涼子点景1964 の商品レビュー
1964年の東京オリンピック前後の新宿を舞台に、一人のミステリアスな女子高生を巡る出来事を追う。 主人公を知らない小学生の話から始まり、中学や高校の同級生、母親など、章を追うごとに得体の知れない存在だった涼子の人物像が明らかになっり、最後は本人の視点から真相が語られる、という手...
1964年の東京オリンピック前後の新宿を舞台に、一人のミステリアスな女子高生を巡る出来事を追う。 主人公を知らない小学生の話から始まり、中学や高校の同級生、母親など、章を追うごとに得体の知れない存在だった涼子の人物像が明らかになっり、最後は本人の視点から真相が語られる、という手法。 終戦からわずか20年、日本の復興を世界に誇示するために行われたオリンピックに湧く東京の、陰の部分にもスポットを当ててはいるが、時代の描きかたもミステリーの要素もちょっと物足りない。点景として主人公の姿を徐々に浮き彫りにしていく手法はおもしろいので、それに見合った涼子の人間的な魅力が欲しかった。 最後の一行は、危うく読み落とすところだった。
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最後の一行で「速水」涼子さんが本当に幸せになったのだと…。 日常のなんでもないような小さな[謎」が丁寧に紐解かれていく過程が楽しめました。また、『あの頃』のある種「何でもあり」の時代の雰囲気を知ることもできました。それにしても、日本人はオリンピックが好きなんだなあ…。
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全体を通して、東京オリンピック前後の高揚感や貧しさ、懐かしさを感じました。美しく聡明だけど貧しく人と交わらない、どこか影のあるヒロインは中学から高校に上がる年頃です。各章ごとに少し姿を見せてはクールで素っ気ないけど心優しい名推理を披露します。次第に明かされていく生い立ち。造型的に...
全体を通して、東京オリンピック前後の高揚感や貧しさ、懐かしさを感じました。美しく聡明だけど貧しく人と交わらない、どこか影のあるヒロインは中学から高校に上がる年頃です。各章ごとに少し姿を見せてはクールで素っ気ないけど心優しい名推理を披露します。次第に明かされていく生い立ち。造型的には松本清張風ですが、あのジメッとした空気感はありません。前半に出てくる「ちゃんとした二親がいるなら、お願ってのはその親にするんだよ」とか「自分で自分の道を切り拓けないような人間にどうしてかまわなくちゃいけないの」といったいった生い立ちを伺わせるセルフが後半も出てくるとヒロインの造形が更に深まった気がします。そういえば、小公女ではなく自分でキャリアを築きましたね。拍手。
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涼子って何者?と思わせるエピソードが続く。何だかんだで面倒見がよく、困った相手を助けてくれる。頭も良いし、大物の養女におさまって問題ないように思えたので、その裏側の出来事は余計だった気がする。
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あの時代の空気感を豊かに感じられる。アンよりもジョーが好きという涼子がカッコいい。若草物語を読み返したくなった。
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独特な発想の森谷さん。今回もどこに向かうのか、オチを予想出来ず、単なる一代記なのかと不安を覚え始めた頃、なんとミステリーで、怒涛の如くオチにまっしぐら。二つのオリンピックという時間の流れが隠し味に!
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コロナ禍がなかったら、今頃、報道はオリンピック・パラリンピック一色になっていただろう。本作は1964年オリンピック決定に湧く東京。競技場近くに住む1人の男が(涼子の父)失踪する。「父は、姿を消したのよ。私が九歳の夏に。それ以上のことを言わない、誰にも」。 森谷さんは好きな作家で...
コロナ禍がなかったら、今頃、報道はオリンピック・パラリンピック一色になっていただろう。本作は1964年オリンピック決定に湧く東京。競技場近くに住む1人の男が(涼子の父)失踪する。「父は、姿を消したのよ。私が九歳の夏に。それ以上のことを言わない、誰にも」。 森谷さんは好きな作家で、「春や春」「葛野盛衰記」「 南風吹く」 「花野に眠る」「 れんげ野原のまんなかで」など読んでいる。今までとちょっと違う主人公に戸惑っていたが、次の会話でいっきに納得できた。 涼子は、クラスで人気の高い「若草物語」のジョーと「赤毛のアン」のアンとどちらが好きかと、茉莉子に訊かれる。涼子は「もちろんジョーよ」と即答。「だってアンはすぐにたくさんの友達をつくれるでしょう。でも『若草物語』の中にジョーの友達は1人も出てこないの。ジョーはひたすら、家族と自分の文学への野望だけを大事にしている。そういうジョーが、私は好き」。本書にもあるが、若草物語に登場する姉のメグ、妹のエイミーのは友達がいて、引込み思案のベスですら色んな人と仲良くなる。活発なジョーなのに友達がいなかったような・・・。 涼子の謎めいた行動は、自分の居場所と夢を守るためだった。涼子は偶然と幸運と犠牲を味方につけ健気に生きているのだが、周囲の人々にはちぐはぐな印象で捉えられていた。涼子の印象は薄く、風景画に添えられた人物のよう。どうやら不可解なタイトル”涼子点景”とはそういうことらしい。彼女にまつわる8人の男女が各章仕立てとなり謎が解けていく。 当時私は小学生で1章に登場する健太と似た年頃だった。体育館に集められ皆で日本選手を応援したのを思い出す。田舎で育ちのんびりとしていたが、意外と1964年前後は大量生産・大量消費の時代で狂騒感が漲っていたのかもしれない。 多少の回りくどさを刈り込めば、もっと涼子に寄り添えたのにと口惜しい。
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東京オリンピックに沸く戦後日本を舞台に、涼子という謎の少女に絡んだいくつもの家族の物語を大小の入れ子構造のミステリで紡ぐ不思議な味わいのある作品。 不思議の中でも、最たるものは、涼子という謎めいた少女。その存在感。どう見ても悪女の印象ではなく、むしろ聖女として、良い意味で人...
東京オリンピックに沸く戦後日本を舞台に、涼子という謎の少女に絡んだいくつもの家族の物語を大小の入れ子構造のミステリで紡ぐ不思議な味わいのある作品。 不思議の中でも、最たるものは、涼子という謎めいた少女。その存在感。どう見ても悪女の印象ではなく、むしろ聖女として、良い意味で人々の記憶に残る存在としての涼子。彼女に関わった人々のそれぞれのエピソードは、いずれも小さな独立短編と見立てることもできるし、全体の流れの仲間に見え隠れする涼子という美しい少女そのものが謎であり、一つ一つの独立した章は涼子という大きな存在へ通じるいくつもの扉に用意された鍵とも言える。 振り返れば連作短編小説のようにも見える。しかし全体は長編小説のようにも見える。何より、それぞれの章で、異なる主人公が抱え込む謎を、いとも簡単に解いてみせるのが、涼子の役割ともなっている。まるでシャーロック・ホームズみたいに。涼子はそれぞれの章の主人公に対して、天性の推理力を駆使して、謎を解決してくれる。 そうした入れ子構造のマトリョーシカ的風貌を持つ作品でありながら、実は社会派小説としての読みどころも半端ではない。戦後復興を象徴するオリンピック景気に湧く東京。どこもかしこもが掘り返され、舗装され、再建され、整備されてゆく東京の急変の様子と、そこに見える経済復興の兆し。そのドラスティックな変換に乗ってゆく人生もあれば、置き去りにされる生活もあり。その変化を利用した罪もあり。そして罰もあり。 あの時代の活気と期待に湧く東京絵図。それらが活写されていることが、本書最大の強みであり、ぼくの世代(作者とほぼ同じ世代)にとっては、子供の頃に体験したあれらの出来事が一体なんであったかのか? を今の時点から振り返って読み解くミステリともなって味わっている気になれる。 個人的には、女中奉公に出る若い娘を描いた『第三章 美代』が、まさにぼくの母とあまりにシンクロする物語なのであった。当時の世相、当時の地方出の娘たちの戦争と終戦時の地獄を体感したリアリズム、当時の命からがらの生活、変わりゆく時代への心象。すべてが母から聞かされていた物語として追体験のように読めてしまうので、ただただ心が奪われてしまったのである。 それぞれの登場人物の名前で綴られた、それぞれの断章。最後に涼子という少女の家族にまつわる謎めいた物語。その最大の謎の真相部分に物語は、ようやく辿り着く。落ち着きのないあの動的な時代と、ぼく自身明確に印象に残っている東京オリンピック閉会式までの狂騒のさなかで、生きられた人生たち、葬られた真実などを容赦なく振り返る本作の終盤。 全体的には庶民の立場から見たような平易で読みやすい文章でありながら、時代そのものが主役となっているかのような、妙にリアルな質感を伴った、命ある作品なのである。東京オリンピックの年がタイトルに付されたこともあって本書に異様に引き寄せられた自分の勘に、しっかりと応えてくれた何よりも嬉しい一冊であった。
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点景――風景画や風景写真で、画面全体を引き締めるために添えられた人や物・・・。 8章からなる物語の舞台は昭和39年、東京オリンピックを間近に控え日本中が狂騒のさなかにある東京を舞台に、8人の人物の周辺で起こる出来事や小さなもめ事が語られていく。 それぞれの物語の「点景」として登場...
点景――風景画や風景写真で、画面全体を引き締めるために添えられた人や物・・・。 8章からなる物語の舞台は昭和39年、東京オリンピックを間近に控え日本中が狂騒のさなかにある東京を舞台に、8人の人物の周辺で起こる出来事や小さなもめ事が語られていく。 それぞれの物語の「点景」として登場する一人の少女・涼子。章が進むにつれその謎めいた少女の存在感が増し、同時に漂う不穏な空気。 オリンピックに伴う地上げ、7年前の突然の父親の失踪、祖母の転落死、金持ちからの養女の申し出・・・・・・日常の中に周到に張り巡らされた伏線が緊張感を高め、先が気になって仕方がない。 その背景で描かれる戦後の復興とオリンピックに踊らされた人々の暮らし。オリンピックで浮き立つ者もいれば、少し前まで戦っていた国の人たちを招き入れ行う平和の祭典に疑問を呈する者もいる。そんな微妙な空気感も上手く溶け込ませて物語は進む。 少しずつパズルの断片が収まるところに収まっていくにつれて、見えてくる絵柄は想像した範囲ではあったけれど、最後まで興味を失わせず、ぐいぐいと読ませてくれるストーリー展開はなかなかでした。
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56年前の東京オリンピック間近の新宿、神宮が舞台。都営霞ヶ丘アパートが建てられたエピソードも。まだまだ、終戦とその後の混乱を残す東京。 その家族や行動がミステリアスな美少女・涼子。抜群に頭も切れる。子どもにめっぽう優しく、マンガの万引を疑われた小学生の健太を助けたところから、物...
56年前の東京オリンピック間近の新宿、神宮が舞台。都営霞ヶ丘アパートが建てられたエピソードも。まだまだ、終戦とその後の混乱を残す東京。 その家族や行動がミステリアスな美少女・涼子。抜群に頭も切れる。子どもにめっぽう優しく、マンガの万引を疑われた小学生の健太を助けたところから、物語が始まる。
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