竜と流木 の商品レビュー
軍人の父と日本人の母を持つジョージは幼い頃から、父の休暇シーズンになると、太平洋上の小島で過ごし、その近隣の島「ミクロ・タタ」で出会った愛らしい両生類「ウアブ」に魅了されたことがきっかけで、二十代後半になった今では、「ウアブ」の研究者としてその世界では知られた存在になっていた。...
軍人の父と日本人の母を持つジョージは幼い頃から、父の休暇シーズンになると、太平洋上の小島で過ごし、その近隣の島「ミクロ・タタ」で出会った愛らしい両生類「ウアブ」に魅了されたことがきっかけで、二十代後半になった今では、「ウアブ」の研究者としてその世界では知られた存在になっていた。「ミクロ・タタ」の経済の発展のために、絶滅の危機に追い込まれたウアブの生育環境を守るために、外国人富裕層向けリゾートを建設し、他の島々より一足早く発展を遂げた「メガロ・タタ」にウアブを移動することになった。生態系の変化への懸念はあったにも関わらず――。 というのが、本作の導入です。『仮想儀礼』や『弥勒』で分かっていたはずなのですが、覚悟して読んではいても、容赦のない強烈な描写には心に重たい石が沈み込んでくるような感覚があります。環境の変化から生じる混乱、善意からはじめた行動に対する悔恨、愛らしかったはずの生き物が変貌していく恐怖、父子の間にある葛藤……様々な要素が絡み合う、先の読めないパニックホラー(パニックSF)になっています。大作も多い篠田作品の中では比較的短めですが、内容は濃密で、分かりやすい『正しさ』のようなものに流れないラストがとても好きでした。
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美しい島の描写から始まり、あとは怒涛の展開。希少生物ウアブの秘密と身勝手な人間の策略。人間のエゴがまるごと曝け出された象徴的な一冊。スピード感があり最後まで読み切ってしまう。人間と共生していた幼生から凄まじい出来事が起きて尚、最後まで生き残ったウアブの末路に生命の力強さを感じた。
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美しい島に突如現れた凶暴な捕食者。真っ黒で俊敏、どう猛でトカゲのようなその生き物は、口中にさらに恐るべき武器を隠し持っていた…! 生物パニックミステリー。
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太平洋の小島に住む愛くるしい両生類、ウアブ。その生態に人間の手が入る時、悪夢が始まる。小動物を主役にしたバイオミステリー。篠田さん、よくこんなこと考えついたなー。
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無害な両生類だと思われていた生物が環境の変化によって攻撃的になり、観光客や地元民を襲い始め、挙げ句の果てに海流に乗って島の外へと流出していく。 パニックホラーではあるが、展開が読めてしまう。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ミクロ・タタに生息するイモリもしくはオタマジャクシのような容貌を持つウアブの可愛らしさにハマり、ウアブの研究者呼ばれるまでになったジョージは、島のインフラ開発計画でウアブ存続の危機に直面する。そこでウアブ保護クラブを立ち上げ、メンバーらとどうやってウアブを守るか議論を重ねていく。そして、メガロ・タタの複合リゾート施設ココスタウン付近の池へ移動させることを決意する。移動後しばらくは特に問題なく、順応しているかように見えたウアブだが、突然の大量死をきっかけにして人が次々咬まれる事態が相次いで起こりーー。 ジョージと父の関係&やりとりの変化、現地住民との考えの相違、本来の住処から良かれと思って移動させたことが環境の自然破壊・ウアブの変態を引き起こし、どうにかして収束させようと奮闘するシーンは読み応えがある。また、ゴミに乗ってあちこち生息地を広げていくくだりはゾッとしたし、封じ込め作戦が如何にこの現代では難しいかが伝わってくる。バイオミステリーものは読んだことがなかったが、勉強になった。かわいいからと言って安易に保護するのもよくないんだなと感じた。
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生態系の破壊や進化、それに伴う天敵、そして共生、そんなエッセンスいっぱいのお話。 現実には起きてもおかしくない、もしかしたら起こっているかもしれないということが、また面白さを増す。(面白がってはいけないが…) こういう題材の作品はいいね。好き。 ただ、本当に個人的な感覚なんだ...
生態系の破壊や進化、それに伴う天敵、そして共生、そんなエッセンスいっぱいのお話。 現実には起きてもおかしくない、もしかしたら起こっているかもしれないということが、また面白さを増す。(面白がってはいけないが…) こういう題材の作品はいいね。好き。 ただ、本当に個人的な感覚なんだけど、文章が少し読みにくかった。 特に、細かく表現するために1文が長くなり過ぎたり、句点の位置に違和感があったりして、1回で理解できない部分があった。 これがなければ、もっと情景がすんなりイメージできて、ワールドにどっぷり浸かれたと思う。
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※このレビューにはネタバレを含みます
あまり両生類をかわいいと思ったことがなかったので、愛くるしい外見を持つウアブに魅せられ保護クラブまで立ち上げた主人公の気持ちに添えずじまい…。 でも、ウアブの凄まじく凶暴な黒い変態形の謎や新事実、題名になった島の昔話を絡め、南のリゾート地が陥ったパニックにぐいぐい引き摺り込む著者の手腕はさすが。 現地の住民と外部の人間である主人公のラストの対比が痛烈で秀逸。保護と駆除の両極端を右往左往する外部からの滞在者たちに比べて、ウアブの利便性と危険性のバランスを取りながら共生を選ぶ現地の定住者のたくましさに恐れ入る。 この作品のMVPは、自身の火傷も顧みず凶暴な黒いウアブに熱々の油をかけ続けたアメリカ人のお姉さんだな。
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