鯖 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
誰しも心当たりがある、人間の心の裡に潜む汚さや黒さや醜さを抽出して娯楽性を兼ね備えた文学に昇華させている、という点において、作風は違えど西村賢太氏の著作にも通じるものを感じた。 なんだかんだありながらも結局は乗り切って収まるんかなもしかしたら…と思いきや、中盤以降の新一の壊れっぷりがこちらの予測を遥かに上回るペースで加速及び驀進し、一気に奈落の底へ落ちて破滅に至るのかやっぱり。 逆説的ながら、ある意味で大団円とも言える幕切れに違和感はないが、終盤の畳みかけるような展開は急ぎ過ぎの感が否めず、もっと紙幅を費やして丁寧に描いても良かったのでは…等と僭越ながら思ったり。 これが長編デビュー作とのことだが、著者のバックボーンあってこその物語か…と得心する、本来小説を味わうのにその情報は不要のはずとは分かりつつ。 筋半ばではあるが、5人の中国娘たちが歌い寅吉が滂沱と涙するシーンは、崇高さと清浄さにおいてピークを極めた1つのクライマックスだ。
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なぜか突然、この本の旬は1月なのではという気が強くして、読み始めた。『藻屑蟹』を読んでから3年と10ヶ月、ずっと読むタイミングを計っていたこの本、ようやく読めた。 いやぁ、なんか……かなりヤバいものを読んでしまった。この本にはR指定(と今は言わないのかな)が必要では。でも読書の...
なぜか突然、この本の旬は1月なのではという気が強くして、読み始めた。『藻屑蟹』を読んでから3年と10ヶ月、ずっと読むタイミングを計っていたこの本、ようやく読めた。 いやぁ、なんか……かなりヤバいものを読んでしまった。この本にはR指定(と今は言わないのかな)が必要では。でも読書の醍醐味である、貴重な擬似体験をさせてもらった。そういう意味では、ものすごくおもしろかった。 始めは、世間への憤りを抱えた主人公にハッとさせられながらも、これはコメディなのかと思うほどコミカルな表現に何度も吹き出していたのだが、読み進めるうちにだんだん笑えなくなってきて、後戻りできなくなっていく状況に恐怖を感じるようになっていった。うっかり立入禁止区域に入り込んでしまったような、焦りと不安で逃げ出したくなる。人間の愚かさを見せつけられて、哀しくなった。この容赦のなさ、さすが赤松さん。 ちなみに、この本の旬は1月、は正解だったと思っております。 最後にひとつ訂正を。『藻屑蟹』の感想にデビュー作だと書きましたが、赤松利市さんのデビュー作は、正確には本作です。『藻屑蟹』で新人賞を受賞し、『鯖』で単行本デビューを果たしたとのこと。まぁいずれにしても驚きのデビュー作ではありますけどね。
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人間の脆さ、残酷さ、欲深さをさらけ出した話。 能力の無いものは淘汰されるという現実をただ読者に突きつけている。 しかしその酷さとは裏腹に文章は読み心地が良く、欲望に飲まれていく描写でさえ、そんな人間に対する情を感じる不思議な作品。 赤松利市作品は初めてだったが、他も読んでみた...
人間の脆さ、残酷さ、欲深さをさらけ出した話。 能力の無いものは淘汰されるという現実をただ読者に突きつけている。 しかしその酷さとは裏腹に文章は読み心地が良く、欲望に飲まれていく描写でさえ、そんな人間に対する情を感じる不思議な作品。 赤松利市作品は初めてだったが、他も読んでみたくなった。
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「鯖」を読んだ。 サバ読んだわけではない。 「ボダ子」を読んでから、「藻屑蟹」とこちらのどちらか迷って、こちらにした。 個人的好みでは、「ボダ子」よりこちらの方が好きだ。 なかなが事件らしい事件は起こらないが、終わりの方で、バタバタと連続して殺人が行われ、ラストは悲惨な結末にな...
「鯖」を読んだ。 サバ読んだわけではない。 「ボダ子」を読んでから、「藻屑蟹」とこちらのどちらか迷って、こちらにした。 個人的好みでは、「ボダ子」よりこちらの方が好きだ。 なかなが事件らしい事件は起こらないが、終わりの方で、バタバタと連続して殺人が行われ、ラストは悲惨な結末になる。 勧善懲悪でもないし、ピカレスクとも違う。 「ボダ子」には、私小説のようなテイストがあったが、「鯖」には無い。 とりあえず、物語は水軒新一を語り手に進むのだが、そこにも落とし穴がある。 著者の漁業に対する知識は、相当なものだと思った。
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なかなかの胸糞な結末が待っているが、まあ因果応報感も否めないので、納得できる。終始陰鬱な感じだが、引き込まれて読み切った。魚の匂いやアンモニア臭まで感じられる本だった。
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漁撈のシーンも犯罪のシーンも、ページから血の匂いが湧き立つような生々しさ。 ジェットコースターのような栄光と破滅の物語に吸い込まれる。
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2020年、33冊目は、約1年振り、『藻屑蟹』以来の赤松利市。 「海の雑賀衆」一本釣りに特化した游漁船団。時代の変化に呑まれ、船頭、大鋸権座が率いるのは、オンボロ漁船一隻、乗組員四名だけである。現在は日本海の孤島を根城に、割烹料理屋に魚を卸すことで、糊口を凌いでいた。そんな彼ら...
2020年、33冊目は、約1年振り、『藻屑蟹』以来の赤松利市。 「海の雑賀衆」一本釣りに特化した游漁船団。時代の変化に呑まれ、船頭、大鋸権座が率いるのは、オンボロ漁船一隻、乗組員四名だけである。現在は日本海の孤島を根城に、割烹料理屋に魚を卸すことで、糊口を凌いでいた。そんな彼らに、ビッグビジネスの話しが舞い込む。 フォーマットは『藻屑蟹』と似た「欲」にとらわれた人間の物語なんだが、コチラは狂気的、デカダンス型。よもや、こんな結末になるとは、予想出来なかった。 ストーリーの緩急。そして、中盤以後は一気に加速する展開。ソコに癖の強いキャラが絡んでくる。 『藻屑蟹』より、読者を選ぶし、評価も様々だと思われるが、個人的には、文句なしに、★★★★☆評価に値する一作。
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前評判に戦々恐々としながら読み始めたが、まさかまさかの一風変わったお仕事小説…と思いきや、中盤以降は急転直下で狂気の世界へ。何でもありのノワール小説だが、デフォルメされたキャラクターの人物造形は人間の浅はかさや傲慢さ、空虚さを映し出す鏡のよう。長年の経験に裏付けられた漁師団の漁猟...
前評判に戦々恐々としながら読み始めたが、まさかまさかの一風変わったお仕事小説…と思いきや、中盤以降は急転直下で狂気の世界へ。何でもありのノワール小説だが、デフォルメされたキャラクターの人物造形は人間の浅はかさや傲慢さ、空虚さを映し出す鏡のよう。長年の経験に裏付けられた漁師団の漁猟技術が最新鋭の魚群探知機に容易く打ち砕かれる様子など、覆せぬ現実の冷淡さはあまりに無情。シンイチの変貌ぶりといい、身に余る贅沢は身を滅ぼすとはこれ正に。著者62歳時のデビュー作とのことだが、文壇の世界では人生経験に勝るものなしか。
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日銭暮らしの漁師たちに舞い込んだビッグビジネスのチャンス。うまくいくかに思われた販路拡大の計画は金と欲にくらんだ事から狂気へと変わっていき……
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