笑う死体 の商品レビュー
1巻から読むか、2巻から読むか、なかなか難しい問題だ。 正直に言おう。1巻は、私には読みにくかった。 2巻は面白かった。読みやすかった。 だがしかし、なのである。 1巻こと『堕落刑事』は、作者ジョゼフ・ノックスのデビュー作である。 小説に限らず、たとえ絵であれなんであれ、その人...
1巻から読むか、2巻から読むか、なかなか難しい問題だ。 正直に言おう。1巻は、私には読みにくかった。 2巻は面白かった。読みやすかった。 だがしかし、なのである。 1巻こと『堕落刑事』は、作者ジョゼフ・ノックスのデビュー作である。 小説に限らず、たとえ絵であれなんであれ、その人の第1作というものは、偉大だ。 整わない、突っ走る、遠慮がない、無茶をする。 己のすべてをぶっ込んだ、この世に向けての砲撃だ。 「私の創造世界を見よ!」 その人のすべてが現れる。 作者ジョゼフ・ノックスは、小学生の頃から不眠症気味だったという。 眠れない時間は本を読み、物語を書いて過ごしていた。 長じて彼が職場としたのも書店やバー、本と夜の時間という馴染みの世界である。 そうしながら、物語を書いていた。 生まれ育ったマンチェスターを舞台に、8年かけて書き上げたのが、この『堕落刑事』である。 主人公エイダン・ウェイツは、警官のキャリアが始まって間もなく、やらかしてしまった。 新聞に名が載り、評判は地に墜ち、当然クビ――と思いきや、首の皮一枚で繋がっている。 留めたのはパーズ警視、鮫のような笑顔をした上司である。 警視の狙いは、エイダンを潜入捜査官としてつかうことにあった。 よって、エイダンの生きる場所は、マンチェスターの夜である。 酒を出す店、別のものも出す店、薬物のマーケット、タワーのペントハウス、複雑な性の人々が集う家、中毒者のうろつく無法地帯―― 「おまえの目には、他人の最悪の側面しか映らないようだな」 (『堕落刑事』292頁) 鮫の笑顔の上司に、そうとまで言わせるエイダンである。 その彼が、地を舐め、顎でつかわれ、死体を見つけ、秘密を抱え、誰も信用できず、なんのバックアップもなく、酒を飲み、薬に逃げ、殴られ、怒鳴られ、罵られ、しばしば過去に苛まれ、それでも頭を働かせて、事件に取り組むのである。 それを読む私はといえば、夜の闇の深い所、まったく知らない世界に迷って、混乱して、どうにか読み終わり、さてこの世に戻って言えるのは、 「麻薬はいけないとつくづく思いました」 くらいのものだ。 重い。暗い。 読みごたえは、たいへんにあった。 執筆8年は、並でない。 それが2巻目『笑う死体』である。 圧倒的に読みやすくなった。 薬物がらみの話ではなく、たとえば離婚交渉、不動産の売却交渉といった私の知っている世界、昼間の世界の話になる。 エイダンの職務の都合上、舞台が夜ではあるのだが。 では、話が簡単になったかといえば、そうではない。 むしろ、より重層的になったと言おうか。 『堕落刑事』では、いくつもの話が始末に困るほどもつれ合っていた。 『笑う死体』では、それが並列に描かれる。話が解りやすくなったのだ。 そこに、事件が起こる。 読者の頭が理解しやすくなったのを見越して、事件はいっそう複雑困難になっている。 くわえて、エイダンの内面はより深く見えた。 『笑う死体』を読み終えて、私はたいへん満足したのである。 「俺には――俺の人格には、他人の目には見えない一面が隠れている。いつの日か、思いがけず親切な行為をして、よい意味で期待を裏切ることがあるかもしれない。」 (『笑う死体』295頁) けれども、なのだ。 『堕落刑事』のあの重さ――鈍重といってもよいかもしれない、あの重さ、読みにくさが、少しばかり恋しいのも事実だ。 第一作というのは、その一作のみの価値がある。 世界に轟かせようと、すべてをこめた砲撃だ。 読みやすさを求めるなら『笑う死体』だけでもよい。 砲撃を知りたければ『堕落刑事』からである。 2作目から読んだとしても、1作目を読みたくなるかもしれない。 シリーズは3作目まで書かれている。 あとがきによれば、このエイダン・ウェイツ・シリーズは三部作ということである。 当然、私はそれも読みたいのだ。 ※ 犬好きへの注意 2巻『笑う死体』37~38ページ。 本題とは無関係の挿話にのみ注意。 39ページにとんで読むのも方法のひとつ。
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エイダン刑事のシリーズ2作目! 1作目を、読んでなかったので、始め少しだけ、戸惑いが、あったが、読み進めるうちに、どんどん引き込まれていった! 彼自身の生い立ちなんかも、差し込まれていて、どんな着地を、するのかワクワクしながら読めた! 3作目も、出そうなので、1作目を、読まなくち...
エイダン刑事のシリーズ2作目! 1作目を、読んでなかったので、始め少しだけ、戸惑いが、あったが、読み進めるうちに、どんどん引き込まれていった! 彼自身の生い立ちなんかも、差し込まれていて、どんな着地を、するのかワクワクしながら読めた! 3作目も、出そうなので、1作目を、読まなくちゃ!!
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いや、面白いです。 私的には今年度のNo.1です。 本作はシリーズ第2作だそうで、第1作を読んでないんで、なんでこの主人公がここまで警察組織の中で忌避され「堕落刑事」の烙印を押されているのかわかりませんが、その設定がこれまでの警察小説にはないものです。 組織のはみだしというだけで...
いや、面白いです。 私的には今年度のNo.1です。 本作はシリーズ第2作だそうで、第1作を読んでないんで、なんでこの主人公がここまで警察組織の中で忌避され「堕落刑事」の烙印を押されているのかわかりませんが、その設定がこれまでの警察小説にはないものです。 組織のはみだしというだけでなく、能力があるの何故か評価されないというのでもなく、本質的に悪に染まってはいないようでありながら、やることはえぐい。そこにそこはかとないイロニーがあります。ベースにポエジックな哀愁が漂っている文体は、なんとなくアメリカ的ではない英国的な暗さを感じさせます。 第1作もさっそく買いに行きたいと思ってます。絶対にお勧め。今年の「このミス」で何位に入るか楽しみが増えました。 ★★★★★読まずに死ねるか です。
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前作から一年後、アルコールとドラッグ漬けの日常から脱却しつつある主人公が孤立無援の苦難に再び見舞われる。さらに子供時代の忌まわしい記憶に追い討ちをかけられながらも、最後に訪れる束の間の巡り合いが美しい余韻を残す。
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