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配膳さんという仕事 の商品レビュー

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2024/10/14

『一万円選書』という本で興味を持った。 全く知らない世界だったから。伝統的な世界は、様式美としての型が決まっていて、古い価値観を継承するために、時に女性に対して差別的である。配膳という仕事の背景にもそうした抑圧的な美学が内在している気がしたが、しかし、現代の価値観で判断できないよ...

『一万円選書』という本で興味を持った。 全く知らない世界だったから。伝統的な世界は、様式美としての型が決まっていて、古い価値観を継承するために、時に女性に対して差別的である。配膳という仕事の背景にもそうした抑圧的な美学が内在している気がしたが、しかし、現代の価値観で判断できないような美しさがある。抑圧こそ美学、と短絡的に感じるほど。 だけど、少し違う目線で。 ー おかみさん芸妓はん舞妓はんのもてなしかたが、桜の花の白湯のように、たいへんやわらかで、ほんのりとかぐわしい。(略) なにがどうしてこうなるのか。永年のあいだ祇園で養われて完成した魔法、男を骨抜きにして楽しませてくれる芸術、これのせいだといっておくよりほかはない。夢とも現ともつかぬうちに、わたしなどとろりと溶けてしまっているのである。 京都の接客技術もここまでくると、もはや芸術の域。それを梅棹忠夫は、「上演芸術の一種」といいきり、「パフォーミング・アーツ」と名づけている。 パフォーミング・アーツに共感し、まさにと思ってメモ書きしたが、前半はどうだろう。少し前に、舞妓の性的なお座敷遊びがme too現象みたいになっていたが、そうした伝統を許容するか、やはり現代の価値観には合わぬものと断罪するか。文化は直線的に良くなるものと信じるならば、伝統は破壊されなければならない。外部からの価値観による侵食を拒んだ所で、幼い女子を対象にする価値観まで現代には持ち込めないのだ。武士の刀に纏わる文化は諦めたのだから、差別的な伝統ならば易々と捨てるべきである、というのが私の考えであり、懐古主義を隠れ蓑にした欲望の保存には与しない。 ー 配膳に相当する男性の職業として、すぐに思いつくのは英国の執事ではないか。とくに十九世紀、貴族の大邸宅で開かれる晩餐会に執事は父かせない存在だった。執事と配膳。両者は類似するようにみえる。が、外国の邸宅の建築様式や室内装飾、また食事様式・作法や料理法などとの違いもあって、一概に比較するのはむずかしい。しかも、執事の仕事というのは配膳と違って、人、もの、スケジュールなどの管理、邸宅ぜんたいの切り盛りや統率に重きをおくような気がする。食卓のセッティングについて執事はひときわ厳しい。 様式を維持し、秩序を保つ仕事。そこで守られる秩序とは何であり、誰の為のものか。階層の保存、上流の固定化、それを促す被支配層ならば、それは、囚人を排除する名誉囚人。考えさせられた。伝統の番人が纏う抑圧の美しさの正体は、案外、上流階級による詭弁だったのかも知れない。

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2022/06/01

「売りたい本」として〈いわた書店〉店主の岩田徹さんが、推薦していた本。 配膳さんという仕事とは、どんな仕事なのか? とても興味があり、最初から引き込まれるように読んだ。 紋付に袴のいでたちで働き、京都のみに存在するとは驚いた。 料亭だけではなく、茶道、能楽、神社仏閣、呉服業界、...

「売りたい本」として〈いわた書店〉店主の岩田徹さんが、推薦していた本。 配膳さんという仕事とは、どんな仕事なのか? とても興味があり、最初から引き込まれるように読んだ。 紋付に袴のいでたちで働き、京都のみに存在するとは驚いた。 料亭だけではなく、茶道、能楽、神社仏閣、呉服業界、冠婚葬祭などにも関わっている。 千年あまりの歴史ある祇園祭にも従事する。 京都の伝統や文化、むかしのしきたりを学び、熟知していないとできない。 任せてもらえるということは、単に職業としてだけではなく、人間的な信頼を掴んでいるというあかしである。 先をよんで指揮をする統率力や判断力や即応力も必要である。 そうなると高度な接客技術をもった配膳さんは、もてなしのエキスパートといえる。 「もてなし」とは、このような接客技術はもちろんだが、京都だからこその文化があるからなのだろう。 とても貴重なことを知ることができた。 そして、まだまだ続いてほしいと思う。

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2021/01/28

京都にだけ存在する男性だけの職業「配膳」を取材、考察した一冊。 このような職業があることを知らなかった。京都に存在すると考えた時、その歴史はとても古いと感じるが、実は明治以降に発達し、しかし時代の変遷とともに、多分もうすぐ消滅していくだろうと推察できる職業だ。 家元や寺社での茶会...

京都にだけ存在する男性だけの職業「配膳」を取材、考察した一冊。 このような職業があることを知らなかった。京都に存在すると考えた時、その歴史はとても古いと感じるが、実は明治以降に発達し、しかし時代の変遷とともに、多分もうすぐ消滅していくだろうと推察できる職業だ。 家元や寺社での茶会、料亭や個人宅での宴会の裏方等、また能とも関係が深いという。 彼らの仕事を紹介するとともに、この本に書かれていることは「配膳」という職業を通して京都のもてなし、そして生活全般の細部への気遣いを著している。 時代は移ろい、京都のもてなしも少しずつ変遷している。それは仕方のないことなのかもしれない。 しかし、細部に気を遣い、宴席、行事等の全般を裏から支え、そこに集う人々を心地よく過ごさせる、これこそが「極上のもてなし」であり京都の京都たる所以ではないかと感じた。

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2020/10/31
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※このレビューにはネタバレを含みます

茶席や大宴会の裏方の総指揮だけでなく、 求められたら能の舞台装置(作り物)まで 製作してしまう。 こういう職業が廃れゆくのは やむを得ないことなんだろうけど 日本の文化の底が浅くなっていく気がする。 どこかで歯止めをかけないと、 欧米人の好む、テーマパーク的な 日本文化しか残らなくなってしまう。 日本人の感受性や教養が失われていることが 問題の根本だけに難しい…。

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2020/10/01

なぜ京都はもてなし上手なのか。 京都だけにしかない“配膳”という仕事。 「もてなし」という観点から、宴や料亭、接客技術や文化を綴る。 第一章 宴あれば配膳さんの出番あり  第二章 料亭の裏舞台 第三章 能と茶の見えない糸      第四章 点心づくり 第五章 祇園さん      ...

なぜ京都はもてなし上手なのか。 京都だけにしかない“配膳”という仕事。 「もてなし」という観点から、宴や料亭、接客技術や文化を綴る。 第一章 宴あれば配膳さんの出番あり  第二章 料亭の裏舞台 第三章 能と茶の見えない糸      第四章 点心づくり 第五章 祇園さん      第六章 もてなしの極意 第七章 もてなしの美学   第八章 姻戚でむすばれた都 第九章 座敷の空間演出   第十章 西陣、いまとむかし 第十一章 水屋仕事にはげむ  配膳さんの仕事は、言わば行事進行係。 料亭、神社や寺院、茶道家元、お茶屋、呉服問屋、能楽関係等の、 宴会や儀式、冠婚葬祭、催し、舞台等の陰の存在として、 スムーズに進行を取り仕切る存在、京都の宴会文化を 支えていました。紋付と袴を着用した正装で、男性のみ。 配膳さんである彼らの経歴、“配膳”という仕事のあらましを 取材し、プロフェッショナルとしての実際を綴っています。 客の動静を鑑み、料理のタイミングを察しての座敷と板場の連携。 顔を見ただけで、その人の履物を取り出す下足番の役割。 料亭での掛け物や床飾り、能舞台小道具の作り物の制作、料理方、 祇園祭での役割、水屋等、多種多様に亘っての仕事をすることも。 しかし、二十数年の時が経ち、取材した配膳さんは姿を消してゆく。 時代の変遷の中で“配膳”という仕事はどうなっていくのか? それ故に取材して得た“配膳さん”のあらましは、大切な記録に なったのではないでしょうか。過去の、後世のためにも。 著者の、彼らへの真摯な面持ちと優しい眼差しが感じられました。

Posted byブクログ