはナッジという形で市民の行動をより望ましい方向に変える方策が日々模索されている。 ちなみに本書が発行される直前に、「RCT」などの検索語をGoogleで入力した人に対して本書の広告が3パターン表示されるようにして、クリック率の高かったタイトルに本書は設定されているそうだ。(邦訳版はおそらくそのような配慮はない)。一週間で4000回広告が表示され、一番反応がよかったタイトルにしているのだとか。 ・経験談の寄せ集めはデータではない
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公共経済学者であり現在はオーストラリアの連邦議員を務める著者が、RCT(ランダム化比較試験)がいかにシンプルでありながら、世界を少しずつ良くしてくために不可欠なツールであるかを多様な分野での実用例と共に示す良書。 対象となるのはもちろん医療をはじめ、教育、犯罪防止、新興国におけ...
公共経済学者であり現在はオーストラリアの連邦議員を務める著者が、RCT(ランダム化比較試験)がいかにシンプルでありながら、世界を少しずつ良くしてくために不可欠なツールであるかを多様な分野での実用例と共に示す良書。 対象となるのはもちろん医療をはじめ、教育、犯罪防止、新興国における開発援助のあり方、ITサービスにおけるA/Bテストなど多岐に渡る。また、ある施策の効果を測定するためにランダムに選定された介入群(施策を行う)と対照群(施策を行わない)に分けることから、RCTは”対照群に対する倫理的な問題を孕んでいるのではないか”という批判が常につきまとう。 本書ではRCT批判派から寄せられるこの問題について極めて真摯に議論を進め、 ・そもそも介入群の方が確実にベネフィットを得られるという確証はなく、施策が有害なものであった場合は対照群の方こそ(結果的にではあれ)ベネフィットを得ることになる ・RCTの設計次第で、「実験終了後に対照群にも介入群と同じ施策を追加提供する」、「抽選で決まるアメリカ永住権のように、抽選・くじなどで決定されるものをRCTの対象とする(RCTのために抽選を行うのではなく、RCTがなくても勝者・敗者が出る抽選を利用するのだから倫理的な問題はない)」 などの考え方から、倫理の問題を当然考える必要はあるにせよ、むしろその問題を過度に捉えすぎてRCTを行わずに、真にベネフィットがあるかどうかわからない施策を決めることこそ、社会に対する不正義である、という結論づけている。 RCTは、限られた財源を有効に使うために重視されてきているEBPM(Evidence-Based Policy Making)のような公共政策において、一丁目一番地とも言うべき有用なツールである。本書を通じて、RCTの豊富な事例や陥りがちなミスとその防止方法なども含めて、その社会的意義を再確認できた。
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いろいろなRCTの実例。 ランダマイズドコントロールドトライアル。 常識からかけ離れた結論が出る。
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RCTの破壊力、政策担当者・一般には受け付けられにくい難しさなどが具体例で分かりやすい 政策担当者、ジャーナリストには必読書としてほしいが、相関と因果を混同して他人を罵倒するような日本では難しいかないやそんな日本だからこそ本書が重要なのだろう
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ある意味、ファクトフルネス以上にファクトに迫る本だ。 Webの世界にいる人ならおなじみのA/Bテストは、このRCTに基づいたものだったりする。 そしてそのRCTがいかに「直感に反する」事実を詳らかにしてきたか、またその真実を浮き彫りにする性質ゆえ抵抗にあってきたかということがよく...
ある意味、ファクトフルネス以上にファクトに迫る本だ。 Webの世界にいる人ならおなじみのA/Bテストは、このRCTに基づいたものだったりする。 そしてそのRCTがいかに「直感に反する」事実を詳らかにしてきたか、またその真実を浮き彫りにする性質ゆえ抵抗にあってきたかということがよくわかる一冊。 それにしても「倫理」の問題は深淵で難しい。
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