じっと手を見る の商品レビュー
最後の浅井リョウの解説が内容をより深く心に刻む。明るい話ではないが、誰でも持ってる人の裏側に潜む複雑なヒストリーが描かれている。30代後半のパートナーと交際したり身内の死を経験した人の方がより過去の自身の経験と照らし合わせて感情を想像しやすいのではないだろうか。 意外とキレイな生...
最後の浅井リョウの解説が内容をより深く心に刻む。明るい話ではないが、誰でも持ってる人の裏側に潜む複雑なヒストリーが描かれている。30代後半のパートナーと交際したり身内の死を経験した人の方がより過去の自身の経験と照らし合わせて感情を想像しやすいのではないだろうか。 意外とキレイな生い立ちだろうと思っててもダークな家庭環境や不幸な出来事を経て大人になってる人も結構あったりする。。
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『夜に星を放つ』で直木賞を受賞(2022)した窪美澄さん。本作(2018)も直木賞候補作だったのですね。本作を"恋愛小説"と狭義に解釈すると、評価は下がるかもしれませんが、個人的には肯定的に受け止めました。 語り手が、登場人物ごとに一人称視点でリレー式に...
『夜に星を放つ』で直木賞を受賞(2022)した窪美澄さん。本作(2018)も直木賞候補作だったのですね。本作を"恋愛小説"と狭義に解釈すると、評価は下がるかもしれませんが、個人的には肯定的に受け止めました。 語り手が、登場人物ごとに一人称視点でリレー式に変わる7話の連作短編集です。そもそも人は多面的で、同じ言動へも受け止め方が多様ですね。視点が変わり、読み進めるごとに曖昧な印象の輪郭が鮮明になったり、批判が共感になったりその逆も…。 ただ、どの登場人物にも共通点が感じられます。それぞれ生きづらさを抱え、居場所を探し、人の温もりを求めている点です。表面的には安易な方に流されて、自己管理ができないダメな人物だらけと見えますが、著者は人生の縮図のように俯瞰して描き、各人物への愛情を感じます。 また、美しい富士山と身近な「老い」や「死」の対比、地方の閉塞感や繊細な心理描写も見事で、余韻があり再生への希望を与えてくれるようです。 あがき、もがき、迷い、求めて得て失って…を繰り返す登場人物たちは、手のひらの生命線のように生きた痕跡を刻みます。人生の証にも思える彼ら彼女らの愚かさを、決して侮蔑の目では見られませんでした。読み手である私たちを投影した姿にも思えるので…。 朝井リョウさんの解説にある「他者と関わることにおける幸福と不幸の両方がたっぷり描写されている」との評も秀逸でした。 『一握の砂』の歌を想起させる本作タイトル。26歳で夭逝した石川啄木は、清貧イメージとは裏腹に、仕事を転々、家庭放置、借金踏み倒し、女遊び等々と、ひどい素行だったそうで…。それもまた人の一側面でしょうか? 啄木の人物像とは別に、生み出した作品の"労働の悲哀表現の見事さ"は薄れないでしょうね。
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他人と関わるからこそ得ることができる幸福と不幸。 この作品で表現される感情に、とても心当たりがある、という人が多いはず 出会って別れて、また出会って。 人間のよるべなさ 自分が矛盾だらけで不完全でどうしようもない人間である 自分が間違った人間であることを自覚した上で関わり...
他人と関わるからこそ得ることができる幸福と不幸。 この作品で表現される感情に、とても心当たりがある、という人が多いはず 出会って別れて、また出会って。 人間のよるべなさ 自分が矛盾だらけで不完全でどうしようもない人間である 自分が間違った人間であることを自覚した上で関わり合いたいと願うほど、あなたは大切な存在なのですとカミングアウトする気持ちで朝井リョウはこの本を友人にすすめる 日奈にとって、どれだけ海斗が大切な存在で、どれだけ海斗に救われただろう。 女の人は何をするか分からない 切り替えが早い 女の人は心のどこかでずっと幸せになりたいって思い続けてる、追い求め続けてる 一生懸命幸せになろうと貪欲に生きている
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「好きな季節は」と訊かれたら、僕なら晴れた冬の日と答えるだろう。 風の穏やかな理想的な冬晴れの午後、自宅から歩いて20分ほどの公園の、丘の上にある展望台からの眺めが目的で出かけてみる。この時間なら夕陽を受けた街並みの風景を望むことができるだろう。大いに期待して丘を登り、いざ眺望を...
「好きな季節は」と訊かれたら、僕なら晴れた冬の日と答えるだろう。 風の穏やかな理想的な冬晴れの午後、自宅から歩いて20分ほどの公園の、丘の上にある展望台からの眺めが目的で出かけてみる。この時間なら夕陽を受けた街並みの風景を望むことができるだろう。大いに期待して丘を登り、いざ眺望をと、その瞬間から、すでに西に傾きかけた日差しが雲に遮られてしまった。展望台から見渡すコントラストが失われた街並みの眺めは期待外れで、ため息が出た。西寄りの空に浮かんだ、比較的大きなひと塊りの雲は、日没までそのまま居座り、よりにもよってその日の午後の最後の光を隠し続けた。 「結局、僕はそうなんだ」すでにどこかの時点で諦めていた。諦めていたというか、納得していた。凡庸な僕の、凡庸な世界。期待しなければ傷付くこともない。 ひたすら現実と向き合い続けた彼女たちや彼らの、切実な物語だった。後半に向けて読み進めると、これでもかと息苦しさをおぼえた。年々老けてゆく一方で、いずれ僕らは寿命の尽きる少し前に、おそらく誰かの世話になる。人生の成り行きが、ほぼ確定した世の中であり、誰しも等しく訪れる人生の集大成。結局のところ諦めるしかないのかな。それはそれで構わないけれど、そこに至る過程の、いまある人生の、自分で把握できる範疇の何事か。わからないことばかりなのに、ふと“風”を感じる瞬間の、ひとつひとつについて、人生って捨てたものではない、と。そういうことも、きっとあるだろう。それらを見つけることができますように。気付くことができますように。願わずにはいられない。 思いがけず良い物語に出会いました。 誰かに薦めたくなる一冊です。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
梅雨のようなじっとりとした空気が物語全体に漂っていたが、繊細でリアルな描写のおかげでかなり読みやすい恋愛小説だった。性描写も多々あるが、私としては綺麗でいやらしさがなくて良いと感じた。 私はどちらかと言えば宮澤や仁美ではなく、日奈や海斗に近い生活をしているので、職は違えど共感できる部分が多くあり感情移入してしまった。休日はショッピングモールに行き、特別欲しくもないものを買ってストレスを発散する。恋愛も身近な人と。生活水準が同じくらいの人でないと関係を続けて行くのは難しいし、日奈たちもそういう感じなんだろう。 恋愛模様と生死がいつも隣り合わせで、恋愛の浮ついた様子があまり描かれていなかったのが、私には心地が良かった。 『永遠じゃないから、私はそれがいとおしい』
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富士山の見える町を舞台にした、四人の男女の人間模様を描いた作品。 この小説は恋愛小説だが終始じっとり陰鬱としている。そこがリアルでもあるが、その重さと絡まった人間関係に読んでいる途中で疲れてしまった。 この作品を読み始めてすぐに新鮮に思ったのは主人公が介護職に従事している人物であ...
富士山の見える町を舞台にした、四人の男女の人間模様を描いた作品。 この小説は恋愛小説だが終始じっとり陰鬱としている。そこがリアルでもあるが、その重さと絡まった人間関係に読んでいる途中で疲れてしまった。 この作品を読み始めてすぐに新鮮に思ったのは主人公が介護職に従事している人物であると言うこと。そして、日菜が無趣味で堅実に暮らしており、祖父の亡くなった家で暮らしていると言う地味な設定である。介護の仕事のシーンが何度も出てくるので、「老い」や「死」の匂いを終始感じながら物語が進む。閉塞感や諦念のようなものが物語全体に漂っている感じがした。
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年齢も、性別も、職業も、生活している地域も、何もかもがちがう登場人物たちの気持ちが、なぜか痛いほどわかる。 共感、ともちがう。 彼らに年輩らしく言ってあげたいことはいくつもある。 筆者の文章力(まさに文章のもつ力)に、確実に心を強く揺さぶられる小説だ。 読んでいる途中で、タイトル...
年齢も、性別も、職業も、生活している地域も、何もかもがちがう登場人物たちの気持ちが、なぜか痛いほどわかる。 共感、ともちがう。 彼らに年輩らしく言ってあげたいことはいくつもある。 筆者の文章力(まさに文章のもつ力)に、確実に心を強く揺さぶられる小説だ。 読んでいる途中で、タイトルの「じっと手を見る」は、まさしく石川啄木の人生を彷彿させるなと感じた。 朝井リョウによる文庫版解説も必読。
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窪美澄の文章を無性に欲するときがある。 主な登場人物の中から各章で視点が変わるので、何を考えているかわからないと感じた人も、のちに本人から語られる。 人間の、どうしようもない、変えようと意識して変えられるものではない、個々の性(サガ)をまざまざと見せつけられる。 これを読ん...
窪美澄の文章を無性に欲するときがある。 主な登場人物の中から各章で視点が変わるので、何を考えているかわからないと感じた人も、のちに本人から語られる。 人間の、どうしようもない、変えようと意識して変えられるものではない、個々の性(サガ)をまざまざと見せつけられる。 これを読んで自分の物語だと感じる人たちが、きっかけを自ら作り出して前へ進めますように。
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初めて読む作家。 #じっと手を見る #窪美澄 冷めた視線で流れるように自分の人生を語り継いでいく登場人物達。 日々、大なり小なりいろいろなことが起こってどうにかやり過ごしている… 他人事のように読みながらも、なんだか共感みたいなこと、漠然と感じている… 初めて読む作家。 ...
初めて読む作家。 #じっと手を見る #窪美澄 冷めた視線で流れるように自分の人生を語り継いでいく登場人物達。 日々、大なり小なりいろいろなことが起こってどうにかやり過ごしている… 他人事のように読みながらも、なんだか共感みたいなこと、漠然と感じている… 初めて読む作家。 孤独の中にいたら、そっと、力をいただけそうな小説。生きていれば今、苦しくてもきっといいことあるよ、それはささやかで小さな幸せだとしても。 またまた介護を仕事とする物語だった。確かに生きる、死ぬの瀬戸際に立ち会うこともあって…この小説の軸のひとつになるのか。 どちらかといえば地味な仕事であって決して綺麗な仕事ではない介護現場の実情が丹念に調べられて違和感なく、物語に溶け込んでいる。たまたま主人公が介護士だったから。 過去の直木賞候補作品。 P306 人の体は永遠に繁茂する緑ではない。けれど、永遠じゃないから、私はそれがいとおしい。「そばにいてほしい」自分の声が自分の声じゃないように聞こえた。海斗は何も言わなかった。もしかしたら聞こえなかったかもしれない。けれど、言葉にできたのだから、私にとってはもう充分なのだった。 最後のページより。 危険な暑さの中、読了
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出てくる人出てくる人、みんな生きづらそう。 そこに介護という職業や富士山に閉ざされている(という印象の)地方都市という設定が絶妙な相乗効果を生み出している。 主人公たちは、幼少期に辛い経験をしたことも共通していて、おまけにすぐに体の関係になってしまうのも共通していて、そこがまた余...
出てくる人出てくる人、みんな生きづらそう。 そこに介護という職業や富士山に閉ざされている(という印象の)地方都市という設定が絶妙な相乗効果を生み出している。 主人公たちは、幼少期に辛い経験をしたことも共通していて、おまけにすぐに体の関係になってしまうのも共通していて、そこがまた余計に悲しくなる。 全体的に決して明るい話ではなかったが、最後には明るい兆しも見えたので安心。 富士山や湖という絵になる場所での、介護や寂しさやなんだかわからない焦りやつまらなさ、の対比が泣けてくる。 良かったのだが、性描写が多すぎて私にはマイナス点。
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