歌え、葬られぬ者たちよ、歌え の商品レビュー
重苦しさを抱えながら、時折休憩という名の、その時読んで心に生じた何かを咀嚼する時間を入れながら読み進めた。 人種差別、黒人差別、男性中心主義が、今だに『歴史』となっていない現実。理不尽な出来事を癒さずトラウマになっているかもわからない状態で大人に、親になることの危うさ。どうして...
重苦しさを抱えながら、時折休憩という名の、その時読んで心に生じた何かを咀嚼する時間を入れながら読み進めた。 人種差別、黒人差別、男性中心主義が、今だに『歴史』となっていない現実。理不尽な出来事を癒さずトラウマになっているかもわからない状態で大人に、親になることの危うさ。どうして殺されたのか、なぜ殺されたのか、殺人が何の手段になっているのか。 日々に美しさを、感動を、喜びはあるのかと、縋るように探すように問いかける。 根強い差別。肌の色に、自分の優位性・力を誇示し、人に上下があると信じている愚か者。
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ミシシッピ州を舞台とした小説や映画で、奴隷制の歴史が色濃く影を落とす人種差別が描かれていない作品を見たことがない気がする。それだけ、現代に至るまで問題が根深いことに改めて嘆息。表題にもある「葬られなかった者たち」の、世代を超えて紡がれ続けた苦しみと怨念の声が具象化するようなとある...
ミシシッピ州を舞台とした小説や映画で、奴隷制の歴史が色濃く影を落とす人種差別が描かれていない作品を見たことがない気がする。それだけ、現代に至るまで問題が根深いことに改めて嘆息。表題にもある「葬られなかった者たち」の、世代を超えて紡がれ続けた苦しみと怨念の声が具象化するようなとあるシーンが、とても印象的だった。
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レオニとジョジョとリッチーの語り 「だからおまえには動物の声だって聞こえるし、そこにないものも見える。おまえの一部だからだ。おまえの内にあるものも外にあるものもすべて」
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何か書かないと次の本には進めない気がした。と言うより、もう少し浸っておかないともったいないような感じか。重労働を終えたような読後感で、あちらこちら痺れが残っている。 現在のミシシッピの架空の片田舎に暮らす黒人一家の物語。ジョジョという少年の視点で幕開けをする。 ジョジョには3歳の...
何か書かないと次の本には進めない気がした。と言うより、もう少し浸っておかないともったいないような感じか。重労働を終えたような読後感で、あちらこちら痺れが残っている。 現在のミシシッピの架空の片田舎に暮らす黒人一家の物語。ジョジョという少年の視点で幕開けをする。 ジョジョには3歳の妹がいて、彼女の世話はほとんどジョジョがしている。なぜなら母親は育児放棄をしているジャンキーだからだ。 父は白人でムショにいる。だからジョジョは祖父母を父母のように慕い、実際「お父さんお母さん」と呼んでいる。祖父はアメリカインディアン系の黒人で、昔、誤認逮捕でパーチマンという刑務所に何年も入れられたことがある。そこでのとある出来事が彼に深い傷を残している。 祖母は末期の癌で死にかけている。彼女はブードゥー教で若い頃はそれなりの呪術力があったが、末期の癌の自分に対してはもうお手上げの状態でもある。 母の育児放棄の原因の一つに、学生時代に兄が殺されたことがあげられる。白人の友人に射殺されたのだ。でも、司法には誤射ということにされ、犯人は無罪放免。その時の保安官の息子が、母親の夫である。犯人はその夫の従兄弟であるという複雑な話だ。 そんな中、白人の父が釈放されるということで、遠く離れた刑務所(パーチマン)まで迎えに行くことになり、嫌がるジョジョと妹も一緒に車に乗せられるというところから、物語が動き始めるという話だ。 それぞれに深い傷を負った人たちがマジックリアリズムの中で描かれていく。ジョジョの成長物語でもあるけれど、「貧困とあらゆる形の暴力がはこびるミシシッピの片田舎では、大人になるまで生き残ることすら当然とは言えない」と作家が述べている現実は胸をかきむしるものがある。 とにかく凄い物語だった。
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「トニ・モリスンを読んだ人におすすめ」らしいので読んでみた。 現代アメリカ南部に住む黒人の少年が大人になる一瞬を描いている。黒人の少年とその母親、葬られぬ者の3者の視点を入れ替えながら物語は進んでいく。ある家族を通して、黒人として生きてきたこと、病むこと、老いること、死ぬこと...
「トニ・モリスンを読んだ人におすすめ」らしいので読んでみた。 現代アメリカ南部に住む黒人の少年が大人になる一瞬を描いている。黒人の少年とその母親、葬られぬ者の3者の視点を入れ替えながら物語は進んでいく。ある家族を通して、黒人として生きてきたこと、病むこと、老いること、死ぬこと、愛することとはどいうことかを浮かび上がらせる。悲しいやさしさと力強さが満ちている。 美しい言葉で綴られた詩情豊かな作品の片鱗を感じる。だが、訳が今一つで日本語に下ろしきれていない気がした。比較対象もないので、訳の巧拙は分からないが、ひらがなや体言止め、倒置が多様されていて独特の文体になっており、あまり好みではなかった。気にならない人には素晴らしい作品だと思う。
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マジックリアリズムで綴る、Black Lives Matterの文脈だけではない、差別、貧困、格差、ドラッグ、DVの現代アメリカ南部。 フォークナーと評されているようだけども、最後のあたりは、スタインベックっぽさもを感じて鳥肌。 あとがきを読むと、著者が意図する“葬られぬ者た...
マジックリアリズムで綴る、Black Lives Matterの文脈だけではない、差別、貧困、格差、ドラッグ、DVの現代アメリカ南部。 フォークナーと評されているようだけども、最後のあたりは、スタインベックっぽさもを感じて鳥肌。 あとがきを読むと、著者が意図する“葬られぬ者たち”は死んでしまった人たちだけではないらしい。 さあ、虐げられし者たちよ、高らかに歌え。
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アトウッド絶賛、全米図書賞、何よりタイトルが魅力的なので、読みたくなった。帯に「『ビラヴド』を想起させる」とあるので、あと表紙の木の雰囲気(ストレンジフルーツ的な禍々しさ)から、黒人奴隷あるいは黒人差別が出てくる話だなとは予想していた。 その予想は外れていないが、描かれるのは単純...
アトウッド絶賛、全米図書賞、何よりタイトルが魅力的なので、読みたくなった。帯に「『ビラヴド』を想起させる」とあるので、あと表紙の木の雰囲気(ストレンジフルーツ的な禍々しさ)から、黒人奴隷あるいは黒人差別が出てくる話だなとは予想していた。 その予想は外れていないが、描かれるのは単純な黒人差別を告発するようなものではない。1940年代から現代までの南部(ミシシッピ州)を舞台にした、低所得者層(社会の下層階級)のサーガ。というと大げさに聞こえそうだが、個人的な問題を掘り下げれば普遍的な問題にたどり着くように、ジョジョという13歳の少年の成長とその一家の物語が、アメリカの現代史のように感じられるのは私だけではないと思う。 祖父の時代の下層階級は黒人とネイティブアメリカンだったが、娘や孫の時代になると、そこにプアホワイトが加わる。祖父の時代にはあからさまな差別があったが、現代でもそこここにある。例えば、ジョジョの母レオニは白人の友達とドラッグを運んでも、警察に先に捕まるのは自分だとはっきりわかっている。白人の友達は、レオニと対等な関係だと思っているが、公式の場に立たされたとき自分が白人であるがゆえにレオニより有利であることは全く自覚していない。 ドラッグに溺れる貧困層の若者の姿を読むと、ドラッグは身体に悪いから、裏社会の資金源になるから、なんて言葉では引き返せそうにないなと感じる。(アクセスしやすいのはアメリカの社会問題)そもそも希望がない。だから一時的な快楽にのめり込む。 17歳で身ごもって、定職もなく、パートナーは刑務所、兄は白人に殺されたレオニが大人になりきれず、息子から拒否されてますます心荒むのも分かるし、母を信頼できないジョジョの気持ちもわかる。白人に殺されたのに事故扱いされた兄の死が家族に与えた影響も重い。 この家族の物語だけで終えても十分読み応えがあり、いい小説だったと思う。しかしリッチーという、現代に生きる若者たちとは直接関わっていない少年を存在させることで、そして彼が一番若い世代と特別な形で交流することで、単なる黒人一家の物語ではなく、広く普遍的な物語となった。そして重苦しい中にもひとすじの光を与えた。ラストは歌が響きわたる。 附録解説に載っていた、ウォードの言葉。 「葬られぬ者たち、とは無惨な死にかたをしたゴーストだけを指すわけではない。そこには生者も含まれている。」 ジョジョが父と慕うリヴとのシーンの美しさ、それを見つめる、愛を知らぬまま死んだリッチーの心。 いくつものシーンが心に残る。 素晴らしい作品だった。 売れるかわからないのに素晴らしい本をたくさん出している作品社は偉い。確固たるポリシーを感じる。応援したい。装丁も良い。が、たった一つ文句を言うなら、背表紙のタイトル文字が金色であるため、書店ですごく見つけにくかった。平積みなら表紙は黒に金色が乗っているので目立つが、背表紙は白地に金色だから。せっかくいい本なのに書店で目立たないのはもったいない。
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魂を揺さぶる、強さをもった作品。 差別、貧困、ドラッグ、ネグレクト、愛と暴力、生と死。 切なすぎる現実。胸が痛い。未熟さゆえ、息子を愛しきれない母レオニ。 妹を守り堅固に生きる主人公ジョジョ。 素直にただ愛してると言って、笑顔で穏やかに暮らすことさえ許されないというの? 社会の不...
魂を揺さぶる、強さをもった作品。 差別、貧困、ドラッグ、ネグレクト、愛と暴力、生と死。 切なすぎる現実。胸が痛い。未熟さゆえ、息子を愛しきれない母レオニ。 妹を守り堅固に生きる主人公ジョジョ。 素直にただ愛してると言って、笑顔で穏やかに暮らすことさえ許されないというの? 社会の不条理。哀しい過去。 死に近い人間は読むのが辛いと思う。 穏やかに生きている自分でさえ胸が苦しい。 情景のうつくしさ、叙情詩的なうつくしさ。 まるで映画を観ているかのような圧倒的な筆力に体力を消耗しながら読む作品でした。
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ミシシッピーの古いもの達が蠢いているよな土地、黒人と白人の混血の13才の少年ジョジョとその母親レオニ、そして祖父と刑務所で一緒だったリッチーの3人の視点で語られる。育児放棄した母レオニの人格人呆れつつ、祖父母を父、母と呼ぶジョジョ達の複雑な心境に思いをはせる。死霊や幽霊、葬られぬ...
ミシシッピーの古いもの達が蠢いているよな土地、黒人と白人の混血の13才の少年ジョジョとその母親レオニ、そして祖父と刑務所で一緒だったリッチーの3人の視点で語られる。育児放棄した母レオニの人格人呆れつつ、祖父母を父、母と呼ぶジョジョ達の複雑な心境に思いをはせる。死霊や幽霊、葬られぬ者達の声が、リッチーの存在で浮かび上がって物語は鎮魂歌の様な形になる。収まるべきところに収める手法は見事で、魂の遍歴の物語の様にも感じた。
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読解力や背景知識が足りないので、小冊子として添付されている青木耕平氏のすばらしい解説と合わせて読んで、よかった。解説→本書→解説→本書の最後の部分再読、みたいな形。 重たい、重たい話だけれど、それが現実にもとづいていて、しかも奴隷制が敷かれていた時代のことではなく、現代なのだと...
読解力や背景知識が足りないので、小冊子として添付されている青木耕平氏のすばらしい解説と合わせて読んで、よかった。解説→本書→解説→本書の最後の部分再読、みたいな形。 重たい、重たい話だけれど、それが現実にもとづいていて、しかも奴隷制が敷かれていた時代のことではなく、現代なのだということが何より心にずっしりとのしかかってくる。終盤、ジョジョが「父さん」と呼ぶリヴァーの告白は、冒頭のヤギの屠殺場面にもつながっていて、暴力的だけれどほかにどうしようもなく、深い慟哭が聞こえてきそうなやるせない語りだった。 ケイラの歌うラストシーンは、なんともいえない悲しみとなぐさめに満ちている。 トニー・モリスンの『ビラヴド』は、冒頭しか読んでいなくて放りっぱなしなんだけど、それでもすぐに受けつがれているものを感じた。そうやって人から人へ、手から手へと受け渡されていくことが、黒人文学の伝統だし、力になるんだろうなと思う。もっと読まないとな。
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