太平洋食堂 の商品レビュー
権力者の醜さがわかる。 「君たちはどう生きるか」は読んだことも観たこともないが、そんな問いかけにもなりそうな本。 最後があっけないのもリアリティがある。残念ながら。 払ってもいい金額:1,300円 貼った付箋の数:7
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最初に「事実に基づく物語」とある。 恥ずかしながら、いつものようにタイトルから勝手な想像をして、何がテーマの本なのか知らずに手に取った。 主人公は大石誠之助(おおいし せいのすけ)、夏目漱石らと同い年のひと。 医師で、料理人。各国に留学経験のある見聞の広い人だ。 明治37年、地...
最初に「事実に基づく物語」とある。 恥ずかしながら、いつものようにタイトルから勝手な想像をして、何がテーマの本なのか知らずに手に取った。 主人公は大石誠之助(おおいし せいのすけ)、夏目漱石らと同い年のひと。 医師で、料理人。各国に留学経験のある見聞の広い人だ。 明治37年、地元・和歌山県の新宮(しんぐう)に、診療所と「太平洋食堂」を開く。 診療所では、払えない人からは診療代を取らず、金持ちからはぼったくった。 「ドクトル」と呼ばれて地元で親しまれたほか、全国にも彼を慕う人たちが増えていった。 病気の子供を抱えて診療所を訪れる貧しい母親が、薬よりも先にひと椀の飯を求める、そういう貧困を何とかしたかった。それが彼の社会主義。 様々な雑誌に文章を発表し、有名な幸徳秋水をはじめとする社会主義者たちとも親交を深める。 教科書にも名前の載る「主義者」たちの素顔が描かれる。 彼らが何をしたか、または「しなかった」か。 政府に物言いたいことを新聞や雑誌に発表し、講演会を開いただけで、暴力的なことは一切していない。 それでも、時の政府を批判すれば弾圧され、発禁を喰らった。 明治政府についても時代を追ってわかりやすく説明されていて、たいへん勉強になった。 明治維新は、長州藩が徳川幕府から政権を奪っただけの政変・・・とこの頃やっと分かってきた。 日本人には「お上(おかみ)」が必要で、将軍がいなくなったから天皇を担いだ。 こちらも「お上」と呼ばれる。 自分達の既得権益を覆そうとする民権運動を憎み、正論で国民の心をつかもうとする社会主義者を蛇蝎のごとく忌み嫌った。 嫌いだから弾圧した。 秘密裏に裁判が行われ、12人が処刑された『大逆事件』 ここに行き着く。 2018年1月、大石誠之助は新宮市議会によって、名誉市民とされたという。
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大逆事件、幸徳秋水、管野須賀子は知っていたのだが、大石誠之助の名前を知らなかった。処刑された12人の1人だと知った時は、驚いてしまった。 社会主義者弾圧の、謀略、でっちあげの事件であったと自分は思っている。政争の具であったとも思っている。作者が当時の刑法73条について触れてる箇所...
大逆事件、幸徳秋水、管野須賀子は知っていたのだが、大石誠之助の名前を知らなかった。処刑された12人の1人だと知った時は、驚いてしまった。 社会主義者弾圧の、謀略、でっちあげの事件であったと自分は思っている。政争の具であったとも思っている。作者が当時の刑法73条について触れてる箇所がある。未来に関わる条文。犯した罪ではなく、犯そうとした罪で裁かれる。不完全法律が、人類にもたらす恐るべき災厄。今の世でも、たとえば、共謀罪など、未来を裁く法律として、ずいぶん反対されたものの通ってしまったというのは、記憶に新しい。恣意的に運用されることのないよう祈るばかりだ。小説内で、誠之助の言葉として、「現実にある差別に苦しんでいるのを知っていて、手をこまねいていることは自分にはどうしてもできない。結局は自分のためにやってる」(ものすごい略したけどこんなこと)というところに、感動した。どんな時でも、ユーモアと明るさを失わない、誠之助をすごいと思う。そして、2018年、天下の大罪人として死刑になった大石誠之助を名誉市民にした新宮市に、心からの拍手を送りたい。
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父の故郷・新宮の傑人、大石誠之助のことを書いた小説……なのだろうか。途中で解説が入ったりして、何か小説っぽくないと思いながら読んでいた。小説なら、もっと上手に小説としての文章の中で説明するものだと思うけどなあ。 ちょうどつい最近……というか、一時は並行して瀬戸内寂聴の『遠い声――...
父の故郷・新宮の傑人、大石誠之助のことを書いた小説……なのだろうか。途中で解説が入ったりして、何か小説っぽくないと思いながら読んでいた。小説なら、もっと上手に小説としての文章の中で説明するものだと思うけどなあ。 ちょうどつい最近……というか、一時は並行して瀬戸内寂聴の『遠い声――管野須賀子』を読んでいて、偶然にも大逆事件という同じことを扱った本を同時期に読むことになったことに驚き面白かった(『太平洋食堂』はよくストーリーを知らずに読み始めた)。となると、同じことを書いていても、『遠い声』と『太平洋食堂』は文章の質が違うなあと思ってしまう。 地方都市の常としていまや寂れた感のある新宮だけど、かつては木材集積地として、海に開けた地として開放的な文化都市だった。そのことは誠之助のおいの西村伊作とかからも思うし、それこそ父のきょうだいからもそんな空気を感じる。あと、熊野弁は敬語がないという面白いことも知った。だからフラットで開放的な人間関係になるのかも。
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主人公の大石誠之助は紀州、新宮に居を構える開業医であり太平洋食堂と言う食堂の主です。大石はアメリカ、シンガポール、インドでの留学経験もあり医師でありながら海外にも目を向けられる国際感覚を持つ社会主義を標榜しています。特権階級に富が集中する事を嫌い、医師を続けるかたわら、貧しく弱...
主人公の大石誠之助は紀州、新宮に居を構える開業医であり太平洋食堂と言う食堂の主です。大石はアメリカ、シンガポール、インドでの留学経験もあり医師でありながら海外にも目を向けられる国際感覚を持つ社会主義を標榜しています。特権階級に富が集中する事を嫌い、医師を続けるかたわら、貧しく弱い庶民の立場を改善しようと新聞や雑誌への投稿、そして全国各地での講演会で彼の持論を展開していきます。 紀州、新宮と言う片田舎にいながら明治時代を代表する文化人とも交流があり、中江兆民に師事した幸徳秋水と共に活動を続けて行きますが明治政府から目を付けられ最後は粛清され死刑となってしまいます。 大石の視線で物語は進み、時として筆者の言葉で解説が加わりながら浮かび上がってくる明治と言う時代は、権力闘争を行っていた明治政府の要人ばかりに注目が集まる歴史小説とは全く違う景色を見せてくれると思います。私にとっては、明治時代と言う認識が改まる小説でした。
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地元である和歌山の方の半生が描かれた作品ということで、一体どんな方だったのだろう?と興味を持ちました。 その方は大石誠之助氏。貧乏な方、困っている人に手を差し伸べる、それでいておおらかで地元新宮の人達に愛された方だったんですね。この作品を読むまで存じ上げませんでした。 そして・・...
地元である和歌山の方の半生が描かれた作品ということで、一体どんな方だったのだろう?と興味を持ちました。 その方は大石誠之助氏。貧乏な方、困っている人に手を差し伸べる、それでいておおらかで地元新宮の人達に愛された方だったんですね。この作品を読むまで存じ上げませんでした。 そして・・・ ***ネタばれ*** なんて理不尽な運命にあわれたのだろう。 政府の言いがかり甚だしい。 こんなことで大石誠之助氏をはじめ、何人もの方が死刑になっただなんて。 今現代を生きるこの時代、あらためて私たち市民も政治に参加し、声をあげなければいけない大事さを知らされた一冊だと感じました。 1つ、とても印象に残った言葉がありました。 -しかし、誤解というものは一面から見て、必要なことではあるまいか。もしも人間が他人から在りのままに見透かされたらどんなものだろう。親子や夫婦の間柄でも、多少はかいかぶったり、かぶられたりする必要があるのではないか。誤解のない人生などない。- という誠之助の人生観に、ハッとなりました。 周りに誤解されてみられてるのが気になることがありましたが、確かに、そのままに見透かされるのもどうだろう?と思い、これを知れて、気持ちがラクになりました。 明治時代の情勢、政治背景など、大変勉強になりました。難しかったけれど不思議と読めてしまう作品でした。
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二兎社の「鷗外の怪談」で初めて大石医師のことを知り興味を持った。大石医師の魅力やその主張の正しさだけでなく、明治維新が単なる政変であったこと、だからこそ強権政治が次第に強まっていく様子が俯瞰して描き出され時代の動きが掴みやすかった。小説ではなくノンフィクションとして書かれても良か...
二兎社の「鷗外の怪談」で初めて大石医師のことを知り興味を持った。大石医師の魅力やその主張の正しさだけでなく、明治維新が単なる政変であったこと、だからこそ強権政治が次第に強まっていく様子が俯瞰して描き出され時代の動きが掴みやすかった。小説ではなくノンフィクションとして書かれても良かったかもしれない。明治の話ではなく、今現在起こりつつある話ではないか。今書かねばという作者の強い意志を感じる。事件捏造、拷問を主導した武富検事の名前は覚えておこう。
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フレームアップの大逆事件の犠牲者である大石誠之助の評伝のような小説である。大逆事件といえば菅野須賀子と幸徳秋水ぐらいしか詳しく知らなかったけれど、新宮にこんな素敵な人が居たとは。また、大石誠之助の目を通して幸徳秋水の魅力も語られていた。また本編からの脱線で熊野牛王宝印の話があった...
フレームアップの大逆事件の犠牲者である大石誠之助の評伝のような小説である。大逆事件といえば菅野須賀子と幸徳秋水ぐらいしか詳しく知らなかったけれど、新宮にこんな素敵な人が居たとは。また、大石誠之助の目を通して幸徳秋水の魅力も語られていた。また本編からの脱線で熊野牛王宝印の話があったり、しかもそれは伏線で秋水の歌で回収されたりしている。そして「不完全であいまいな法律(言葉)はしばしば恐るべき厄災を人類にもたらしてきた」という作者の言葉が怖かった。そう、いつか共謀罪が牙をむく日がくるのだろうか。
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週刊誌の連載だからだね~江戸末期紀州新宮に生まれ、アメリカ・カナダ・シンガポール・インドで学んで、故郷に診療所を開く一方で、通りを隔てた向こうに太平洋食堂を作り、全国各地の主義者と知り合いとなり、あちこちに論説を掲載させ、幸徳秋水と知り合いになって、爆裂弾で天皇暗殺を企てた一味と...
週刊誌の連載だからだね~江戸末期紀州新宮に生まれ、アメリカ・カナダ・シンガポール・インドで学んで、故郷に診療所を開く一方で、通りを隔てた向こうに太平洋食堂を作り、全国各地の主義者と知り合いとなり、あちこちに論説を掲載させ、幸徳秋水と知り合いになって、爆裂弾で天皇暗殺を企てた一味として裁判で有罪となり、あっというまに処刑されたリアリストのドクトル~語り手が代わったり、説明口調や、自分の解釈や調べたことを書いているから、視点が定まらないんだ。2018年1月、新宮市議会は大石誠之助を名誉市民にしたんだって
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マルクスの資本論や共産党宣言を仲間と読み、社会主義に憧れていた若い頃を思い出しました。 幸徳秋水や堺利彦など、社会主義者達の当時の姿も知る事ができ、とても面白く読ませてもらいました。
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