一八〇秒の熱量 の商品レビュー
こんなに熱い内容なのに、当の本人の飄々とした雰囲気から所々に拍子抜けするような瞬間を感じてしまうのは、ある意味ノンフィクションとしてのリアリティが表れているからだと思う。
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タイトルを手に入れなければ37歳の年齢制限により引退を迫られるB級ボクサーを追ったドキュメンタリー。 ボクサーの平均引退年齢は23歳と若い。勝ち目が無ければ、チャンピオンになれなければ早々に見切りをつけるのが普通である。勝者のみにスポットライトが当たる非情なスポーツ。 しかも、そ...
タイトルを手に入れなければ37歳の年齢制限により引退を迫られるB級ボクサーを追ったドキュメンタリー。 ボクサーの平均引退年齢は23歳と若い。勝ち目が無ければ、チャンピオンになれなければ早々に見切りをつけるのが普通である。勝者のみにスポットライトが当たる非情なスポーツ。 しかも、そのボクサーは日本人では圧倒的に勝ち目が無いとされるミドル級。ミドル級の世界チャンピオンは、日本から竹原慎二と村田諒太のたった2人しか生まれていない。小柄な東洋人には不利な、世界でも層の厚い階級である。 竹原がチャンピオンになった試合は「どうせ勝ち目はない」と生中継も無く、村田が登場するまでは突然変異でも起きない限り、日本人のミドル級チャンピオンは出てこないだろうと言われていた。 チャンピオンとなり栄光を手にする訳でなく、人生一発逆転の物語でもない。 ボクサーとして特別な素質や才能がある訳でもなく、愚直に練習を積み重ね努力するしかない主人公米澤重隆。 年齢制限のタイムリミットまでの9か月、ジムやトレーナーを巻き込んでのリアルな挑戦の物語。 米澤最後の試合を終えた引退セレモニーでの最後の言葉に心を打たれる。
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年齢制限による引退を避けるため9か月間でチャンピオンを目指すボクサーの話。ドキュメンタリー番組にも取り上げられていたということも知らず、読み始めたが、一気に読んでしまうほど面白いノンフィクション作品だった。 主人公のボクサーのみならず、ジムの会長、トレーナーも含めて皆が36歳の...
年齢制限による引退を避けるため9か月間でチャンピオンを目指すボクサーの話。ドキュメンタリー番組にも取り上げられていたということも知らず、読み始めたが、一気に読んでしまうほど面白いノンフィクション作品だった。 主人公のボクサーのみならず、ジムの会長、トレーナーも含めて皆が36歳の無名ボクサーを9か月でチャンピオンにするという狂気につつまれている。そして、読むうちにその狂気は著者、さらには読者へと伝播していく。 不思議なのは、誰もが絶対にチャンピオンになれると信じて疑わずに挑戦しているわけではなく、本人も含めて、挑戦を続けることに迷いや葛藤があることだ。にもかかわらず、その挑戦は狂気をはらんでいき、結局最後まで挑戦し続ける。 その葛藤のプロセスが克明に描かれているからこそ、読み応えがあり、その挑戦がリアルなものとして胸に迫ってくる。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
書店で見かけた時に、タイトル、表紙のデザイン、帯文からこの本は絶対に面白いに違いないと確信していたのだけど、想像以上にすごい。多分、高田馬場のジムの近くにアパートを借りていたことがある。 もともとはNHKのドキュメンタリー番組とのことで、その番組が見たいのだけどNHKオンデマンドにはないようだ。 B級ボクサーの米澤が引退を回避するために日本チャンピオンを目指し、そのために日本ランキングに入ろうとしていたのだけど、まったくすんなりと行かず、A級に昇格するのもタイでの試合で、そのあと東洋太平洋ランキングにいきなり挑戦し、みごとランク入りする。その後の試合も毎回すごくて、限界をはるかに超えた試合をする。へんなことばっかりして、奇跡の連鎖が起こる。 そもそも米澤の強さをジムの人たちも取材者である作者も、本人すらも信じておらず、やめとけよみたいな、無理だろみたいな感じで接している。しかも試合に集中せずに仕事に忙殺されコンディションも毎回悪い。 そんな米澤にオーストラリア陣は徹底的に意地悪するのだけど、それをはねのけて泥仕合に持ち込む米澤がすごい。 豊かな才能があるとは決して言えない米澤が熱く人生を燃やしているのに対して、ゆるい人生を送っている自分には本当にまばゆい。米澤はこれだけ頑張っても経済にまるで結びつかず貧困にあえいでいて、世の中は理不尽だ。ボクシング自体が潤っていないせいだろうか。そんなスポーツをチョイスしたら仕方がないのだろうか。そこそこの漫画家が米澤さんくらい漫画を頑張ったらけっこう稼げる。
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日本のプロボクサーは37歳に到達した時点で引退しなければならない。それには、下記のいくつかの例外規定が存在する。 ■元チャンピオン(日本、東洋太平洋、世界) ■世界タイトル挑戦経験者 ■37歳に達した時に世界ランキングにランクされている者 36歳のミドル級ボクサー、米澤重隆は年齢...
日本のプロボクサーは37歳に到達した時点で引退しなければならない。それには、下記のいくつかの例外規定が存在する。 ■元チャンピオン(日本、東洋太平洋、世界) ■世界タイトル挑戦経験者 ■37歳に達した時に世界ランキングにランクされている者 36歳のミドル級ボクサー、米澤重隆は年齢制限による引退を間近に控えていたが、それを回避するために、日本チャンピオンを目指し、それがかないそうにないと分かった時点で、世界ランカーを目指す。 米澤の挑戦は、NHKの連続もののドキュメンタリーにもなったということであるが、本書は36歳を超えてからのボクサー米澤のチャレンジを記録したノンフィクション。 本書の1つのハイライトは、米澤が36歳11ケ月で、世界10位のオーストラリアの選手と敵地で戦う試合だ。筆者の山本草介は、米澤の挑戦のドキュメンタリーを制作した人であり、本職の文筆家ではないが、この試合の様子を臨場感たっぷりに、とても巧みに書いている。結果が分かっている(本の帯を読むと米澤は37歳で引退したと示唆されていて、ということは、この試合に勝てなかったということ)にもかかわらず、手に汗を握りながら読んだ。 引退後、米澤はこの挑戦の日々を振り返り、「自分の人生はもう余生だ」と語ったとされている。1年弱のチャレンジは、米澤にとって、これ以上ないくらいの強烈な経験だったわけである。私の世代の人間であれば、この部分を読んで、「あしたのジョー」の、有名な最後の場面-ジョーが真っ白に燃え尽きる姿-を思い起こすのではないか。 本書を読んで、ここまでの挑戦を自分はしていただろうかという自省と、逆に、これほどの派手さはないが、自分自身のこれまでの、日々の努力への自負との両方を感じた。
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フィクションなんじゃないかと思う位、ドラマチックで登場人物が熱に浮かされたような物語です。 しかしあくまで年齢リミットギリギリの崖っぷちボクサーと、彼をなんとかチャンピオンにしてボクシングを続けさせようとするトレーナーとジムオーナの真実の話です。 読んでいるうちに非現実的な事が身...
フィクションなんじゃないかと思う位、ドラマチックで登場人物が熱に浮かされたような物語です。 しかしあくまで年齢リミットギリギリの崖っぷちボクサーと、彼をなんとかチャンピオンにしてボクシングを続けさせようとするトレーナーとジムオーナの真実の話です。 読んでいるうちに非現実的な事が身に染みて胸が苦しくなります。なんでこんなに苦しんでボクシング続けるんだろうと不思議でたまりません。 才能もワンポイントの武器もないボクサーが、根性と作戦だけで這いずるように格上の相手に挑んでいく所は本当にクレイジー。だって日本でもうだつが上がらないのに、世界ランカーに挑戦したりするんですから・・・。 同棲している彼女の存在も大きいです。無謀な挑戦をしている彼をそのまま受け止めてくれている事で、どれだけ彼が救われていた事か。本当に素敵な女性です。 最初はなんとも思わず読んでいましたが、次第に熱にやられてくる本です。名作。
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私は、50歳で30年近く働いた会社を辞め、転職した。転職の理由は多岐にわたるが、残りの会社人生を新たな挑戦に向けてみようということで、それまでの役職もリセットし、年収も減という環境に身を投じた。自分で選んだ道とはいうものの、厳しさにへこまされる事も多い中、たまたま、本書を目にした...
私は、50歳で30年近く働いた会社を辞め、転職した。転職の理由は多岐にわたるが、残りの会社人生を新たな挑戦に向けてみようということで、それまでの役職もリセットし、年収も減という環境に身を投じた。自分で選んだ道とはいうものの、厳しさにへこまされる事も多い中、たまたま、本書を目にした。元来ボクシング好きという事もあって読んだところ、がっぷり引き込まれてしまい、自分の今と、本書の米澤がリンクし、米澤の生き様が、自分自身への問いかけのように感じられた。一発で倒せるパンチはないけれど、愚直にボディを打ちつづける、自分もそんな感じで挑み続けたいと思った。 私の今年のベスト作品の一つである。
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観察者が、観察対象に影響を受け、最後には影響を与えてしまい戸惑うさまが面白い。 青木ジム所属で、その後中国で英雄ゾウ・シミンを倒し世界チャンピオンになる木村翔も少し登場。 米澤を支えた有吉会長と小林トレーナーのコンプライアンス違反により、青木ジムは2019年で解散。詳細は明らかに...
観察者が、観察対象に影響を受け、最後には影響を与えてしまい戸惑うさまが面白い。 青木ジム所属で、その後中国で英雄ゾウ・シミンを倒し世界チャンピオンになる木村翔も少し登場。 米澤を支えた有吉会長と小林トレーナーのコンプライアンス違反により、青木ジムは2019年で解散。詳細は明らかになっていないが、所属会員への金銭要求と、パワハラが有ったと言われている。 3部作にして、木村翔の世界奪取と、青木ジムの最後についても誰かに記してほしいところだが、観察者のいない出来事は(ドキュメンタリーの世界では)存在しないのと同じなのかもしれない。
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p163 人が人を愛するのは、何かをしているからではなく、何をしてもいいと思える人だからなのだと思った p323 永遠は一瞬の中にある ロマン・ロラン
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プロボクサー米沢重隆の引退前の9ヶ月の記録.チャンピオンになるべく過酷な練習に生活のためのアルバイト,そして壮絶な戦いと支えてくれるみな子さんや青木ジムの人々などが詳細に書かれている.ただのインタビューではなく密着取材の面白さがよく出ているし,特に試合風景は実況中継のようで本当に...
プロボクサー米沢重隆の引退前の9ヶ月の記録.チャンピオンになるべく過酷な練習に生活のためのアルバイト,そして壮絶な戦いと支えてくれるみな子さんや青木ジムの人々などが詳細に書かれている.ただのインタビューではなく密着取材の面白さがよく出ているし,特に試合風景は実況中継のようで本当に臨場感があって感動した.
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